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第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑭

ー/ー



「どうやら、罪の意識は十分に感じているみたいだし、これからの行動には気をつけてもらいたいね。捜査官の立場としては、いま言えることはこれくらいかな?」

 オレを励まそうとしてくれているのか、ゲルブは、そんな風に語るが、自分のしでかしたことを考えると、まだしも彼らの法律で裁かれた方が良かったとも思える。

 彼らのセカイに刑務所というものがあるのかはわからないし、どんな通貨が流通しているのかも不明だが、裁判での判決に従って、服役なり罰金なりを課してもらった方が、明確に罪を償ったと意識することができる。

 しかし、そうした刑罰などが課せられないのであれば、オレは、どんなカタチで自分の罪を償えば良いのだろう――――――?

 しばらく一言も発しないまま、そんなことを自問自答していると、オレのようすに違和感を覚えたのか、ブルームが声をかけてきた。

「どうしたの玄野(くろの)くん? いまになって、別のセカイに、トリップすることの恐ろしさに気がついた?」

 彼女の言葉には、ただうなずくしかない。
 そして、オレは、うめくように言葉を発した。

「オレは……どうすれば、罪をつぐなえるんだ……?」

 すがるように、捜査官を名乗るふたりの顔を見上げると、彼らが互いに顔を見合わせるのがわかった。
 困ったような表情で苦笑するゲルブに対して、ブルームは顔色を変えず、澄ましたままの表情だ。

 そして、彼女は、その表情のまま、こんなことを提案してきた。

貴方(あなた)が、罪の意識を感じていることは、十分にわかったわ。そうね……もし、自分の行動に対して、贖罪(しょくざい)の意識があるなら、私たちの捜査に協力してくれない?」

 ブルームの言葉に反応し、オレは視線を彼女に向ける。
 同時に、視界のスミで、ゲルブが、

(おいおい……急にナニを言い出すんだ……)

という表情をしているのがわかった。

「私たちの現行法では、たしかに、貴方(あなた)の行為を裁くことはできない。そのことによって、貴方(あなた)が罪を償う方法がわかならなくなったと言うなら、並行世界そのものを潰そうとしている『ラディカル』の目論みを阻止することにチカラを注いでみない? 私たちとは異なるセカイで生きてきた貴方(あなた)になら、できることもあると思うわ」

「――――――オレでも、アンタ達の役に立つことができるのか?」

 ブルームの言葉に対して、藁にもすがる想いでたずねると、彼女は微かな笑みを浮かべて答えた。

「えぇ、キルシュブリーテが、このセカイを去ったことで、貴方(あなた)のトリッパーとしての能力(チカラ)も戻っていると思うしね。並行世界を移動できる能力は、私たちにとっても貴重な戦力になるわ」

「そ、そうか……」

 彼女の言葉で、オレは救われたような気分になる。
 なにか、目標のようなものができるだけでも、他人に害を及ぼすことしかなかった、自分のトリッパーとしての存在に意義が見いだせる。

「罪悪感につけ込んで、捜査に協力させるなんて、相変わらずブルームは、人が悪いなぁ……」

 ゲルブは、あきれたような表情で、そんな感想を口にするが、当のブルームは、そのことをまったく意に介していないようだ。

「あら、人が悪いなんて心外ね……私はただ、玄野(くろの)くんに、トリップを行える能力者としての自覚を持って欲しかっただけなんだけど……」

「モノは言いようだね……」

 ヤレヤレ……と肩をすくめがら苦笑するゲルブだが、オレは、ありがたくブルームの提案に乗らせてもらうことにした。

「ありがとう、ブルーム、ゲルブ……オレで良かったら、アンタ達の捜査に協力させてくれ」

 そう言って頭を下げると、ふたりは、

「えぇ、もちろん! 歓迎するわ」

「オーケー! あまり無茶はしないようにね」

と、それぞれに、()()()反応を返してくれた。

 そして、ブルームは、さらに、こんな申し出をしてきた。

「協力の申し出に感謝して、貴方には、このアイテムを預けておくわ」

 そう言って、彼女が手渡してきたのは、ペンダントのように首に下げている木製の器具だった。
 それは、キルシュブリーテが、河野(こうの)を突き落とそうとした瞬間に取り出し、不思議な音色を奏でたものだ。

「これは……?」

 木製の器具を受け取り、説明を求めると、ブルームは、片手に収まる大きさの機器についての解説を淡々と始める。

「これは、コカリナという名前の楽器なんだけど、()()()()()()()()という不思議なチカラを持っているの」

 時間を止められる――――――。

 やはり、あの瞬間、感じたことに間違いはなかったようだ。

 しかし、相手側が特殊な機器で、疑似催眠なる不思議な術を使ったり、捜査官は、時間を停止する器具を持っていたり、とキルシュブリーテやブルームたちの住んでいるセカイの技術力は、いったいどうなっているんだ?

 そんなことを考えていると、その想いが表情にあらわれたのか、ブルームが、自らの言葉を補うように、不思議なアイテムに関する解説を付け加えた。

「キルシュブリーテの使っていたデバイスは、私たちのセカイの技術で作られたものだけど、このコカリナは、実は、私の祖父が東欧に居た頃に知人から、いただいたモノなの。私たちのセカイでも、まだ解明されていない技術で作られているようなんだけど、捜査に有用ということで、連邦政府に許可を得て使わせてもらっているのよ」


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「どうやら、罪の意識は十分に感じているみたいだし、これからの行動には気をつけてもらいたいね。捜査官の立場としては、いま言えることはこれくらいかな?」
 オレを励まそうとしてくれているのか、ゲルブは、そんな風に語るが、自分のしでかしたことを考えると、まだしも彼らの法律で裁かれた方が良かったとも思える。
 彼らのセカイに刑務所というものがあるのかはわからないし、どんな通貨が流通しているのかも不明だが、裁判での判決に従って、服役なり罰金なりを課してもらった方が、明確に罪を償ったと意識することができる。
 しかし、そうした刑罰などが課せられないのであれば、オレは、どんなカタチで自分の罪を償えば良いのだろう――――――?
 しばらく一言も発しないまま、そんなことを自問自答していると、オレのようすに違和感を覚えたのか、ブルームが声をかけてきた。
「どうしたの|玄野《くろの》くん? いまになって、別のセカイに、トリップすることの恐ろしさに気がついた?」
 彼女の言葉には、ただうなずくしかない。
 そして、オレは、うめくように言葉を発した。
「オレは……どうすれば、罪をつぐなえるんだ……?」
 すがるように、捜査官を名乗るふたりの顔を見上げると、彼らが互いに顔を見合わせるのがわかった。
 困ったような表情で苦笑するゲルブに対して、ブルームは顔色を変えず、澄ましたままの表情だ。
 そして、彼女は、その表情のまま、こんなことを提案してきた。
「|貴方《あなた》が、罪の意識を感じていることは、十分にわかったわ。そうね……もし、自分の行動に対して、|贖罪《しょくざい》の意識があるなら、私たちの捜査に協力してくれない?」
 ブルームの言葉に反応し、オレは視線を彼女に向ける。
 同時に、視界のスミで、ゲルブが、
(おいおい……急にナニを言い出すんだ……)
という表情をしているのがわかった。
「私たちの現行法では、たしかに、|貴方《あなた》の行為を裁くことはできない。そのことによって、|貴方《あなた》が罪を償う方法がわかならなくなったと言うなら、並行世界そのものを潰そうとしている『ラディカル』の目論みを阻止することにチカラを注いでみない? 私たちとは異なるセカイで生きてきた|貴方《あなた》になら、できることもあると思うわ」
「――――――オレでも、アンタ達の役に立つことができるのか?」
 ブルームの言葉に対して、藁にもすがる想いでたずねると、彼女は微かな笑みを浮かべて答えた。
「えぇ、キルシュブリーテが、このセカイを去ったことで、|貴方《あなた》のトリッパーとしての|能力《チカラ》も戻っていると思うしね。並行世界を移動できる能力は、私たちにとっても貴重な戦力になるわ」
「そ、そうか……」
 彼女の言葉で、オレは救われたような気分になる。
 なにか、目標のようなものができるだけでも、他人に害を及ぼすことしかなかった、自分のトリッパーとしての存在に意義が見いだせる。
「罪悪感につけ込んで、捜査に協力させるなんて、相変わらずブルームは、人が悪いなぁ……」
 ゲルブは、あきれたような表情で、そんな感想を口にするが、当のブルームは、そのことをまったく意に介していないようだ。
「あら、人が悪いなんて心外ね……私はただ、|玄野《くろの》くんに、トリップを行える能力者としての自覚を持って欲しかっただけなんだけど……」
「モノは言いようだね……」
 ヤレヤレ……と肩をすくめがら苦笑するゲルブだが、オレは、ありがたくブルームの提案に乗らせてもらうことにした。
「ありがとう、ブルーム、ゲルブ……オレで良かったら、アンタ達の捜査に協力させてくれ」
 そう言って頭を下げると、ふたりは、
「えぇ、もちろん! 歓迎するわ」
「オーケー! あまり無茶はしないようにね」
と、それぞれに、|ら《・》|し《・》|い《・》反応を返してくれた。
 そして、ブルームは、さらに、こんな申し出をしてきた。
「協力の申し出に感謝して、貴方には、このアイテムを預けておくわ」
 そう言って、彼女が手渡してきたのは、ペンダントのように首に下げている木製の器具だった。
 それは、キルシュブリーテが、|河野《こうの》を突き落とそうとした瞬間に取り出し、不思議な音色を奏でたものだ。
「これは……?」
 木製の器具を受け取り、説明を求めると、ブルームは、片手に収まる大きさの機器についての解説を淡々と始める。
「これは、コカリナという名前の楽器なんだけど、|時《・》|間《・》|を《・》|止《・》|め《・》|ら《・》|れ《・》|る《・》という不思議なチカラを持っているの」
 時間を止められる――――――。
 やはり、あの瞬間、感じたことに間違いはなかったようだ。
 しかし、相手側が特殊な機器で、疑似催眠なる不思議な術を使ったり、捜査官は、時間を停止する器具を持っていたり、とキルシュブリーテやブルームたちの住んでいるセカイの技術力は、いったいどうなっているんだ?
 そんなことを考えていると、その想いが表情にあらわれたのか、ブルームが、自らの言葉を補うように、不思議なアイテムに関する解説を付け加えた。
「キルシュブリーテの使っていたデバイスは、私たちのセカイの技術で作られたものだけど、このコカリナは、実は、私の祖父が東欧に居た頃に知人から、いただいたモノなの。私たちのセカイでも、まだ解明されていない技術で作られているようなんだけど、捜査に有用ということで、連邦政府に許可を得て使わせてもらっているのよ」