42頭目 甥っ子の宿題
ー/ー「う〜ん……」
俺が牛舎から戻ると、牛郎は熱心に宿題へ取り組んでいた。ほぉ、珍しいこともあるもんだ。
「にはち……にはち……」
それにしても、何だかえらく考え込んでいるようだな。牛郎には申し訳ないが、こういうのは下手な考え休むに似たりというものだ。
「にはち……そばだな」
おそらく、言葉の空欄を埋める問題だろう。俺は、咄嗟に思い付いた言葉を牛郎に教えた。
「にはち……そば、と」
俺の言葉に従い、牛郎は素直に答えを書き写した。こういう時、適切なアシストをするのが保護者の責任でもある。
「おじさん、頭いいね! 馬面とは思えないよ」
甥っ子よ、それは褒めているのかディスっているのかどっちなんだ。その言葉はどうにもモヤモヤする。
「しちご……しちご……」
おっと、早くも次の問題で躓いたか。ここは見守りたいのが親心、だが……。
「しちご……さんだな」
思わず言ってしまった。駄目だと分かっているけれど、それでも口出ししたくなるのが俺だ。
「しちご……さんっと」
牛郎は淡々と答えを書き写す。口出ししておいて難だが、考えなければ学びにならんぞ甥っ子よ。
「しく……しく……」
牛郎は問題に度々躓いている。彼が勉強嫌いなのは承知しているが、それでも設題が小学生には不相応な気がするんだよな。
「しく……はっくだな」
流石にこれは、小学校低学年向けの問題じゃない。こうなると、文科省がきちんと内容を精査しているのか疑念を抱いてしまう。
「しくはっく……おじさん、いくら馬面でも口出ししないで!」
牛郎の為を思って助言していた筈なのに、何故か苦言を呈されてしまった。おかしいな……。
「ごご……ごご……」
午後か……午後といえば、やっぱりあれだろうな。イギリス貴族には定番のティータイム。
「午後の紅茶だ」
おそらく、出版社にイギリス通がいると見た。この設問は優雅で、解答する側も心地良い。
「午後の紅茶、っと……」
悪態をついたものの、それでも牛郎は俺の答えを書き写している。何だかんだ、甥っ子は俺を頼りにしていると思うといじらしくなる。
「しし……しし……」
来たっ、ペナルティキック級のサービス問題! これは即答あるのみ!!
「獅子はライオンのことだ!」
すまない、こればかりは元エースストライカーの血が騒いだ。俺の鬣は獅子のように誇らしくある。
「ししはライオン、っと……」
獅子に鰭、馬にも鰭だ。けれど、それではタツノオトシゴか……?
「まぁ、タツノオトシゴっておじさんの友達みたいなもんだしな……」
甥っ子よ、何故俺の心が読めた!? あと、それはディスりか、はたまた別の意味……??
ーー
「おじさん、見てみてーっ!」
後日、牛郎が小テストの答案用紙を持ってきた。さては、珍しく高得点でも取ってきたか?
「へへっ、0点!」
おいおい、それはどんなに勉強嫌いでも取れるものじゃないぞ!? ……いや待て? このテストはもしかして……。
「にはちそば! ししはライオン!」
……あぁーっ! これ、こないだ俺が教えた答えじゃないか!! すまない牛郎、まさか掛け算九九だったとは……。
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