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10.ファーストコンタクト(神樹視点)

ー/ー



 ロールプレイというものは、自分の役割を演じることだ。
 ただ普通に振る舞うだけでは足りない。
 そのキャラクターが“そこに存在している”と、他人に納得させてこそ意味がある。

 しっくりくる感覚を、言葉と態度で伝える――それがロールプレイだ。
 俺は学生時代、キャラのロールプレイが結構得意だった。

 熱血系勇者、冷酷系ラスボス、実力主義の異種族とか、ほとんど演じ切れてしまって、いつの間にか『演者(ロープレ)のスター』なんて呼ばれるようになっていた。


 何事もやってみなきゃ、自分の才能を知るときが来ないってことだと、再認識したのだった。




 さて、そろそろ接触しに来ると思うんだけど……。

《どうしてそんなに余裕そうなんですか?》

 別に余裕なわけじゃないけどね。
 初めての会話くらい順調にスタートしたいからね。

《あまり威圧しすぎないでくださいよ》

 ……善処(ぜんしょ)するわ。



「……ここか?」

「そうだ。この周辺の魔力がケタ違いだから、神樹がいるとギルマスが言ってたろうが」

「あのデカい木とかじゃないか? 魔力もめっちゃ多いと思うけど――」


 何者か……複数人が堂々と話している。
 おそらく八人だな。


 この中で一番魔力が多そうなのは一人。他の七人は似たような量だ。


 ――よし! ここで、ロールを発動する時。

《頑張ってください》

 おうよ! では、行って参る!



『何者だ』



 声は、喉を震わせて発したわけじゃない。
 枝葉を揺らしたわけでも、風を起こしたわけでもない。

 それでも――
 八人の足が、同時に止まった。

「……ッ!?」

 誰かが息を呑む音がした。
 剣の柄に手をかける者、反射的に魔力を練り始める者。
 だが、誰も攻撃には移らない。

 それもそのはずだ。

 声は“聞こえた”というより、頭の内側に直接、落ちてきたのだから。

 スキル『念話』を使ってみたけど、口を使わないから木の状態でも会話ができる。便利だ。

「今の……誰の声だ?」

「周囲に人影はない。だが……」

 一番魔力の濃い男が、一歩前に出る。
 年齢は三十代後半。
 歴戦の冒険者特有の、無駄のない立ち姿をしている。

「――我々は、カルミリス王国組合支部(ギルド)の依頼を受けた冒険者だ」

 落ち着いた声だった。
 恐怖を隠すというより、制御している。

 悪くないと思う。
 第一印象としては、合格点だ。

『ほう……名乗らずに、用件だけを告げるか』

 少しだけ、威圧を混ぜてみる。
 ほんの”疑問を聞く”程度の威圧。

 空気が、きしりと鳴った。

「……っ!」

 後ろの二人が、思わず後退する。
 だが、先頭の男は踏みとどまった。

「失礼した。俺はダーガス。ここにいる七人は、俺の仲間だ」

 ……よしよし。
 ちゃんと訂正できるタイプだな。

『それで――何の用だ、人の子よ』

 あくまで、対等ではない。
 だが、一方的な敵対でもない。

 “神樹”として、ちょうどいい距離感。それを意識して話せ!


 ダーガスは一瞬だけ視線を巡らせ、やがて俺が“本体”として意識している幹を見据(みす)えた。

「――話がしたい」

 短く、率直な言葉。

「我々がこれ以上踏み込むべきかを、そして、現状の困難を打破してくれるのかを判断するために」

 ……なるほど。

 これは、思っていたより――
 ずっと、話が早そうだ。

《いい感じじゃないですか》

 だろ?
 初手は成功だ。

『いいだろう』

 枝葉が、静かに揺れる。

『ならば問おう。――お前たちは、“敵”として来たのか?』

 この問いに、即答はなかった。

 ダーガスは一度、仲間たちの方へ振り返る。
 七人の視線が交錯し、やがて彼は小さく息を吐いた。

「……正直に言おう」

 一歩、前へ踏み込む。

「我々は、敵にも味方にもなり得る立場だ」

 空気が、わずかに張り詰める。

「ギルドは危険を測る(・・)組織だ。討伐、交渉、封鎖――選択肢は常に複数ある」

 つまり、と俺は理解する。

 神樹が人の脅威となるなら排除対象。
 制御――対話可能なら、交渉対象。

 実に人間(おれら)らしい考えだ。

「だが――」

 ダーガスは、視線を逸らさず続けた。

「俺個人としては、敵対したいとは思っていない」

『……ほう』

「話が通じる存在なら、なおさらだ」

 ……なるほどな。

 この男、ただの武闘派じゃない。
 判断役を任されるだけの理由がある。

《どうします?》

 内心で問いかけられる。

 さて。

 ここで威圧を強めるのは簡単だ。
 だが、それじゃ強者――“神樹”としては二流。小物へと成り下がってしまう。

 俺は、枝葉の揺れを止めた。

『よい答えだ、人の子』

 威圧を、完全に引っ込める。

『ならば、次は我が答えを示そう』

 ――交渉の主導権は、こちらにあることを忘れさせない。

『我は、この地を脅かす存在ではない』

 この森は俺の誕生の地であり、故郷だ。だが、その地を領土とする国に関しては――

『ただし――力を貸すことは、別の話だ』

 八人の視線が、一斉に引き締まった。

「……条件がある、ということか」

 ダーガスが、短く問う。

『理解が早い』

 少しだけ、声に笑みを含める。
 もちろん、本当に笑っているわけじゃない。
 “そう聞こえるように演じている”だけだ。

『条件を提示する』

 空気が、重くなる。

『一つ。我が存在を、“資源”として扱うな』

 ざわり、と人間側が微かに動く。

『利用するな。我は兵器でも、加護装置でもない。交渉相手として、対等に扱え』

 ダーガスは、無言で頷いた。

『二つ』

 少しだけ、声の温度を落とす。

『迷宮に存在する、“異常な存在”について』

 ダーガスの目が、鋭くなる。

『情報を、隠すな。王国が知ること、ギルドが掴んだこと、全てを我にも共有せよ。それができぬなら――』

 言葉を、途中で切る。
 続きを想像させる沈黙。

『力は、貸さぬ』

 沈黙が、落ちた。

 重い。
 だが、理不尽ではない。

「……確認させてくれ」

 ダーガスが、ゆっくり口を開く。

「その条件を飲めば――貴方は、我々に“何を”してくれる?」

 いい質問だ。
 俺は、わずかに魔力を解放した。
 地面の奥深くで、何かが脈動する。

『迷宮に干渉しよう。魔物の異常強化を抑制し、主を超えた存在に対抗するための“場”を整える』

 直接討伐ではない。
 だが、戦局を覆すには十分。

『勝つかどうかは、お前たち次第だ』

 少しだけ、威厳を強める。

『我は――可能性だけを与える』

 ダーガスは、数秒、黙ったまま立っていた。
 そして――

「……ギルドに持ち帰る」

 そう言って、剣を地に突き、深く頭を下げた。

「だが、俺個人としては――その条件、妥当だと思う。では、また後日連絡(コンタクト)を取らせていただきますよ」

 ……よし。

《完全に主導権取れてますよ》

 だろ?

 これはもう、交渉成立一歩手前だ。

《バッチリ振る舞えてました!》

 よっしゃ――ってまだだな。ダーガスたちに聞かれたら印象が変わってしまう。

 ダーガスたちが森から出るのを完全に確認してから、この嬉しい気持ちを開放するのだった。


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 ロールプレイというものは、自分の役割を演じることだ。
 ただ普通に振る舞うだけでは足りない。
 そのキャラクターが“そこに存在している”と、他人に納得させてこそ意味がある。
 しっくりくる感覚を、言葉と態度で伝える――それがロールプレイだ。
 俺は学生時代、キャラのロールプレイが結構得意だった。
 熱血系勇者、冷酷系ラスボス、実力主義の異種族とか、ほとんど演じ切れてしまって、いつの間にか『|演者《ロープレ》のスター』なんて呼ばれるようになっていた。
 何事もやってみなきゃ、自分の才能を知るときが来ないってことだと、再認識したのだった。
 さて、そろそろ接触しに来ると思うんだけど……。
《どうしてそんなに余裕そうなんですか?》
 別に余裕なわけじゃないけどね。
 初めての会話くらい順調にスタートしたいからね。
《あまり威圧しすぎないでくださいよ》
 ……|善処《ぜんしょ》するわ。
「……ここか?」
「そうだ。この周辺の魔力がケタ違いだから、神樹がいるとギルマスが言ってたろうが」
「あのデカい木とかじゃないか? 魔力もめっちゃ多いと思うけど――」
 何者か……複数人が堂々と話している。
 おそらく八人だな。
 この中で一番魔力が多そうなのは一人。他の七人は似たような量だ。
 ――よし! ここで、ロールを発動する時。
《頑張ってください》
 おうよ! では、行って参る!
『何者だ』
 声は、喉を震わせて発したわけじゃない。
 枝葉を揺らしたわけでも、風を起こしたわけでもない。
 それでも――
 八人の足が、同時に止まった。
「……ッ!?」
 誰かが息を呑む音がした。
 剣の柄に手をかける者、反射的に魔力を練り始める者。
 だが、誰も攻撃には移らない。
 それもそのはずだ。
 声は“聞こえた”というより、頭の内側に直接、落ちてきたのだから。
 スキル『念話』を使ってみたけど、口を使わないから木の状態でも会話ができる。便利だ。
「今の……誰の声だ?」
「周囲に人影はない。だが……」
 一番魔力の濃い男が、一歩前に出る。
 年齢は三十代後半。
 歴戦の冒険者特有の、無駄のない立ち姿をしている。
「――我々は、カルミリス王国|組合支部《ギルド》の依頼を受けた冒険者だ」
 落ち着いた声だった。
 恐怖を隠すというより、制御している。
 悪くないと思う。
 第一印象としては、合格点だ。
『ほう……名乗らずに、用件だけを告げるか』
 少しだけ、威圧を混ぜてみる。
 ほんの”疑問を聞く”程度の威圧。
 空気が、きしりと鳴った。
「……っ!」
 後ろの二人が、思わず後退する。
 だが、先頭の男は踏みとどまった。
「失礼した。俺はダーガス。ここにいる七人は、俺の仲間だ」
 ……よしよし。
 ちゃんと訂正できるタイプだな。
『それで――何の用だ、人の子よ』
 あくまで、対等ではない。
 だが、一方的な敵対でもない。
 “神樹”として、ちょうどいい距離感。それを意識して話せ!
 ダーガスは一瞬だけ視線を巡らせ、やがて俺が“本体”として意識している幹を|見据《みす》えた。
「――話がしたい」
 短く、率直な言葉。
「我々がこれ以上踏み込むべきかを、そして、現状の困難を打破してくれるのかを判断するために」
 ……なるほど。
 これは、思っていたより――
 ずっと、話が早そうだ。
《いい感じじゃないですか》
 だろ?
 初手は成功だ。
『いいだろう』
 枝葉が、静かに揺れる。
『ならば問おう。――お前たちは、“敵”として来たのか?』
 この問いに、即答はなかった。
 ダーガスは一度、仲間たちの方へ振り返る。
 七人の視線が交錯し、やがて彼は小さく息を吐いた。
「……正直に言おう」
 一歩、前へ踏み込む。
「我々は、敵にも味方にもなり得る立場だ」
 空気が、わずかに張り詰める。
「ギルドは危険を|測る《・・》組織だ。討伐、交渉、封鎖――選択肢は常に複数ある」
 つまり、と俺は理解する。
 神樹が人の脅威となるなら排除対象。
 制御――対話可能なら、交渉対象。
 実に|人間《おれら》らしい考えだ。
「だが――」
 ダーガスは、視線を逸らさず続けた。
「俺個人としては、敵対したいとは思っていない」
『……ほう』
「話が通じる存在なら、なおさらだ」
 ……なるほどな。
 この男、ただの武闘派じゃない。
 判断役を任されるだけの理由がある。
《どうします?》
 内心で問いかけられる。
 さて。
 ここで威圧を強めるのは簡単だ。
 だが、それじゃ強者――“神樹”としては二流。小物へと成り下がってしまう。
 俺は、枝葉の揺れを止めた。
『よい答えだ、人の子』
 威圧を、完全に引っ込める。
『ならば、次は我が答えを示そう』
 ――交渉の主導権は、こちらにあることを忘れさせない。
『我は、この地を脅かす存在ではない』
 この森は俺の誕生の地であり、故郷だ。だが、その地を領土とする国に関しては――
『ただし――力を貸すことは、別の話だ』
 八人の視線が、一斉に引き締まった。
「……条件がある、ということか」
 ダーガスが、短く問う。
『理解が早い』
 少しだけ、声に笑みを含める。
 もちろん、本当に笑っているわけじゃない。
 “そう聞こえるように演じている”だけだ。
『条件を提示する』
 空気が、重くなる。
『一つ。我が存在を、“資源”として扱うな』
 ざわり、と人間側が微かに動く。
『利用するな。我は兵器でも、加護装置でもない。交渉相手として、対等に扱え』
 ダーガスは、無言で頷いた。
『二つ』
 少しだけ、声の温度を落とす。
『迷宮に存在する、“異常な存在”について』
 ダーガスの目が、鋭くなる。
『情報を、隠すな。王国が知ること、ギルドが掴んだこと、全てを我にも共有せよ。それができぬなら――』
 言葉を、途中で切る。
 続きを想像させる沈黙。
『力は、貸さぬ』
 沈黙が、落ちた。
 重い。
 だが、理不尽ではない。
「……確認させてくれ」
 ダーガスが、ゆっくり口を開く。
「その条件を飲めば――貴方は、我々に“何を”してくれる?」
 いい質問だ。
 俺は、わずかに魔力を解放した。
 地面の奥深くで、何かが脈動する。
『迷宮に干渉しよう。魔物の異常強化を抑制し、主を超えた存在に対抗するための“場”を整える』
 直接討伐ではない。
 だが、戦局を覆すには十分。
『勝つかどうかは、お前たち次第だ』
 少しだけ、威厳を強める。
『我は――可能性だけを与える』
 ダーガスは、数秒、黙ったまま立っていた。
 そして――
「……ギルドに持ち帰る」
 そう言って、剣を地に突き、深く頭を下げた。
「だが、俺個人としては――その条件、妥当だと思う。では、また後日|連絡《コンタクト》を取らせていただきますよ」
 ……よし。
《完全に主導権取れてますよ》
 だろ?
 これはもう、交渉成立一歩手前だ。
《バッチリ振る舞えてました!》
 よっしゃ――ってまだだな。ダーガスたちに聞かれたら印象が変わってしまう。
 ダーガスたちが森から出るのを完全に確認してから、この嬉しい気持ちを開放するのだった。