表示設定
表示設定
目次 目次




約束

ー/ー



 大きな荷物が届いた。
 段ボール箱をびりびり破り、圧縮袋に入った蒲団を取り出す。赤い縞模様の敷蒲団と上掛けである
 袋には「即寝」という商品名が書かれている。
「これこれ」
 とオレは呟いた。「横たわったとたん、すぐ落ちる」というのがキャッチコピー。オレはうまくキャッチされてしまった客というわけだ。
 睡眠の質が大事だという話をよく聞く。
 とくに重要なのは深い眠り。これが少ないと、体力や免疫力が回復せず、脳の老廃物も除去されない。
「脳の老廃物って認知症の原因になるやつじゃないか。やべえ」
 話を聞いたとき、オレは身震いした。
 だが不安を煽るだけで、誰も深く眠る方法を教えてくれない。そんなうまい方法はない、というのだ。
 困っていたオレの脳を直撃したのが「横たわったとたん、すぐ落ちる」だった。
 それはさぞかし深い眠りに違いない。
 オレはさっそく蒲団を取り替え、眠る準備に入った。
 入眠にいいと聞いて温かいミルクまで用意した。
 飲み干して、上掛けをめくり、なかに入る。
 室内灯を消す。
 即寝に横たわった瞬間、意識が落ちた。
「ヨコヤマさん、ヨコヤマさん、横山さんっ」
 声がだんだん大きくなって、オレは目を開いた。
 目の前に管理人の皺だけらの顔があった。
 オレは蒲団から引きずり出され、絨毯の上に転がっている。
「ヨコヤマさんねえ、これのこと知らないの?」
「これって、即寝のこと?」
「大騒ぎになっているよ」
「どういうことですか」
「すぐ寝落ちするのはいいけど、眠りが深すぎて目が覚めないって。もう何人も死んだって、毎日、テレビで報道されてるよ」
 ニュースを見ないオレはなにも知らなかった。
「この蒲団、睡眠薬代わりに使っている人もいるけど、見守り人がいないとダメですからね。わたしゃ、心配してたんだ」
「よくわかりましたね」
「管理会社から独身者の部屋をチェックしろって業務命令が来て、まずあんたのところに来たらこの始末だ」
「お騒がせして申し訳ない」
「静かになっちまったから問題なんだよ」
「そのとおりで」
 粗大ゴミ置き場に即寝が溢れた。開発メーカーは倒産した。
 即寝はもう手に入らない。
 みんな、過剰反応だと思う。
 うまく使えばこんな便利な寝具はない。
 オレは週の半分は即寝を使っている。
 翌朝、
「しょうがねえなあ」
 と言いながら、管理人さんが起こしにきてくれるのだ。
 あとの半分は?
 もちろん、管理人室にある。オレがぐっすり眠っている管理人さんを起こしにいくのだ。




みんなのリアクション

 大きな荷物が届いた。
 段ボール箱をびりびり破り、圧縮袋に入った蒲団を取り出す。赤い縞模様の敷蒲団と上掛けである
 袋には「即寝」という商品名が書かれている。
「これこれ」
 とオレは呟いた。「横たわったとたん、すぐ落ちる」というのがキャッチコピー。オレはうまくキャッチされてしまった客というわけだ。
 睡眠の質が大事だという話をよく聞く。
 とくに重要なのは深い眠り。これが少ないと、体力や免疫力が回復せず、脳の老廃物も除去されない。
「脳の老廃物って認知症の原因になるやつじゃないか。やべえ」
 話を聞いたとき、オレは身震いした。
 だが不安を煽るだけで、誰も深く眠る方法を教えてくれない。そんなうまい方法はない、というのだ。
 困っていたオレの脳を直撃したのが「横たわったとたん、すぐ落ちる」だった。
 それはさぞかし深い眠りに違いない。
 オレはさっそく蒲団を取り替え、眠る準備に入った。
 入眠にいいと聞いて温かいミルクまで用意した。
 飲み干して、上掛けをめくり、なかに入る。
 室内灯を消す。
 即寝に横たわった瞬間、意識が落ちた。
「ヨコヤマさん、ヨコヤマさん、横山さんっ」
 声がだんだん大きくなって、オレは目を開いた。
 目の前に管理人の皺だけらの顔があった。
 オレは蒲団から引きずり出され、絨毯の上に転がっている。
「ヨコヤマさんねえ、これのこと知らないの?」
「これって、即寝のこと?」
「大騒ぎになっているよ」
「どういうことですか」
「すぐ寝落ちするのはいいけど、眠りが深すぎて目が覚めないって。もう何人も死んだって、毎日、テレビで報道されてるよ」
 ニュースを見ないオレはなにも知らなかった。
「この蒲団、睡眠薬代わりに使っている人もいるけど、見守り人がいないとダメですからね。わたしゃ、心配してたんだ」
「よくわかりましたね」
「管理会社から独身者の部屋をチェックしろって業務命令が来て、まずあんたのところに来たらこの始末だ」
「お騒がせして申し訳ない」
「静かになっちまったから問題なんだよ」
「そのとおりで」
 粗大ゴミ置き場に即寝が溢れた。開発メーカーは倒産した。
 即寝はもう手に入らない。
 みんな、過剰反応だと思う。
 うまく使えばこんな便利な寝具はない。
 オレは週の半分は即寝を使っている。
 翌朝、
「しょうがねえなあ」
 と言いながら、管理人さんが起こしにきてくれるのだ。
 あとの半分は?
 もちろん、管理人室にある。オレがぐっすり眠っている管理人さんを起こしにいくのだ。


おすすめ小説


おすすめ小説