皆さまこんにちは。
おらは死神……いや、前は死神をしてたけれども、今は宇迦之御魂神様の元で小間使いとして働いています。
先日、人間さん方に大変なご迷惑をおかけして、色々あってそのような立場に落ち着いた次第にございます。
そして現在、おらはとある神域でウカ様の住まうお家の掃除をしているところです。
人間さん方のところでいう、神社建築の神宮のような形。
見た目こそそんな感じでございますが、中に入ると不思議なもので、外観よりもとっても広かったりします。高位の神様というのは、住む場所も不思議なものなのですねぇ。
「こんにちはー」
あらためて観察をしながら玉垣を拭いていたところ、入口から呼びかける声がありました。
急いで向かうと……そこにいたのは以前お世話になった覆面の人間さん、纏《マトイ》様のお姿がございました。
「こ、こんにちは、纏様。ようこそいらっしゃいました!」
「あァどうも。そんなに固くならずに、楽に話していいですよ。こう見えて人間ですから」
頭を下げて迎えると、纏様は軽く手を振りながら優しく言葉を掛けてくださいました。
そう言われましても、この方は人間さんながらウカ様のご友人。楽にせよと言われたところで背は伸びてしまうものでございます。
しかし、ご厚意を無下にするのも如何なものか、という葛藤の末、言われた通りに喋り方を変えてみることにしました。
「で、ではお言葉に甘えまして……ようこそ来なすったなぁ。だども今ウカ様は、そのぉ……」
「分かってますよ。どうせ中で酒飲んで寝てンでしょ?」
おらが言い淀んでいると、纏様はずばりと当ててしまいました。
流石はご友人、お見通しのようですね。
「申し訳ありません。その、起こえた方がええですか?」
「ンや、疲れてるだろうし伝言でいいですよ。それに、用があったのはウカだけじゃないンで」
「と、言いますと?」
「貴方に届け物です。はい」
……おらに?
よく分からないまま紙の袋を受け取って、中身を確認すると……
「菓子と……手紙?」
「この前の学生方からです。呪いを封じていた件でお礼を、と」
「そんな! むしろおらは迷惑かけて、謝らないけん立場なのに」
「自己都合の末にあった偶然の行動だったとしても、呪いの脅威から全員を守ったり、《《去年あの二人の命を救った》》のは事実でしょう。受け取ってあげてください」
「……わかりました」
纏様の言葉を受け、頷きます。
なんて優しい子達でしょうか。あの人間さん方からすれば、おらは呪いを身に纏って魂を奪い取った、邪悪な神と思われていても仕方がないと思っていたのに……まさか、お礼の手紙だなんて。
ああ、それに……
「あの二人が生きちょって、本当によかったぁ……」
安堵しながら、袋を胸に抱きました。
保健室とかいう場所で見た、あの二人の姿。そして、この手紙。
少年と少女を《《救うことができた》》のだと実感できて、本当に嬉しくなってしまいました。
「いつかまた会った時、事情をあの子らに話してやってください。……《《話せる時に話しておかないと》》、《《意味がありません》》から」
ついこの前の光景に心を寄せたところで、纏様が呟くように言いました。
まるで実感の籠ったような物言いはどこか陰を感じられます。……過去に何かあったのでしょうか?
と、そんな風に纏様の見えない表情を窺っていると、一つ気になることを思い出しました。
「あのぉ、一つお聞きしてえんだども」
「なんでしょうか」
「呪いでおかしくなったおらとやり合った時、纏様が持っちょった白い武具。形は変わっちょりましたけんど、もしかしてあれは、神殺しの……」
「待った。それ以上は言わない方が身のためですよ?」
「あ、はい」
言い切る前に手で制止させられて、思わずより背筋を伸ばして返事をしてしまいました。
どうやらこの件については触れない方がいいみたいですね。
「そこはともかくとして、ウカに伝言頼んでもいいですか? そろそろ行かないといけないので」
「あぁ、そうなんですか。そぉで、なんて伝えらええだらす?」
「《《キリの状態》》はもう少し経過観察が必要だって話が一つ。それから──
───最近、キリの周辺で異変が起こり過ぎてる。近いうちに神側《そっち》で妙な動きがないか調べさせてもらう、と」