青く光るふわふわモフモフ。
緑色の瞳がキュートに輝く。
それがミチルの|愛犬《カリシムス》、ルーク!
「い、犬になった……だと?」
ジンは細い目を全開して驚いていた。
「さっすがミチル! 斜め上を行く奇跡!」
アニーはピュウと口笛を鳴らして褒める。
「は、はは……やっぱミチルはおもしれえや」
エリオットも脱帽して笑うしかない。
「あの犬……やるぞ」
曇りなき目で見抜くジェイの見立ては正しかった。
ワンワンワンワン!
犬ルークが吠えると、ベスティンクスは途端に怯え始めた。
ニャ、ニャーオ……
ワワワン、ワンワン!
ニャ、ニャニャーオ……
砂漠には一気に「ワンちゃん猫ちゃん大集合!」的な、のほほん空気が立ち込める。
しかしそう思うのは人間だけであって、ワンちゃんも猫ちゃんも必死なのであった。
ウー、ワンワンワン!
ニャ、ニャニャニャ……ッ!
「ルーク、セット!」
ミチルの掛け声が飛ぶ。
犬ルークはサッと頭を下げて、狙いを定め、走る準備を始める。
その鋭い視線に、ベスティンクスは恐怖で固まった。
なんだあんなネコ。
スフィンクスに比べたら阿呆だし、ネコ型バスよりも可愛くない。
もう、全然怖くないっ!
「ゴーーーーッ!!」
ミチルが叫びながら手を振った。
それを合図に犬ルークは颯爽と走り出す。
そう! まさに! 一陣の青い風……
ワオオオオーン……!
犬ルークはベスティンクスの喉笛ににがぶり、と噛みついた。
見事なジャンプ、見事な牙である。
ベスティンクスは最期だと言うのに「ニャア」とも言わずに、足元から崩れた。
ボロボロ黒い破片になって、その破片は音もなく霧となって消える。
後に残ったのは、勝利を手にしたワンちゃんだ。
「ルークッ!」
ミチルは両手を広げて駆け寄った。
お手柄ワンちゃんをよしよししてあげなくては!
「ワワーン!」
犬ルークも嬉しそうに尻尾を振ってミチルに飛びついた。
「うわあ!」
勢い余ってミチルを押し倒し、犬ルークはミチルの顔を舐め回す。
「あ、こら、くすぐったいよ!」
ペロペロワンワン!
「あっ、ちょっと……激しい……ッ」
ペロペロワンワン!
「あっ、待って、ああん、あっあっ、ああー!」
ペロペロワンワンワーン!!
「コラアッ! クソ犬がぁ!!」
ストップ、獣〇!
イケメン達が大慌てで犬ルークとミチルを離した。
ほっかほかのミチルは力が入らない。
「はあん……危ない扉が開くかと思った」
尻尾を勃てたままの犬ルークは、キュウンと鳴いて、その姿が青くぼやける。
それはどんどん大きくなって人型になった。
青い光が収まる頃には、人間の姿のルークが現れる。
「あ……ぼく、戻れた?」
本来の姿を取り戻し、呆然としているルーク。
ミチルはちょっとウルウルして、ルークに抱きつきたい衝動にかられる。
「ルークゥ!」
好きぃ……♡
だが、それを押し除けて。
「るぅうーぐぅうーっ!」
マグノリアの巨体がどーん。
「ふぐっ!」
ミチルは哀れにも吹っ飛ばされた。
「と、父さん……?」
「ルークゥ! 愛する息子よぉ! 良かった、本当によくやった! お前こそ我が家の誇り!」
お髭がジョリジョリでグリグリ!
「……」
ルークは何とも言えない顔をしている。
「あ、危なかったぁ……」
ミチルは我に返ってホッとしていた。
毎度毎度の吊り橋効果。今回もマジでやばかった。
「うう……」
黒い霧が晴れた場所から二人の人間が起き上がった。
ベスティンクスを形成していたのはもっと大人数だったが、生き残ったのは二人だけのようだ。
「何という事だ。我々は、負けたのか……?」
覚醒しきらない頭を抱えて困惑する彼らに襲いかかる、大きな影。
「よおー、パオーン。よおー、ピエーン。生きててくれて嬉しいぜえ♡」
「ヒッ、ルード……!」
哀れ、セクハラ盗み聞き坊主パオンとピエンは、あっという間にルードの操る大きな絨毯に簀巻きにされた。
「同志諸君! 反乱は成功だ! セイソン様とカリシムスに最大の敬意と忠誠をっ!」
ルードの大音声が響く。
民衆は歓声を上げてミチル達を讃えた。
「ハーッハッハッハ! ナーッハッハッハ!」
勝利の笑い声の中、砂漠に落ちる黒光りする一本の角。
それを真っ黒な鳥がサッと掴んで飛び立っていったのは、誰も気づかない。
「うん?」
そしてそれとは少し離れたところに、青く光る何かがルードの意識を捉えた。
ルードはそれを拾い上げてしばし眺めた後、弟に声をかける。
「ルーク!」
「ん?」
ルードは手の中のものをルークに投げる。それは大きく弧を描いてルークの手中に収まった。
「お前んだろ、それ!」
「これ……」
いつか見せてもらった「絆の青い石」。それによく似た石だった。
「うーわ、デスティニー・ストーンじゃん!」
覗き込んだアニーが、驚きと喜びと嫉妬を交えて叫ぶ。
「これが……」
ルークは喜びを噛み締めて手の中の青い石を見た。それに呼応するようにチェーンネックレスも鈍く光る。
「見事だった、歓迎しよう」
「ジェイさん」
「だが、ミチルは渡さない」
ジェイはライバルを認めて笑う。ルークもそれを受けてたった。
「……それは、ぼくもです」
ルークの決意の笑顔を見て、ジンもエリオットも複雑そうに笑う。
「ぬぬ……ペット枠とは、やるな」
「くそぉ、よしよしペロペロワンワンなんて卑怯だ……」
「勝った……」
ミチルはやっとそれを実感していた。
「オレ達、勝ったんだね……!」
これでまた、一歩前進……!
ミチルの心は晴れ晴れとしていた。
『やっと見つけた、プルケリマ=レプリカ』
「……え?」
その声は、少年のように高い声で。
何処から聞こえるのかまるでわからなくて。
『セイソンを召喚する』
朗々と響くその声とともに、ミチルの周りに青い羽根が飛んだ。
「……!」
なんで!?
オレ、くしゃみしてないよ!
いきなり青い羽根なんて初めてなんだけど!?
「マジかよ、ミチルッ!!」
エリオットの声が遠く聞こえる。
他のみんなの姿も遠い。
「ミチルー!!」
イケメン達が駆け寄る暇もなく、ミチルの姿は青い羽根とともに消えた。
「嘘だろ……」
呆然となる五人の頭に、不思議な声が響く。
『来たれ、カリシムスと共に』
次の瞬間、ジェイ、アニー、エリオット、ジン、そしてルークの周りにも。
「!!」
青い羽根が舞う。
五人を包み込んで、そのまま砂漠から消えた。
セイソンとカリシムスを讃える声の中。
向けられる者はもういない。
それでも砂漠はしばらく騒がしいままであった。
「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」
Meets05 優しいバーサーカー 了