section05「進む速さは違っても」
ー/ー 店の空気が落ち着きを取り戻したその時、崇が静かにテーブルに肘をついて言った。
「なんか、今日の雰囲気……やけに“語り合う”感じだよな」
「嫌だった?」
そう聞いたのは創だった。
彼は腕を組みながら、崇の隣でじっと顔を見ていた。
「いや、別に嫌じゃない。ただ、ちょっと……もやもやするだけ」
「もやもや?」
「うん。なんか、“わかってもらえるのが前提”みたいな空気。正直、俺はそういうの苦手なんだ」
崇の口調は責めるようでも否定するようでもなかった。ただ、正直だった。
「俺さ、感情で動くって言ったろ? たぶん、それが“向いてる”とか“才能”だとかって言われるのも慣れてる。でも、そんなのは一面でしかない」
風雅が少し首をかしげた。
「じゃあ、どんなときにも動けるわけじゃないってこと?」
「そう。心が動かなきゃ、なにも動かない。だからさ、こうして静かに話し合ってる空気の中だと……俺は、どこに座ってればいいのかわからなくなる」
その言葉に、杏奈が少し黙ったあとで言った。
「“感情駆動型”の人には、“共感”が先にないと不安になるの。話す前に、空気を感じられなきゃ、自分を出せない。……それ、ちゃんとわかるよ」
「……悪いな。こんなとこで語るの、俺っぽくないけど」
「いいじゃん。“ぽくないこと”やってみるのも、たまには」
創がふっと笑った。
彼の声には、静かな芯が通っていた。
「俺は、自立心が強いって言われるけどさ……本当はただ、“誰かと一緒にいる感覚”に慣れてないだけなんだ」
崇が横目で創を見る。
「お前、それ……わざと外してるんじゃなくて?」
「昔はそうだった。でも最近は違う。“人と一緒にいる”って、“足並みを揃えること”じゃないって、やっと気づいた」
「……じゃあ、お前はどうやって動くんだよ。感情じゃないって言うなら、何を基準にしてんの?」
創は、少しの間だけ目を閉じた。そして、開いたときには、どこか澄んだまなざしがあった。
「“自分が変われるかどうか”。それが俺の判断基準。誰かに何かを言われたとき、それで“自分の行動”が変えられるなら、その言葉は価値がある」
崇は、言葉を失ったように口を閉じた。
だが、心のどこかでその言葉が“響いた”ことを自覚していた。
「……そっか。俺、“変わる”ってこと、あんまり考えたことなかったかも」
「別に、変わらなくてもいいんだよ。ただ、変わろうとする自分を否定しなければ」
その瞬間、店の奥からカップを拭いていた由真が小さく頷いた。
「……うん、なんか、それ、私にも響いた。変わろうとすることって、怖いけど、止まってるより、ちゃんと“自分を動かしてる”気がする」
泉がすかさず言葉をつなぐ。
「私も、今日ここに来て、ちょっとだけ何かが変わった気がする」
「何かって、たとえば?」
「“居場所を選ぶのは自分だ”ってこと。……誰かに言われたから、じゃなくて、自分で選んでここにいたんだって思えるようになった」
杏奈がそれを聞いて、うなずいた。
「それは、大きな一歩。科学的には測れないけど、“自分の選択”に感情が乗ったとき、初めて人は動き出すから」
風雅はみんなの会話を聞きながら、天井を見上げる。
——気がつけば、時計はもう夜の9時に近づいていた。
(誰かと話すって、めんどくさい時もあるけど……でもやっぱり、それ以上に“面白い”んだよな)
そんなことを思っていたとき、由香がぽつりと言った。
「そろそろ、終電の時間……」
誰かが名残惜しげに席を立ち、誰かが静かに荷物をまとめる。
だが、不思議と“終わり”ではなく、“つながり”を感じる空気があった。
それはきっと、“一緒に過ごした時間”が、“一人ではたどり着けなかった場所”へと導いてくれたからだ。
「なんか、今日の雰囲気……やけに“語り合う”感じだよな」
「嫌だった?」
そう聞いたのは創だった。
彼は腕を組みながら、崇の隣でじっと顔を見ていた。
「いや、別に嫌じゃない。ただ、ちょっと……もやもやするだけ」
「もやもや?」
「うん。なんか、“わかってもらえるのが前提”みたいな空気。正直、俺はそういうの苦手なんだ」
崇の口調は責めるようでも否定するようでもなかった。ただ、正直だった。
「俺さ、感情で動くって言ったろ? たぶん、それが“向いてる”とか“才能”だとかって言われるのも慣れてる。でも、そんなのは一面でしかない」
風雅が少し首をかしげた。
「じゃあ、どんなときにも動けるわけじゃないってこと?」
「そう。心が動かなきゃ、なにも動かない。だからさ、こうして静かに話し合ってる空気の中だと……俺は、どこに座ってればいいのかわからなくなる」
その言葉に、杏奈が少し黙ったあとで言った。
「“感情駆動型”の人には、“共感”が先にないと不安になるの。話す前に、空気を感じられなきゃ、自分を出せない。……それ、ちゃんとわかるよ」
「……悪いな。こんなとこで語るの、俺っぽくないけど」
「いいじゃん。“ぽくないこと”やってみるのも、たまには」
創がふっと笑った。
彼の声には、静かな芯が通っていた。
「俺は、自立心が強いって言われるけどさ……本当はただ、“誰かと一緒にいる感覚”に慣れてないだけなんだ」
崇が横目で創を見る。
「お前、それ……わざと外してるんじゃなくて?」
「昔はそうだった。でも最近は違う。“人と一緒にいる”って、“足並みを揃えること”じゃないって、やっと気づいた」
「……じゃあ、お前はどうやって動くんだよ。感情じゃないって言うなら、何を基準にしてんの?」
創は、少しの間だけ目を閉じた。そして、開いたときには、どこか澄んだまなざしがあった。
「“自分が変われるかどうか”。それが俺の判断基準。誰かに何かを言われたとき、それで“自分の行動”が変えられるなら、その言葉は価値がある」
崇は、言葉を失ったように口を閉じた。
だが、心のどこかでその言葉が“響いた”ことを自覚していた。
「……そっか。俺、“変わる”ってこと、あんまり考えたことなかったかも」
「別に、変わらなくてもいいんだよ。ただ、変わろうとする自分を否定しなければ」
その瞬間、店の奥からカップを拭いていた由真が小さく頷いた。
「……うん、なんか、それ、私にも響いた。変わろうとすることって、怖いけど、止まってるより、ちゃんと“自分を動かしてる”気がする」
泉がすかさず言葉をつなぐ。
「私も、今日ここに来て、ちょっとだけ何かが変わった気がする」
「何かって、たとえば?」
「“居場所を選ぶのは自分だ”ってこと。……誰かに言われたから、じゃなくて、自分で選んでここにいたんだって思えるようになった」
杏奈がそれを聞いて、うなずいた。
「それは、大きな一歩。科学的には測れないけど、“自分の選択”に感情が乗ったとき、初めて人は動き出すから」
風雅はみんなの会話を聞きながら、天井を見上げる。
——気がつけば、時計はもう夜の9時に近づいていた。
(誰かと話すって、めんどくさい時もあるけど……でもやっぱり、それ以上に“面白い”んだよな)
そんなことを思っていたとき、由香がぽつりと言った。
「そろそろ、終電の時間……」
誰かが名残惜しげに席を立ち、誰かが静かに荷物をまとめる。
だが、不思議と“終わり”ではなく、“つながり”を感じる空気があった。
それはきっと、“一緒に過ごした時間”が、“一人ではたどり着けなかった場所”へと導いてくれたからだ。
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