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3.花と記憶

ー/ー



何とか一日やり過ごし、空澄さんの助けが無かったら知らずにどうなっていたかと恐ろしく感じる。

空澄さんに色々教えてもらった後、少し顔を出して外の様子を伺った。
すると丁度人が隠れながらも歩いているところを目撃し、声を掛けようとしたとき空澄さんに止められた。

『あの人を助けてあげないと……』

『その必要はないよ』

『えっどうして』

空澄さんは外の人を指差し、ジッと見つめる。

私はわたわたと焦りを感じていると、外の人の背後にいつの間にかアンドロイドが立って居た。まずいと危機感に溢れ、外の人がアンドロイドに気づく直前に、『排除します』とアンドロイドが言い、頭に銃のようなものを突き付けた。

バンッと鳴り響き、腹黒い血が散ると思ったら、視界は手に覆われて見えなくなっていた。きっと、グロテスクなものを見て私が怯えないようにしてくれたんだと思う。

手が離れる前に、空澄さんにシェルターに戻されて、結局あの外の人を見るとこはできなかった。ただ、空澄さんは悔しそうな症状を浮かべていたのが、とても心に残っている。

朝陽が照らすことなく、ただ静かな空間で目覚めると無性に体を動かしたくなる。時計の針は六時程を指しているが、日光がないと時間の感覚もおかしくなりそう。

リビングは結構広々としていたため、そこで少し体を動かそうと向かうと、何かを見つめて静かに座る空澄さんの後姿が目に入った、数歩歩くと空澄さんは私に気が付き、振り返って笑みを浮かべる。

「おはよう。冴耶にとっては太陽が無くて物足りない朝かもしれないね」

「まぁ、仕方のないことですし……ところで何を見ていたんですか?」

するとさっき見ていたものを机から手に取り見せてくれる。

「これは、花?」

空澄さんは嬉しそうに微笑む。さっきとは違い、申し訳なさそうにじゃなく、自然な笑み。

「あぁ。冴耶の出会う前、小さな女の子に会っていたんだ。その時に貰ったものだよ」

小さく細かい白い花びらと、大きな黄色の筒状花が可愛らしい。たった一輪の小さな花でも、空澄さんを元気にしてくれているようだった。

「そう言えば昔、その花を庭に植えていた時がありました」

もう、うろ覚えなのだけれど、その花とても気に入っていた気がする。理由は覚えていない。誰かにこの花で花冠を作ってもらったことがあったからだっけ。

「そうだったのか。この花は凄く可愛らしい。女の子といる間、全く違う世界に行っていたように、街並みも変わった場所にいた。そのおかげか、不思議とアンドロイドが一体も見当たらなかっただ。……この花を貰った後、吹雪に襲われて女の子と逸れてしまった。探してみたものの、見つけることが出来なくて、諦めようとしていた。そしたら冴耶が居たんだ」

「なんだかまるで私とその子が入れ替わったみたいですね」

「そうだな。これも何かの運命なのかもな」

笑いながら、持っていた花を優しく机に乗せる。

こんな身近なものでも、人を笑顔にする事ができるんだなぁ。私は、無意識に嬉しく思っていた。
私の庭にあった同じ花なのに、どこか特別感が感じられる。見ていると凜と咲く小さな花が、一生枯れてほしくないと願ってしまう程、可愛くて、美しい。

「小さな事のようだけど、この花は枯れてほしくない。けど、生命はやがて尽きるものだ。今の日本には、生命を不死にすることはできない」

確かに、命の道はどこかで途切れる。でも、それでも……
私は、鞄に入れていたあの怪しい店から買ったペンタスの氷花を手に取り、空澄さんに渡した。

「これは?」

「氷花っていう、花を氷で完全に包んだ球です。小さいですが、結構長持ちするらしいです」

「それを、どうして俺に……」

「命はやがて尽きます。それはどうしようもできないです。でも、尽きる時間(とき)を遅らせる事は出来るんです。生命が早く尽きてしまうより、何倍も長くて、何倍も綺麗に咲いていた方がいいでしょう。私は空澄さんがどう考えて生きているのか分からないですが、空澄さんが少しでも気が楽になれるようにしたいんです」

桃色の花びらが、透き通るように氷の中で反射し、淡いピンク色の光が散って見える。
空澄さんは、氷花を両手で優しく包み、膝の上に乗せると、微笑んだ。
ただ微笑んだんじゃない。優しく、嬉しそうで、少し、寂しいように。

「ありがとう。大切に持っておくよ。代わりというか何というかなんだけど、この花を、貰っておいてくれないか。」

「え、良いんですか? 空澄さんが貰ったものなのに……」

「良いんだ。それは、何となく冴耶が持つべきものだと思うんだ。それに、誰か探している人が居るんだろう?」

確かに探しているあの人のヒントになるかもしれないけど……ってなんでわかったのだろう。

「どうしてそれを……」

「何となく。思い込みかな。もしかしたら、俺にも何かわかるかもしれない。誰を探しているの?」

あの人の事を話した事はない。本当に言っていいのか不安になりながらも、あの人が見つかるならと思い、指に付けていた指輪を外して手のひらに乗せた。
私が過去の人間であることを言わないと、あの人について伝わらないかもしれない。

「私が探している人は空澄さんにはわからないかもしれません。実は過去の日本から来たんです。信じてもらえないかもですが」

「過去の日本からか……信じるよ。何か原因があるんだろう」

そして、指輪を見せる。
何故か分からないけれど、空澄さんは指輪を見て非常に驚いたような顔をした。

「それは……」

「これは、私が5歳ぐらいの時、ある人が私にくれたものです。名前とか年とか見た目はもう忘れてしまっているけど、とても優しくしてくれたんです。5歳って、凄く小さくて感情が自分ではコントロールしにくい年なんだろうけど、あの人と居ると、気持ちが和らいで楽しくて、ドキドキしたんです。恋って言うのかは分からないですが」

私がそう言うと、空澄さんは立ち上がり、私をソファーに座らせて指輪を取って私の左手薬指に通した。


この光景を、私は少しだけ、思い出す。

雪がちらちらと降っているのに空は青空の風花の日。はぁーと息を吐くと白い煙が宙に浮かび、消えていく。後ろから肩を叩かれ、振り返ると微笑んでこちらを見るあの人。私は燥いで抱き着き、あの人は私の頭を優しく撫でる。すると、あの人はポケットから指輪を取り出して、凍えて指先が紅く染まった私の左手薬指に通した。そして、あの人と別れてしまう前の最後の言葉を言った。

「『これをあげよう。いつか、キミの願いが叶うように祈ってる。』」

記憶の中のあの人の言葉が、空澄さんの声と重なった。

「この視点、覚えてない?」

そして、空澄さんは、優しく私の頭を撫で始める。
撫でられた瞬間に、ほろほろと勝手に涙が視界をぼやかした。

あの人は……空澄さんだったんだ。

空澄さんも、一度過去の日本に来て、5歳の私と出会った。

そして戻ったときに、偶然にも私と出会う。

こんなの偶然なんかじゃない。この世界が決めた、運命だ。

涙目でも空澄さんを見ると、記憶のあの人が彩られていった。


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何とか一日やり過ごし、空澄さんの助けが無かったら知らずにどうなっていたかと恐ろしく感じる。
空澄さんに色々教えてもらった後、少し顔を出して外の様子を伺った。
すると丁度人が隠れながらも歩いているところを目撃し、声を掛けようとしたとき空澄さんに止められた。
『あの人を助けてあげないと……』
『その必要はないよ』
『えっどうして』
空澄さんは外の人を指差し、ジッと見つめる。
私はわたわたと焦りを感じていると、外の人の背後にいつの間にかアンドロイドが立って居た。まずいと危機感に溢れ、外の人がアンドロイドに気づく直前に、『排除します』とアンドロイドが言い、頭に銃のようなものを突き付けた。
バンッと鳴り響き、腹黒い血が散ると思ったら、視界は手に覆われて見えなくなっていた。きっと、グロテスクなものを見て私が怯えないようにしてくれたんだと思う。
手が離れる前に、空澄さんにシェルターに戻されて、結局あの外の人を見るとこはできなかった。ただ、空澄さんは悔しそうな症状を浮かべていたのが、とても心に残っている。
朝陽が照らすことなく、ただ静かな空間で目覚めると無性に体を動かしたくなる。時計の針は六時程を指しているが、日光がないと時間の感覚もおかしくなりそう。
リビングは結構広々としていたため、そこで少し体を動かそうと向かうと、何かを見つめて静かに座る空澄さんの後姿が目に入った、数歩歩くと空澄さんは私に気が付き、振り返って笑みを浮かべる。
「おはよう。冴耶にとっては太陽が無くて物足りない朝かもしれないね」
「まぁ、仕方のないことですし……ところで何を見ていたんですか?」
するとさっき見ていたものを机から手に取り見せてくれる。
「これは、花?」
空澄さんは嬉しそうに微笑む。さっきとは違い、申し訳なさそうにじゃなく、自然な笑み。
「あぁ。冴耶の出会う前、小さな女の子に会っていたんだ。その時に貰ったものだよ」
小さく細かい白い花びらと、大きな黄色の筒状花が可愛らしい。たった一輪の小さな花でも、空澄さんを元気にしてくれているようだった。
「そう言えば昔、その花を庭に植えていた時がありました」
もう、うろ覚えなのだけれど、その花とても気に入っていた気がする。理由は覚えていない。誰かにこの花で花冠を作ってもらったことがあったからだっけ。
「そうだったのか。この花は凄く可愛らしい。女の子といる間、全く違う世界に行っていたように、街並みも変わった場所にいた。そのおかげか、不思議とアンドロイドが一体も見当たらなかっただ。……この花を貰った後、吹雪に襲われて女の子と逸れてしまった。探してみたものの、見つけることが出来なくて、諦めようとしていた。そしたら冴耶が居たんだ」
「なんだかまるで私とその子が入れ替わったみたいですね」
「そうだな。これも何かの運命なのかもな」
笑いながら、持っていた花を優しく机に乗せる。
こんな身近なものでも、人を笑顔にする事ができるんだなぁ。私は、無意識に嬉しく思っていた。
私の庭にあった同じ花なのに、どこか特別感が感じられる。見ていると凜と咲く小さな花が、一生枯れてほしくないと願ってしまう程、可愛くて、美しい。
「小さな事のようだけど、この花は枯れてほしくない。けど、生命はやがて尽きるものだ。今の日本には、生命を不死にすることはできない」
確かに、命の道はどこかで途切れる。でも、それでも……
私は、鞄に入れていたあの怪しい店から買ったペンタスの氷花を手に取り、空澄さんに渡した。
「これは?」
「氷花っていう、花を氷で完全に包んだ球です。小さいですが、結構長持ちするらしいです」
「それを、どうして俺に……」
「命はやがて尽きます。それはどうしようもできないです。でも、尽きる|時間《とき》を遅らせる事は出来るんです。生命が早く尽きてしまうより、何倍も長くて、何倍も綺麗に咲いていた方がいいでしょう。私は空澄さんがどう考えて生きているのか分からないですが、空澄さんが少しでも気が楽になれるようにしたいんです」
桃色の花びらが、透き通るように氷の中で反射し、淡いピンク色の光が散って見える。
空澄さんは、氷花を両手で優しく包み、膝の上に乗せると、微笑んだ。
ただ微笑んだんじゃない。優しく、嬉しそうで、少し、寂しいように。
「ありがとう。大切に持っておくよ。代わりというか何というかなんだけど、この花を、貰っておいてくれないか。」
「え、良いんですか? 空澄さんが貰ったものなのに……」
「良いんだ。それは、何となく冴耶が持つべきものだと思うんだ。それに、誰か探している人が居るんだろう?」
確かに探しているあの人のヒントになるかもしれないけど……ってなんでわかったのだろう。
「どうしてそれを……」
「何となく。思い込みかな。もしかしたら、俺にも何かわかるかもしれない。誰を探しているの?」
あの人の事を話した事はない。本当に言っていいのか不安になりながらも、あの人が見つかるならと思い、指に付けていた指輪を外して手のひらに乗せた。
私が過去の人間であることを言わないと、あの人について伝わらないかもしれない。
「私が探している人は空澄さんにはわからないかもしれません。実は過去の日本から来たんです。信じてもらえないかもですが」
「過去の日本からか……信じるよ。何か原因があるんだろう」
そして、指輪を見せる。
何故か分からないけれど、空澄さんは指輪を見て非常に驚いたような顔をした。
「それは……」
「これは、私が5歳ぐらいの時、ある人が私にくれたものです。名前とか年とか見た目はもう忘れてしまっているけど、とても優しくしてくれたんです。5歳って、凄く小さくて感情が自分ではコントロールしにくい年なんだろうけど、あの人と居ると、気持ちが和らいで楽しくて、ドキドキしたんです。恋って言うのかは分からないですが」
私がそう言うと、空澄さんは立ち上がり、私をソファーに座らせて指輪を取って私の左手薬指に通した。
この光景を、私は少しだけ、思い出す。
雪がちらちらと降っているのに空は青空の風花の日。はぁーと息を吐くと白い煙が宙に浮かび、消えていく。後ろから肩を叩かれ、振り返ると微笑んでこちらを見るあの人。私は燥いで抱き着き、あの人は私の頭を優しく撫でる。すると、あの人はポケットから指輪を取り出して、凍えて指先が紅く染まった私の左手薬指に通した。そして、あの人と別れてしまう前の最後の言葉を言った。
「『これをあげよう。いつか、キミの願いが叶うように祈ってる。』」
記憶の中のあの人の言葉が、空澄さんの声と重なった。
「この視点、覚えてない?」
そして、空澄さんは、優しく私の頭を撫で始める。
撫でられた瞬間に、ほろほろと勝手に涙が視界をぼやかした。
あの人は……空澄さんだったんだ。
空澄さんも、一度過去の日本に来て、5歳の私と出会った。
そして戻ったときに、偶然にも私と出会う。
こんなの偶然なんかじゃない。この世界が決めた、運命だ。
涙目でも空澄さんを見ると、記憶のあの人が彩られていった。