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互いの気持ち

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 俺と朋美の関係は順調だった。  恋人になったからと言って、何かが変わるわけでもなく、今までのように出かけて、笑い合って、ちょっとした言い合いもして…。  増えたことは、手をつなぐ様になったこと。  初めてキスしたこと。  そして、明博がいなくなったこと。  朋美はそれでも、何度か関係修復を試みたようだった。  俺と違い、同じ大学に通っているのだから、このままでは気まずいのだろう。 「バカ言えよ、俺は振られたんだし、お前らは付き合ってるんだろう?邪魔できるかよ。だいたい、どんな顔をしたら良いんだ、俺は。」  明博は朋美の提案に対して、毎回そう答えるのだそうだ。  同じ男として気持ちはわかる。朋美の言っていることは残酷な発言と。  でも朋美の気持ちもわかる。15年以上一緒だったのに、突然離れてしまったことに対する寂寥。  そのどちらの気持ちも解るが故に、俺は二人に何も言えない状態だった。  そのせいなのか、俺とデートしていても、朋美は時折淋しそうな顔をする。  そんなある日、俺は思い切って明博を呼び出した。  駅前のカフェに姿を表した明博は、俺の目から見たら今までと変わらない感じだった。  俺の姿を見つけると、軽く手を上げて席にやってきた。 「なんだよ、振られた俺を笑いに来たのか?」  軽口を叩くが、その目の奥に、俺が今まで見たことのない暗い炎が灯っているのが見えた。今まで俺に見せたことのない、冷たい目で俺を見ている。 「そう言うんじゃない、そう言うんじゃないんだ。ただ、今すぐじゃなくてもいいからさ、俺たちがまた3人で笑える日を作れないかと思ってる。」 「はっ…相変わらずだなお前は。朋美に頼まれたのか?」 「いや、俺の意志だよ。おれだって幼馴染3人の関係を気に入っていた。」  正直に言う、仲は良かったし、こいつのことも好きだった。  だけど、時折俺に見せる敵意や、学力マウントなどが少し癇に障ったこともある。  悪気はないのだろうが、無意識に自分の優位性を誇示してくるところが明博にはあった。それが苦手でもあり、嫌いでもあった。  だけど、15年続いた関係は嘘ではない。そういう細かい苦手な所はあったが、俺はこいつを誰よりも信用していたし、仲間だと思っている。 「俺はな…本音を言うと。お前のことが嫌いだった。」  コーヒーカップを手に持ったまま、窓の外を見て、他愛のない会話をするかのように明博は言った。  あまりに自然な言い方だったので、お俺は一瞬何を言われたかわからなかった。 「俺より勉強はできない、俺より運動はできない。俺よりルックスが良いわけでもない。なのに、なぜか選ばれるのはお前だ。クラスの奴らにも部活やサークルの奴らにも…」  そこでカップを置き、一呼吸置くと、腹の底から吐き出すかのような低い声で続ける 「朋美にも…。な…。」  今までに見たことのない明博がそこにいた。俺への敵意を剥き出しにした男がそこにいた。  冷たい汗が背筋を流れる。明博はここまで俺を憎んでいたのかと。 「…だが、もう結果が出た以上、仕方ないんだよ。俺がどれだけお前を恨もうが、妬もうが、朋美はお前を選んだ。それはもう変わらない。だが分かっていても気持ちの整理ができない。…だから、もう少しだけ時間をくれないか…。」  不意に視線を和らげ、明博が懇願してくる。 「俺が新しい恋を見つけ、その恋を成就させて、気持ちが落ち着いたら…多分大丈夫になると思う。おまえらと笑って合うことが出来ると思う。だからそれまで時間をくれ。」  真顔だった。真剣な思いを伝えてきた。  明博の気持がわかった俺は、了解の旨を伝え席を立つ。  俺を見送る明博も、先程の表情は何だったのかと思うほど穏やかに手を振っていた。  店を出てスマホを取り出す。  かけなれた番号を呼び出してコールする。  5コールで相手が出た。 「朋美か、俺だ。いま明博と話しをしたから…うん、詳しい話はそっちへ言ってからするから。うん、後15分くらいでつくと思う、それじゃあ。」  今一番不安を抱えて居るであろう相手に、事の経過を伝えるため俺は足早に彼女の家に向かうのであった。



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 俺と朋美の関係は順調だった。  恋人になったからと言って、何かが変わるわけでもなく、今までのように出かけて、笑い合って、ちょっとした言い合いもして…。  増えたことは、手をつなぐ様になったこと。  初めてキスしたこと。  そして、明博がいなくなったこと。  朋美はそれでも、何度か関係修復を試みたようだった。  俺と違い、同じ大学に通っているのだから、このままでは気まずいのだろう。 「バカ言えよ、俺は振られたんだし、お前らは付き合ってるんだろう?邪魔できるかよ。だいたい、どんな顔をしたら良いんだ、俺は。」  明博は朋美の提案に対して、毎回そう答えるのだそうだ。  同じ男として気持ちはわかる。朋美の言っていることは残酷な発言と。  でも朋美の気持ちもわかる。15年以上一緒だったのに、突然離れてしまったことに対する寂寥。  そのどちらの気持ちも解るが故に、俺は二人に何も言えない状態だった。  そのせいなのか、俺とデートしていても、朋美は時折淋しそうな顔をする。  そんなある日、俺は思い切って明博を呼び出した。  駅前のカフェに姿を表した明博は、俺の目から見たら今までと変わらない感じだった。  俺の姿を見つけると、軽く手を上げて席にやってきた。 「なんだよ、振られた俺を笑いに来たのか?」  軽口を叩くが、その目の奥に、俺が今まで見たことのない暗い炎が灯っているのが見えた。今まで俺に見せたことのない、冷たい目で俺を見ている。 「そう言うんじゃない、そう言うんじゃないんだ。ただ、今すぐじゃなくてもいいからさ、俺たちがまた3人で笑える日を作れないかと思ってる。」 「はっ…相変わらずだなお前は。朋美に頼まれたのか?」 「いや、俺の意志だよ。おれだって幼馴染3人の関係を気に入っていた。」  正直に言う、仲は良かったし、こいつのことも好きだった。  だけど、時折俺に見せる敵意や、学力マウントなどが少し癇に障ったこともある。  悪気はないのだろうが、無意識に自分の優位性を誇示してくるところが明博にはあった。それが苦手でもあり、嫌いでもあった。  だけど、15年続いた関係は嘘ではない。そういう細かい苦手な所はあったが、俺はこいつを誰よりも信用していたし、仲間だと思っている。 「俺はな…本音を言うと。お前のことが嫌いだった。」  コーヒーカップを手に持ったまま、窓の外を見て、他愛のない会話をするかのように明博は言った。  あまりに自然な言い方だったので、お俺は一瞬何を言われたかわからなかった。 「俺より勉強はできない、俺より運動はできない。俺よりルックスが良いわけでもない。なのに、なぜか選ばれるのはお前だ。クラスの奴らにも部活やサークルの奴らにも…」  そこでカップを置き、一呼吸置くと、腹の底から吐き出すかのような低い声で続ける 「朋美にも…。な…。」  今までに見たことのない明博がそこにいた。俺への敵意を剥き出しにした男がそこにいた。  冷たい汗が背筋を流れる。明博はここまで俺を憎んでいたのかと。 「…だが、もう結果が出た以上、仕方ないんだよ。俺がどれだけお前を恨もうが、妬もうが、朋美はお前を選んだ。それはもう変わらない。だが分かっていても気持ちの整理ができない。…だから、もう少しだけ時間をくれないか…。」  不意に視線を和らげ、明博が懇願してくる。 「俺が新しい恋を見つけ、その恋を成就させて、気持ちが落ち着いたら…多分大丈夫になると思う。おまえらと笑って合うことが出来ると思う。だからそれまで時間をくれ。」  真顔だった。真剣な思いを伝えてきた。  明博の気持がわかった俺は、了解の旨を伝え席を立つ。  俺を見送る明博も、先程の表情は何だったのかと思うほど穏やかに手を振っていた。  店を出てスマホを取り出す。  かけなれた番号を呼び出してコールする。  5コールで相手が出た。 「朋美か、俺だ。いま明博と話しをしたから…うん、詳しい話はそっちへ言ってからするから。うん、後15分くらいでつくと思う、それじゃあ。」  今一番不安を抱えて居るであろう相手に、事の経過を伝えるため俺は足早に彼女の家に向かうのであった。



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