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【3】

ー/ー



「ミルキー! ミルちゃーん、ほらぁ、おやつ〜」
 真世が、猫用のおやつを手に愛猫を呼んだ。

「またかよ。『ご飯』じゃなくて『おやつ』なんだから、あんまりやるの良くないんじゃないのか?」
 呆れ顔の俺に、妹が反論してくる。

「そんなしょっちゅうじゃないもん。たまにはいいでしょ、ミルキーにも楽しみは必要だよ!」
 真世の気持ちは俺もよくわかるんだよな。やっぱ家族にはいろいろしてやりてーもん。
 何でも欲しがるだけ、はさすがに違うと思うけどさ。

 ……それにしても、さすが専門家(プロ)が商売にできるだけのことはあるよ。このおやつ、ミルキーの食いつきが違うもんな。
 目の色変える、って猫にも使えるのか知らないけど。

 大学の友達で猫飼ってるヤツに訊いたら、結構猫って食べるもの選ぶらしいな。
 でもミルキーは、別に選り好みしない。
 どっからどう見ても庶民のうちが買ってる、高級でもない猫缶もドライフード(カリカリ)もフツーに食うからな。
 だけど、猫にも『好きなもの・美味しいもの』ってあるんだなぁ。

 犬は、つーかマロンはおやつって名のおもちゃみたいな感じだったからさ。骨型の犬ガム、喜んで嚙んでた。

 ミルキーはもうすっかり我が家の欠かせないメンバーになった。何しても可愛い、年の離れた末っ子ポジション。いや、俺は年の離れた弟妹なんていないからあくまでも例えで。

 初めて来たときに比べたら、もう倍くらいのサイズになったような気がする。まだまだコドモの範疇なんだろうけど。

 ……マロンが来たのも赤ちゃん犬の時で、もう可愛くてしょーがなかったな。
 最初のうちはともかく、あっという間に人間換算なら俺たちより年上になっちゃったけど、それでも俺と真世の『妹』だった。

 マロン。

 生まれ変わりなんて、本気で信じてるわけじゃない。
 俺もう二十歳過ぎてんだぜ? 大真面目に言ってたら、笑われるより真顔で心配される事案だろ。

 そう自分に言い聞かせたいだけかもしれない、と思ってる俺もいる。だってミルキーとマロンが、予期しないふとした瞬間に重なるんだ。
 見た目からして似たとこなんてないはずなのに。

 ミルキーが俺の足に擦り寄ってきたとき。
 例の友達が言うには、猫にはごく普通の行動なんだってさ。普段はベタベタくっついてきたりなんかしないのに、そういうの可愛い。
 でも俺は同時に、「ああ、マロンも……」とかついそっちに行っちゃうんだ。

「ねー、お兄ちゃん知ってた? 柴犬って『猫っぽい』って言われてんだって」
 そこへ、俺の心を読んだかのような真世の言葉。
 そんなにわかりやすいか? 俺。

「いや初耳。何だそれ?」
「マロンてさ、今のミルキーみたいにスリスリってよくしてたじゃん? でも犬ってそういうことしないらしいよ」
 妹の台詞はまさに衝撃だ。

「え、それマジ!?」
「うん。あたしマロンしか飼ったことないから、犬ってみんなそういうもんだと思ってたんだけど」
 そうなんだ! 俺も知らなかった。

「あと、決まった場所にじっとしてたりとかも? 同じ部屋にいたら、結構『構って構って!!』って甘えてくる子が多いって」
「そういや散歩中に会う犬でも、いっつも『撫でて!』って感じでリード伸ばして駆け寄ってくるヤツいたなー」

 尻尾ブンブン振ってすげー嬉しそうに俺に頭突き出して、飼い主のおばちゃん困らせてたっけ。

 そういうとき、マロンは「こっち来ないでよ!」って感じで歯剥き掛けたりしてたなぁ。

「あと『ツンデレ』とか。言われてみればそんな気もしなくもない、──いや、うーん。それはどうだろ」
「……ツンデレ」
 リアルじゃまず聞かない単語については、まあ話半分としてもだ。

 マロンはやたらと構われるのがそんな好きじゃなかったし、特に家族以外には触られるのも嫌がってた。

 真世と同じで、俺の『犬』の基準はマロンだからさ。
 実はよく会うあの犬のこと、「他人にまで愛想振りまいて、コイツ家で放ったらかしで寂しいのか!?」とか思ってたんだよな。
 俺ってすげー失礼で的外れだったのかも。

 そうだよ、可愛がってなかったら面倒な散歩なんて行かねえよな。「よく会う」ってことは、向こうもしょっちゅう散歩してたんだから。
 今更だけどスミマセン。

 確かにマロンは、散歩に行っても他の犬とか飼い主とかにフレンドリーとは程遠かった。
 犬は群れ作る習性だって言うし、もっと犬同士仲良くってか普通に慣れ合うもんだと思ってはいた。でも「そりゃ人間だって誰とでも仲良く、なんて無理だしな」ってなんとなく納得はしてたんだ。

 ……結局さぁ、飼い主にとっては「ウチの子はいるだけで可愛い!」が真理なわけよ。そこにいろいろ理屈つけてるだけ。

 人見知りや場所見知りって犬にもあるんだ、なんてたいして気にしてなかった。
 あれって単に、マロンの個性だけじゃなくて柴犬の特性だったってこと、なのか?
 柴犬が『猫っぽい』んなら、マロンとミルキーが被るのもおかしくないってことだよな。

 真世の話からこの既視感(デジャヴュ)に理由がつけられた気がして、拍子抜けした気分もある。
 なーんだ、やっぱ転生なんかあるわけねえじゃん、なんて。
 結局のところ、それは本題じゃない。他人がどう思うかは関係なく、俺にとってはそうなんだ。

 もうひとつ。
 もし「同じ魂」を持ってても「違う存在」だってこと。ミルキーはマロンの「代わり」でも「偽物」でもねえんだよ。

「でもさあ、あたしも『あ、こういうのマロンとおんなじ!』があっても、違うことのほうが多いよ。──でもその方がいいじゃん? どっちも大事な家族ってことで」
 妹の言葉に頷く自分もいる。

 そのとおりだ。
 転生だろうが単なる思い込みだろうが、マロンもミルキーも「それぞれが」大切なのだけは変わらない事実なんだから。

 同じなら、マロンは今も俺たちといる。違うなら、虹の橋の袂で待っててくれてる。ミルキーと楽しく過ごしてる俺たちを見守りながら。
 考えるだけ無駄だってことさ。

 でも、だからこそ自分の中ではカタつけておきたい。どっちにしても、これ以上はもう気にしない! って。

 一度だけ。
 そう心に決めて、思い切って呼び掛けてみた。最初で最後の、この名前で。

「マロン」

 犬としては決して大型じゃなかったマロンより遥かに小さな身体の白猫(ミルキー)が、声に反応して頭を上げる。

 そしてマロンのように黒くはない、透き通った青い瞳で俺を見つめて、──

  ~END~



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「ミルキー! ミルちゃーん、ほらぁ、おやつ〜」
 真世が、猫用のおやつを手に愛猫を呼んだ。
「またかよ。『ご飯』じゃなくて『おやつ』なんだから、あんまりやるの良くないんじゃないのか?」
 呆れ顔の俺に、妹が反論してくる。
「そんなしょっちゅうじゃないもん。たまにはいいでしょ、ミルキーにも楽しみは必要だよ!」
 真世の気持ちは俺もよくわかるんだよな。やっぱ家族にはいろいろしてやりてーもん。
 何でも欲しがるだけ、はさすがに違うと思うけどさ。
 ……それにしても、さすが|専門家《プロ》が商売にできるだけのことはあるよ。このおやつ、ミルキーの食いつきが違うもんな。
 目の色変える、って猫にも使えるのか知らないけど。
 大学の友達で猫飼ってるヤツに訊いたら、結構猫って食べるもの選ぶらしいな。
 でもミルキーは、別に選り好みしない。
 どっからどう見ても庶民のうちが買ってる、高級でもない猫缶も|ドライフード《カリカリ》もフツーに食うからな。
 だけど、猫にも『好きなもの・美味しいもの』ってあるんだなぁ。
 犬は、つーかマロンはおやつって名のおもちゃみたいな感じだったからさ。骨型の犬ガム、喜んで嚙んでた。
 ミルキーはもうすっかり我が家の欠かせないメンバーになった。何しても可愛い、年の離れた末っ子ポジション。いや、俺は年の離れた弟妹なんていないからあくまでも例えで。
 初めて来たときに比べたら、もう倍くらいのサイズになったような気がする。まだまだコドモの範疇なんだろうけど。
 ……マロンが来たのも赤ちゃん犬の時で、もう可愛くてしょーがなかったな。
 最初のうちはともかく、あっという間に人間換算なら俺たちより年上になっちゃったけど、それでも俺と真世の『妹』だった。
 マロン。
 生まれ変わりなんて、本気で信じてるわけじゃない。
 俺もう二十歳過ぎてんだぜ? 大真面目に言ってたら、笑われるより真顔で心配される事案だろ。
 そう自分に言い聞かせたいだけかもしれない、と思ってる俺もいる。だってミルキーとマロンが、予期しないふとした瞬間に重なるんだ。
 見た目からして似たとこなんてないはずなのに。
 ミルキーが俺の足に擦り寄ってきたとき。
 例の友達が言うには、猫にはごく普通の行動なんだってさ。普段はベタベタくっついてきたりなんかしないのに、そういうの可愛い。
 でも俺は同時に、「ああ、マロンも……」とかついそっちに行っちゃうんだ。
「ねー、お兄ちゃん知ってた? 柴犬って『猫っぽい』って言われてんだって」
 そこへ、俺の心を読んだかのような真世の言葉。
 そんなにわかりやすいか? 俺。
「いや初耳。何だそれ?」
「マロンてさ、今のミルキーみたいにスリスリってよくしてたじゃん? でも犬ってそういうことしないらしいよ」
 妹の台詞はまさに衝撃だ。
「え、それマジ!?」
「うん。あたしマロンしか飼ったことないから、犬ってみんなそういうもんだと思ってたんだけど」
 そうなんだ! 俺も知らなかった。
「あと、決まった場所にじっとしてたりとかも? 同じ部屋にいたら、結構『構って構って!!』って甘えてくる子が多いって」
「そういや散歩中に会う犬でも、いっつも『撫でて!』って感じでリード伸ばして駆け寄ってくるヤツいたなー」
 尻尾ブンブン振ってすげー嬉しそうに俺に頭突き出して、飼い主のおばちゃん困らせてたっけ。
 そういうとき、マロンは「こっち来ないでよ!」って感じで歯剥き掛けたりしてたなぁ。
「あと『ツンデレ』とか。言われてみればそんな気もしなくもない、──いや、うーん。それはどうだろ」
「……ツンデレ」
 リアルじゃまず聞かない単語については、まあ話半分としてもだ。
 マロンはやたらと構われるのがそんな好きじゃなかったし、特に家族以外には触られるのも嫌がってた。
 真世と同じで、俺の『犬』の基準はマロンだからさ。
 実はよく会うあの犬のこと、「他人にまで愛想振りまいて、コイツ家で放ったらかしで寂しいのか!?」とか思ってたんだよな。
 俺ってすげー失礼で的外れだったのかも。
 そうだよ、可愛がってなかったら面倒な散歩なんて行かねえよな。「よく会う」ってことは、向こうもしょっちゅう散歩してたんだから。
 今更だけどスミマセン。
 確かにマロンは、散歩に行っても他の犬とか飼い主とかにフレンドリーとは程遠かった。
 犬は群れ作る習性だって言うし、もっと犬同士仲良くってか普通に慣れ合うもんだと思ってはいた。でも「そりゃ人間だって誰とでも仲良く、なんて無理だしな」ってなんとなく納得はしてたんだ。
 ……結局さぁ、飼い主にとっては「ウチの子はいるだけで可愛い!」が真理なわけよ。そこにいろいろ理屈つけてるだけ。
 人見知りや場所見知りって犬にもあるんだ、なんてたいして気にしてなかった。
 あれって単に、マロンの個性だけじゃなくて柴犬の特性だったってこと、なのか?
 柴犬が『猫っぽい』んなら、マロンとミルキーが被るのもおかしくないってことだよな。
 真世の話からこの|既視感《デジャヴュ》に理由がつけられた気がして、拍子抜けした気分もある。
 なーんだ、やっぱ転生なんかあるわけねえじゃん、なんて。
 結局のところ、それは本題じゃない。他人がどう思うかは関係なく、俺にとってはそうなんだ。
 もうひとつ。
 もし「同じ魂」を持ってても「違う存在」だってこと。ミルキーはマロンの「代わり」でも「偽物」でもねえんだよ。
「でもさあ、あたしも『あ、こういうのマロンとおんなじ!』があっても、違うことのほうが多いよ。──でもその方がいいじゃん? どっちも大事な家族ってことで」
 妹の言葉に頷く自分もいる。
 そのとおりだ。
 転生だろうが単なる思い込みだろうが、マロンもミルキーも「それぞれが」大切なのだけは変わらない事実なんだから。
 同じなら、マロンは今も俺たちといる。違うなら、虹の橋の袂で待っててくれてる。ミルキーと楽しく過ごしてる俺たちを見守りながら。
 考えるだけ無駄だってことさ。
 でも、だからこそ自分の中ではカタつけておきたい。どっちにしても、これ以上はもう気にしない! って。
 一度だけ。
 そう心に決めて、思い切って呼び掛けてみた。最初で最後の、この名前で。
「マロン」
 犬としては決して大型じゃなかったマロンより遥かに小さな身体の|白猫《ミルキー》が、声に反応して頭を上げる。
 そしてマロンのように黒くはない、透き通った青い瞳で俺を見つめて、──《《笑った》》。
  ~END~