9.対面前日
ー/ー
重厚な机の向こうで、カルミリス王国組合支部のギルドマスター・ナガンは眉間に皺を寄せていた。
「……報告は以上か」
「はい。封鎖前迷宮にて、ダンジョンボス級を上回る存在が確認されました」
ギルドマスターは、指先で机を軽く叩く。
その音が、やけに部屋に響いた。
「“人型”で、魔法無効、物理耐性極大……ふざけているな」
「冗談なら良かったのですが」
沈黙。
それだけで、この報告が“本物”だと分かった。
「ヴァルデリン森林に神樹が誕生したと噂されてたが……」
「――神樹ならば、その怪物にも対抗できるのでは?」
その瞬間、ナガンが急に跪く。国王リチャードからの『魔法通話』が入ったのだ。
「陛下……ですが危険では……いえ、承知しました。それでは切らせていただきます……」
一息置き、ナガンが院長に告ぐ。
「院長、国王陛下からの命令だ。神樹とコンタクトを取るぞ」
「ぎ、ギルマス! 危険では……」
「陛下からの命と言ったぞ」
「――はい。それでは、帰還後の治療はお任せを……生還できれば、ですが」
縁起でもないこと言うなよ――とナガンは感じながら、テキパキと部隊編成を進めるのであった。
◇◇
ギルドの会議室は、無駄に豪華でもなく、見窄らしい訳でもない。だが、そこにはちゃんとした上品さがある。
ここに集められた部隊は、神樹とコンタクトを取る部隊である。
代表者はダーガス。
ダーガスはギルドの大元の最高戦力組織の一つ『幻巨像の繚乱』の一員だ。コンタクト部隊で一番の戦闘力のため、隊長に抜擢されたのだそう。
そして、ダーガスと別のパーティから選抜された数名が部隊に編成されたのである。
全員がいることを確認し、ナガンが重い口を開ける。
「集まってくれて感謝する。早速本題だが、君たちには、ヴァルデリン森林にいるとされる神樹と対話してもらいたい」
慎重派のナガンは、現状のことを全て説明した。
迷宮にて迷宮の主を上回る実力を持った魔物が存在すること。
魔物たちがその影響で異様に強くなっていること。
それに対抗できるように神樹に支援してもらう――いや、助けてもらうこと。
「なるほど……その神樹とやらの強さは分かってるのか?」
ダーガスが問うと、ギルド組員の一人が恐る恐る答える。
「れ、Lvは……よ、四十です」
会議室に、微妙な沈黙が落ちた。
それが「低すぎる」のか、「高すぎる」のか――誰にも判断できなかったからだ。
「お、おい……この俺でもレベルは六十一なんだぜ? 俺よりレベルが低いなんて強いはずが――」
「そ、そうだ。初対面だが、ダーガスさんはかなりの強さだと思う。それなのに、絶大な力を持つと言われていた神樹のレベルは、ダーガスさんより低いとはどういうことなのだ?」
メンバーたちが神樹に対する不満や疑問を一斉に問いかけると、ナガンは一喝して話を続ける。
「ああ、確かにレベルは四十だが、Lv.40だとは思えないほどの魔力、しかもその“量”が常識外れだと観察部隊が報告していたぞ。魔力量は魔物にとって重要な要素。それが高いだけでも、神樹に頼る価値が出るというものだ」
ギルマスは数多の魔物と戦ってきたからこそ、その言葉に重みがある。
ギルマスの言葉でメンバーが納得するのも、時間がかからなかった。
「分かったぜ、ギルマス。代表としてこの俺、ダーガスは、ヴァルデリン森林にて誕生したという神樹との支援と、その情報を必ず持ち帰ると約束しよう!」
空気で会話をした後、ダーガスが宣誓をし、ヴァルデリン森林へと向かうのだった。
◆◆◆◆◆◆
……なんかまたレベルが上がった気がする。
《定期報告の時間です》
『ログさんか、今日はなんかあった?』
《二時間ほど前からヴァルデリン森林の奥地へと侵入している人間たちを見つけました》
人間……だと!
『その人達の目的は?』
《貴方様に用があるようです。『神樹に力を貸してもらうのが目的だよな?』と会話をしておりました》
俺が目的か。
面倒そうだけど……これを逃す手はない! この世界で人間との初めての会話だ!
このまま素でいってもいいけど……。
《駄目。しっかりと威厳のある形でお願いします》
『……分かったよ。威厳のある形っていってもな――』
そうだな……役割成り切りしてみても面白いかもしれないな。
威厳のあるってことは、強者や王あたりが良さそうだ。
『ログさん的にはどっちがいい? 強者ロールか王ロール』
《どうしてもワタクシに聞きたいのであれば、答えましょう。強者ロールがいいと思います》
強者ロールか。いいね、これでいくか。
胸がざわついているが木にせずに、どういう言葉で始めようかなと、その人達が来るまで考え待つのであった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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重厚な机の向こうで、カルミリス王国|組合支部《ギルド》のギルドマスター・ナガンは眉間に|皺《しわ》を寄せていた。
「……報告は以上か」
「はい。封鎖前迷宮にて、ダンジョンボス級を上回る存在が確認されました」
ギルドマスターは、指先で机を軽く叩く。
その音が、やけに部屋に響いた。
「“人型”で、魔法無効、物理耐性極大……ふざけているな」
「冗談なら良かったのですが」
沈黙。
それだけで、この報告が“本物”だと分かった。
「ヴァルデリン森林に神樹が誕生したと噂されてたが……」
「――神樹ならば、その怪物にも対抗できるのでは?」
その瞬間、ナガンが急に|跪《ひざまず》く。国王リチャードからの『魔法通話』が入ったのだ。
「陛下……ですが危険では……いえ、承知しました。それでは切らせていただきます……」
一息置き、ナガンが院長に告ぐ。
「院長、国王陛下からの命令だ。神樹とコンタクトを取るぞ」
「ぎ、ギルマス! 危険では……」
「陛下からの命と言ったぞ」
「――はい。それでは、帰還後の治療はお任せを……生還できれば、ですが」
縁起でもないこと言うなよ――とナガンは感じながら、テキパキと部隊編成を進めるのであった。
◇◇
ギルドの会議室は、無駄に豪華でもなく、|見窄《みすぼ》らしい訳でもない。だが、そこにはちゃんとした上品さがある。
ここに集められた部隊は、神樹とコンタクトを取る部隊である。
代表者はダーガス。
ダーガスはギルドの大元の最高戦力|組織《パーティ》の一つ『|幻巨像の繚乱《ギリメカラ》』の一員だ。コンタクト部隊で一番の戦闘力のため、隊長に|抜擢《ばってき》されたのだそう。
そして、ダーガスと別のパーティから選抜された数名が部隊に編成されたのである。
全員がいることを確認し、ナガンが重い口を開ける。
「集まってくれて感謝する。早速本題だが、君たちには、ヴァルデリン森林にいるとされる神樹と対話してもらいたい」
慎重派のナガンは、現状のことを全て説明した。
|迷宮《ラビリンス》にて|迷宮の主《ダンジョンボス》を上回る実力を持った魔物が存在すること。
魔物たちがその影響で異様に強くなっていること。
それに対抗できるように神樹に支援してもらう――いや、助けてもらうこと。
「なるほど……その神樹とやらの強さは分かってるのか?」
ダーガスが問うと、ギルド組員の一人が恐る恐る答える。
「れ、Lvは……よ、四十です」
会議室に、微妙な沈黙が落ちた。
それが「低すぎる」のか、「高すぎる」のか――誰にも判断できなかったからだ。
「お、おい……この俺でもレベルは六十一なんだぜ? 俺よりレベルが低いなんて強いはずが――」
「そ、そうだ。初対面だが、ダーガスさんはかなりの強さだと思う。それなのに、絶大な力を持つと言われていた神樹のレベルは、ダーガスさんより低いとはどういうことなのだ?」
メンバーたちが神樹に対する不満や疑問を一斉に問いかけると、ナガンは一喝して話を続ける。
「ああ、確かにレベルは四十だが、Lv.40だとは思えないほどの魔力、しかもその“量”が常識外れだと観察部隊が報告していたぞ。魔力量は魔物にとって重要な要素。それが高いだけでも、神樹に頼る価値が出るというものだ」
ギルマスは数多の魔物と戦ってきたからこそ、その言葉に重みがある。
ギルマスの言葉でメンバーが納得するのも、時間がかからなかった。
「分かったぜ、ギルマス。代表としてこの俺、ダーガスは、ヴァルデリン森林にて誕生したという神樹との支援と、その情報を必ず持ち帰ると約束しよう!」
空気で会話をした後、ダーガスが|宣誓《せんせい》をし、ヴァルデリン森林へと向かうのだった。
◆◆◆◆◆◆
……なんかまたレベルが上がった気がする。
《定期報告の時間です》
『ログさんか、今日はなんかあった?』
《二時間ほど前からヴァルデリン森林の奥地へと侵入している人間たちを見つけました》
人間……だと!
『その人達の目的は?』
《貴方様に用があるようです。『神樹に力を貸してもらうのが目的だよな?』と会話をしておりました》
俺が目的か。
面倒そうだけど……これを逃す手はない! この世界で人間との|初めての会話《ファーストコンタクト》だ!
このまま素でいってもいいけど……。
《|駄目《ノー》。しっかりと威厳のある形でお願いします》
『……分かったよ。威厳のある形っていってもな――』
そうだな……|役割成り切り《ロールプレイ》してみても面白いかもしれないな。
威厳のあるってことは、強者や王あたりが良さそうだ。
『ログさん的にはどっちがいい? 強者ロールか王ロール』
《どうしてもワタクシに聞きたいのであれば、答えましょう。強者ロールがいいと思います》
強者ロールか。いいね、これでいくか。
胸がざわついているが木にせずに、どういう言葉で始めようかなと、その人達が来るまで考え待つのであった。