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独りにはしない

ー/ー



 長い話を終えて、慚愧はふうっと息を吐き出す。
「ここで終いだ。言いたいことがあれば聞くが?」
「話は分かった。先に言っておくが、お前の前からいなくならないぞ」
「同じく」
「私もです」
 叉辞の言葉に続いて、鎬と柳が同意し、三人は空気を読んで家を出た。

 ――まったく、いいんだか悪いんだか。
 出ていった三人のことを思いながら、慚愧は鎖那に視線を向ける。
 閉じた舞扇を握り締めて、嗚咽を噛み殺そうと必死になっていた。
 すっと立ち上がった慚愧は、鎖那の隣に腰を下ろす。
「……どう思った?」
 肩が震えている鎖那に、そんな問いを投げかける。
「こんなの知らなかった! あなたの抱えてる闇が想像以上に深いってこと!」
 鎖那は泣き叫ぶ。
「……言いたいことを、すべて言ってしまえ。楽になれるぞ」
 慚愧は先を促す。
「そんな地獄を抱えて生きるなんて、普通の人にできることじゃないわ!」
「……そうかもしれないな」
 相槌を打つ慚愧は歯切れ悪く言う。
「辛いし、苦しいよね……?」
「さてな」
「え……?」
 鎖那は泣きながら首をかしげる。
「そういうのは、全部分からなくなっちまってな」
「どういうこと?」
 首をかしげている鎖那を見ながら、慚愧は口を開く。
「俺の中には〝傍観者〟がいる。なにが起こっても冷静でいることを最重要視し、動じないようになった。慣れるまでがきつかったが」
「それしか方法がなかったの……?」
 涙を浮かべた鎖那が言う。
「そうだよ? それしか手がなかったんだ。決して〝自分のこととして考えない〟それが最も重要なこと」
 鎖那は黙っていることしかできない。
「すべての感情を捨て、身も心も闇に喰わせてやった」
「そんなことしたら! ずっと苦しくて辛いじゃない!」
「それがどうした?」
 慚愧はぞくりとするほど暗い目で、鎖那を見つめる。
 その目を見た鎖那は、さらに泣き出す。
 それから逃れるように、慚愧の胸に顔を埋めた。
「っ!?」
 慚愧は驚きながらも、そっと抱きとめる。
「慚愧の馬鹿~!」
「こうして泣いたり、いなくならないなんて言う連中が、いるとは思わなかった」
 誤算だった、と慚愧が呟く。
「今のままでいいから! お願いだから、傍にいて!」
「……ん?」
 慚愧は思わず聞き返す。
「あたしは、あなたのことが放っておけないの! ううん、好きなの!」
 鎖那は言葉を間違えたらしく、突然の告白をする。
「……おい、ちょっと待て。俺でいいのか?」
 低い声で突っ込みを入れる慚愧。
「あなたじゃなきゃ嫌!」
 感情のままに言う鎖那を見つめたまま、慚愧は無言で、不器用にその背を撫でる。
「……こんな俺がいいのか。変わり者め。せっかくだし、言葉を考えた」
「せっかくだし? 言葉?」
 鎖那はきょとんとしている。
「誰かに見られるのも面倒だし……。舞扇、貸してくれ」
「いいけど……?」
 鎖那は不思議そうな顔をして舞扇を差し出す。
 ばっと舞扇を広げた慚愧は、それを右手に縦に持つ。
「鎖那、心のままにいてくれ。俺と……地獄に堕ちよう」
 鎖那の頬に左手で触れながら、独特すぎる口説き文句を告げる。
「うん、慚愧らしいね……。っ⁉」
 鎖那は目を開いたまま固まる。
 慚愧が舞扇で口許を隠した上で、かなり自然に口づけをしてきたからだ。
「悪い。あんなことを言うものだから、少し、困らせたくなった」
 唇を離した慚愧が、ニヤリと嗤う。
 かあああっと赤面してしまう鎖那。
「……意地悪」
「上等だ」
 頬に触れたまま慚愧が笑う。
 ――ありがとう。
 慚愧は内心で感謝の言葉を告げた。
 
 絶望の中に見出した、唯一の光である。
 二人はこれから何と闘っていくのか?
 二人の歩く闇の中に、救いがあらんことを願って。




みんなのリアクション

 長い話を終えて、慚愧はふうっと息を吐き出す。
「ここで終いだ。言いたいことがあれば聞くが?」
「話は分かった。先に言っておくが、お前の前からいなくならないぞ」
「同じく」
「私もです」
 叉辞の言葉に続いて、鎬と柳が同意し、三人は空気を読んで家を出た。
 ――まったく、いいんだか悪いんだか。
 出ていった三人のことを思いながら、慚愧は鎖那に視線を向ける。
 閉じた舞扇を握り締めて、嗚咽を噛み殺そうと必死になっていた。
 すっと立ち上がった慚愧は、鎖那の隣に腰を下ろす。
「……どう思った?」
 肩が震えている鎖那に、そんな問いを投げかける。
「こんなの知らなかった! あなたの抱えてる闇が想像以上に深いってこと!」
 鎖那は泣き叫ぶ。
「……言いたいことを、すべて言ってしまえ。楽になれるぞ」
 慚愧は先を促す。
「そんな地獄を抱えて生きるなんて、普通の人にできることじゃないわ!」
「……そうかもしれないな」
 相槌を打つ慚愧は歯切れ悪く言う。
「辛いし、苦しいよね……?」
「さてな」
「え……?」
 鎖那は泣きながら首をかしげる。
「そういうのは、全部分からなくなっちまってな」
「どういうこと?」
 首をかしげている鎖那を見ながら、慚愧は口を開く。
「俺の中には〝傍観者〟がいる。なにが起こっても冷静でいることを最重要視し、動じないようになった。慣れるまでがきつかったが」
「それしか方法がなかったの……?」
 涙を浮かべた鎖那が言う。
「そうだよ? それしか手がなかったんだ。決して〝自分のこととして考えない〟それが最も重要なこと」
 鎖那は黙っていることしかできない。
「すべての感情を捨て、身も心も闇に喰わせてやった」
「そんなことしたら! ずっと苦しくて辛いじゃない!」
「それがどうした?」
 慚愧はぞくりとするほど暗い目で、鎖那を見つめる。
 その目を見た鎖那は、さらに泣き出す。
 それから逃れるように、慚愧の胸に顔を埋めた。
「っ!?」
 慚愧は驚きながらも、そっと抱きとめる。
「慚愧の馬鹿~!」
「こうして泣いたり、いなくならないなんて言う連中が、いるとは思わなかった」
 誤算だった、と慚愧が呟く。
「今のままでいいから! お願いだから、傍にいて!」
「……ん?」
 慚愧は思わず聞き返す。
「あたしは、あなたのことが放っておけないの! ううん、好きなの!」
 鎖那は言葉を間違えたらしく、突然の告白をする。
「……おい、ちょっと待て。俺でいいのか?」
 低い声で突っ込みを入れる慚愧。
「あなたじゃなきゃ嫌!」
 感情のままに言う鎖那を見つめたまま、慚愧は無言で、不器用にその背を撫でる。
「……こんな俺がいいのか。変わり者め。せっかくだし、言葉を考えた」
「せっかくだし? 言葉?」
 鎖那はきょとんとしている。
「誰かに見られるのも面倒だし……。舞扇、貸してくれ」
「いいけど……?」
 鎖那は不思議そうな顔をして舞扇を差し出す。
 ばっと舞扇を広げた慚愧は、それを右手に縦に持つ。
「鎖那、心のままにいてくれ。俺と……地獄に堕ちよう」
 鎖那の頬に左手で触れながら、独特すぎる口説き文句を告げる。
「うん、慚愧らしいね……。っ⁉」
 鎖那は目を開いたまま固まる。
 慚愧が舞扇で口許を隠した上で、かなり自然に口づけをしてきたからだ。
「悪い。あんなことを言うものだから、少し、困らせたくなった」
 唇を離した慚愧が、ニヤリと嗤う。
 かあああっと赤面してしまう鎖那。
「……意地悪」
「上等だ」
 頬に触れたまま慚愧が笑う。
 ――ありがとう。
 慚愧は内心で感謝の言葉を告げた。
 絶望の中に見出した、唯一の光である。
 二人はこれから何と闘っていくのか?
 二人の歩く闇の中に、救いがあらんことを願って。


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