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第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑯

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 小学生の頃から見慣れたその表情に、スッと気持ちが落ち着いていくのが感じられた。  気分が軽くなったことで、軽口を叩くように、たずねてみる。   「しかし、脳の記憶容量を増やせるなんて、まるで、SFのサイバーパンクみたいな話しだな? 人間の脳の記憶容量って、どれくらいあるんだ?」 「一説には、デジタル変換すると、17.5テラバイトと言われることもあれば、その500倍以上の1ペタバイトと言われることもある。ただ、アナログな人間の脳をデジタルな数値で計測できるのかは微妙だけどね。それでも、脳の記憶に関するはたらきが解明されて以降、神経回路シナプスに特殊な施術を施すことで、記憶容量を増やすことが可能になったんだよ」  十代で量子力学についての理解を深めることと言い、ゲルブたちの住むセカイは、色々なことが発展しすぎていて、なかなか理解が追いつかない部分も多い。  それでも、こうして冷静に語り合いながらも、言葉の端々に自分の使命感のようなモノを感じさせるゲルブの言動には、親近感がわく。  オレの知る親友は、醒めた口調でモノゴトを俯瞰して眺めるような発言をすることが多いが、普段は見せない奥底のところでは、熱い感情を持っているヤツなのだが、目の前の銀河連邦捜査官の言動にも、その親友と同じニオイが感じられたからだ。  冬馬の経験や感情を同期・共有しているためなのかはわからないが、ゲルブもまた、友人と同じくココロの奥で正義感に燃えるような性格なのかも知れない。  そんな風に考えると、自然と穏やかな笑みが浮かんでくるのだが、オレの表情の変化に気づいたのか、ゲルブは、怪訝そうな顔で、コチラを見ながらつぶやく。 「なんだよ……妙に納得したような顔つきになって……」 「いや……ゲルブの表情が、オレのとそっくりだったからな……」  そう返答すると、 「ボクは、黄田冬馬きだとうまとして、キミと話してるんだから当然だろう?」 と、彼はあきれたようなようすで、少し突き放すように言葉を返してきた。  こんなところも、冬馬とうまらしいと感じて可笑しくなる。    ただ、そんな彼らとは、価値観において大きなへだたりがありそうな『ラディカル』の中心人物とは、どんな人間ヤツなのだろうか? 気になったので、捜査官のふたりにたずねてみる。 「ところで……キルシュブリーテが言っていたが、『ラディカル』には、メンバーを束ねるリーダーみたいなヤツが居るのか? たしか、フューラーとかシュヴァルツとか、そんな名前を口にしていたと思うんだが……」  すると、それまで和やかな雰囲気だったゲルブとブルームの表情が、にわかに曇る。 「そ、それは……」  先ほどまでと異なり、口ごもるゲルブに対して、ブルームが落ち着いた口調で答える。 「ごめんなさい、玄野くろのくん……については、まだ、良くわかっていないことも多いから、私たちも断定的なことは言えないの」 「そ、そうか……」  彼ら捜査官でも把握できていないことがあるのなら、仕方ないだろう。  たしかに、余計な先入観などで、これからの活動に支障がでないようにするということは重要かも知れない。 「それよりも……」  と、話題を変えるように、ブルームが口にする。 「こっちのセカイの私の友人が、どうしても、『玄野くろのくんに伝えたいことがあるから話しをさせろ』って、うるさいんだけど、対応をお願いできないかしら?」  ブルーム……いや、桜花おうか先輩の友人といえば――――――。 「それは、琴吹ことぶき先輩のことか……?」  恐る恐るたずねるオレに、桜花おうか先輩の姿をした捜査官は、当然、といった感じで、ゆっくりとうなずく。  ぜん生徒会長と交わした約束を完全に反故にしてしまったという自覚がある自分としては、この事態に巻き込んでしまった三葉みつばももと並んで、もっとも、避けたい相手ではあるのだが……。  自分が招いた事態に対して、自らの行動で責任を取ることを決めたオレは、そのことを琴吹ことぶき先輩にも直接、伝えようと覚悟を決めた。 「わかった……いや、わかりました」  ブルームではなく、桜花おうか先輩に返答するように答えたオレのようすを見て、捜査官は、スマホを取り出し、通話アプリを起動する。 「美奈子? 玄野くろのくんが、貴女あなたに伝えたいことがあるそうよ」  通話を開始したブルームは、端的にそれだけを言うと、彼女のスマホをコチラに手渡してきた。 「玄野くろのです……」  ブルームから手渡されたスマホを耳に当て、おずおずと名乗ると、落ち着いた、しかしながら、静かな感情が伝わる言葉が返ってきた。 「玄野くろのくん、キミなら、いま私が言いたいことがわかるよね?」 「はい……」 「それなら、私からは多くのことは言わない。自分のするべきことはわかっていると思うから、それを結果で示してね」 「わかりました……今回は、ご心配とご迷惑を掛けて、本当に申し訳ありませでした」 「それは、私じゃなくて、後輩ちゃんに言ってあげるべきこと。ちゃんと、アナタがやるべきことを果たしたなら、私はアナタを責めたりしないから」 「はい、ありがとうございます」 「そう? いい返事が聞けてよかった。あとは、桜花おうかに代わってくれる?」  琴吹ことぶき先輩の言葉にうながされ、スマホをブルームに返却する。    予想していたものとは異なり、淡々とした内容の会話となったが、それだけに、前生徒会長の意志の強さが伝わってきた。  もう、二度と彼女との約束をたがえることはできない――――――。  そう決意を固めると、琴吹ことぶき先輩と二言三言ふたことみことほどの会話を交わしたブルームが、こちらを見据え、確認するようにたずねてくる。 「どうやら、覚悟は決まったみたいね、玄野くろのくん」  彼女の言葉に静かにうなずくと、ブルームは柔らかな表情で、オレとゲルブに向かってこう告げた。 「それじゃ、これからの対策を練りましょう」



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 小学生の頃から見慣れたその表情に、スッと気持ちが落ち着いていくのが感じられた。  気分が軽くなったことで、軽口を叩くように、たずねてみる。   「しかし、脳の記憶容量を増やせるなんて、まるで、SFのサイバーパンクみたいな話しだな? 人間の脳の記憶容量って、どれくらいあるんだ?」 「一説には、デジタル変換すると、17.5テラバイトと言われることもあれば、その500倍以上の1ペタバイトと言われることもある。ただ、アナログな人間の脳をデジタルな数値で計測できるのかは微妙だけどね。それでも、脳の記憶に関するはたらきが解明されて以降、神経回路シナプスに特殊な施術を施すことで、記憶容量を増やすことが可能になったんだよ」  十代で量子力学についての理解を深めることと言い、ゲルブたちの住むセカイは、色々なことが発展しすぎていて、なかなか理解が追いつかない部分も多い。  それでも、こうして冷静に語り合いながらも、言葉の端々に自分の使命感のようなモノを感じさせるゲルブの言動には、親近感がわく。  オレの知る親友は、醒めた口調でモノゴトを俯瞰して眺めるような発言をすることが多いが、普段は見せない奥底のところでは、熱い感情を持っているヤツなのだが、目の前の銀河連邦捜査官の言動にも、その親友と同じニオイが感じられたからだ。  冬馬の経験や感情を同期・共有しているためなのかはわからないが、ゲルブもまた、友人と同じくココロの奥で正義感に燃えるような性格なのかも知れない。  そんな風に考えると、自然と穏やかな笑みが浮かんでくるのだが、オレの表情の変化に気づいたのか、ゲルブは、怪訝そうな顔で、コチラを見ながらつぶやく。 「なんだよ……妙に納得したような顔つきになって……」 「いや……ゲルブの表情が、オレのとそっくりだったからな……」  そう返答すると、 「ボクは、黄田冬馬きだとうまとして、キミと話してるんだから当然だろう?」 と、彼はあきれたようなようすで、少し突き放すように言葉を返してきた。  こんなところも、冬馬とうまらしいと感じて可笑しくなる。    ただ、そんな彼らとは、価値観において大きなへだたりがありそうな『ラディカル』の中心人物とは、どんな人間ヤツなのだろうか? 気になったので、捜査官のふたりにたずねてみる。 「ところで……キルシュブリーテが言っていたが、『ラディカル』には、メンバーを束ねるリーダーみたいなヤツが居るのか? たしか、フューラーとかシュヴァルツとか、そんな名前を口にしていたと思うんだが……」  すると、それまで和やかな雰囲気だったゲルブとブルームの表情が、にわかに曇る。 「そ、それは……」  先ほどまでと異なり、口ごもるゲルブに対して、ブルームが落ち着いた口調で答える。 「ごめんなさい、玄野くろのくん……については、まだ、良くわかっていないことも多いから、私たちも断定的なことは言えないの」 「そ、そうか……」  彼ら捜査官でも把握できていないことがあるのなら、仕方ないだろう。  たしかに、余計な先入観などで、これからの活動に支障がでないようにするということは重要かも知れない。 「それよりも……」  と、話題を変えるように、ブルームが口にする。 「こっちのセカイの私の友人が、どうしても、『玄野くろのくんに伝えたいことがあるから話しをさせろ』って、うるさいんだけど、対応をお願いできないかしら?」  ブルーム……いや、桜花おうか先輩の友人といえば――――――。 「それは、琴吹ことぶき先輩のことか……?」  恐る恐るたずねるオレに、桜花おうか先輩の姿をした捜査官は、当然、といった感じで、ゆっくりとうなずく。  ぜん生徒会長と交わした約束を完全に反故にしてしまったという自覚がある自分としては、この事態に巻き込んでしまった三葉みつばももと並んで、もっとも、避けたい相手ではあるのだが……。  自分が招いた事態に対して、自らの行動で責任を取ることを決めたオレは、そのことを琴吹ことぶき先輩にも直接、伝えようと覚悟を決めた。 「わかった……いや、わかりました」  ブルームではなく、桜花おうか先輩に返答するように答えたオレのようすを見て、捜査官は、スマホを取り出し、通話アプリを起動する。 「美奈子? 玄野くろのくんが、貴女あなたに伝えたいことがあるそうよ」  通話を開始したブルームは、端的にそれだけを言うと、彼女のスマホをコチラに手渡してきた。 「玄野くろのです……」  ブルームから手渡されたスマホを耳に当て、おずおずと名乗ると、落ち着いた、しかしながら、静かな感情が伝わる言葉が返ってきた。 「玄野くろのくん、キミなら、いま私が言いたいことがわかるよね?」 「はい……」 「それなら、私からは多くのことは言わない。自分のするべきことはわかっていると思うから、それを結果で示してね」 「わかりました……今回は、ご心配とご迷惑を掛けて、本当に申し訳ありませでした」 「それは、私じゃなくて、後輩ちゃんに言ってあげるべきこと。ちゃんと、アナタがやるべきことを果たしたなら、私はアナタを責めたりしないから」 「はい、ありがとうございます」 「そう? いい返事が聞けてよかった。あとは、桜花おうかに代わってくれる?」  琴吹ことぶき先輩の言葉にうながされ、スマホをブルームに返却する。    予想していたものとは異なり、淡々とした内容の会話となったが、それだけに、前生徒会長の意志の強さが伝わってきた。  もう、二度と彼女との約束をたがえることはできない――――――。  そう決意を固めると、琴吹ことぶき先輩と二言三言ふたことみことほどの会話を交わしたブルームが、こちらを見据え、確認するようにたずねてくる。 「どうやら、覚悟は決まったみたいね、玄野くろのくん」  彼女の言葉に静かにうなずくと、ブルームは柔らかな表情で、オレとゲルブに向かってこう告げた。 「それじゃ、これからの対策を練りましょう」



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