絶望の時間
14/19
慶介と喧嘩してしまった。 仲直りするためにサプライズでプレゼントをしたいんだ。 あいつのことはお前が詳しいだろうから、プレゼントを選ぶのに協力してくれないか。 おれもまた、前みたいに戻りたいって本当は思ってるんだ。その切掛にしたい。 明博から届いたメッセージ。 私は受信してから丸一日悩んでいた。 言っていることは分かる。明博も前向きになってくれたのは嬉しい。 だがつい先日まで、頑なに関係修復を拒んでいたのに何故という疑念が消えない。 そんなふうに考える自分が間違っているのだろう。 色々あって、変わってしまったけど、15年も一緒だったのだ。 冷静になって、もしかしたら慶介の言葉が、慶介と喧嘩したことが切掛に、もう一度考え直してくれたのかもしれない。 「なら良いよね…。」 誰に言うでもなく呟く。また関係を戻せるなら、慶介に内緒で会ってもいいよね。 サプライズだって言ってるし、明博がせっかく考えた企画なのだから。 知らせたらいけないよね。 今度の金曜日なら予定が空いているから付き合えるよ。 慶介には秘密で、明博にそう返信した。 「朋美、おまたせ。乗って。」 待ち合わせ場所に、明博は車で来ていた。 電車だと思っていた私は、ちょっと驚き、わずかに警戒心を呼び起こした。 「え、電車じゃないの?」 「目星をつけているのは郊外のモールにしか無いんだよね。だめかな。」 明らかに気落ちしたような表情で私を見てくる。 「俺はお前に振られた。お前は慶介と付き合ってる。俺たちは幼馴染…に戻る、問題ないと思ったんだよ。そんなに嫌がると思わなかった。」 「あ…えっと…、明博はもう、私と慶介くんのこと…認めてくれているんだよ…ね?」 「認めるしか無いだろ、実際もう付き合ってるんだし。まぁ幼馴染の優先度をあまり下げないでくれ、あからさまに除け者にされなきゃいいよ・・もう。」 明博の答えに私は少しだけ悩み、最後には幼馴染を信じることにした。 15年も一緒に過ごしてきたのだ、色々あったけれど信じていい相手だ。 「うん、わかった。じゃあ行きましょう。安全運転でお願いしますねぇ。」 私は助手席のドアを開け、シートベルトを締めると明博に笑いかける。 「はいはい、安全過ぎる運転で行きますよぉ。お前に何かあったら慶介に殺されかねないからな。」 私の軽口に、同じく軽口で返してくる明博。 そのやり取りがとても懐かしく感じられて、私は久々に晴れやかな気持ちになった。 その後、郊外のショッピングセンターエオンで、男性向けのステーショナリーを購入し、付き合ってもらったお礼と言うことで、レストラン街で食事した私たちは、私の家の最寄り駅まで帰る途中だった。 駅まで私を送り届けた後、明博は車を返しに行くと言っていた。 なんだろう、頭が少しぼんやりする。 お酒を飲んだ時に近い感覚だけど、今日はお酒は飲んでいない。 私は、とてもお酒には弱いので、外では飲まないようにしている。 でも、なんだろう、頭がボンヤリして、身体がふわふわする。そして少し眠い。 「朋美、どうかしたのか?」 「うん、なんだか少し気分がわるいかも…。」 「ちょっと車停めて、水でもかってくる。大丈夫か?」 「うん…ごめんね。大丈夫だから…。」 車が停まる感覚、ドアが開く音。それらを私はぼんやりと聞いていた。 再びドアが開く音がして、明博が戻ってきたのが解った。 「明博?」 気配は有るのに、何も言わない明博に不信を感じて声をかけてみる。 明博が、覆いかぶさってくる。 えっと思った瞬間、私の身体は勢いよく後ろに倒れた。 明博がシートレバーを操作したため、体重のかかっていたシートのリクライニングが倒れたのだろう。 何が起こったのか分からず、声が出そうになった。 しかし開きかけた口を誰かの手のひらが抑える。 そのせいで私はんーというくぐもった音しか発することが出来なかった。 「お前が…悪いんだ。お前がアイツのものなんかになるから。」 耳元で明博が言う。耳朶に息がかかり、わけもなく気持ち悪く感じて、鳥肌が立つ。 「だからお前をもらう。アイツには渡さない。」 言った後、私の首筋にキスをする。私は全身を襲う悪寒に耐えかねて暴れる。 こんな状態なのに、まだ頭がぼんやりとしていて、思うように動けなかったけれども必死に抵抗を試みた。 「無駄だよ…だってお前、酒弱いだろ。ソフトドリンクに見せかけてかなり弱いカクテルを飲ませていたんだよ。バレない程度に薄くしたな。」 さらっと恐ろしいことを口にする。私は目を見開いてしまった。 信じていたのにと絶望が心を支配する。 「お前の初めてをもらう。お前の膣内に出してやる。お前が二度とアイツのもとに戻れなくしてやる…。」 呪詛の言葉でも呟くかの様に明博は言う。 何が彼をここまで追い詰めたのだろうか。私はただ、普通に恋愛をしただけなのに。 私が何をしたというのだろうか。 再び明博の唇が、舌先が私の首筋をなぞる。 私は恐怖と嫌悪で首をそらし、目を閉じるしか出来なかった。 必死に目を閉じていると、突然顎を強い力で掴まれた。 何事かと目を開けると、明博の顔が近づいてきた。 唇を奪われた…。 呆然としてしまう。心が萎えてしまった。ショックで頭が真っ白になった。 そんな私の唇の輪郭をなぞるように明博の舌先が動く。 そして、私の唇を強引にこじ開けようと舌先を潜り込ませようとしてくる。 そのとき、胸を触られた。無意識に辞めてと叫びそうになった。 そのすきに僅かに開いた唇の隙間から明博の舌が滑り込んできた。 歯茎、歯の裏、舌、私の口の中が、どんどんと侵食されていく。 嫌悪と恐怖で吐きそうになる。もうやめてと何度も叫びそうになる。 ビリッと音がした。胸元が少し涼しくなる。 ブラが私の乳房を乗り越えて、上にずらされていくのが分かる。 もう嫌だ、本当に辞めてと必死で体を動かす。 パァンと乾いた音がして、左頬に激しい痛みが走る。 「大人しくしろ…殺すぞ…。」 聞いたことがないような、底冷えする声で明博が言う。 恐怖と、痛みとで呆然となり、身体から力が抜ける。 「きれいな色をしてるな、ここは慶介も触ったことがないのか?」 明博の手が私の乳房を弄っている。 私は羞恥と怒りとで何も答えることが出来なかった。 「慶介はこの、でかい乳を揉みしだいたことは有るのか?この桜色の乳首を舐め回したのか?答えろよ。」 私を辱めようとする明博の言葉に、私はギュッと目をつぶり、歯を食いしばり耐えた。 おぞましい感覚が旨を這い回る。その指先が私の乳首に触れる。 おぞましさと、僅かばかりのくすぐったさで身体がビクッと反応してしまう。 「感じてるのか…そうか、これが好きなのか…。」 下品な言い方で私をなぶる。 そして執拗に、私の乳首をつまみ、転がし弾く。 絶対に反応するものか。と歯を食いしばるが、断続的に与えられる刺激に、無意識に身体がビクツ、ビクッと反応してしまう。 それは快感からではない、ただの刺激に対する反応。 でも明博はそうは思っていない。私が感じていると思っているのだ。 だから何度も何度も、執拗に私の胸の先の尖った場所を責め続けるのだ。 「おねがい…もう、やめて…いつもの明博に戻って…。」 「ここまで来て引き返せると思っているのか…。」 「私、誰にも言わない、言わないから…お願い。」 「もう、遅い…。」 私の下腹部に違和感が走った。 私の、女の、いちばん大切な場所。全く潤いっていないそこに、何かが押し付けられている。 熱い、硬い、何かが…。 「ま…待って…お願い、それだけは!」 私は自分が何をされるかを悟って、全身の力を振り絞って暴れた。 それをされるわけには絶対にいかない。絶対に守らなければならない。 舌打ちする音が聞こえた。少し遅れて先ほどの比ではない痛みと衝撃が左頬を襲った。痛みが走るのとほぼ同時に、ゴツっと言う鈍い音と、頭ごと揺さぶられるような衝撃を受けた。意識が飛びそうになる。 (なぐ‥られた…) 呆然として、体の力が抜けてしまった。 今考えても最悪の状態。力が抜けてしまった私の身体を押さえつけると…明博は私にのしかかるように体重を加えてきた。 下腹部から熱が伝わる。自分の体がじわじわと押し広げられていく。 (嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ) 下腹部から激しい痛みが走った。ブツッ…となにかが千切れるような音がした。 「あ…ああ…あ…」 涙が止まらない。仰向けになっている私の頬を涙が途切れることなく流れた。 獣のような息遣いが止まることなく私の上で聞こえ続ける。 私の体の中をかき回しぐちゃぐちゃにしていく異物の感覚がある。 (ねぇ神様…私は何をした罪でこんな事をされてしまっているのですか) (ねぇ神様…彼を愛したことは、それほどに罪深いことですか…) 守れなかった…ずっと慶介に、いつの日か慶介に捧げようと思っていた、私のたった一度のモノを。もう二度と彼に捧げることが出来ないものを。 「クッ‥朋美、朋美…これでお前は俺のものだ…。」 誰かが何かを言っている。誰…でも、もうどうでもいい。 何を言ってるの…でも、それももうどうでもいい… 消えたい、消えたい、もう消えてしまいたい… 私の蹂躙された下腹部に、生ぬるい熱が放たれた気がする。 それももうどうでもいい。 もう…すべてが本当にどうでも良かった… 私はもう、汚れてしまったのだから…。
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