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ⅡーⅡ 当然とは言わないで

ー/ー



アンジェリカの後を追って、フルエットは店を出た。雨冷えした空気に、身体がぶるりと震える。
「寒っ︙︙」
 我が身をかき抱いて、周囲を見まわす。
 もともと薄暗い通りは、雨雲のせいで昼間とは思えないほどに暗く沈んでいた。
 そんな暗い通りの、数メートル先。瀟洒なレースの傘をさした人影が、大通りを目指して歩いていくのが見える。
 間違いない、アンジェリカだ。
 フルエットは駆けだしていた。水たまりが跳ねてドレスを汚すのも構わず、レースの傘を差す後ろ姿を追いかける。
「どうして!」雨にかき消されないよう、声を張り上げた。「︙︙どうして来たんだい。家で何があったんだ?」
 ぴくり、と。レースの傘が震えたような気がした。
 アンジェリカが立ち止まり、その足元で音を立てて雨水が跳ねる。
「うんざりしただけよ」
 そう吐き捨て、再び歩き出した。
 品位など投げだすつもりで雨の中を駆け、フルエットはその背中を追いかける。アンジェリカのマントへ手を伸ばすが、そこで彼女が歩調を速めた。こうなると、身長差からくるコンパスの差が如実に出る。
 妹の背中が、また少し遠くなった。
 「質問を変えようか」きっと怒らせるだろうな、と思いながらフルエットは問う。「ネモフィラと何かあったのかい?」
 冷たく濡れた感触が、顔にぶつかった。
 立ち止まったアンジェリカの背中へ、すなわちマントに顔を突っ込んだのだと気づいた。慌てて後ずさるフルエットの耳に、アンジェリカの声が言う。
「お姉様のせいよ」
「……私の?」
「そうよ」雨に溶けるような声だった。「……お姉様が」
「……私が?」
「お姉様が、笑ってるから……!」
 アンジェリカが振り返る。かと思うと、フルエットは突き飛ばされていた。
 そのまま倒れそうになる。だが、そんな彼女の背中を受け止める手があった。
「大丈夫か?」
 そう言って傘を差しだしたのは、ユリオだった。
「どうして……」
「おまえらが急に出てくからだろ。傘もコートも忘れてるし」
 おい、とユリオはアンジェリカへ声をかけた。その時にはもう背を向けて歩き出していた彼女は、立ち止まることはもちろん、返事もしない。
 ユリオが顔をしかめる。
 その時フルエットの口から、「くしゅっ」と小さなくしゃみが漏れた。
「……戻るか。このままだと風邪引くよ」
「ああ……そうだね」
 うなずきながら、フルエットは言い訳ができたことに、少しほっととしていた。


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アンジェリカの後を追って、フルエットは店を出た。雨冷えした空気に、身体がぶるりと震える。
「寒っ︙︙」
 我が身をかき抱いて、周囲を見まわす。
 もともと薄暗い通りは、雨雲のせいで昼間とは思えないほどに暗く沈んでいた。
 そんな暗い通りの、数メートル先。瀟洒なレースの傘をさした人影が、大通りを目指して歩いていくのが見える。
 間違いない、アンジェリカだ。
 フルエットは駆けだしていた。水たまりが跳ねてドレスを汚すのも構わず、レースの傘を差す後ろ姿を追いかける。
「どうして!」雨にかき消されないよう、声を張り上げた。「︙︙どうして来たんだい。家で何があったんだ?」
 ぴくり、と。レースの傘が震えたような気がした。
 アンジェリカが立ち止まり、その足元で音を立てて雨水が跳ねる。
「うんざりしただけよ」
 そう吐き捨て、再び歩き出した。
 品位など投げだすつもりで雨の中を駆け、フルエットはその背中を追いかける。アンジェリカのマントへ手を伸ばすが、そこで彼女が歩調を速めた。こうなると、身長差からくるコンパスの差が如実に出る。
 妹の背中が、また少し遠くなった。
 「質問を変えようか」きっと怒らせるだろうな、と思いながらフルエットは問う。「ネモフィラと何かあったのかい?」
 冷たく濡れた感触が、顔にぶつかった。
 立ち止まったアンジェリカの背中へ、すなわちマントに顔を突っ込んだのだと気づいた。慌てて後ずさるフルエットの耳に、アンジェリカの声が言う。
「お姉様のせいよ」
「……私の?」
「そうよ」雨に溶けるような声だった。「……お姉様が」
「……私が?」
「お姉様が、笑ってるから……!」
 アンジェリカが振り返る。かと思うと、フルエットは突き飛ばされていた。
 そのまま倒れそうになる。だが、そんな彼女の背中を受け止める手があった。
「大丈夫か?」
 そう言って傘を差しだしたのは、ユリオだった。
「どうして……」
「おまえらが急に出てくからだろ。傘もコートも忘れてるし」
 おい、とユリオはアンジェリカへ声をかけた。その時にはもう背を向けて歩き出していた彼女は、立ち止まることはもちろん、返事もしない。
 ユリオが顔をしかめる。
 その時フルエットの口から、「くしゅっ」と小さなくしゃみが漏れた。
「……戻るか。このままだと風邪引くよ」
「ああ……そうだね」
 うなずきながら、フルエットは言い訳ができたことに、少しほっととしていた。