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飲酒神による愚痴の塊

ー/ー






「おえええぇぇぇおろろろろろ……ぐぉぉぇっ……」



 体育祭が終わって一週間が経った土曜日の朝。
 社の前で僕が掃除をしている傍ら、土地神様は境内の端で汚いマーライオンと化していた。

「キリさん、飲みすぎです。それ自分で片付けといてくださいよ?」
「ぁぃずびばぜん。うっぐ……」
「キリチャン、Waterをお飲みヨ」

 嘔吐くキリさんにサラがペットボトルを差し出す様子を見ながら、塵取りで葉っぱを集めていく。
 朝っぱらからなんつー光景だ。どうしてこんなことになってしまったのやら……。

 ……というのも、体育祭の日に起きた件について、キリさんはほとんど何もできなかったと後悔しているようだった。
 実際は結界を張ったり、呪いに覆われた死神さんと対峙したり……最終的に封印を施したのも彼女なのだから、活躍してないとは言えないと思うんだけどなぁ。

 しかしそんなフォローを入れたところでこの酔っ払いは納得せず、こうして一升瓶を片手に呑んだくれているのである。

「キリチャン、イロイロしてくれたじゃナイ。自身持ってヨ!」
「慰めはいいんよぉ、自分でも分かっとるんじゃけえ……。全然、私がいらんかったってことくらい自分で分かってぇ……」
「飲みスギだヨ、キリチャン。ほらモットWater飲んで……あ、やべっ。コレお酒だった」
「なんで燃料追加してんだお前。キリさんもそれ飲まないようにうわすげえ勢いで飲んでる怖っ」

 やんわりと止めようと思ったら、土地神様は真顔で一心不乱に飲んでいらっしゃった。
 意地でも瓶を離さない姿は神様というよりも妖怪なんかの類にしか見えない。

「き、キリチャン離して! こっちのおミズ飲んで!」
「んぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐ」

 サラの奮闘空しく、必死に両手で瓶を傾ける土地神様は身体が発光している。
 なんつーしょうもない神通力の使い方だ。マトイさんがいたら確実にシバかれてるだろうな。

「はぁっ……先月もそうじゃったけど、マトイが来てからはほとんど任せっきり。私は右往左往して、なんにも……なんにもぉぉ……」
「そんなことないですって。前も今回もキリさんがいないと解決はできなかったんですから。ほら、誓約とか勝負の内容決めてくれたりとかしてくれましたし」
「実際に勝負をしたのは二人じゃったし、その後も封印に失敗して……その尻拭いもマトイがほとんどやって、私は仕上げをちょっとやったぐらいのもんじゃし……私は力も効かんで、なんなら盆提灯先生の方が……ああぁぁ私は役に立たずの神ぃ…………」
「面倒臭えな。サラ、もうその水頭からぶっかけてやれ」
「OK!」(バッシャァ!)
「ぶあぁぁ!?」

 流石は榎園サラ。神様が相手でもノータイムで実行とはやりおる。



 色々とバカらしいやりとりがあったりしつつ、なんとか今日の掃除は無事終了。
 片付けを終えてから、あの後結局酔い潰れてしまったキリさんを背負って下山することになったのだった。

「セッチャンダイジョブ? キリチャンのコト、任せちゃってゴメンネ」
「いや、サラこそ荷物持ってくれてありがとな。……てかキリさん、めちゃくちゃ軽くて不安になるんだけど。ホントに背負えてる?」

 全く重さがないわけじゃないけど、キリさんの大きさに対して、背中にかかる重さが明らかに軽すぎる。神通力で身体を浮かせてるのかと疑ってしまうくらいだ。
 痩せてるからとかいうレベルの軽さじゃないし……こういう違いなんかも神様だからこそなのかな。

「……活躍できなかったナンテ言ってたケド、そんなコトナイのにネ」

 不安なくらい軽い貨物神様を運びながら歩いていると、隣を歩くサラが呟いた。

「たしかに、マトチャンがイッパイガンバッテくれたのはそのトーリだけどさ。キリチャンだってホントに助けてくれた。ナンデそんなに気にするんだろネ?」
「まったくだな。なんでこんなに自信がないんだか……」

 以前からそうだけど、キリさんは基本的に自分の評価を極端に低く見積もる傾向が強い気がする。
 容姿も実力も、もっと胸を張っていいと思うのに……どうしてここまで後ろ向きなのやら。
 もしかすると、マトイさんへの想いをなかなか認めないのもそこが起因しているのかもしれないな。

「ぅうう気持ち悪ぅ……お役に立てず面目次第もぉぉ……」

「「…………」」

 背中から聞こえたキリさんの呻きに思わず真顔になる。
 ……頼むから僕の背中で吐かないでくださいよ?

 そんな祈りを胸の内に、なんとか問題なく山道を降りることができた。
 それから榎園家へ向かおうとしていると、

「おお、丁度帰ってきたね。会えて良かった」

 と、玄関前で立っていた人物に声をかけられた。
 待っていたのは……つい先週出会った漫画家、盆提灯先生だった。

「ボンチョサンだ! コンチハ!」
「こんにちは。どうしてここに?」
「少しキリ氏に頼み事というか、提案したいことがあってね。ああ、眠っているのなら後で伝える形で構わないよ」

 くふ、と不敵に笑みを見せる三つ編みの先輩に僕らは首を傾げた。
 土地神様(キリさん)への頼み事だけなら怪異関係かな、なんて多少は想像も働くけど……提案というのはなんだろう。

「いや何、嫌なら断ってくれても構わない話なんだけどね──




 ───当方の元で少し、アルバイトをしてみないか……とね」




「「…………え?」」

 突然の提案に、僕とサラから呆けた声が出る。
 そんな僕らの後ろで、当の神様は穏やかな寝息を立てるのだった。




【競技、退治編】 終。


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 体育祭が終わって一週間が経った土曜日の朝。
 社の前で僕が掃除をしている傍ら、土地神様は境内の端で汚いマーライオンと化していた。
「キリさん、飲みすぎです。それ自分で片付けといてくださいよ?」
「ぁぃずびばぜん。うっぐ……」
「キリチャン、Waterをお飲みヨ」
 嘔吐くキリさんにサラがペットボトルを差し出す様子を見ながら、塵取りで葉っぱを集めていく。
 朝っぱらからなんつー光景だ。どうしてこんなことになってしまったのやら……。
 ……というのも、体育祭の日に起きた件について、キリさんはほとんど何もできなかったと後悔しているようだった。
 実際は結界を張ったり、呪いに覆われた死神さんと対峙したり……最終的に封印を施したのも彼女なのだから、活躍してないとは言えないと思うんだけどなぁ。
 しかしそんなフォローを入れたところでこの酔っ払いは納得せず、こうして一升瓶を片手に呑んだくれているのである。
「キリチャン、イロイロしてくれたじゃナイ。自身持ってヨ!」
「慰めはいいんよぉ、自分でも分かっとるんじゃけえ……。全然、私がいらんかったってことくらい自分で分かってぇ……」
「飲みスギだヨ、キリチャン。ほらモットWater飲んで……あ、やべっ。コレお酒だった」
「なんで燃料追加してんだお前。キリさんもそれ飲まないようにうわすげえ勢いで飲んでる怖っ」
 やんわりと止めようと思ったら、土地神様は真顔で一心不乱に飲んでいらっしゃった。
 意地でも瓶を離さない姿は神様というよりも妖怪なんかの類にしか見えない。
「き、キリチャン離して! こっちのおミズ飲んで!」
「んぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐ」
 サラの奮闘空しく、必死に両手で瓶を傾ける土地神様は身体が発光している。
 なんつーしょうもない神通力の使い方だ。マトイさんがいたら確実にシバかれてるだろうな。
「はぁっ……先月もそうじゃったけど、マトイが来てからはほとんど任せっきり。私は右往左往して、なんにも……なんにもぉぉ……」
「そんなことないですって。前も今回もキリさんがいないと解決はできなかったんですから。ほら、誓約とか勝負の内容決めてくれたりとかしてくれましたし」
「実際に勝負をしたのは二人じゃったし、その後も封印に失敗して……その尻拭いもマトイがほとんどやって、私は仕上げをちょっとやったぐらいのもんじゃし……私は力も効かんで、なんなら盆提灯先生の方が……ああぁぁ私は役に立たずの神ぃ…………」
「面倒臭えな。サラ、もうその水頭からぶっかけてやれ」
「OK!」(バッシャァ!)
「ぶあぁぁ!?」
 流石は榎園サラ。神様が相手でもノータイムで実行とはやりおる。
 色々とバカらしいやりとりがあったりしつつ、なんとか今日の掃除は無事終了。
 片付けを終えてから、あの後結局酔い潰れてしまったキリさんを背負って下山することになったのだった。
「セッチャンダイジョブ? キリチャンのコト、任せちゃってゴメンネ」
「いや、サラこそ荷物持ってくれてありがとな。……てかキリさん、めちゃくちゃ軽くて不安になるんだけど。ホントに背負えてる?」
 全く重さがないわけじゃないけど、キリさんの大きさに対して、背中にかかる重さが明らかに軽すぎる。神通力で身体を浮かせてるのかと疑ってしまうくらいだ。
 痩せてるからとかいうレベルの軽さじゃないし……こういう違いなんかも神様だからこそなのかな。
「……活躍できなかったナンテ言ってたケド、そんなコトナイのにネ」
 不安なくらい軽い貨物神様を運びながら歩いていると、隣を歩くサラが呟いた。
「たしかに、マトチャンがイッパイガンバッテくれたのはそのトーリだけどさ。キリチャンだってホントに助けてくれた。ナンデそんなに気にするんだろネ?」
「まったくだな。なんでこんなに自信がないんだか……」
 以前からそうだけど、キリさんは基本的に自分の評価を極端に低く見積もる傾向が強い気がする。
 容姿も実力も、もっと胸を張っていいと思うのに……どうしてここまで後ろ向きなのやら。
 もしかすると、マトイさんへの想いをなかなか認めないのもそこが起因しているのかもしれないな。
「ぅうう気持ち悪ぅ……お役に立てず面目次第もぉぉ……」
「「…………」」
 背中から聞こえたキリさんの呻きに思わず真顔になる。
 ……頼むから僕の背中で吐かないでくださいよ?
 そんな祈りを胸の内に、なんとか問題なく山道を降りることができた。
 それから榎園家へ向かおうとしていると、
「おお、丁度帰ってきたね。会えて良かった」
 と、玄関前で立っていた人物に声をかけられた。
 待っていたのは……つい先週出会った漫画家、盆提灯先生だった。
「ボンチョサンだ! コンチハ!」
「こんにちは。どうしてここに?」
「少しキリ氏に頼み事というか、提案したいことがあってね。ああ、眠っているのなら後で伝える形で構わないよ」
 くふ、と不敵に笑みを見せる三つ編みの先輩に僕らは首を傾げた。
 土地神様《キリさん》への頼み事だけなら怪異関係かな、なんて多少は想像も働くけど……提案というのはなんだろう。
「いや何、嫌なら断ってくれても構わない話なんだけどね──
 ───当方の元で少し、アルバイトをしてみないか……とね」
「「…………え?」」
 突然の提案に、僕とサラから呆けた声が出る。
 そんな僕らの後ろで、当の神様は穏やかな寝息を立てるのだった。
【競技、退治編】 終。