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嘘と真実 ―3―

ー/ー



 要するにソフィアは、髪色や服を着飾るお洒落な女の子である前に、恋に恋する少女だったということだ。自分を磨くというよりも、愛する人に振り向いてもらうためのお洒落なのだったのだろう。


「な〜んか、乙女のとんでもない秘密がバラされそうになってるんですけど……」

「わ、わかる人にしかわからないから!」

「ならいいけどね!」


 ソフィアはツンとそっぽを向いてまた試合に集中する。好きな色とは程遠い薄紫の髪をなびかせながら、少女は華麗に戦場を舞っていた。


「じゃあ、次はモニカの番ですね」

「えっ、あっ、そっか……!」


 ソフィアの姿に見蕩れていたモニカは、意識外からの声に背中を跳ねさせて驚いた。窮地は凌いだとはいえ、戦況はイーブン。お互いに勝利へと手が届きそうで届かない状態だ。
 モニカが勝つためには、ここでメルティに真偽を当てられない問題を出題し、次のメルティの番に真偽を当てなければならない。そう何度も真偽を外させるのは難しい。ここで勝負を決めなければならない。

 とっておきの問題は、最初から決まっていた。


「【獄蝶のジョカとルナ・アステシアは恋仲】である」

「…………ふぇ?」


 モニカが問題を提示した直後、メルティの思考がショートする。緊張して張り詰めていた集中は解きほぐされて瞬く間に弛緩し、脳内がピンク色に染め上げられる。


「な、なっ、なななな! 何言ってるんですか!?」

「さぁ! 早く答えてよ、メルティ! 嘘か、真実か!」


 目を合わせようとせず、慌ただしく目線をキョロキョロと動かしてメルティは酷く動揺した様子を見せた。そんなメルティをさらに追い詰めるようにモニカは捲し立てる。
 メルティは見かけによらず聡明だ。オドオドしていて自信がなさげな反面、俯瞰して物事を捉えることができる。


(だから、その余裕を潰す)


 思考する余裕を持たせてはならない。突拍子もなく、かといって現実味がなさすぎないこと。嘘と真実の境界が曖昧なこと。そして、必要以上の情報を無理やり入れること。そうやって相手を慌てさせ、冷静な判断をさせないことが有効な手段であることを、モニカは最初の時点で気づいていた。だが、最初にそれをやっても大した効果は得られないだろうと、モニカはこの局面まで温存していたのだ。

 そして、モニカの罠は()()()()ある。


「し、ししっ、質問です!」

「むっ……やっぱりそう来るよね……」


 そして、この場面でのメルティの質問は、考えうる限り――


「モニカは、その証拠たる場面を見たことがありますか?」


 ()()の質問だった。


「……うん。見たこと、あるよ」


 モニカは、嘘をつくことに慣れていない。昔からモニカは正直者で、嘘を語ったことは数える程しかなかった。特に、自分の失態を隠すための嘘は、一度もついたことがない。モニカの語る嘘は、誰かを庇うためであることがほとんどだった。だから、この手の質問には迷うことなく真実を述べてしまう。そういう性分なのだ。

 故に、この質問は最悪だった。


(モニカは嘘をつかない……でも、ここでそんな正直に言っても負けるだけじゃないの?!)


 考えれば考えるほどわからなくなる、嘘と真実のジレンマ。モニカが嘘をつくはずがない。そう言い切れるほど穢れのない純白のような性格をしている。だが、勝つための行為なら話は違うだろう。しかし、事実として、モニカはこのゲーム内で一度も嘘を出題したことはない。

 この時点で、メルティはモニカの罠に嵌っていた。メルティの思考は既に、()()()()()()()()()()()()()()()()()に囚われてしまっている。しかし、本当の問題はそこではなく――


「……真実、です」


 この問題が()()()()()を解き明かすことである。

勝負の行方は――


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 要するにソフィアは、髪色や服を着飾るお洒落な女の子である前に、恋に恋する少女だったということだ。自分を磨くというよりも、愛する人に振り向いてもらうためのお洒落なのだったのだろう。
「な〜んか、乙女のとんでもない秘密がバラされそうになってるんですけど……」
「わ、わかる人にしかわからないから!」
「ならいいけどね!」
 ソフィアはツンとそっぽを向いてまた試合に集中する。好きな色とは程遠い薄紫の髪をなびかせながら、少女は華麗に戦場を舞っていた。
「じゃあ、次はモニカの番ですね」
「えっ、あっ、そっか……!」
 ソフィアの姿に見蕩れていたモニカは、意識外からの声に背中を跳ねさせて驚いた。窮地は凌いだとはいえ、戦況はイーブン。お互いに勝利へと手が届きそうで届かない状態だ。
 モニカが勝つためには、ここでメルティに真偽を当てられない問題を出題し、次のメルティの番に真偽を当てなければならない。そう何度も真偽を外させるのは難しい。ここで勝負を決めなければならない。
 とっておきの問題は、最初から決まっていた。
「【獄蝶のジョカとルナ・アステシアは恋仲】である」
「…………ふぇ?」
 モニカが問題を提示した直後、メルティの思考がショートする。緊張して張り詰めていた集中は解きほぐされて瞬く間に弛緩し、脳内がピンク色に染め上げられる。
「な、なっ、なななな! 何言ってるんですか!?」
「さぁ! 早く答えてよ、メルティ! 嘘か、真実か!」
 目を合わせようとせず、慌ただしく目線をキョロキョロと動かしてメルティは酷く動揺した様子を見せた。そんなメルティをさらに追い詰めるようにモニカは捲し立てる。
 メルティは見かけによらず聡明だ。オドオドしていて自信がなさげな反面、俯瞰して物事を捉えることができる。
(だから、その余裕を潰す)
 思考する余裕を持たせてはならない。突拍子もなく、かといって現実味がなさすぎないこと。嘘と真実の境界が曖昧なこと。そして、必要以上の情報を無理やり入れること。そうやって相手を慌てさせ、冷静な判断をさせないことが有効な手段であることを、モニカは最初の時点で気づいていた。だが、最初にそれをやっても大した効果は得られないだろうと、モニカはこの局面まで温存していたのだ。
 そして、モニカの罠は|も《・》|う《・》|一《・》|つ《・》ある。
「し、ししっ、質問です!」
「むっ……やっぱりそう来るよね……」
 そして、この場面でのメルティの質問は、考えうる限り――
「モニカは、その証拠たる場面を見たことがありますか?」
 |最《・》|悪《・》の質問だった。
「……うん。見たこと、あるよ」
 モニカは、嘘をつくことに慣れていない。昔からモニカは正直者で、嘘を語ったことは数える程しかなかった。特に、自分の失態を隠すための嘘は、一度もついたことがない。モニカの語る嘘は、誰かを庇うためであることがほとんどだった。だから、この手の質問には迷うことなく真実を述べてしまう。そういう性分なのだ。
 故に、この質問は最悪だった。
(モニカは嘘をつかない……でも、ここでそんな正直に言っても負けるだけじゃないの?!)
 考えれば考えるほどわからなくなる、嘘と真実のジレンマ。モニカが嘘をつくはずがない。そう言い切れるほど穢れのない純白のような性格をしている。だが、勝つための行為なら話は違うだろう。しかし、事実として、モニカはこのゲーム内で一度も嘘を出題したことはない。
 この時点で、メルティはモニカの罠に嵌っていた。メルティの思考は既に、|モ《・》|ニ《・》|カ《・》|が《・》|嘘《・》|を《・》|つ《・》|い《・》|て《・》|い《・》|る《・》|か《・》|、《・》|い《・》|な《・》|い《・》|か《・》に囚われてしまっている。しかし、本当の問題はそこではなく――
「……真実、です」
 この問題が|嘘《・》|か《・》|真《・》|実《・》|か《・》を解き明かすことである。
勝負の行方は――