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第3章〜逆転世界の電波少女〜⑩

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 三葉みつばを自宅に送り届け、彼女の母親の希望で、彼女をリビングのソファに寝かせたオレは、名残惜しさを感じながらも、我が家へと戻った。  河野こうのに対する関係と同じく、オレは、もう三葉みつばと交際を続けているこのセカイ = 『ルートA』とは、関わりを持たない方が良いだろう。  それは、オレ自身の決断というよりも、三葉みつば本人に限りなく近い存在のクリーブラットに、三行半みくだりはんを突きつけられたからに他ならない。 (余談ながら、この言葉の本来の意味は、夫から妻に下す離縁状を指すらしいが、自分たちの関係性を考えると、その立ち位置は正反対であるのが、より一層悲しくなる)  ただ、幼なじみと意識を共有する並行世界の住人から、オレ自身の軽率な行動の問題点を明確に突きつけられことで、自分なりの責任の取り方を考えることができた。  ゲルブやブルーム、クリーブラットが語っていた言葉から、オレには、過激派集団『ラディカル』のリーダーとされているシュヴァルツの正体が見えてきている。  そのオレの推測が正しいのであれば、まだ、オレにもできることがあるかも知れない。  そんな想いを抱え、河野こうのと親しくなったセカイ、そして、三葉みつばと親しくなったセカイのそれぞれに別れを告げることを決めたオレは、せめて、もものことだけは守ろう――――――と、心に決めて、ふたたび、『ルートC』No.223620679 = 『ルートC』のセカイに戻ってきた。  前向きに考えれば、並行世界を股にかけて、あちこち移動するよりも、守るべき対象者をひとりに絞る方が行動しやすい。  シュヴァルツをはじめとする『ラディカル』のメンバーの他のセカイでの行動監視などは、ゲルブたち捜査官に任せて、オレは、万が一、ももさらったり、危害を加えようとしたりするヤツらがあらわれた場合に備えて、常に同居人である下級生のそばに居ようと考えている。  夜の海辺でクリーブラットと語り合った翌日、暖房の効いたリビングでくつろいでいると、お気に入りの動画をチェックしていたももが、声をかけてきた。 「お兄ちゃん、そろそろ、放送・新聞部の4月からの活動について考えないと、だけどさ……ワタシ、やってみたいことがあるんだよね」  その口調と、真剣な眼差しから、重要な話し合いになることを見て取ったオレは、彼女と向き合って応じる。 「なんだ、もも? なにか、考えてることがあるのか?」 「うん! これまでは、桜花センパイたち三年生にお世話になりっぱなしだったから、二年になったら、これまで放送・新聞部でやっていなかった新しいことをしてみたくて……それで、新しくVTuberのキャラクターを作ってみないか、って考えてるんだ」  なるほど……入部してから、積極的に色々な企画を提案してきたももらしいアイデアだ。  彼女の企画は、オレの好奇心を刺激するモノが多く、今回も興味深い提案を受けて、すぐに賛同する。 「VTuberかぁ……面白そうだな! キャラクターデザインには美術部とか、モーションキャプチャのソフトの扱いはコンピューター・クラブに協力してもらうか?」 「そうだね! そして、学校公認のキャラクターにできれば、広報的にも面白いと思わない!」 「そっか! たしかに、それは面白そうだ! 放送・新聞部の活動目的は、あいらんど高校のPR活動だ。その目的にピッタリじゃないか」  そのアイデアに賛同すると、ももは嬉しそうに、 「でしょう? 、そう言ってくれると思ってた!」 と言って抱きついてきた。  その光景を見ていた母親が、夕食後の皿洗いをしながら、 「あらあら、同居人同士、仲が良いわね……ふたりが、、もう『お兄ちゃん』って呼び方も続けさせるわけにはいかないか……」 と、冗談めかして言ってくる。  その一言で、顔を赤らめたももは、サッとオレから身体を離し、 「ちょっと、つかささん! そういうこと言うのやめてください!」 と、抗議の声をあげた。  そんな同居人のようすを見ながら、母親はケラケラと笑って、さらに畳み掛ける。 「いや〜、ももちゃんを我が家に招くことに決めたときは、雄司ゆうじとそんな仲になるなんて思わなかったから……このまま女の子に縁の無い青春を送るなんて可哀想だし、ももちゃんが、相手をしてくれるなら、私は大歓迎だよ!」 「おい、母ちゃん、もうそのへんにしてくれ! ももに迷惑だろ……」  悪ノリするような母に、オレも反発すると、ももはうつむきながら、小声で何事かをつぶやいていた。    なおも、ニヤニヤと、我が子と同居人の動揺ぶりを楽しむような表情を見せる母親の表情にあきれながら、オレは、珍しく借りてきた猫のように身を縮めている後輩に声をかける。 「もも、リビングは、デリカシーの無いオトナの目があるから、ここから先は、オレの部屋で打ち合わせをしようぜ!」  そう言って、ももの手を引く。 「あら〜、ごゆっくり〜! 必要なら、飲み物を差し入れするから、遠慮なく言ってね! 雄司ゆうじ、ムードは大事にするのよ!」  リビングを立ち去るオレたちに声をかけてくる母の一言に舌打ちをしながら、オレは、ももを連れて二階の自室を目指した。



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 三葉みつばを自宅に送り届け、彼女の母親の希望で、彼女をリビングのソファに寝かせたオレは、名残惜しさを感じながらも、我が家へと戻った。  河野こうのに対する関係と同じく、オレは、もう三葉みつばと交際を続けているこのセカイ = 『ルートA』とは、関わりを持たない方が良いだろう。  それは、オレ自身の決断というよりも、三葉みつば本人に限りなく近い存在のクリーブラットに、三行半みくだりはんを突きつけられたからに他ならない。 (余談ながら、この言葉の本来の意味は、夫から妻に下す離縁状を指すらしいが、自分たちの関係性を考えると、その立ち位置は正反対であるのが、より一層悲しくなる)  ただ、幼なじみと意識を共有する並行世界の住人から、オレ自身の軽率な行動の問題点を明確に突きつけられことで、自分なりの責任の取り方を考えることができた。  ゲルブやブルーム、クリーブラットが語っていた言葉から、オレには、過激派集団『ラディカル』のリーダーとされているシュヴァルツの正体が見えてきている。  そのオレの推測が正しいのであれば、まだ、オレにもできることがあるかも知れない。  そんな想いを抱え、河野こうのと親しくなったセカイ、そして、三葉みつばと親しくなったセカイのそれぞれに別れを告げることを決めたオレは、せめて、もものことだけは守ろう――――――と、心に決めて、ふたたび、『ルートC』No.223620679 = 『ルートC』のセカイに戻ってきた。  前向きに考えれば、並行世界を股にかけて、あちこち移動するよりも、守るべき対象者をひとりに絞る方が行動しやすい。  シュヴァルツをはじめとする『ラディカル』のメンバーの他のセカイでの行動監視などは、ゲルブたち捜査官に任せて、オレは、万が一、ももさらったり、危害を加えようとしたりするヤツらがあらわれた場合に備えて、常に同居人である下級生のそばに居ようと考えている。  夜の海辺でクリーブラットと語り合った翌日、暖房の効いたリビングでくつろいでいると、お気に入りの動画をチェックしていたももが、声をかけてきた。 「お兄ちゃん、そろそろ、放送・新聞部の4月からの活動について考えないと、だけどさ……ワタシ、やってみたいことがあるんだよね」  その口調と、真剣な眼差しから、重要な話し合いになることを見て取ったオレは、彼女と向き合って応じる。 「なんだ、もも? なにか、考えてることがあるのか?」 「うん! これまでは、桜花センパイたち三年生にお世話になりっぱなしだったから、二年になったら、これまで放送・新聞部でやっていなかった新しいことをしてみたくて……それで、新しくVTuberのキャラクターを作ってみないか、って考えてるんだ」  なるほど……入部してから、積極的に色々な企画を提案してきたももらしいアイデアだ。  彼女の企画は、オレの好奇心を刺激するモノが多く、今回も興味深い提案を受けて、すぐに賛同する。 「VTuberかぁ……面白そうだな! キャラクターデザインには美術部とか、モーションキャプチャのソフトの扱いはコンピューター・クラブに協力してもらうか?」 「そうだね! そして、学校公認のキャラクターにできれば、広報的にも面白いと思わない!」 「そっか! たしかに、それは面白そうだ! 放送・新聞部の活動目的は、あいらんど高校のPR活動だ。その目的にピッタリじゃないか」  そのアイデアに賛同すると、ももは嬉しそうに、 「でしょう? 、そう言ってくれると思ってた!」 と言って抱きついてきた。  その光景を見ていた母親が、夕食後の皿洗いをしながら、 「あらあら、同居人同士、仲が良いわね……ふたりが、、もう『お兄ちゃん』って呼び方も続けさせるわけにはいかないか……」 と、冗談めかして言ってくる。  その一言で、顔を赤らめたももは、サッとオレから身体を離し、 「ちょっと、つかささん! そういうこと言うのやめてください!」 と、抗議の声をあげた。  そんな同居人のようすを見ながら、母親はケラケラと笑って、さらに畳み掛ける。 「いや〜、ももちゃんを我が家に招くことに決めたときは、雄司ゆうじとそんな仲になるなんて思わなかったから……このまま女の子に縁の無い青春を送るなんて可哀想だし、ももちゃんが、相手をしてくれるなら、私は大歓迎だよ!」 「おい、母ちゃん、もうそのへんにしてくれ! ももに迷惑だろ……」  悪ノリするような母に、オレも反発すると、ももはうつむきながら、小声で何事かをつぶやいていた。    なおも、ニヤニヤと、我が子と同居人の動揺ぶりを楽しむような表情を見せる母親の表情にあきれながら、オレは、珍しく借りてきた猫のように身を縮めている後輩に声をかける。 「もも、リビングは、デリカシーの無いオトナの目があるから、ここから先は、オレの部屋で打ち合わせをしようぜ!」  そう言って、ももの手を引く。 「あら〜、ごゆっくり〜! 必要なら、飲み物を差し入れするから、遠慮なく言ってね! 雄司ゆうじ、ムードは大事にするのよ!」  リビングを立ち去るオレたちに声をかけてくる母の一言に舌打ちをしながら、オレは、ももを連れて二階の自室を目指した。



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