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黒い独白

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 俺はあの場所に居た。  子供の頃から、いつも三人で遊んでいた場所。  俺が朋美から思いを伝えられた場所…。  そこには俺だけしかいなかった。だが俺は待ち人が来ると確信していた。  だから黙って目を閉じて待っていた。 「よぉ、間抜け。やっと気がついたのか。」  聞き覚えがあるはずなのに、初めて聞いたような声。 「俺が散々ヒントをばらまいて、お姫様まで引きずり出して、ようやく正解にたどり着いたかよ、本当にマヌケだなお前は。」 「明博…何故だ…何故お前が…。」  声の主は予想通り明博だった。  あの時、朋美にスマホのディスプレイには「着信アリ 黒部明博」と表示されていた。朋美が半狂乱になり、暴れるトリガーとなったのは明博からの着信だったのだ。 「何処から話すかなぁ…まず、俺はお前が嫌いだ。それこそ、死ぬほどにな。」  明博の顔が俺の方を向く。そこには俺が見たこともない明博の顔があった。  怒り・嫌悪・妬み…そういった負の感情が全てあった。 「何でお前ばかりがチヤホヤされる?容姿も、勉強も、スポーツも、俺のほうが上だと皆が口にする。なのに何で選ばれるのはいつもお前だ…何でお前の周りにだけ人が集まる…俺のほうが優れているのに何故だ。」 「俺が知るかよ!知らねぇよ!そんなの俺に言われたってわかるかよ。」 「ずっと一緒に過ごしていた…俺もお前も同列だったはずだ…なのになぜ朋美は、お前を選んだ…何で俺じゃダメなんだ…。」  言葉に詰まる。なぜ朋美は俺を選んだのか…その理由は俺も知らない。 「朋美は、綺麗になった‥中学の頃こそ垢抜けなかったが…高校に上がった途端、どんどん女になっていった。身体も顔も、仕草も。俺にふさわしい女に育っていった…だから俺は、俺の恋人にしてやるといったのに…。アイツは…。アイツは…。」  明博はそこで言葉を切り、お俺を見る目に怒りを込めた。 「お前なんかを選びやがった!高卒のただの会社員、たいしてカッコよくもなく、勉強もスポーツも人並なんていうお前をな!俺の何処がお前に負けてると言うんだ!」  もう支離滅裂だった。こいつは何故、こんな身勝手な理論を振りかざしているのに自分が正しいと思っているのだろうか…分からない、分かれない、解りたくない。 「だから、俺は正しい道に、朋美を戻してやっただけだ。どんな手を使ったのかは知らないがお前に惑わされている朋美をな。」 「何を勝手なことを言っている!」 「アイツはずっと俺の女だ。俺の女が間違えた相手を選ぼうとしたら止めるだろ。」  明博は大げさな身振りで両手を広げると、空を見上げた。 「アイツは俺の女だよ…アイツは俺に処女を捧げたんだからなぁ。」  俺が人生で見た、最も醜い笑顔で、明博は俺を見ていた。 「付き合っていたはずの、お前にも捧げなかった処女を俺に捧げたんだぜ?」 「だま…れ…。」 「よかったぜ?朋美は最高の女だ。胸もでかいし形もいい。俺がキスをしたら嬉しそうに舌を絡めてきたぜぇ…そして…最高だったぜアイツの膣内なかは。」 「もう一度…言う…黙れ…黙れアキヒロォォォ。」  怒りに目がくらむ、右手を握り込むと一気に明博に近づき、渾身の力で拳を叩きつける。だがそれを少し顔を傾けただけで躱すと、明博は軽いステップで2歩後ろに下がった。 「おいおい。俺がボクシングをやってることを忘れたのか?マヌケくんよぉ。」 「黙れ、その口を閉じろぉ!」  再度大きく踏み込んで、腰の入った右ストレートを見舞う。  それも華麗なステップであっさりと躱されてしまう。 「だいたいよぉ、俺が呼び出したらあっさり出てきたんだぜアイツは。」 「それは幼馴染だと信じていたからだろ!」  俺が叫ぶと、明博は俺の懐にステップ・インしてきた。  一気に俺との間合いを詰めると、俺の胸ぐらをつかんで引き寄せる。 「自分から…幼馴染の関係を壊したのにか?それなのに幼馴染だと信じているだと」 「3人で過ごせる時間を取り戻そうと努力した。お前にも言ったはずだ。」 「ふざけるな…反吐が出る。」  吐き捨てるようにそう言うと、明博は胸ぐらをつかんでいた手を大きく振り、俺を振り払った。その拍子に折れは受け身も取らないまま、地面に投げ出された。  一瞬肺の中の空気が押し出されて、目の前が暗くなる。 「朋美の処女は捧げてもらった。そして俺はアイツの膣内なかに出してやった。お前がどうあがいても、朋美は俺のものになるんだよ、アハハハ…俺の勝ちなんだよ慶介。俺はようやく、お前に勝つんだ‥はは…はははは…あーっはっはっは。」  その言葉で、俺の中の何かが弾けた。  常識や理性という名前の鎖で抑え込んでいた衝動を解き放った。 「明博…お前だけは…殺す…。」



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 俺はあの場所に居た。  子供の頃から、いつも三人で遊んでいた場所。  俺が朋美から思いを伝えられた場所…。  そこには俺だけしかいなかった。だが俺は待ち人が来ると確信していた。  だから黙って目を閉じて待っていた。 「よぉ、間抜け。やっと気がついたのか。」  聞き覚えがあるはずなのに、初めて聞いたような声。 「俺が散々ヒントをばらまいて、お姫様まで引きずり出して、ようやく正解にたどり着いたかよ、本当にマヌケだなお前は。」 「明博…何故だ…何故お前が…。」  声の主は予想通り明博だった。  あの時、朋美にスマホのディスプレイには「着信アリ 黒部明博」と表示されていた。朋美が半狂乱になり、暴れるトリガーとなったのは明博からの着信だったのだ。 「何処から話すかなぁ…まず、俺はお前が嫌いだ。それこそ、死ぬほどにな。」  明博の顔が俺の方を向く。そこには俺が見たこともない明博の顔があった。  怒り・嫌悪・妬み…そういった負の感情が全てあった。 「何でお前ばかりがチヤホヤされる?容姿も、勉強も、スポーツも、俺のほうが上だと皆が口にする。なのに何で選ばれるのはいつもお前だ…何でお前の周りにだけ人が集まる…俺のほうが優れているのに何故だ。」 「俺が知るかよ!知らねぇよ!そんなの俺に言われたってわかるかよ。」 「ずっと一緒に過ごしていた…俺もお前も同列だったはずだ…なのになぜ朋美は、お前を選んだ…何で俺じゃダメなんだ…。」  言葉に詰まる。なぜ朋美は俺を選んだのか…その理由は俺も知らない。 「朋美は、綺麗になった‥中学の頃こそ垢抜けなかったが…高校に上がった途端、どんどん女になっていった。身体も顔も、仕草も。俺にふさわしい女に育っていった…だから俺は、俺の恋人にしてやるといったのに…。アイツは…。アイツは…。」  明博はそこで言葉を切り、お俺を見る目に怒りを込めた。 「お前なんかを選びやがった!高卒のただの会社員、たいしてカッコよくもなく、勉強もスポーツも人並なんていうお前をな!俺の何処がお前に負けてると言うんだ!」  もう支離滅裂だった。こいつは何故、こんな身勝手な理論を振りかざしているのに自分が正しいと思っているのだろうか…分からない、分かれない、解りたくない。 「だから、俺は正しい道に、朋美を戻してやっただけだ。どんな手を使ったのかは知らないがお前に惑わされている朋美をな。」 「何を勝手なことを言っている!」 「アイツはずっと俺の女だ。俺の女が間違えた相手を選ぼうとしたら止めるだろ。」  明博は大げさな身振りで両手を広げると、空を見上げた。 「アイツは俺の女だよ…アイツは俺に処女を捧げたんだからなぁ。」  俺が人生で見た、最も醜い笑顔で、明博は俺を見ていた。 「付き合っていたはずの、お前にも捧げなかった処女を俺に捧げたんだぜ?」 「だま…れ…。」 「よかったぜ?朋美は最高の女だ。胸もでかいし形もいい。俺がキスをしたら嬉しそうに舌を絡めてきたぜぇ…そして…最高だったぜアイツの膣内なかは。」 「もう一度…言う…黙れ…黙れアキヒロォォォ。」  怒りに目がくらむ、右手を握り込むと一気に明博に近づき、渾身の力で拳を叩きつける。だがそれを少し顔を傾けただけで躱すと、明博は軽いステップで2歩後ろに下がった。 「おいおい。俺がボクシングをやってることを忘れたのか?マヌケくんよぉ。」 「黙れ、その口を閉じろぉ!」  再度大きく踏み込んで、腰の入った右ストレートを見舞う。  それも華麗なステップであっさりと躱されてしまう。 「だいたいよぉ、俺が呼び出したらあっさり出てきたんだぜアイツは。」 「それは幼馴染だと信じていたからだろ!」  俺が叫ぶと、明博は俺の懐にステップ・インしてきた。  一気に俺との間合いを詰めると、俺の胸ぐらをつかんで引き寄せる。 「自分から…幼馴染の関係を壊したのにか?それなのに幼馴染だと信じているだと」 「3人で過ごせる時間を取り戻そうと努力した。お前にも言ったはずだ。」 「ふざけるな…反吐が出る。」  吐き捨てるようにそう言うと、明博は胸ぐらをつかんでいた手を大きく振り、俺を振り払った。その拍子に折れは受け身も取らないまま、地面に投げ出された。  一瞬肺の中の空気が押し出されて、目の前が暗くなる。 「朋美の処女は捧げてもらった。そして俺はアイツの膣内なかに出してやった。お前がどうあがいても、朋美は俺のものになるんだよ、アハハハ…俺の勝ちなんだよ慶介。俺はようやく、お前に勝つんだ‥はは…はははは…あーっはっはっは。」  その言葉で、俺の中の何かが弾けた。  常識や理性という名前の鎖で抑え込んでいた衝動を解き放った。 「明博…お前だけは…殺す…。」



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