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ー/ー



「わたしはただの人間です。どうか元の姿に戻してください」

「今の姿は邪な魔法によるものだと?」

「許可もなく勝手に森へ入った罰だと思っています」

「なんと愚かな。おまえは自らが何者であるかさえ、思い出せないと言うのか」

 その声には十分な哀れみが含まれていたけれど、朱夏にはもう、言葉の真意を問い質す気力も体力もなかった。ただ、ママと暮らしている家に帰りたいという気持ちだけ残っていた。

「お願いです。命だけは助けてください……」

 森の主――おそらく竜は、しばらく考え込んでいた。やがて静かに言った。

「魔性とて、その命は決して軽んじてはならぬもの。なによりこのわしが、生き物の生き死にには無闇に関わらぬと誓い立てているのだからな。おまえの願い通り、森の外へ送り出してやろう。ただしこの森のなかで見たこと聞いたことはすべて夢物語となる。命終わるその日まで、せいぜいよく生きるがいい」

 朱夏はお礼を述べたような気がするが、意識を失ってしまい、声になっていなかった。
 魔法の力で森の外へ帰された朱夏のそばには、あわてて飛んできた赤い蝶と青い蝶が舞い降りた。二匹は祈るような瞳で朱夏の顔を見つめていた。


END




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「わたしはただの人間です。どうか元の姿に戻してください」
「今の姿は邪な魔法によるものだと?」
「許可もなく勝手に森へ入った罰だと思っています」
「なんと愚かな。おまえは自らが何者であるかさえ、思い出せないと言うのか」
 その声には十分な哀れみが含まれていたけれど、朱夏にはもう、言葉の真意を問い質す気力も体力もなかった。ただ、ママと暮らしている家に帰りたいという気持ちだけ残っていた。
「お願いです。命だけは助けてください……」
 森の主――おそらく竜は、しばらく考え込んでいた。やがて静かに言った。
「魔性とて、その命は決して軽んじてはならぬもの。なによりこのわしが、生き物の生き死にには無闇に関わらぬと誓い立てているのだからな。おまえの願い通り、森の外へ送り出してやろう。ただしこの森のなかで見たこと聞いたことはすべて夢物語となる。命終わるその日まで、せいぜいよく生きるがいい」
 朱夏はお礼を述べたような気がするが、意識を失ってしまい、声になっていなかった。
 魔法の力で森の外へ帰された朱夏のそばには、あわてて飛んできた赤い蝶と青い蝶が舞い降りた。二匹は祈るような瞳で朱夏の顔を見つめていた。
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