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40話 これは僕の初恋のお話

ー/ー




 僕は、セナより一足先に星々を見ていた。
 久しぶりに見た気がする。こんなにも綺麗だっただろうか。
 それとも、セナにこの星空を見せられることが嬉しくて、舞い上がっている僕の心が、そう見せてくれているのだろうか。


「お待たせ。もう面接は済んでるから。、もう少ししたらセナちゃんは生まれ変わるわ。ミカエルたちのこともあるし、あまり長居するのは良くないから。それまでは……まあお好きにどうぞ」


 エフィルロさんがゲートから現れた。目を瞑るセナと手を繋いでいる。まだ、目を開けてはいないようだ。
 既に面接を済ませているとは。ベテランの「粉持ち」は仕事が早い。
 エフィルロさんの言うとおり、いつミカエルたちが現れるかわからないこの状況だ。あまり長居はできない。僕だけならともかく、セナを巻き込むわけにはいかない。


「エフィルロさん、セナは何に……」


「もちろん人間よ。粉もかけた。来世は体に不自由なく暮らせるはずよ」


「本当に、ありがとうございます」


 エフィルロさんは笑みを僕に向け、ゲートへ入っていった。静かな草原の上に、煌めく星空の下に、僕とセナは2人で立っている。
 
「お母さん泣いてた。でもよかった。私は、これでよかったの」


「そうだね。それがセナの願いだ。お母さんも、それをわかっているよ」


 何が正解かはわからない。お母さんにとっての幸せは、セナの死ではないはずだ。
 それでも、セナの願いは、お母さんに辛い想いをさせないことだ。
 たとえお母さんが、セナの死で辛い想いをしたとしても、それを抱えて生きていかなくてはならなくても、もう苦しそうな、辛そうなセナを見ることはない。
 
 それぞれの幸せや願いは、それぞれの幸せや願いの邪魔をする。それがこの世界の秩序であり、理だ。


「シルエト。ありがとう。もう目を開けてもいい? 面接官の方には、もうちょっと待ってって言われてたの」


 粋な計らいだ。セナが初めて星を見た時の顔を、僕が一番に見られるみたいだ。


「ゆっくりね、眩しいだろうから」


 この星空は、セナが生きていた頃に目が見えたとしても、絶対に見られないものだ。そんな景色を、最後に見せられる。そして、夢を叶えられる。


 セナはゆっくりと目を開いた。眩しさに耐えられず一度閉じた瞼を、慣れを待ちきれないのか、すぐにもう一度開いた。
 だが、初めにセナが目を向けたのは、星ではなく僕だった。


「い、いや、僕じゃなくて、星を! ほら、こんなにも……」


 セナは少し顔を赤くして、僕の目を見つめては逸らしてを繰り返す。
 よかった。ずっと目を見つめられていたら、僕が逸らしてしまうだろう。


 セナは僕と目を合わした。今度は逸らすことなく、じっと、僕を見つめる。
 やはり顔が赤い。でもそれを指摘はできない。なぜなら、僕の頬にも熱さを感じるからだ。だからきっと、僕も赤くなっている。


「なんだ……かっこいいじゃんか」


 照れているのか、そう小声で言ってセナは僕から目を逸らした。そして、ついに空を見上げた。
 「照れているの?」なんて言葉を投げられるほど、僕には余裕はない。照れているのは、僕も同じだ。


「綺麗すぎるよ……」


 星空を見上げるセナの瞳は潤んでいる。「それでは滲んで見えないだろう」と、喉から出かかった声を飲み込んだ。今は、この横顔を見ていたい。星に照らされるセナの表情はとても幸せそうで、今まで病室で見たどの表情よりも美しかった。
 夢を叶えたセナの表情を、この目に焼き付けたい。忘れないように、ずっと、覚えていられるように。


「ねえ、シルエト?」


「……ん?」


 その美しい横顔に見える口から、僕の名前が呼ばれたことに気づくのに少し時間がかかった。それほど、僕は彼女に見惚れていた。


「本当に……ありがとう。私の夢を、2つも叶えてくれて」


「いいんだよ。僕は天使だ」


「でも、ただの天使じゃないでしょ?」


 セナは、からかうような目を僕へ向けた。


「そうだね。僕は優しい天使だよ」


「自分で言うもんじゃないでしょうに」


「セナが言わせたんだろ!?」


 セナは笑った。静かなこの星域では、その小さな笑い声すら僕の耳に届く。僕も笑っている。幸せだ。こんなにも、幸せだと感じられるなんて。
 セナの体が光に包まれていく。そろそろ時間だ。セナは人間として生まれ変わる。全ての記憶はなくなる。もちろん、僕のことも。


「そろそろみたいだね……。あ〜! 本当に幸せな人生だった!!」


 セナは、伸びをするように両手を広げ、全てをやり切った顔を星空へと向けている。
 セナは確かにやり切った。限りある人生を、できる限り幸せに生きたと思う。それは僕を含め、誰かのおかげではない。セナが、自身で掴み取った幸せだ。


 足元から過ごしずつ光に包まれていくセナを見ながら、僕の頭ではかえちゃんの言葉が駆け巡る。ここに来る前に、耳打ちされた言葉だ。




 『ちゃんと気持ち、伝えろよ!』


 
 そう言って、かえちゃんは僕の背中を叩いた。背中を押してくれたのだ。
 告白。それをする日が来るなんて、思ってもみなかった。
 あの頃の僕からは考えられない。人間と友達になって、恋をして、幸せにしたいと願って。
 ずっと一緒にいたいと、本気で思えた人だった。


「……セナ」


 僕の呼びかけを聞いて、セナはこちらへと顔を向けた。自分の心臓の音が聞こえる。ドクドクと、いつもよりも早いスピードで鼓動が響いている。緊張している。
 自分の気持ちを伝えるというのは、こんなにも難しいものなのか。


 もうすぐ、セナは生まれ変わる。
 そして、前世の記憶も消える。
 
 やっぱりやめておこうか。
 伝えても忘れてしまうなら、伝えない方がいいかもしれない。
 もし、気持ち悪いと思われたら。最後に悪い思い出ができてしまう。
 もう2度と会えないのであれば。


 
  『会えなくなったら、もう何も伝えられないんですよ!? 』


 
 エルシオさんにそう言われたのを思い出した。 
 伝えなければいけないのだろう。僕が伝えたいのだから。


「もしも、僕がセナと同じ人間だったら、きっと、今と同じように友達になっていたと思う」


 なんだそれは。勢いで話してしまった。


「お! 今日は人間の話か〜。続きは?」


 セナは物欲しそうな目で僕を見つめる。いつもの僕の面白い話だと思っているのだろうか。
 まあ、それならそれで話しやすいかもしれない。
 想いを全てセナに伝える。僕は、僕のしたいことをすると決めたんだ。


「それで、毎日セナと会って、話して。そして、一生懸命勉強して、セナの病気を僕が治すんだ! それで……たくさん遊んで、いろんなところに行って、それで……」


「……それで?」


 足りないのは覚悟だけ。そう、セナは教えてくれた。
 深呼吸は必要ない。もう、言葉にすると決めたから。覚悟は、できている。


「それで……僕はまた、セナに恋をする」


 その光は、待つことを知らない。
 もうすぐ、セナは消えてしまう。
 僕は、喉に突っかかる言葉を、なかなか出てこないその言葉を、無理やり引き出す。
 飛び出したのは言葉だけではない。今までの想いが溢れる。
 涙は流さない。セナとの最後の思い出に、涙はいらない。




「好きだ。セナ」




 光は遂に、セナの全身を包んだ。その中に見えた彼女の表情は、今までに見たことがない表情で、笑っているのか、泣いているのか。嬉しいのか、悲しいのかわからなかった。
 
 星域の星々の煌めきに照らされ、神々しい光を身に纏ったセナは、僕の目を見つめて口を開いた。


「シルエト、私の夢は叶うよって言ってくれたでしょ?」


 覚えている。僕の無責任な発言だ。夢の話をされた時、僕は咄嗟にそう答えていた。




「私の夢、全部叶ってたみたい!」


 
 そう言ったセナは微笑んでいた。さっきまでの表情ではない。これは、病院で幾度となく見てきた笑顔だ。
 僕はあの日、この笑顔を見て初めて、人間へ幸せを与えることの喜びを知った。
 
 でも、今日の笑顔は今までと違いとても無防備で、暖かい。
 そして、今までのどの笑顔よりも、眩しいほどの幸福に満ちた笑顔だった。


 セナの夢は3つだ。
 友達とお話しすること。
 綺麗なお星様を見ること。


 そしてもう1つ。
 
 恥ずかしそうに、口に出すのを躊躇いながらも、あの時、僕に教えてくれた夢。
 セナが、1番叶えたかった夢。




ーーーーーーあぁそうか……君も。




 あの病室で、まだ小さかったセナとの会話が記憶に蘇る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、叶えたいことって?」




「私の好きなお話でね……えーと……その……」




「言いたくないことなら、無理には……」




「違うの! そうじゃなくて……恥ずかしいっていうか……」




「恥ずかしい?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そしてセナは顔を赤くしながら、1番の夢について話した。
 




 『好きな人と……両思いになりたい』




 
 僕の返事を待つことなく、セナはその場から消えていった。
 セナのいた場所へ目を向ける。もちろん、その場所には何も残ってはいない。残っているのは、セナが見た星空と、セナが立っていた草原。
 もうセナには会えない。でも、セナが残してくれたものがある。


 あの横顔も、あの笑顔も、僕の記憶に残っている。これからも、ずっとだ。
 そして、セナの気持ちも、僕の心に残っている。絶対に忘れない。忘れられない想いだ。




「やっぱり僕は……幸せ者だ」




 僕は1人で星空を見上げた。
 綺麗だ。とても綺麗だ。でも。






ーーーーーーセナ。君の方がずっと綺麗だ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 これは僕の初恋のお話。
 セナの夢を叶えられた、天使と人間の両思い。


 この初恋は僕の生き方を変えてくれた。


 この初恋のおかげで、僕は優しい天使になれた。


 この初恋が魅せてくれたものは、今まで見てきた何よりも美しく、そして綺麗だった。


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 僕は、セナより一足先に星々を見ていた。
 久しぶりに見た気がする。こんなにも綺麗だっただろうか。
 それとも、セナにこの星空を見せられることが嬉しくて、舞い上がっている僕の心が、そう見せてくれているのだろうか。
「お待たせ。もう面接は済んでるから。、もう少ししたらセナちゃんは生まれ変わるわ。ミカエルたちのこともあるし、あまり長居するのは良くないから。それまでは……まあお好きにどうぞ」
 エフィルロさんがゲートから現れた。目を瞑るセナと手を繋いでいる。まだ、目を開けてはいないようだ。
 既に面接を済ませているとは。ベテランの「粉持ち」は仕事が早い。
 エフィルロさんの言うとおり、いつミカエルたちが現れるかわからないこの状況だ。あまり長居はできない。僕だけならともかく、セナを巻き込むわけにはいかない。
「エフィルロさん、セナは何に……」
「もちろん人間よ。粉もかけた。来世は体に不自由なく暮らせるはずよ」
「本当に、ありがとうございます」
 エフィルロさんは笑みを僕に向け、ゲートへ入っていった。静かな草原の上に、煌めく星空の下に、僕とセナは2人で立っている。
「お母さん泣いてた。でもよかった。私は、これでよかったの」
「そうだね。それがセナの願いだ。お母さんも、それをわかっているよ」
 何が正解かはわからない。お母さんにとっての幸せは、セナの死ではないはずだ。
 それでも、セナの願いは、お母さんに辛い想いをさせないことだ。
 たとえお母さんが、セナの死で辛い想いをしたとしても、それを抱えて生きていかなくてはならなくても、もう苦しそうな、辛そうなセナを見ることはない。
 それぞれの幸せや願いは、それぞれの幸せや願いの邪魔をする。それがこの世界の秩序であり、理だ。
「シルエト。ありがとう。もう目を開けてもいい? 面接官の方には、もうちょっと待ってって言われてたの」
 粋な計らいだ。セナが初めて星を見た時の顔を、僕が一番に見られるみたいだ。
「ゆっくりね、眩しいだろうから」
 この星空は、セナが生きていた頃に目が見えたとしても、絶対に見られないものだ。そんな景色を、最後に見せられる。そして、夢を叶えられる。
 セナはゆっくりと目を開いた。眩しさに耐えられず一度閉じた瞼を、慣れを待ちきれないのか、すぐにもう一度開いた。
 だが、初めにセナが目を向けたのは、星ではなく僕だった。
「い、いや、僕じゃなくて、星を! ほら、こんなにも……」
 セナは少し顔を赤くして、僕の目を見つめては逸らしてを繰り返す。
 よかった。ずっと目を見つめられていたら、僕が逸らしてしまうだろう。
 セナは僕と目を合わした。今度は逸らすことなく、じっと、僕を見つめる。
 やはり顔が赤い。でもそれを指摘はできない。なぜなら、僕の頬にも熱さを感じるからだ。だからきっと、僕も赤くなっている。
「なんだ……かっこいいじゃんか」
 照れているのか、そう小声で言ってセナは僕から目を逸らした。そして、ついに空を見上げた。
 「照れているの?」なんて言葉を投げられるほど、僕には余裕はない。照れているのは、僕も同じだ。
「綺麗すぎるよ……」
 星空を見上げるセナの瞳は潤んでいる。「それでは滲んで見えないだろう」と、喉から出かかった声を飲み込んだ。今は、この横顔を見ていたい。星に照らされるセナの表情はとても幸せそうで、今まで病室で見たどの表情よりも美しかった。
 夢を叶えたセナの表情を、この目に焼き付けたい。忘れないように、ずっと、覚えていられるように。
「ねえ、シルエト?」
「……ん?」
 その美しい横顔に見える口から、僕の名前が呼ばれたことに気づくのに少し時間がかかった。それほど、僕は彼女に見惚れていた。
「本当に……ありがとう。私の夢を、2つも叶えてくれて」
「いいんだよ。僕は天使だ」
「でも、ただの天使じゃないでしょ?」
 セナは、からかうような目を僕へ向けた。
「そうだね。僕は優しい天使だよ」
「自分で言うもんじゃないでしょうに」
「セナが言わせたんだろ!?」
 セナは笑った。静かなこの星域では、その小さな笑い声すら僕の耳に届く。僕も笑っている。幸せだ。こんなにも、幸せだと感じられるなんて。
 セナの体が光に包まれていく。そろそろ時間だ。セナは人間として生まれ変わる。全ての記憶はなくなる。もちろん、僕のことも。
「そろそろみたいだね……。あ〜! 本当に幸せな人生だった!!」
 セナは、伸びをするように両手を広げ、全てをやり切った顔を星空へと向けている。
 セナは確かにやり切った。限りある人生を、できる限り幸せに生きたと思う。それは僕を含め、誰かのおかげではない。セナが、自身で掴み取った幸せだ。
 足元から過ごしずつ光に包まれていくセナを見ながら、僕の頭ではかえちゃんの言葉が駆け巡る。ここに来る前に、耳打ちされた言葉だ。
 『ちゃんと気持ち、伝えろよ!』
 そう言って、かえちゃんは僕の背中を叩いた。背中を押してくれたのだ。
 告白。それをする日が来るなんて、思ってもみなかった。
 あの頃の僕からは考えられない。人間と友達になって、恋をして、幸せにしたいと願って。
 ずっと一緒にいたいと、本気で思えた人だった。
「……セナ」
 僕の呼びかけを聞いて、セナはこちらへと顔を向けた。自分の心臓の音が聞こえる。ドクドクと、いつもよりも早いスピードで鼓動が響いている。緊張している。
 自分の気持ちを伝えるというのは、こんなにも難しいものなのか。
 もうすぐ、セナは生まれ変わる。
 そして、前世の記憶も消える。
 やっぱりやめておこうか。
 伝えても忘れてしまうなら、伝えない方がいいかもしれない。
 もし、気持ち悪いと思われたら。最後に悪い思い出ができてしまう。
 もう2度と会えないのであれば。
  『会えなくなったら、もう何も伝えられないんですよ!? 』
 エルシオさんにそう言われたのを思い出した。 
 伝えなければいけないのだろう。僕が伝えたいのだから。
「もしも、僕がセナと同じ人間だったら、きっと、今と同じように友達になっていたと思う」
 なんだそれは。勢いで話してしまった。
「お! 今日は人間の話か〜。続きは?」
 セナは物欲しそうな目で僕を見つめる。いつもの僕の面白い話だと思っているのだろうか。
 まあ、それならそれで話しやすいかもしれない。
 想いを全てセナに伝える。僕は、僕のしたいことをすると決めたんだ。
「それで、毎日セナと会って、話して。そして、一生懸命勉強して、セナの病気を僕が治すんだ! それで……たくさん遊んで、いろんなところに行って、それで……」
「……それで?」
 足りないのは覚悟だけ。そう、セナは教えてくれた。
 深呼吸は必要ない。もう、言葉にすると決めたから。覚悟は、できている。
「それで……僕はまた、セナに恋をする」
 その光は、待つことを知らない。
 もうすぐ、セナは消えてしまう。
 僕は、喉に突っかかる言葉を、なかなか出てこないその言葉を、無理やり引き出す。
 飛び出したのは言葉だけではない。今までの想いが溢れる。
 涙は流さない。セナとの最後の思い出に、涙はいらない。
「好きだ。セナ」
 光は遂に、セナの全身を包んだ。その中に見えた彼女の表情は、今までに見たことがない表情で、笑っているのか、泣いているのか。嬉しいのか、悲しいのかわからなかった。
 星域の星々の煌めきに照らされ、神々しい光を身に纏ったセナは、僕の目を見つめて口を開いた。
「シルエト、私の夢は叶うよって言ってくれたでしょ?」
 覚えている。僕の無責任な発言だ。夢の話をされた時、僕は咄嗟にそう答えていた。
「私の夢、全部叶ってたみたい!」
 そう言ったセナは微笑んでいた。さっきまでの表情ではない。これは、病院で幾度となく見てきた笑顔だ。
 僕はあの日、この笑顔を見て初めて、人間へ幸せを与えることの喜びを知った。
 でも、今日の笑顔は今までと違いとても無防備で、暖かい。
 そして、今までのどの笑顔よりも、眩しいほどの幸福に満ちた笑顔だった。
 セナの夢は3つだ。
 友達とお話しすること。
 綺麗なお星様を見ること。
 そしてもう1つ。
 恥ずかしそうに、口に出すのを躊躇いながらも、あの時、僕に教えてくれた夢。
 セナが、1番叶えたかった夢。
ーーーーーーあぁそうか……君も。
 あの病室で、まだ小さかったセナとの会話が記憶に蘇る。
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「それで、叶えたいことって?」
「私の好きなお話でね……えーと……その……」
「言いたくないことなら、無理には……」
「違うの! そうじゃなくて……恥ずかしいっていうか……」
「恥ずかしい?」
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 そしてセナは顔を赤くしながら、1番の夢について話した。
 『好きな人と……両思いになりたい』
 僕の返事を待つことなく、セナはその場から消えていった。
 セナのいた場所へ目を向ける。もちろん、その場所には何も残ってはいない。残っているのは、セナが見た星空と、セナが立っていた草原。
 もうセナには会えない。でも、セナが残してくれたものがある。
 あの横顔も、あの笑顔も、僕の記憶に残っている。これからも、ずっとだ。
 そして、セナの気持ちも、僕の心に残っている。絶対に忘れない。忘れられない想いだ。
「やっぱり僕は……幸せ者だ」
 僕は1人で星空を見上げた。
 綺麗だ。とても綺麗だ。でも。
ーーーーーーセナ。君の方がずっと綺麗だ。
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 これは僕の初恋のお話。
 セナの夢を叶えられた、天使と人間の両思い。
 この初恋は僕の生き方を変えてくれた。
 この初恋のおかげで、僕は優しい天使になれた。
 この初恋が魅せてくれたものは、今まで見てきた何よりも美しく、そして綺麗だった。