絶望するには早すぎる
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私の身体を激痛が襲う。 何かが私の身体の中を押し広げている感覚がある。 殴られた頬が、じんじんと熱を発しているけれど、それさえも気にならないほどの痛みと違和感が私の身体を襲う。 「はは……お前が拒絶した男のモノが、お前の女を押し広げて中に入ってる。気分はどうだ朋美」 低い男の声が耳に届く。 その言葉で私は自分が置かれている状況を、いやがおうにも理解する。 私は……信じていた、15年も関わってきた男性に裏切られ、愛する人に捧げようと守ってきたモノを奪われた。 「お前が俺を拒むから、慶介なんかを選ぶから、こんなことになってしまったんだ。俺の方が先にお前のことを好きになったのに、何もかも俺の方が上なのに、なのにお前が」 私の身体に覆い被さる様に上体を近づけていた彼が言う。 「……だが、お前の初めては俺だ。慶介じゃなくこの俺だ。はは……お前は俺のモノだ」 狂った様につぶやき続ける彼の姿に、僅かばかりの後悔の念が湧く。 私が彼を傷つけてしまったから……彼ではなく慶介を選んでしまったから、こうなってしまったのだろうか。 私は自分の恋心を隠したままにしておくべきだったのだろうか。 私が慶介に告白したせいで、私も彼もそして慶介も、誰も幸せになれない結末を迎えることになったのだろうか。 「朋美……お前は最高だ、見た目も肌触りも……そして中も……もう……出すぞ」 最後通牒の様な無慈悲な言葉が、信頼していた幼馴染みの口から出たことが信じられなくて、一瞬何を言われたのかを理解できず戸惑う。 しかしすぐにその意味するところを理解した私は、必死に抵抗を試みた。 手をばたつかせて、動きの制限されている足も必死に動かして、そして彼の中に眠る良心に訴えかける。 「ねぇ、お願い……このことは誰にも言わないから、だからそれだけは許して、お願いよ昭博」 「無理だ……お前の中に俺のを放って、お前に俺を刻みつけてやる。お前は俺のモノだとな。」 荒い息を吐きながら無慈悲にそう言う昭博。 私の初めてを奪うだけでは飽き足らず、中までも己のもので染め上げようとしている男。 「お願い……それだけは本当に……」 私が言葉を発したのと、身体の中に生暖かい熱が放たれたのは同時だった。 その意味するところを理解してしまった私は、深い絶望に捕らわれる。 言葉を出すことも出来ず、ただ悲しみの余りにおともなく流れる涙をそのままに薄暗い車内の天井を見つめるしか出来なかった。 カシャッと言う音が連続で起きたのはその時。 同時に目がくらむ様な眩しい光が数度放たれる。 「え……な、なに……」 何が起きたのか理解できず、思わずそう問いかけてしまう。 「保険だよ。おまえと俺が結ばれた、お前の中に俺のモノが入っている写真を撮影した。意味がわかるか」 残忍な光を称えた目で私を見下ろしながら彼が言う。 「いいか、慶介にも誰にもこのことは言うな。そして俺が呼び出したら必ず出てこい。ソレを破ればこの写真を大学にもネットにも、そして慶介にもばらすからな」 昭博の無慈悲な言葉に、私は今日この時、人生で一番深い絶望を知ることとなった。
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