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11-6

ー/ー



 息を飲んで彼の背中を見つめる。
 見ちゃいけないのは分かっているのに、目が離せない。

 すると視線を感じたのか、越後さんが顔を少しだけ私のほうに向けた。

「こっち見んなや。それとも清楚な顔して意外とスケベなんら? 自分」
「えぇっ!? ち、違……!」
「違わねぇだろ、覗き見してんだっけさ」

 思ってもいない指摘をされ、私は慌てて顔を反らせた。確かにこんなの、覗き見と変わらないけど……!
 また越後さんの逆鱗に触れたのではないかと内心ビクビクしていたけど、彼はそれ以上何も口にすることなく、淡々と浴衣への着替えを終えた。どうやら一緒に泊まってくれる気ではあるらしい。

 怖いけれど、越後さんは今後も付き合っていくべき仲間。それに私には彼の痛みを受け止める責任がある。
 そう思い意を決して、恐る恐る彼に問いかけた。

「もしかして……皆と一緒に温泉へ入らなかったのは、その傷のせいですか?」
「……俺と喋っていいんかよ。和泉サマ至上主義のガキ共が知ったら、どうせまた怒り狂うんら?」

 越後さんはそう揶揄しながら、備え付けの冷蔵庫からペットボトルを取り出し、ミネラルウォーターらしきものをゴクゴクと飲んだ。
 これ以上聞き出してもいいのか迷うところ。でも日向君たちがいない今のタイミングでしか、この話はできないと思った。一緒の入浴を避けたということは、きっと彼らには聞かれたくないのだろうから。

 私は正座して姿勢を正し、改めて越後さんに向き直した。

「教えてください、越後さん。貴方の過去に何があったのか。私が貴方の怒りも痛みも、全部受け止めます」

 私の言葉に、彼は動きを止めた。全身へ一気に緊張が走る。
 案の定、越後さんは明らかに不機嫌な顔を私に向けた。

「冗談じゃねぇら。お前に話すことなんてないっけさ」

〝お前に俺の、何が分かるっけさ!? この女だけは絶対に許さねぇらッ!!〟

 瞬間、あの時の越後さんの叫びが脳裏に蘇る。きっと言葉のとおり、例え私が前世の和泉さんと別人格であろうと、彼は私を簡単に許しはしないだろう。
 無論、話を聞いたところで、私に越後さんの全てを理解するなど不可能だ。かといって話せば彼が楽になるという、傲慢なことも思っていない。でもほんの少しでも彼の心に触れ、痛みを分かち合いたいと思うのは、私のワガママなのかな。

 折角仲間としての縁ができたのに、何も分かり合えないなんて悲しいだけ。
 今まで越後さんがたった一人で戦ってきたというなら、今はもう一人じゃないことを伝えたい。

 ただし、これは無理強いすることじゃない。だから今は。

「……分かりました。でももし越後さんが話す気になったら、聞かせてください。私、いつでも待ってますから」

 再び背を向けて寝転んでしまった彼が、聞いているかどうかは定かじゃない。もしかしたらまた怒らせてしまったかもしれない。
 それでも越後さんは今〝ここ〟にいる。本当に嫌なら、きっと彼は無理してでも帰ろうとするだろうから。……今はそれで十分ということにしよう。

 硫黄の匂いが、ほのかに香る。
 きっともうすぐ皆が戻ってくる頃合いだ。そう思うと嬉しくなった。

 ――それにしても。

 あの傷跡は尋常じゃない。明らかに彼を傷つけようとして意図的に付けられたものだ。思い出すだけで全身が震え上がるほどの悲しみを感じる。変化(ヴァリエ)中ではないからクラシック療法も使えず、仮に使えたとしても、心の痛みまで癒やすほど万能な力ではない。

 もしあれが前世の記憶があることで負わされたものなら、他の皆はどれほどの苦しみを味わってきたの?
 安芸君、近江君、武蔵さん、純君……。そして日向君。今その渦中にいる和矢君と広君も、過酷な状況に耐えながら活動してくれている。

 どうして、私には。
 音のズレなんて、彼らからすれば大したことじゃないよ……!

〝彼らが守りたいのは『総長の貴女』でも『前世の貴女()』でもありません。『あなた自身』なのです〟

 和泉さんの言うことが本当で、皆が〝私〟のために命をかけているというなら、私にも同じ痛みを与えてほしかった。それとも、それ自体が私に課せられた痛みなの……?
 〝彼女〟に会えた時、もっと色々なことを聞くべきだったと後悔しても、もう遅い。もう会えないと言われてしまったし。

 悲観する私の頬を、湯煙をまとった春風が撫でる。
 それはまるで『もう落ち込むのはやめなさい』と〝彼女〟が優しく叱咤しているようで。

 ……うん、そうだね。こんな空っぽの私を信じて、皆は痛みを乗り越え会いに来てくれた。それを忘れちゃいけないんだ。今回のことで良く分かった。

 私は顔を上げて広縁の端に立ち、星が輝く空の彼方を見つめた。
 大丈夫、私も〝私の音〟で大切な皆を守ります。

 貴女が皆を〝貴女の音〟で、守ってくださったように――。




 その頃、脱衣所では。

「Oh、そーいえば! ココ、女性には色んな(カラー)の浴衣があるそうなんデース! ズーミは何色を選ぶ(セレクト)と思いますカー!?」

 突然始まった純クイズに、男たちが眉を潜めて困惑していた。
 どうやら男性用の浴衣は1種類しかないが、女性用にはパステルカラーの可愛らしい浴衣が何色か用意されているらしい。黄色、水色、薄紅色に薄紫……。純は和泉がどれを選ぶか予測したいご様子。

 ところが。

「あぁ? んなもん、分かるわけねぇだろうが」
「っていうか、和泉なら何着たって似合うに決まってるよ」

 浴衣の帯を結びながら日向が。そして鏡の前で髪型を整えながら安芸が、純のテンションを一掃した。

「Hmm……。ヒューガとアッキーなら、喜んで挑戦(チャレンジ)してくれると思ったネ~」

 予想に反してノリ気でない彼らに、純は悲しそうに肩を落とす。その様子を苦笑して見ている武蔵。近江は純の話すら聞いていなさそうな……。

 ――果たして、男たちの本心やいかに。

-------------------------------------------------------------------

日向(まぁピンクだろうな……)
安芸(いや、絶対にピンクだろ!)
武蔵(素直じゃありませんねぇ。僕の希望は紫ですが)
純(Why、楽しみなのは僕ダケ……? でもズーミは水色(ライトブルー)も似合いそうネ~)
近江(あ~、腹減った~……)



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 息を飲んで彼の背中を見つめる。
 見ちゃいけないのは分かっているのに、目が離せない。
 すると視線を感じたのか、越後さんが顔を少しだけ私のほうに向けた。
「こっち見んなや。それとも清楚な顔して意外とスケベなんら? 自分」
「えぇっ!? ち、違……!」
「違わねぇだろ、覗き見してんだっけさ」
 思ってもいない指摘をされ、私は慌てて顔を反らせた。確かにこんなの、覗き見と変わらないけど……!
 また越後さんの逆鱗に触れたのではないかと内心ビクビクしていたけど、彼はそれ以上何も口にすることなく、淡々と浴衣への着替えを終えた。どうやら一緒に泊まってくれる気ではあるらしい。
 怖いけれど、越後さんは今後も付き合っていくべき仲間。それに私には彼の痛みを受け止める責任がある。
 そう思い意を決して、恐る恐る彼に問いかけた。
「もしかして……皆と一緒に温泉へ入らなかったのは、その傷のせいですか?」
「……俺と喋っていいんかよ。和泉サマ至上主義のガキ共が知ったら、どうせまた怒り狂うんら?」
 越後さんはそう揶揄しながら、備え付けの冷蔵庫からペットボトルを取り出し、ミネラルウォーターらしきものをゴクゴクと飲んだ。
 これ以上聞き出してもいいのか迷うところ。でも日向君たちがいない今のタイミングでしか、この話はできないと思った。一緒の入浴を避けたということは、きっと彼らには聞かれたくないのだろうから。
 私は正座して姿勢を正し、改めて越後さんに向き直した。
「教えてください、越後さん。貴方の過去に何があったのか。私が貴方の怒りも痛みも、全部受け止めます」
 私の言葉に、彼は動きを止めた。全身へ一気に緊張が走る。
 案の定、越後さんは明らかに不機嫌な顔を私に向けた。
「冗談じゃねぇら。お前に話すことなんてないっけさ」
〝お前に俺の、何が分かるっけさ!? この女だけは絶対に許さねぇらッ!!〟
 瞬間、あの時の越後さんの叫びが脳裏に蘇る。きっと言葉のとおり、例え私が前世の和泉さんと別人格であろうと、彼は私を簡単に許しはしないだろう。
 無論、話を聞いたところで、私に越後さんの全てを理解するなど不可能だ。かといって話せば彼が楽になるという、傲慢なことも思っていない。でもほんの少しでも彼の心に触れ、痛みを分かち合いたいと思うのは、私のワガママなのかな。
 折角仲間としての縁ができたのに、何も分かり合えないなんて悲しいだけ。
 今まで越後さんがたった一人で戦ってきたというなら、今はもう一人じゃないことを伝えたい。
 ただし、これは無理強いすることじゃない。だから今は。
「……分かりました。でももし越後さんが話す気になったら、聞かせてください。私、いつでも待ってますから」
 再び背を向けて寝転んでしまった彼が、聞いているかどうかは定かじゃない。もしかしたらまた怒らせてしまったかもしれない。
 それでも越後さんは今〝ここ〟にいる。本当に嫌なら、きっと彼は無理してでも帰ろうとするだろうから。……今はそれで十分ということにしよう。
 硫黄の匂いが、ほのかに香る。
 きっともうすぐ皆が戻ってくる頃合いだ。そう思うと嬉しくなった。
 ――それにしても。
 あの傷跡は尋常じゃない。明らかに彼を傷つけようとして意図的に付けられたものだ。思い出すだけで全身が震え上がるほどの悲しみを感じる。|変化《ヴァリエ》中ではないからクラシック療法も使えず、仮に使えたとしても、心の痛みまで癒やすほど万能な力ではない。
 もしあれが前世の記憶があることで負わされたものなら、他の皆はどれほどの苦しみを味わってきたの?
 安芸君、近江君、武蔵さん、純君……。そして日向君。今その渦中にいる和矢君と広君も、過酷な状況に耐えながら活動してくれている。
 どうして、私には。
 音のズレなんて、彼らからすれば大したことじゃないよ……!
〝彼らが守りたいのは『総長の貴女』でも『前世の|貴女《私》』でもありません。『あなた自身』なのです〟
 和泉さんの言うことが本当で、皆が〝私〟のために命をかけているというなら、私にも同じ痛みを与えてほしかった。それとも、それ自体が私に課せられた痛みなの……?
 〝彼女〟に会えた時、もっと色々なことを聞くべきだったと後悔しても、もう遅い。もう会えないと言われてしまったし。
 悲観する私の頬を、湯煙をまとった春風が撫でる。
 それはまるで『もう落ち込むのはやめなさい』と〝彼女〟が優しく叱咤しているようで。
 ……うん、そうだね。こんな空っぽの私を信じて、皆は痛みを乗り越え会いに来てくれた。それを忘れちゃいけないんだ。今回のことで良く分かった。
 私は顔を上げて広縁の端に立ち、星が輝く空の彼方を見つめた。
 大丈夫、私も〝私の音〟で大切な皆を守ります。
 貴女が皆を〝貴女の音〟で、守ってくださったように――。
 その頃、脱衣所では。
「Oh、そーいえば! ココ、女性には色んな|色《カラー》の浴衣があるそうなんデース! ズーミは何色を|選ぶ《セレクト》と思いますカー!?」
 突然始まった純クイズに、男たちが眉を潜めて困惑していた。
 どうやら男性用の浴衣は1種類しかないが、女性用にはパステルカラーの可愛らしい浴衣が何色か用意されているらしい。黄色、水色、薄紅色に薄紫……。純は和泉がどれを選ぶか予測したいご様子。
 ところが。
「あぁ? んなもん、分かるわけねぇだろうが」
「っていうか、和泉なら何着たって似合うに決まってるよ」
 浴衣の帯を結びながら日向が。そして鏡の前で髪型を整えながら安芸が、純のテンションを一掃した。
「Hmm……。ヒューガとアッキーなら、喜んで|挑戦《チャレンジ》してくれると思ったネ~」
 予想に反してノリ気でない彼らに、純は悲しそうに肩を落とす。その様子を苦笑して見ている武蔵。近江は純の話すら聞いていなさそうな……。
 ――果たして、男たちの本心やいかに。
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日向(まぁピンクだろうな……)
安芸(いや、絶対にピンクだろ!)
武蔵(素直じゃありませんねぇ。僕の希望は紫ですが)
純(Why、楽しみなのは僕ダケ……? でもズーミは|水色《ライトブルー》も似合いそうネ~)
近江(あ~、腹減った~……)