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その日の夜。隼人は『妹』の優希(ゆうき)の部屋のドアをトントンと叩いた。
「おーい、優希。入るぞぉ」
「はーい」
隼人が入ると、小学生の優希は何と、分厚い生物学の参考書を机の上に広げていた。そんな彼女に、隼人は白い歯を見せた。
「今日はありがとう。おかげで昌樹に差をつけることができたよ。やっぱ持つべきものは、医者志望、生物マニアの妹だよな」
すると優希も目を細めた。
「そうね。三人とも生物は好きじゃなかったみたいだし。言った通りになったでしょ」
そう……メンデルの法則については妹の優希の入知恵。おかげで生物の苦手な隼人が美希に、すらすらとメンデルの法則について説明することができたのだ。
不敵な妹を見て、隼人は頼りなさげに笑った。
「いやぁ、本当に、恩に着るよ」
ポリポリと頭をかく兄に、優希は悪戯な瞳を向けた。
「でも、兄ちゃん。本当に、美希さんをしっかりと捕まえといてよ。私にとっては、あの人が最大のライバルなんだから」
そんな妹を見て、隼人は苦笑いした。
「そうだったな。でも本当にお前、いつからあいつのことを?」
「そりゃあ、初めて家に来て、ちらっと見た時からよ」
優希は少し頬を赤らめた。
「でも、多分、向こうはお前のこと、僕の弟だと思ってるよ」
すると、彼女は悪戯な目をニーっと細めた。
「大丈夫。それはおいおい、どうにかなるわ。昌樹さんみたいなタイプはきっと、ギャップに弱いんだから」
そのマセた小学生の妹は先程の少年っぽい姿とはうって変わり……お洒落なフリルワンピース姿で、二重瞼の目でウィンクしたのだった。