第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜⑥
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〜浅倉桃のまなざし〜
映画やドラマで耳にするような鈍く響く音とともに、ワタシは意識を取り戻した。
教室でクラスメートから、くろセンパイが手渡してきたというメモ書きを確認してから、校舎の屋上へと向かったところまでは思い出せるものの、そこから先の記憶が曖昧だ。
たしか、屋上では、桜木先生と、なぜか、いつもとは少し雰囲気が異なるセンパイが待っていたような気がするんだけど……。
ボーッとした頭で、そんなことを考えていると、
「浅倉さん! 浅倉桃さん!! 大丈夫!?」
という声が聞こえてきた。
聞き覚えのあるその声も、目の前で懸命にワタシの名前を呼ぶその姿も、放送・新聞部の先代の部長にして、ワタシが尊敬する女子生徒に間違いない。
だけど――――――。
桜花センパイは、数日前に卒業式を終えて、ワタシたちの通う高校から巣立ったハズだ。
進路の報告や相談などで、卒業生が学校を訪れることがないわけではないけど、桜花センパイが受験した学部の合格発表は、一週間くらいあとのハズだし、センパイに限って、受験に失敗することはあり得ない。
そんなことを思いながら、ワタシの名前を呼ぶ上級生に返答する。
「桜花センパイ、登校お疲れさまです。今日は、いつもの制服じゃないんですね? スーツなんて着て……なにかの式典から戻って来たんですか?」
センパイは、ワタシたちが見慣れた、あいらんど高校の制服姿とは違い、社会人が着るようなレディース・スーツを着こなしていた。
まだ、おぼろげながら、少しずつ意識がハッキリとしてきているような感覚があるので、周囲を見渡す。
すると、桜花センパイと同じスーツを身にまとった文芸部の山竹さんと、いつもの制服姿なのに、なぜか大型の拳銃のような武器を構えている、きぃセンパイが目に入った。
「山竹さんも、きぃセンパイも、そんな格好で、なにしてるんです? 映画の撮影ですか? それなら、ワタシにも教えておいてくださいよ。それとも、気合いの入ったサプライズ企画とか……?」
そんな風に、少し冗談めかした口調でたずねてみる。
そう……。
くろセンパイからの言伝だというメモ用紙を目にするまでは意識しないようにしていたけれど、今日は、ワタシの16回目の誕生日だった。
わざわざ、クラスメートにメモを手渡すところまでを含めて、ずい分と念入りに準備したものだ……と、感じつつ、自分のために、特別な衣装や小道具を準備し、桜花センパイに至っては入試の発表を控えた時期に、学校まで出向いてくれるという気持ちに感激を覚える。
その感動を伝えようと、笑顔で山竹さんに語りかけようとするが、ワタシの表情に反して、彼女の顔色は青ざめ、両手を口元にあてたまま、声をあげられないほどの衝撃を受けたかのように、こわばっている。
(大げさな演技だなぁ……山竹さんは、こういうコトをするヒトには見えなかったけど……)
なんて考えながら、同じく銃器を構えたまま、緊張を解こうとしない、きぃセンパイに視線を向ける。
彼は、すぐ隣にいるワタシの視線を感じてすらいないのか、正面を向いたまま、微動だにしない。
固いツバを飲み込んだように、彼の喉仏が、ピクリと動くのを確認すると、ワタシは、ゆっくりと振り返って、きぃセンパイの視線の先を追う。
すると――――――。
そこには、ワタシの記憶の中にあった、桜木先生と、髪を黄色に染めたくろセンパイ、そして、彼らのすぐ近くで、屋上フロアの地面に倒れ込んでいる男子生徒の姿があった。
うつ伏せのまま、まるで、屍体のように横たわっているので、表情こそ確認できないが、その姿には、見覚えがあるように思えた。
ただ、山竹さんが、
「玄野くん……!」
と、叫び声をあげるまで、ワタシには、その床に突っ伏している生徒が、親しいセンパイであり、いまでは同居人でもある彼だという言う認識に結びつかなかった。
だって、お兄ちゃん……ううん、くろセンパイなら、桜木先生の横に……。
だけど、吹奏楽部の顧問の先生の隣に立つ彼の姿をよく見ると、その人物に対して、違和感のようなものを覚える。
放課後が始まってすぐの時間であるにも関わらず、制服姿ではなく、彼は、黒を貴重とした奇抜なセンスの服装に身を包み、まるで、年上の桜木先生を従えるような尊大な雰囲気を醸し出している。
また、なによりもワタシが奇妙に感じたのは、その禍々しさを感じさせる表情だ。
ワタシの知るセンパイは、決して二枚目とは言い難いけれど、穏やかな表情をしていることが多く、誰かを憎んだりして、あんな表情を見せることはない。
だとすると、あの地面に倒れ込んでいる生徒は――――――!?
ワタシの疑問が確信に変わる前に、山竹さんが、
「ゲルブ……どうして、玄野くんを……」
と、つぶやくように声を漏らす。
聞き慣れないワードが出てきたような気がしたけれど、彼女の一言で、きぃセンパイが、くろセンパイに向かって発砲したのだということだけは、理解できた。
「ブラウ、ゴメンよ……こうするしか無かったんだ……」
山竹さんに対して返答したのだ、ということは、十分に理解しているつもりだったけど、ワタシは、彼女より早く、きぃセンパイに食ってかかる。
「こうするしか無かったって、ナンですか!? きぃセンパイが、くろセンパイに向かって銃を撃ったんですか!?」
ゆっくりとうなずく上級生をにらみながら、ワタシは、一刻も早く……と、くろセンパイの元に駆け寄ろうとする。
だけど、
「ダメよ、浅倉さん」
という桜花センパイの声を耳にしたワタシは、首筋に小さな痛みを感じたあと、屋上に来た直後と同じく、また、意識を失ってしまった。
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〜|浅倉桃《あさくらもも》のまなざし〜
映画やドラマで耳にするような鈍く響く音とともに、ワタシは意識を取り戻した。
教室でクラスメートから、くろセンパイが手渡してきたというメモ書きを確認してから、校舎の屋上へと向かったところまでは思い出せるものの、そこから先の記憶が曖昧だ。
たしか、屋上では、|桜木《さくらぎ》先生と、なぜか、いつもとは少し雰囲気が異なるセンパイが待っていたような気がするんだけど……。
ボーッとした頭で、そんなことを考えていると、
「|浅倉《あさくら》さん! |浅倉桃《あさくらもも》さん!! 大丈夫!?」
という声が聞こえてきた。
聞き覚えのあるその声も、目の前で懸命にワタシの名前を呼ぶその姿も、放送・新聞部の先代の部長にして、ワタシが尊敬する女子生徒に間違いない。
だけど――――――。
|桜花《おうか》センパイは、数日前に卒業式を終えて、ワタシたちの通う高校から巣立ったハズだ。
進路の報告や相談などで、卒業生が学校を訪れることがないわけではないけど、|桜花《おうか》センパイが受験した学部の合格発表は、一週間くらいあとのハズだし、センパイに限って、受験に失敗することはあり得ない。
そんなことを思いながら、ワタシの名前を呼ぶ上級生に返答する。
「|桜花《おうか》センパイ、登校お疲れさまです。今日は、いつもの制服じゃないんですね? スーツなんて着て……なにかの式典から戻って来たんですか?」
センパイは、ワタシたちが見慣れた、あいらんど高校の制服姿とは違い、社会人が着るようなレディース・スーツを着こなしていた。
まだ、おぼろげながら、少しずつ意識がハッキリとしてきているような感覚があるので、周囲を見渡す。
すると、|桜花《おうか》センパイと同じスーツを身にまとった文芸部の|山竹《やまたけ》さんと、いつもの制服姿なのに、なぜか大型の拳銃のような武器を構えている、きぃセンパイが目に入った。
「|山竹《やまたけ》さんも、きぃセンパイも、そんな格好で、なにしてるんです? 映画の撮影ですか? それなら、ワタシにも教えておいてくださいよ。それとも、気合いの入ったサプライズ企画とか……?」
そんな風に、少し冗談めかした口調でたずねてみる。
そう……。
くろセンパイからの|言伝《ことづて》だというメモ用紙を目にするまでは意識しないようにしていたけれど、今日は、ワタシの16回目の誕生日だった。
わざわざ、クラスメートにメモを手渡すところまでを含めて、ずい分と念入りに準備したものだ……と、感じつつ、自分のために、特別な衣装や小道具を準備し、|桜花《おうか》センパイに至っては入試の発表を控えた時期に、学校まで出向いてくれるという気持ちに感激を覚える。
その感動を伝えようと、笑顔で|山竹《やまたけ》さんに語りかけようとするが、ワタシの表情に反して、彼女の顔色は青ざめ、両手を口元にあてたまま、声をあげられないほどの衝撃を受けたかのように、こわばっている。
(大げさな演技だなぁ……|山竹《やまたけ》さんは、こういうコトをするヒトには見えなかったけど……)
なんて考えながら、同じく銃器を構えたまま、緊張を解こうとしない、きぃセンパイに視線を向ける。
彼は、すぐ隣にいるワタシの視線を感じてすらいないのか、正面を向いたまま、微動だにしない。
固いツバを飲み込んだように、彼の喉仏が、ピクリと動くのを確認すると、ワタシは、ゆっくりと振り返って、きぃセンパイの視線の先を追う。
すると――――――。
そこには、ワタシの記憶の中にあった、|桜木《さくらぎ》先生と、髪を黄色に染めた|く《・》|ろ《・》|セ《・》|ン《・》|パ《・》|イ《・》、そして、彼らのすぐ近くで、屋上フロアの地面に倒れ込んでいる男子生徒の姿があった。
うつ伏せのまま、まるで、屍体のように横たわっているので、表情こそ確認できないが、その姿には、見覚えがあるように思えた。
ただ、|山竹《やまたけ》さんが、
「|玄野《くろの》くん……!」
と、叫び声をあげるまで、ワタシには、その床に突っ伏している生徒が、親しいセンパイであり、いまでは同居人でもある彼だという言う認識に結びつかなかった。
だって、お兄ちゃん……ううん、くろセンパイなら、|桜木《さくらぎ》先生の横に……。
だけど、吹奏楽部の顧問の先生の隣に立つ彼の姿をよく見ると、その人物に対して、違和感のようなものを覚える。
放課後が始まってすぐの時間であるにも関わらず、制服姿ではなく、彼は、黒を貴重とした奇抜なセンスの服装に身を包み、まるで、年上の|桜木《さくらぎ》先生を従えるような尊大な雰囲気を醸し出している。
また、なによりもワタシが奇妙に感じたのは、その禍々しさを感じさせる表情だ。
ワタシの知るセンパイは、決して二枚目とは言い難いけれど、穏やかな表情をしていることが多く、誰かを憎んだりして、あんな表情を見せることはない。
だとすると、あの地面に倒れ込んでいる生徒は――――――!?
ワタシの疑問が確信に変わる前に、|山竹《やまたけ》さんが、
「ゲルブ……どうして、|玄野《くろの》くんを……」
と、つぶやくように声を漏らす。
聞き慣れないワードが出てきたような気がしたけれど、彼女の一言で、きぃセンパイが、くろセンパイに向かって発砲したのだということだけは、理解できた。
「ブラウ、ゴメンよ……こうするしか無かったんだ……」
|山竹《やまたけ》さんに対して返答したのだ、ということは、十分に理解しているつもりだったけど、ワタシは、彼女より早く、きぃセンパイに食ってかかる。
「こうするしか無かったって、ナンですか!? きぃセンパイが、くろセンパイに向かって銃を撃ったんですか!?」
ゆっくりとうなずく上級生をにらみながら、ワタシは、一刻も早く……と、くろセンパイの元に駆け寄ろうとする。
だけど、
「ダメよ、|浅倉《あさくら》さん」
という|桜花《おうか》センパイの声を耳にしたワタシは、首筋に小さな痛みを感じたあと、屋上に来た直後と同じく、また、意識を失ってしまった。