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41話 翼のない俺たちに幸せの粉を

ー/ー



 ルルフィアとエルシオの睨み合いはしばらく続き、互いに埒が明ないと悟ったのか、「フンッ」と同時に顔を背けてからは、2人は部屋の対角の隅で座っている。


「なぁ、いい加減仲直りしたらどうだ。これから一緒にやっていくんだろ?」


 返事はない。俺はまず、ルルフィアに声をかけようと近づく。




ーーーーーー寝てんのかよ……




 ルルフィアは疲れていたのか就寝中だ。蹲りながら寝ている。よくそんな体制で寝られるものだ。
 俺は次に、エルシオの様子を確認する。




ーーーーーーまたこの顔かよ……




 寝てはいない。だが、どこか遠いところを見つめ、下唇を突き出している。あの顔だ。「こんがらがっちゃ」だ。何か考え事をしているのだろう。


「また考え事か?」


「はい。あと、仲直りもなにも、別に喧嘩していたわけじゃないのです」




ーーーーーー聞こえてたのかよ……




「いや、喧嘩だろ。それより、次は何を悩んでるんだ?」


 正直、何に悩んでいるかは検討がついていた。俺も、同じ考えを巡らせている気がする。


 今回のセナさんの一件で、俺は今の天界の「幸せの粉」の使い方について、この目で見て実感した。
 エフィルロが面接をしなければセナさんは地獄送りだったわけで、それをシルエトも良しとはしていなかった。
 そして、天使はドーピング剤のように粉を使い力を得ている。自分たちの思い通りになるように「幸せの粉」を使用している。


 でも、それを辞めさせるだの、粉を取り返すだのなんて、俺たちにできることではないと思っていた。
 何かしようとしてところで、天界のトップに刃向かうなんて無謀なことで、不可能だと考えていた。


 だが、シルエトは動いた。天界騎士団であるにもかかわらず、その団長と対峙した。帰る場所がなくなるとわかっていながら、自分の正義を貫いた。
 
「私は……この天界を変えたい。元に戻したいのです。人間を生まれ変わらせて、幸せの粉をかける。至極当たり前だった天使の仕事を、この天界に取り戻したいのです」


 対角で寝ているルルフィアを見つめながら、エルシオはそう言った。淡々と言っているように見えて、どこか言葉の節々に重みを感じる。
 ルルフィアは「粉持ち」であり、エルシオの言う「至極当たり前だった天使の仕事」を奪われた天使だ。
 エルシオがルルフィアを見つめるその瞳からは、さっきまで喧嘩をしていたとは思えないような優しさが滲み出ていた。


「俺も同じだ。天界を変えたい。できることがあるなら、なんでもしたい。もちろん、生まれ変わるのが最優先で、ポイントは貯める。でも、このままここを離れるのは違う気がする」
 
 エルシオは俺の発言を聞いて、少し微笑んだ。


「楓くんの言うとおり、誰が悪いとか誰を恨むとかを考えるのはやめたのです。でも、自分の中で何が正しくて、何が正しくないかは考えていたい。そして、私の思う正しさを、シルエトのように貫きたい」


 何が正しくて何が正しくないのか。そんなことは、人間の俺からしても判断できている。エルシオと同じだ。今の天界のやり方は、たとえどんな理由があろうと間違っている。
 死神のことや、天界の幸せのことを考えても、人間が不幸になっていい理由にはならない。罪のない人間が、地獄に落ちる理由にはならないのだ。


「面白そうな話ね。私も混ぜてよ」


「フィロ! いつから?」


「ん〜、楓がエルシオのこんがらがっちゃに気づいたくらいからかしら。ちなみにシルエトもいるわよ」


「ごめんかえちゃん! 真剣な話をしていたから、声をかけづらくて……」


 結構序盤だ。シルエトも聞いていたとは。
 シルエトの表情はとても明るい。きっと、想いを伝えられたのだろう。
 あと、「こんがらがっちゃ」は定着している言葉なのか。


「2人の気持ちはわかる。私も同意見よ。今回、もう天界に完全に私たちのことはバレてしまったし、今更コソコソと仕事をしても、見つかるのは時間の問題な気がする。ミカエルの宣戦布告も受けているしね」


 俺たちは黙ってフィロの話を聞き頷く。
 俺たちはもう1つのチームだ。そして、このチームの決定権はフィロにある。
 まだ考えがまとまっていないのか、フィロは宙を見上げながら話し始める。


「まあだから、急にコハクリアに殴り込みってわけにはいかないし、もちろん、楓のポイントを貯めるのが最優先ではあるけど……」


 フィロは、何かを決心したかのように俺たちへ目を向けた。
 やはりフィロは楽観的だ。こんな話をしているというのに、微笑みを俺たちに見せている。とても、優しい笑顔だ。
 何か、楽しいことを思いついた子供のような明るい表情をしながら、フィロは口を開く。




「天界、変えちゃいましょうか」
 


 「この棚の位置変えちゃいましょうか」くらいのテンションでそう言ったフィロだが、それでいい。俺は、そんなフィロが好きだ。
 俺たちは、さっきよりも力強く頷いた。


「じゃあ、楓に何か意気込みをお願いしようかしら」


「そうですね、人間のための仕事を取り戻すわけですから、人間の楓くんにお願いしましょう」


「それがいいですね! 僕もかえちゃんのかっこいいとこみたいな〜」


 無茶振りだ。でも、悪い気分ではない。いや、シルエトのはなんかムカつく。
 俺はため息を吐きつつも、自分の口角が緩むのを感じる。目の前の天使たちの表情を見ていると、自然とそうなってしまう。
 とても過酷で厳しい道を切り開こうとしているはずなのに、どこか皆楽しそうな表情をしている。
 


ーーーーーーそうだよな。みんな同じ気持ちなんだ。
 


 ここにきてから、どのくらいの時間が経っただろうか。
 それぞれの天使や人間の想いを知って、聞いて、感じてきた。
 幸せとはなんなのか、なんて難しいことを考えさせられもした。
 友達もできた。仲間と言ってもいいかもしれない。同じ志を持った俺たちは、今から天界を変えようとしている。
 
 同じ目的を持って、みんなで行動するなんて、生きていた時にはできなかった青春で。
 たとえ難しいとしても、不可能だと言われても、俺たちにならどうにかできる気がした。
 
 天使のようには上手くできないかもしれない。
 俺は魔法も使えないし、もちろん魔力もない。知らないこともまだまだ多いし、翼もないから飛べやしない。
 でもそれは、俺が諦めていい理由にはならない。セナさんのために動いたシルエトのように、俺も、人間のために行動しなければならない。


 俺は一度咳払いをして、天使3人の目を順に見つめた。一応、奥で寝ているルルフィアも。


 魔法が使えなくたっていい。飛べなくたっていい。
 この天界の現状に喧嘩を売れる人間は、俺しかいないのだから。
 人間が「幸せの粉」をかけてもらえる世界に、全員が地獄に落ちない世界に、俺は戻したい。




「返してもらうぜ。翼のない俺たちに、幸せの粉を!!」




「おー!!」


 奥で寝ていたルルフィアが、拳を掲げて声を上げた。
 そしてすぐに「むにゃむにゃ」と言いながらまた蹲る。


 本当に空気が読めない天使だ。
 それを見て噴き出したシルエトとフィロの笑い声を聞きながら、俺とエルシオも目を合わせ、そして笑った。



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 ルルフィアとエルシオの睨み合いはしばらく続き、互いに埒が明ないと悟ったのか、「フンッ」と同時に顔を背けてからは、2人は部屋の対角の隅で座っている。
「なぁ、いい加減仲直りしたらどうだ。これから一緒にやっていくんだろ?」
 返事はない。俺はまず、ルルフィアに声をかけようと近づく。
ーーーーーー寝てんのかよ……
 ルルフィアは疲れていたのか就寝中だ。蹲りながら寝ている。よくそんな体制で寝られるものだ。
 俺は次に、エルシオの様子を確認する。
ーーーーーーまたこの顔かよ……
 寝てはいない。だが、どこか遠いところを見つめ、下唇を突き出している。あの顔だ。「こんがらがっちゃ」だ。何か考え事をしているのだろう。
「また考え事か?」
「はい。あと、仲直りもなにも、別に喧嘩していたわけじゃないのです」
ーーーーーー聞こえてたのかよ……
「いや、喧嘩だろ。それより、次は何を悩んでるんだ?」
 正直、何に悩んでいるかは検討がついていた。俺も、同じ考えを巡らせている気がする。
 今回のセナさんの一件で、俺は今の天界の「幸せの粉」の使い方について、この目で見て実感した。
 エフィルロが面接をしなければセナさんは地獄送りだったわけで、それをシルエトも良しとはしていなかった。
 そして、天使はドーピング剤のように粉を使い力を得ている。自分たちの思い通りになるように「幸せの粉」を使用している。
 でも、それを辞めさせるだの、粉を取り返すだのなんて、俺たちにできることではないと思っていた。
 何かしようとしてところで、天界のトップに刃向かうなんて無謀なことで、不可能だと考えていた。
 だが、シルエトは動いた。天界騎士団であるにもかかわらず、その団長と対峙した。帰る場所がなくなるとわかっていながら、自分の正義を貫いた。
「私は……この天界を変えたい。元に戻したいのです。人間を生まれ変わらせて、幸せの粉をかける。至極当たり前だった天使の仕事を、この天界に取り戻したいのです」
 対角で寝ているルルフィアを見つめながら、エルシオはそう言った。淡々と言っているように見えて、どこか言葉の節々に重みを感じる。
 ルルフィアは「粉持ち」であり、エルシオの言う「至極当たり前だった天使の仕事」を奪われた天使だ。
 エルシオがルルフィアを見つめるその瞳からは、さっきまで喧嘩をしていたとは思えないような優しさが滲み出ていた。
「俺も同じだ。天界を変えたい。できることがあるなら、なんでもしたい。もちろん、生まれ変わるのが最優先で、ポイントは貯める。でも、このままここを離れるのは違う気がする」
 エルシオは俺の発言を聞いて、少し微笑んだ。
「楓くんの言うとおり、誰が悪いとか誰を恨むとかを考えるのはやめたのです。でも、自分の中で何が正しくて、何が正しくないかは考えていたい。そして、私の思う正しさを、シルエトのように貫きたい」
 何が正しくて何が正しくないのか。そんなことは、人間の俺からしても判断できている。エルシオと同じだ。今の天界のやり方は、たとえどんな理由があろうと間違っている。
 死神のことや、天界の幸せのことを考えても、人間が不幸になっていい理由にはならない。罪のない人間が、地獄に落ちる理由にはならないのだ。
「面白そうな話ね。私も混ぜてよ」
「フィロ! いつから?」
「ん〜、楓がエルシオのこんがらがっちゃに気づいたくらいからかしら。ちなみにシルエトもいるわよ」
「ごめんかえちゃん! 真剣な話をしていたから、声をかけづらくて……」
 結構序盤だ。シルエトも聞いていたとは。
 シルエトの表情はとても明るい。きっと、想いを伝えられたのだろう。
 あと、「こんがらがっちゃ」は定着している言葉なのか。
「2人の気持ちはわかる。私も同意見よ。今回、もう天界に完全に私たちのことはバレてしまったし、今更コソコソと仕事をしても、見つかるのは時間の問題な気がする。ミカエルの宣戦布告も受けているしね」
 俺たちは黙ってフィロの話を聞き頷く。
 俺たちはもう1つのチームだ。そして、このチームの決定権はフィロにある。
 まだ考えがまとまっていないのか、フィロは宙を見上げながら話し始める。
「まあだから、急にコハクリアに殴り込みってわけにはいかないし、もちろん、楓のポイントを貯めるのが最優先ではあるけど……」
 フィロは、何かを決心したかのように俺たちへ目を向けた。
 やはりフィロは楽観的だ。こんな話をしているというのに、微笑みを俺たちに見せている。とても、優しい笑顔だ。
 何か、楽しいことを思いついた子供のような明るい表情をしながら、フィロは口を開く。
「天界、変えちゃいましょうか」
 「この棚の位置変えちゃいましょうか」くらいのテンションでそう言ったフィロだが、それでいい。俺は、そんなフィロが好きだ。
 俺たちは、さっきよりも力強く頷いた。
「じゃあ、楓に何か意気込みをお願いしようかしら」
「そうですね、人間のための仕事を取り戻すわけですから、人間の楓くんにお願いしましょう」
「それがいいですね! 僕もかえちゃんのかっこいいとこみたいな〜」
 無茶振りだ。でも、悪い気分ではない。いや、シルエトのはなんかムカつく。
 俺はため息を吐きつつも、自分の口角が緩むのを感じる。目の前の天使たちの表情を見ていると、自然とそうなってしまう。
 とても過酷で厳しい道を切り開こうとしているはずなのに、どこか皆楽しそうな表情をしている。
ーーーーーーそうだよな。みんな同じ気持ちなんだ。
 ここにきてから、どのくらいの時間が経っただろうか。
 それぞれの天使や人間の想いを知って、聞いて、感じてきた。
 幸せとはなんなのか、なんて難しいことを考えさせられもした。
 友達もできた。仲間と言ってもいいかもしれない。同じ志を持った俺たちは、今から天界を変えようとしている。
 同じ目的を持って、みんなで行動するなんて、生きていた時にはできなかった青春で。
 たとえ難しいとしても、不可能だと言われても、俺たちにならどうにかできる気がした。
 天使のようには上手くできないかもしれない。
 俺は魔法も使えないし、もちろん魔力もない。知らないこともまだまだ多いし、翼もないから飛べやしない。
 でもそれは、俺が諦めていい理由にはならない。セナさんのために動いたシルエトのように、俺も、人間のために行動しなければならない。
 俺は一度咳払いをして、天使3人の目を順に見つめた。一応、奥で寝ているルルフィアも。
 魔法が使えなくたっていい。飛べなくたっていい。
 この天界の現状に喧嘩を売れる人間は、俺しかいないのだから。
 人間が「幸せの粉」をかけてもらえる世界に、全員が地獄に落ちない世界に、俺は戻したい。
「返してもらうぜ。翼のない俺たちに、幸せの粉を!!」
「おー!!」
 奥で寝ていたルルフィアが、拳を掲げて声を上げた。
 そしてすぐに「むにゃむにゃ」と言いながらまた蹲る。
 本当に空気が読めない天使だ。
 それを見て噴き出したシルエトとフィロの笑い声を聞きながら、俺とエルシオも目を合わせ、そして笑った。