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◇番外◇ erzählend ~和矢カタルシス

ー/ー



『ほら、あの子だよ。入学式で代表挨拶した子。噂ではIQ190もあるって』
『何でこの学校へ来たの? 確か宮城に東北で一番の進学校あるよね』
『ラクするためだろ。ここなら競争なんてせずとも、自分がトップになれるからな』

 ……何とでも言うがいいさ。僕は自分のために、この学校に来たんじゃない。
 君たちとは違うんだ。


 僕は、陸前和矢。幼い頃から頭は良かったらしい。確かに幼稚園で百科事典を読んでいて、先生や周りの子を絶句させた記憶はある。
 小学校に上がっても知的好奇心を満たすように、勉学へ夢中になってのめり込んだ。心配した両親が色々勧めた中で、唯一ピアノの音にだけ感銘を受け、今も習い続けている。

 この春から岩手にある高校附属の中学へ通う僕は、ある人物を探していた。詳しい住所までは分からないけど、この地域に住んでいることは確かだ。暇を見つけては探索すること早2ヶ月、今日もスマホを片手に僕は慣れない町を彷徨っている。
 探し人について知っていることは顔と姓と、男性ということだけ。歳や何をしている人なのかは不明だ。それに見つけたとして、初対面の相手に一体何を話せば良いのやら……。

 そんな不安を抱えながら、住宅地の角を曲がった時だった。

「ウソじゃないのだ、本当なのだ!」

 どこからか男の子の悲鳴がして辺りを見渡した。すると公園の一角で、分かりやすく男の子が集団でイジメをしている現場を目の当たりにする。
 一人を中央に転がせて、四方から殴る蹴るの暴行……いやいや、それはヤバいって。僕はスマホを胸ポケットに入れて駆け寄った。

「君たち、何をしているんだ!?」

 小学3~4年生ぐらいの少年たちを掻き分けて、僕は被害に遭っている子の前に立ち塞がった。リーダー格の少年が面白くなさそうに僕を見下ろす。

「だって殴っても大丈夫なんだもん、コイツ。怪我しても何故か次の日には治ってるし。キッショ~」

 怪我がすぐに治る、だって?
 その言葉を聞き、僕は背後にいるその子の顔をチラリと見る。

 〝僕自身〟は初めて会う子だった。でも顔を見た途端に、体中を稲妻のような衝撃が走る。黒髪に漆黒の瞳の彼は、記憶の中にある〝彼〟の面影を残し、本能が「見つけた」と叫んでいた。怪我がすぐに治るのは、僕らが持つ特殊能力を使っているのだろう。

 そう、彼こそが〝探し人〟。
 まさか自分より年下がいたとは、想定外だ。

 今すぐ彼と話をして確かめたいけど、まずは反省の色が見えないこの少年たちを何とかしなくては。いっても相手は小学生、難しいことは不要だ。
 僕は機転を利かせて胸ポケットからスマホを取り出し、彼らを写真に撮った。

「君たち、暴行罪って知ってる? 人を殴るのは立派な犯罪なんだよ。僕はこれからお巡りさんに〝写真の子たちを捕まえて〟って頼みに行くね。君たちは一生牢屋の中で暮らすことになるだろう」
「ぼっ、ボーコーザイ?」
「一生牢屋、って……僕イヤだよ!」

 暴行罪の意味は分からないようだけど、〝一生牢屋〟という言葉は効いたらしい。彼らの表情が一瞬で真っ青に変わる。

「それが嫌なら……、さっさと家に帰って宿題でもしてな」

 極めつけに殺気をまとわせて睨みつければ、少年たちは弾け飛ぶポップコーンのように退散した。小さくなる背中を見送って溜め息を吐き、僕は背後を振り返る。
 顔や体中が傷だらけの彼は、真っ直ぐとした漆黒の瞳で僕を見上げた。見るからに痛々しく、胸が張り裂けそうになる。少年と目線を合わせるよう片膝をついて腰を落とし、ハンカチを差し出した。

「大丈夫? えっと、その、君は――」
「……お兄さん。もしかして陸前さん、なのだ?」

 僕の言葉は遮られ、逆に質問を受けてしまった。しかし彼からの問いは、僕が聞きたかった答えのようなものだ。

「うん、そうだよ。君は陸中君だね」

 そう呼ぶと、小さな頭がコクンと一度前後した。

 ――これが国守護楽団(ブリッランテ)の生まれ変わりである僕と彼、陸中広との出会い。


 それから僕たちは、近くにある緑地公園の河原に向かった。夕暮れ間近な太陽の光を受け、水面は宝石箱のように輝いている。僕と陸中君は河川敷に並び、体操座りで腰掛けた。

 早速、何故あんな酷いことをされていたのか尋ねると、彼は絆創膏まみれの横顔で水面を見つめながら「動物と話せることがバレたからなのだ」と言った。ちなみに〝~なのだ〟という語尾は、子供である今の彼だけの口癖である。
 彼は前世で動物使いだった。様々な動物と〝念〟で会話し、力を借りることができるのだ。最初は秘密にしていた彼だけど、猫に話しかけていた同級生の女子を前に格好つけてバラしてしまい、あっという間に噂が広まった。女子たちには一躍人気者となったが、それに嫉妬した思春期男児たちは、陸中君を嘘吐き呼ばわり。果てはイジメへと発展したわけだ。

 でも僕はそこで疑問が浮かんだ。前世の能力が開花しているなら〝あの力〟も使えるはずでは?

「陸中君、使役している動物はいないの?」
「いるのだ」

 彼は指笛を作ると、高らかに吹き鳴らした。するとどこからか赤毛と虎毛の二頭の秋田犬が駆けてきて、僕たちの前でお利口に並び座ったのだ。尻尾を振り、呼ばれたことが何とも嬉しそうだ。赤毛がソプラで、虎毛がテナーだと彼は教えてくれた。

 いるじゃないか、味方。確かこの二頭は人の姿になれるはずだ。
 ならどうして最大の武器である彼らを使わなかったのだろう? 僕が通りかからなければ、今頃どうなっていたことか。

 憤るあまり僕はそれを、強めに陸中君へ問いただしてしまった。驚いた彼の体がビクリと跳ね上がり、暴行を受けた後とは思えなかった澄まし顔に、初めて動揺の色を見せた。

「えっ? だだだってソプラとテナーは僕の友達で、アイツらをやっつけるためにいるんじゃないのだ! ただでさえ〝めすと〟と戦って、怖い思いさせてるのに……」

 立ち上がり、拳を握りしめて啖呵を切る陸中君。でも最後の言葉が途切れると、彼は唇を噛みしめて俯いてしまう。どうやら彼にとって二頭は〝戦いの道具〟ではなく、お互いに守り合う大切な存在のようだ。彼はまだ幼いから、与えられた力に対してそう思えるのだろう。

 甘いな、陸中君。それじゃメスト(奴ら)には勝てないんだよ。
 使命を果たすには、もっと自分自身を高めて、一人でも戦えるようにしないと。

「……君へ会いに来たのは、やっぱり間違いだったのかな」
「へっ……?」

 気の抜けた陸中君の反応にも構わず、膝を抱えて湧き上がる心の靄を必死に押し沈めた。

 僕が彼を探し始めたのは、ある人にそう言われたからだ。前世の記憶が戻った頃から、度々夢の中に出てくる女の人……そう、ブリッランテ総長の和泉様。

 ブリッランテとして恥じぬよう勉学に励み、あらゆる事態を想定して行動した。結果、友達と話す時間はほとんどなくなったけど、それは仕方のないことだ。〝イイよな、頭が良くて一人で何でもできるヤツは〟――そんな言葉を聞くたびに、心の感情に蓋をした。
 孤立する僕を心配してか、受験シーズン真っ只中に彼女から「陸中を探しなさい」と指示を受けた。確かその人は、前世で僕と一番親交があった仲間だ。彼も転生者に選ばれていたのだ。

 僕は一人でも平気だと思っていたけれど、和泉様の指示なら仕方がない。それに新しい場所へ行けば、僕を迫害してきた奴らからも解放される。そう思って陸中を探すべく、地元有名校の受験を辞退して岩手に来たのだ。
 でも結局、新しい中学校でも何も変わらなかった。僕のことを何も知らないで。僕は彼らとは違うのに。

 そしてやっと探し当てた陸中ですら、この通りだ。
 ……否。何を期待していたんだ、僕は。

「もういいよ。僕は一人でも戦えるし、一人のほうが楽だから……」

 僕の淡々とした言葉に、陸中君は何も反応しなくなってしまった。
 マズい、相手が小学生だということをすっかり忘れていた。年下相手に、ちょっと冷たすぎたか。

 恐る恐る陸中君の様子を横目で伺うと、案の定彼の目にうっすら涙が浮かんでいた。彼の言うことは分かってる。「ならずっと一人でいればいいのだ!」とか、そんなところだろう。
 でも次に彼が口にした言葉は、あまりに意外なものだった。

「……陸前さんは、僕に会いたくて、来てくれたんじゃなかったのだ?」

 震える声を押し出すように、彼はそう言った。

「僕はまだ〝ぶりらーて〟のことはよく、分からないのだ。でも陸前さんは、ずっと昔の僕が大好きだった友達ってことは、覚えてるのだ。だから頑張って戦えば、きっといつか、陸前さんに会えるって思……ッ」

 張り詰めていた糸が切れたように、陸中君は大声を上げて泣いた。その姿は歳相応で、そこらへんの小学生と何ら変わりはない。
 でも彼の言動は、僕の捻くれた心を打ち砕くには十分だった。ブリッランテという名称もきちんと言えないほど、何も分かっていない幼い彼が、戦うことに恐怖を抱かないわけがない。それでも必死に戦ってこれた力の源――それが僕だって?

「僕は、陸前さんに会えて、嬉しかったのだぁ~~~……! わぁあああ……」
「ッ――――」

 いた。僕にも、こんなに僕を想ってくれる人。
 ずっと一人だと思っていた僕は、()()ではなかった。

 本当は分かってた。でも強がってた。
 賢い僕は、感情に揺るがされちゃいけないんだって。それはワガママだって。
 でも、本当は僕だって、ずっと会いたかったんだ。

 陸中に……、和泉様に。……皆に!

「ごめっ……! ごめんね、陸中君。酷いこと言って、本当……ごめん」

 僕は大粒の涙を溢す陸中君を、そっと抱き締めた。
 握り返す小さな手は、とても温かかった。


◇ 

 殻に籠もって虚勢を張りまくっていた頃がもう懐かしい。今では広ともすっかり打ち解けて、友情以上の固い絆で結ばれているなんて、あの時の僕には想像もできなかった。
 和泉様……もとい和泉さんに実際会った時も、夢で何度も演奏してくれたヴァイオリンを耳にして、涙が零れた。前を向いていた和泉さんは知らないだろう。

「明日、乗り込むのか……心配だな」

 武蔵さんから電話で報告を受け、窓の外を見上げ呟く。明日、彼女たちは僕が見つけたメストのアジトに乗り込むという。流石に僕は簡単に駆けつけることができないから、無事を祈ることしかできない。まぁ、ピンチになったら転移術(ダル・セーニョ)の矢で呼ばれる可能性はあるけれど。

 孤独に囚われていた僕はもういない。あの日、僕の心を広が溶かしてくれたから。
 ようやく見つけた大切な仲間を、誰も失いたくない。

「神様、どうか和泉さんたちをお守りください」

 そう言って僕は、頭上に輝く満点の星空に祈りを捧げた――。



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 僕は、陸前和矢。幼い頃から頭は良かったらしい。確かに幼稚園で百科事典を読んでいて、先生や周りの子を絶句させた記憶はある。
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 どこからか男の子の悲鳴がして辺りを見渡した。すると公園の一角で、分かりやすく男の子が集団でイジメをしている現場を目の当たりにする。
 一人を中央に転がせて、四方から殴る蹴るの暴行……いやいや、それはヤバいって。僕はスマホを胸ポケットに入れて駆け寄った。
「君たち、何をしているんだ!?」
 小学3~4年生ぐらいの少年たちを掻き分けて、僕は被害に遭っている子の前に立ち塞がった。リーダー格の少年が面白くなさそうに僕を見下ろす。
「だって殴っても大丈夫なんだもん、コイツ。怪我しても何故か次の日には治ってるし。キッショ~」
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 そう、彼こそが〝探し人〟。
 まさか自分より年下がいたとは、想定外だ。
 今すぐ彼と話をして確かめたいけど、まずは反省の色が見えないこの少年たちを何とかしなくては。いっても相手は小学生、難しいことは不要だ。
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「ぼっ、ボーコーザイ?」
「一生牢屋、って……僕イヤだよ!」
 暴行罪の意味は分からないようだけど、〝一生牢屋〟という言葉は効いたらしい。彼らの表情が一瞬で真っ青に変わる。
「それが嫌なら……、さっさと家に帰って宿題でもしてな」
 極めつけに殺気をまとわせて睨みつければ、少年たちは弾け飛ぶポップコーンのように退散した。小さくなる背中を見送って溜め息を吐き、僕は背後を振り返る。
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「大丈夫? えっと、その、君は――」
「……お兄さん。もしかして陸前さん、なのだ?」
 僕の言葉は遮られ、逆に質問を受けてしまった。しかし彼からの問いは、僕が聞きたかった答えのようなものだ。
「うん、そうだよ。君は陸中君だね」
 そう呼ぶと、小さな頭がコクンと一度前後した。
 ――これが|国守護楽団《ブリッランテ》の生まれ変わりである僕と彼、陸中広との出会い。
 それから僕たちは、近くにある緑地公園の河原に向かった。夕暮れ間近な太陽の光を受け、水面は宝石箱のように輝いている。僕と陸中君は河川敷に並び、体操座りで腰掛けた。
 早速、何故あんな酷いことをされていたのか尋ねると、彼は絆創膏まみれの横顔で水面を見つめながら「動物と話せることがバレたからなのだ」と言った。ちなみに〝~なのだ〟という語尾は、子供である今の彼だけの口癖である。
 彼は前世で動物使いだった。様々な動物と〝念〟で会話し、力を借りることができるのだ。最初は秘密にしていた彼だけど、猫に話しかけていた同級生の女子を前に格好つけてバラしてしまい、あっという間に噂が広まった。女子たちには一躍人気者となったが、それに嫉妬した思春期男児たちは、陸中君を嘘吐き呼ばわり。果てはイジメへと発展したわけだ。
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「陸中君、使役している動物はいないの?」
「いるのだ」
 彼は指笛を作ると、高らかに吹き鳴らした。するとどこからか赤毛と虎毛の二頭の秋田犬が駆けてきて、僕たちの前でお利口に並び座ったのだ。尻尾を振り、呼ばれたことが何とも嬉しそうだ。赤毛がソプラで、虎毛がテナーだと彼は教えてくれた。
 いるじゃないか、味方。確かこの二頭は人の姿になれるはずだ。
 ならどうして最大の武器である彼らを使わなかったのだろう? 僕が通りかからなければ、今頃どうなっていたことか。
 憤るあまり僕はそれを、強めに陸中君へ問いただしてしまった。驚いた彼の体がビクリと跳ね上がり、暴行を受けた後とは思えなかった澄まし顔に、初めて動揺の色を見せた。
「えっ? だだだってソプラとテナーは僕の友達で、アイツらをやっつけるためにいるんじゃないのだ! ただでさえ〝めすと〟と戦って、怖い思いさせてるのに……」
 立ち上がり、拳を握りしめて啖呵を切る陸中君。でも最後の言葉が途切れると、彼は唇を噛みしめて俯いてしまう。どうやら彼にとって二頭は〝戦いの道具〟ではなく、お互いに守り合う大切な存在のようだ。彼はまだ幼いから、与えられた力に対してそう思えるのだろう。
 甘いな、陸中君。それじゃ|メスト《奴ら》には勝てないんだよ。
 使命を果たすには、もっと自分自身を高めて、一人でも戦えるようにしないと。
「……君へ会いに来たのは、やっぱり間違いだったのかな」
「へっ……?」
 気の抜けた陸中君の反応にも構わず、膝を抱えて湧き上がる心の靄を必死に押し沈めた。
 僕が彼を探し始めたのは、ある人にそう言われたからだ。前世の記憶が戻った頃から、度々夢の中に出てくる女の人……そう、ブリッランテ総長の和泉様。
 ブリッランテとして恥じぬよう勉学に励み、あらゆる事態を想定して行動した。結果、友達と話す時間はほとんどなくなったけど、それは仕方のないことだ。〝イイよな、頭が良くて一人で何でもできるヤツは〟――そんな言葉を聞くたびに、心の感情に蓋をした。
 孤立する僕を心配してか、受験シーズン真っ只中に彼女から「陸中を探しなさい」と指示を受けた。確かその人は、前世で僕と一番親交があった仲間だ。彼も転生者に選ばれていたのだ。
 僕は一人でも平気だと思っていたけれど、和泉様の指示なら仕方がない。それに新しい場所へ行けば、僕を迫害してきた奴らからも解放される。そう思って陸中を探すべく、地元有名校の受験を辞退して岩手に来たのだ。
 でも結局、新しい中学校でも何も変わらなかった。僕のことを何も知らないで。僕は彼らとは違うのに。
 そしてやっと探し当てた陸中ですら、この通りだ。
 ……否。何を期待していたんだ、僕は。
「もういいよ。僕は一人でも戦えるし、一人のほうが楽だから……」
 僕の淡々とした言葉に、陸中君は何も反応しなくなってしまった。
 マズい、相手が小学生だということをすっかり忘れていた。年下相手に、ちょっと冷たすぎたか。
 恐る恐る陸中君の様子を横目で伺うと、案の定彼の目にうっすら涙が浮かんでいた。彼の言うことは分かってる。「ならずっと一人でいればいいのだ!」とか、そんなところだろう。
 でも次に彼が口にした言葉は、あまりに意外なものだった。
「……陸前さんは、僕に会いたくて、来てくれたんじゃなかったのだ?」
 震える声を押し出すように、彼はそう言った。
「僕はまだ〝ぶりらーて〟のことはよく、分からないのだ。でも陸前さんは、ずっと昔の僕が大好きだった友達ってことは、覚えてるのだ。だから頑張って戦えば、きっといつか、陸前さんに会えるって思……ッ」
 張り詰めていた糸が切れたように、陸中君は大声を上げて泣いた。その姿は歳相応で、そこらへんの小学生と何ら変わりはない。
 でも彼の言動は、僕の捻くれた心を打ち砕くには十分だった。ブリッランテという名称もきちんと言えないほど、何も分かっていない幼い彼が、戦うことに恐怖を抱かないわけがない。それでも必死に戦ってこれた力の源――それが僕だって?
「僕は、陸前さんに会えて、嬉しかったのだぁ~~~……! わぁあああ……」
「ッ――――」
 いた。僕にも、こんなに僕を想ってくれる人。
 ずっと一人だと思っていた僕は、|独《・》|り《・》ではなかった。
 本当は分かってた。でも強がってた。
 賢い僕は、感情に揺るがされちゃいけないんだって。それはワガママだって。
 でも、本当は僕だって、ずっと会いたかったんだ。
 陸中に……、和泉様に。……皆に!
「ごめっ……! ごめんね、陸中君。酷いこと言って、本当……ごめん」
 僕は大粒の涙を溢す陸中君を、そっと抱き締めた。
 握り返す小さな手は、とても温かかった。
◇ 
 殻に籠もって虚勢を張りまくっていた頃がもう懐かしい。今では広ともすっかり打ち解けて、友情以上の固い絆で結ばれているなんて、あの時の僕には想像もできなかった。
 和泉様……もとい和泉さんに実際会った時も、夢で何度も演奏してくれたヴァイオリンを耳にして、涙が零れた。前を向いていた和泉さんは知らないだろう。
「明日、乗り込むのか……心配だな」
 武蔵さんから電話で報告を受け、窓の外を見上げ呟く。明日、彼女たちは僕が見つけたメストのアジトに乗り込むという。流石に僕は簡単に駆けつけることができないから、無事を祈ることしかできない。まぁ、ピンチになったら|転移術《ダル・セーニョ》の矢で呼ばれる可能性はあるけれど。
 孤独に囚われていた僕はもういない。あの日、僕の心を広が溶かしてくれたから。
 ようやく見つけた大切な仲間を、誰も失いたくない。
「神様、どうか和泉さんたちをお守りください」
 そう言って僕は、頭上に輝く満点の星空に祈りを捧げた――。