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【3】

ー/ー



「……あのね、悠斗」
 今言うことではない。そう感じつつも言葉が溢れて止まらなかった。

「うん?」
「中学の卒業式の日。……裏門に呼び出したのも覚えてる?」
 あの日、私は誰もいない裏門で彼を待っていた。

 けれどやって来た彼は、私の顔を見るなりただ「ごめん」とだけ呟いて去った。

「ああ。覚えてる」
 少し強張った彼の顔。やっぱりやめておけばよかった。だからと言って、ここで不自然に話題を変えるわけにもいかない。

「私、あのとき伝えたかったことがあるの。だけど、何も言えなかった。悠斗がすぐに『ごめん』って帰っちゃったから」
「……あれは」
 彼が口を開く。

「俺さ、わかってたよ。たぶんお前が何を言いたかったか。でも……、怖かった。自信がなかったんだ」
「何に?」
「お前の気持ちに応える資格が、俺にあるのかってこと」
 私は少しの間、彼の目を見つめた。

 ガラス越しのように濡れたその瞳に、いろんな感情が混ざって揺れていた。

「私も、呼び出しはしたけどきっと何も言えなかったと思う。……でも今なら言えるよ。悠斗のこと、あのときも今も、……好きだよ」
 心臓が跳ねるのがわかった。

 言葉は震えていたけれど、それでも私は想い人から目を逸らさなかった。

 今言わなければ、これっきり二人で話す機会など来ないかもしれない。四月からは住む場所さえ遠く離れてしまうのだから。

 悠斗は一瞬、何かを飲み込むように黙り込む。そして、ゆっくりと頷いた。

「……ありがとう。俺も、たぶんずっと……、気づかないふりしてたけどお前のこと、特別だと思ってた」
 時が止まる気がした。
 けれどそれは冷たい静止ではなく、どこか温かい、雨が生んだ透明な静寂だった。

「お、雨止みそうだな」
 彼が空を見上げた。雲の切れ間から、夕方の光がほんのり差している。

「じゃあ行こう」
「うん……。ねぇ、最後にひとつだけいい?」
「ん?」
 私は小さく笑って、手を差し出した。

「また会おうね、ちゃんと。時間が経っても、お互い変わっても。約束ね」
 彼は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに表情を和らげて、そっと手を重ねてきた。

「ああ、約束する。──東京行っても休みには帰って来るから。連絡する」
 その手は少し湿っていて、でもとても温かかった。

 あの梯子(angel's laddar)を二人で登ったら、そこには何があるのかな?

 家までの道を、私たちはゆっくりと歩いた。終わりの足音ではなく、始まりの一歩のように。

 空にはまだ雲が残っていたけれど、その向こうには確かに光が差していた。

                            ~END~



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「……あのね、悠斗」
 今言うことではない。そう感じつつも言葉が溢れて止まらなかった。
「うん?」
「中学の卒業式の日。……裏門に呼び出したのも覚えてる?」
 あの日、私は誰もいない裏門で彼を待っていた。
 けれどやって来た彼は、私の顔を見るなりただ「ごめん」とだけ呟いて去った。
「ああ。覚えてる」
 少し強張った彼の顔。やっぱりやめておけばよかった。だからと言って、ここで不自然に話題を変えるわけにもいかない。
「私、あのとき伝えたかったことがあるの。だけど、何も言えなかった。悠斗がすぐに『ごめん』って帰っちゃったから」
「……あれは」
 彼が口を開く。
「俺さ、わかってたよ。たぶんお前が何を言いたかったか。でも……、怖かった。自信がなかったんだ」
「何に?」
「お前の気持ちに応える資格が、俺にあるのかってこと」
 私は少しの間、彼の目を見つめた。
 ガラス越しのように濡れたその瞳に、いろんな感情が混ざって揺れていた。
「私も、呼び出しはしたけどきっと何も言えなかったと思う。……でも今なら言えるよ。悠斗のこと、あのときも今も、……好きだよ」
 心臓が跳ねるのがわかった。
 言葉は震えていたけれど、それでも私は想い人から目を逸らさなかった。
 今言わなければ、これっきり二人で話す機会など来ないかもしれない。四月からは住む場所さえ遠く離れてしまうのだから。
 悠斗は一瞬、何かを飲み込むように黙り込む。そして、ゆっくりと頷いた。
「……ありがとう。俺も、たぶんずっと……、気づかないふりしてたけどお前のこと、特別だと思ってた」
 時が止まる気がした。
 けれどそれは冷たい静止ではなく、どこか温かい、雨が生んだ透明な静寂だった。
「お、雨止みそうだな」
 彼が空を見上げた。雲の切れ間から、夕方の光がほんのり差している。
「じゃあ行こう」
「うん……。ねぇ、最後にひとつだけいい?」
「ん?」
 私は小さく笑って、手を差し出した。
「また会おうね、ちゃんと。時間が経っても、お互い変わっても。約束ね」
 彼は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに表情を和らげて、そっと手を重ねてきた。
「ああ、約束する。──東京行っても休みには帰って来るから。連絡する」
 その手は少し湿っていて、でもとても温かかった。
 あの|梯子《angel's laddar》を二人で登ったら、そこには何があるのかな?
 家までの道を、私たちはゆっくりと歩いた。終わりの足音ではなく、始まりの一歩のように。
 空にはまだ雲が残っていたけれど、その向こうには確かに光が差していた。
                            ~END~