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43頭目 甥っ子にプレゼント

ー/ー



『ピンポーン!』
 昼食前、居間で寛いでいたところへインターホンのベルが鳴り響く。おそらく、例のものが届いたか。
「これは神の賜物、きっと汝は救われるでことでしょう」
 ……と思っていたが、何だ小暮か。これはとんだ肩透かし。
「何だか上の空ですねぇ……? 神の賜りを要らぬと言うのですか?」
 何だか、小暮は両手をプルプルと震わせている。みかん箱程度の配達物だが、見かけによらず重いのか?
「……あ、すまない」
 そうか、今の小暮は配達員なのか。彼女は伝票を手渡してきたが、俺には修道女の面影が今もちらつく。
「これは救いの啓示。信じなさい、信じなさい……」
 サイン済み伝票を受け取ると、小暮は(ほうき)に跨がって空へ飛び立った。元修道女とは思えない転身ぶりが、彼女のフットワークの軽さを物語る。
 おそらく、箒に錬師からもらった賢者の石を仕込んでいるんだろうな。これで、悪魔と契りを交わした小暮は名実ともに魔女となったわけだ。
「おいで、ダーリン!」
 だが、一つだけ言わせてほしい。正直、魔女の相棒にハエというのはビジュアル的にどうなんだ?
 二人が仲睦まじいおしどり夫婦なのは分かるが、それでも魔女の肩にハエが留まっているのは考えもの。せめて、依代はその辺の野良猫とかもっとこう……何があっただろう。
 とは言え、当人たちが満足しているならそれでもいいか。幸せならそれでOKだ。
 そんなことより、さっきから箱の重量がずしりと俺の腕にのし掛かっている。読者の諸君、そろそろこいつが何だか気になってきたんじゃないか……?

ーー

「おじさん、それなぁに?」
 牛郎は、不思議そうにこの箱を見つめている。まぁ、これだけ大きな箱なら中身が気になるのは当然のこと。
『ドンッ!』
 俺は箱の重さに耐えられず、少々置き方が乱暴になってしまった。これだけの重さだ、両腕に溜まった乳酸は半端じゃないだろうな。
「牛郎、開けていいぞ」
 牛郎の眼差しが余りにもまっすぐなものだから、俺は箱の開封を促した。箱って、開ける前の方が楽しいのは何でだろうな?
「何だ……木の箱?」
 牛郎が首を傾げるのは無理もない。何せ、それは桐の箱に梱包されているのだから。
 それに加えて『(有)下都賀商店謹製』という毛筆書きが、中身の格式高さを象徴している。ここまで来ると、もはや高級フルーツでも入っているのかと勘繰りたくなるだろうな。
「え、何だこれ……?」
 牛郎の言葉が詰まる。おそらく、彼には海苔を巻かれた何かが見えている。
 だが、それはただの海苔じゃない。当然ながら、牛郎はまだ全貌を掴めずにいる。
「……ふんっ!」
 牛郎は気張ってそれを持ち上げた。すると、その全貌は突如として暴露される。
「これってもしかして……大太法師(だいたらぼっち)のおにぎり!?」
 箱の中から出てきたのは、大玉スイカ並に巨大なおにぎり。そのボリュームに、牛郎は思わず圧倒されている。
 このおにぎりは元々、米問屋の店主が米の在庫処分に困って売り出したのがきっかけと言われている。ところが、その大きさとネーミングが話題性を呼び、今やこのおにぎりを販売することが本業になっているそうだ。
「このおにぎり、もんのすごいプレッシャーを感じる……!」
 そして、価格は大太法師の名に恥じぬ3万円!! 店主が敢えて売れないように設定した価格だが、却って付加価値を強化してしまったのは皮肉と言わざるを得ない。
「おにぎりが言っている……僕に食べろと!」
 その声に呼応し、牛郎はおにぎりに思い切り齧り付いた。さて、そのお味は……?
「お母さんですか……?」
 一口目にして、牛郎の目頭が熱くなっている。甥っ子よ、巨大おにぎりは涙が出るほど美味いのか?
 真相を確かめるべく、俺も大太法師のおにぎりを口にした。すると……。
「母さん……」
 見かけに反し、おにぎりは心温まる慈悲深い味わい。一言で言うと、まさにお袋の味。
 俺の脳裏を、母さんの記憶が走馬灯のように巡る。いつも優しかった母さん……すまない、危うく母さんを故人にしてしまうところだった。
「ワンワンっ!」
 どこから匂いを嗅ぎつけてきたのか、ポコ太郎まで乱入してきた。目的はもちろん、大太法師のおにぎりだ。
「……ワォーン!!」
 おにぎりをひと齧りしたポコ太郎は、思わず遠吠えをしてしまっている。この懐かしさ、お前には分かるよなぁポコ太郎?
 見た目の巨大さと慈悲深いお袋の味。果たして、俺達は母なる大地が召喚した地母神(イザナミ)を制することができるのか……?
 なお、金の出処は花子のライブ配信による広告収入。だが、これは興が削がれるので牛郎には黙っておこう……。



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 昼食前、居間で寛いでいたところへインターホンのベルが鳴り響く。おそらく、例のものが届いたか。
「これは神の賜物、きっと汝は救われるでことでしょう」
 ……と思っていたが、何だ小暮か。これはとんだ肩透かし。
「何だか上の空ですねぇ……? 神の賜りを要らぬと言うのですか?」
 何だか、小暮は両手をプルプルと震わせている。みかん箱程度の配達物だが、見かけによらず重いのか?
「……あ、すまない」
 そうか、今の小暮は配達員なのか。彼女は伝票を手渡してきたが、俺には修道女の面影が今もちらつく。
「これは救いの啓示。信じなさい、信じなさい……」
 サイン済み伝票を受け取ると、小暮は|箒《ほうき》に跨がって空へ飛び立った。元修道女とは思えない転身ぶりが、彼女のフットワークの軽さを物語る。
 おそらく、箒に錬師からもらった賢者の石を仕込んでいるんだろうな。これで、悪魔と契りを交わした小暮は名実ともに魔女となったわけだ。
「おいで、ダーリン!」
 だが、一つだけ言わせてほしい。正直、魔女の相棒にハエというのはビジュアル的にどうなんだ?
 二人が仲睦まじいおしどり夫婦なのは分かるが、それでも魔女の肩にハエが留まっているのは考えもの。せめて、依代はその辺の野良猫とかもっとこう……何があっただろう。
 とは言え、当人たちが満足しているならそれでもいいか。幸せならそれでOKだ。
 そんなことより、さっきから箱の重量がずしりと俺の腕にのし掛かっている。読者の諸君、そろそろこいつが何だか気になってきたんじゃないか……?
ーー
「おじさん、それなぁに?」
 牛郎は、不思議そうにこの箱を見つめている。まぁ、これだけ大きな箱なら中身が気になるのは当然のこと。
『ドンッ!』
 俺は箱の重さに耐えられず、少々置き方が乱暴になってしまった。これだけの重さだ、両腕に溜まった乳酸は半端じゃないだろうな。
「牛郎、開けていいぞ」
 牛郎の眼差しが余りにもまっすぐなものだから、俺は箱の開封を促した。箱って、開ける前の方が楽しいのは何でだろうな?
「何だ……木の箱?」
 牛郎が首を傾げるのは無理もない。何せ、それは桐の箱に梱包されているのだから。
 それに加えて『(有)下都賀商店謹製』という毛筆書きが、中身の格式高さを象徴している。ここまで来ると、もはや高級フルーツでも入っているのかと勘繰りたくなるだろうな。
「え、何だこれ……?」
 牛郎の言葉が詰まる。おそらく、彼には海苔を巻かれた何かが見えている。
 だが、それはただの海苔じゃない。当然ながら、牛郎はまだ全貌を掴めずにいる。
「……ふんっ!」
 牛郎は気張ってそれを持ち上げた。すると、その全貌は突如として暴露される。
「これってもしかして……|大太法師《だいたらぼっち》のおにぎり!?」
 箱の中から出てきたのは、大玉スイカ並に巨大なおにぎり。そのボリュームに、牛郎は思わず圧倒されている。
 このおにぎりは元々、米問屋の店主が米の在庫処分に困って売り出したのがきっかけと言われている。ところが、その大きさとネーミングが話題性を呼び、今やこのおにぎりを販売することが本業になっているそうだ。
「このおにぎり、もんのすごいプレッシャーを感じる……!」
 そして、価格は大太法師の名に恥じぬ3万円!! 店主が敢えて売れないように設定した価格だが、却って付加価値を強化してしまったのは皮肉と言わざるを得ない。
「おにぎりが言っている……僕に食べろと!」
 その声に呼応し、牛郎はおにぎりに思い切り齧り付いた。さて、そのお味は……?
「お母さんですか……?」
 一口目にして、牛郎の目頭が熱くなっている。甥っ子よ、巨大おにぎりは涙が出るほど美味いのか?
 真相を確かめるべく、俺も大太法師のおにぎりを口にした。すると……。
「母さん……」
 見かけに反し、おにぎりは心温まる慈悲深い味わい。一言で言うと、まさにお袋の味。
 俺の脳裏を、母さんの記憶が走馬灯のように巡る。いつも優しかった母さん……すまない、危うく母さんを故人にしてしまうところだった。
「ワンワンっ!」
 どこから匂いを嗅ぎつけてきたのか、ポコ太郎まで乱入してきた。目的はもちろん、大太法師のおにぎりだ。
「……ワォーン!!」
 おにぎりをひと齧りしたポコ太郎は、思わず遠吠えをしてしまっている。この懐かしさ、お前には分かるよなぁポコ太郎?
 見た目の巨大さと慈悲深いお袋の味。果たして、俺達は母なる大地が召喚した|地母神《イザナミ》を制することができるのか……?
 なお、金の出処は花子のライブ配信による広告収入。だが、これは興が削がれるので牛郎には黙っておこう……。