駅前のロータリー。
緩やかに降り始めた霧雨が、街灯の光に濡れて静かに煌めいていた。
「……じゃあ、今日はここで解散、かな」
風雅が誰に言うでもなくつぶやくと、由香がそれに応じて首を傾ける。
「明日もまた会うわけじゃないのに……なんか、変だよね。普通、もっと気まずくなるもんだけど」
「むしろ、さっぱりしてていいと思うよ」
創が口を挟む。「“次が決まってない”からこそ、自由だし」
慎はふっと笑う。
「またここで集まるのも、誰かの気まぐれでいい気がする。計画しないからこそ、面白い」
由真が、駅前の柱に背中を預けてぽつりと言った。
「……私は、次にまた会えたらいいなって、思ってます。誰が来るとか、そういうの抜きで」
「そうだね」
泉が傘を差しながら言う。
「今日みたいな日が、またどこかにあるって思えるだけで、ちょっと元気出るかも」
その言葉に、誰も返事をしなかった。ただ、どこかあたたかい沈黙が場を包んでいた。
「じゃあ、またね」
それぞれが、名前を呼ぶこともなく、手を振り合いながら散っていく。
最後まで残ったのは、風雅と杏奈だった。
「……帰らないの?」
「もう少しだけ、雨の音を聞いていたい」
杏奈のその言葉に、風雅は意外そうに眉を上げた。
「理屈じゃなく?」
「うん。理由はない。ただ、そうしたいだけ。……そういうの、最近やっと“許していい”と思えるようになったから」
風雅は笑った。
「そっか。じゃあ俺も、意味なくここにいる」
「それは……真似?」
「うん。たぶん、いい真似」
二人の間に、静かな時間が流れた。
「ねえ、風雅さん」
「ん?」
「今日って、なんだったんだろうね」
「うーん……“ちょっとだけ違う、普通の日”かな」
「……いい表現」
雨が止む気配はない。でも、その中で立っていることが、どういうわけか気持ちよかった。
「……また、会うかもね」
杏奈が言った。
「うん、“かも”がいいね。約束しないくらいが、ちょうどいい」
「そう思うなら、たぶん私はまた来る」
杏奈はそう言って、傘を広げた。
風雅も自分の傘を開いたが、すぐには歩き出さず、彼女の背中を見送る。
そして、静かに独り言を漏らした。
「たぶん、俺も……来ると思うよ。なんか、また会いたい気がするし」
雨の中、それぞれの傘が別々の方向へと動き出す。
けれどその中心には、で過ごした、かけがえのない“ひととき”が確かに残っていた。
それは、誰にも約束されない。
でも、確かに“つながった記憶”だった。