主人公たる者
2/2
主人公たる者、死んではならない。 だから轢かれたからって君は ここで死んだら物語が紡げないじゃないか。 交通事故に会ってから助かろうとしても遅い。 どんな天才も衝突後の悲劇は避けられない。 一寸躱すようなことも不可能ではないけれど それは事故に遭う間抜けさを否定しない。 真に賢き者は、尊き者は事故に遭わない。 自らの安全を脅かす悲劇の地雷を踏まない。 地雷を踏みたくない者は、 まず地雷原を歩こうとしない。 電車に轢かれたくない人間は、 まず線路の上を歩くことをしない。 君は電車に轢かれたかったから、 線路の上を歩く運命を避けようとしない。 電車に轢かれない者は、 電車や線路の近くにいない。 単なる木製の机からは ドラゴンは飛び出さない。 ファンタジーでさえ、魔方陣などの 導入のロジックを欠かすことは出来ない。 バスもない田舎で寝ている人が 電車に轢かれてしまうことはない。 でも君は、線路の上を歩いていて、 それで電車に轢かれて死ぬんだ。 そこに語られるべき意外性は存在しない。 君の死は何の不思議もないし、 どんな意外性も我々に呈さないし、 地雷原を歩いて地雷を踏んだのと同じように、 電車路を歩いて電車に轢かれただけで。 君が主人公の物語は始まらない。 始まらない物語は語られない。 語られない物語の主人公に 君は選ばれていない。
新着コメント
コメントはありません。投稿してみようっ!
おすすめ小説
|
|
|
|
|
|