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【3】

ー/ー



「康之先生、最後に面倒なこと言って申し訳ありませんでした。……ありがとうございました」
 深々と頭を下げたわたしに、先生は首を振る。

「面倒なんかじゃない。屋敷、君は素敵な大人の女性になれると思うよ」
 康之先生が優しい声で掛けてくれた言葉。これだけでも勇気を出した甲斐はある、よね?

「──まずは大学だな。夢が叶って『仲間』になれる日が来ることを祈ってる」
 続けられた台詞に、わたしは今度こそ涙が出そうになった。
 担任でもないのに。「学年主任だから当たり前」といえばそうかも知れないけど、わたしの将来の『夢』もちゃんと把握してくださってるんだ。
 ただの、国語の授業を受け持ってただけの生徒の一人、なのに。そう、思ってたのに。

 わたしは看護学科に進む。
 併願の私立大学は受かってるし、あとは本命の国立の二次試験の結果待ち。
 看護師、も目標の一つではあるけど、本当は養護教諭──保健室の先生になりたいの。
 教育学部の養護教諭課程か、看護学科で養護教諭免許が取れるところか。進路は本当に迷った。
 結局は、養護教諭の採用試験は相当厳しい、って先生方のアドバイスも聞いた上で看護にしたんだけど。看護師と両方の資格取得を並行するから、こちらも凄く大変なのは承知の上でね。

 正直言って、わたしの気弱さ、逃げの姿勢が出てしまったかな、って後ろめたい思いもあるの。純粋に「看護師や保健師、助産師になりたい!」って看護学科を目指してるクラスメイトに申し訳ないような気にもなったわ。

 だけど、「養護教諭が無理なら看護師や保健師『で』いいか」なんて思ってない。それだけは誓って。そんな甘い気持ちで勤まる仕事じゃないくらい、社会を知らない高校生にだって想像つくもの。
 具体的な職業なんてわからない小さい頃から、将来なりたいものに「看護師さん」を挙げてたのも事実だから。

 どちらにしても夢は叶う。そう前向きに考えて、春からの新生活へ切り替えて行かないとね。

 康之先生と別れて、校門へ向かいながらわたしは通信アプリのメッセージを書いた。
 歩きながらなんてお行儀悪いわよね。普段ならしないわ。でも今だけは。

『怜那ちゃん。わたし、告白したよ。』
 そして涙のスタンプ。これ以上言葉はなくてもきっと通じる。だもの。

 さようなら、わたしの恋心。
 実らなかった哀しい片想い。だけど、先生(あなた)を好きになってよかった。
 大好きなあの人を想って過ごした時間は、わたしの人生で決して無駄なんかじゃない筈だから。
 負け惜しみに聞こえたって、そんなの全然構わない。

 だって卒業したら、高校生活の三年間が無意味になるわけじゃないでしょ? だから『卒業』しても、──させられても、この恋はわたしにとっては大切な経験だったのよ。

『いつものカフェの新作ドリンク飲みたいな。また、話聞いて。』

 三つ目の送信ボタンを押して、わたしはスマートフォンをバッグにしまった。

  ~END~










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「康之先生、最後に面倒なこと言って申し訳ありませんでした。……ありがとうございました」
 深々と頭を下げたわたしに、先生は首を振る。
「面倒なんかじゃない。屋敷、君は素敵な大人の女性になれると思うよ」
 康之先生が優しい声で掛けてくれた言葉。これだけでも勇気を出した甲斐はある、よね?
「──まずは大学だな。夢が叶って『仲間』になれる日が来ることを祈ってる」
 続けられた台詞に、わたしは今度こそ涙が出そうになった。
 担任でもないのに。「学年主任だから当たり前」といえばそうかも知れないけど、わたしの将来の『夢』もちゃんと把握してくださってるんだ。
 ただの、国語の授業を受け持ってただけの生徒の一人、なのに。そう、思ってたのに。
 わたしは看護学科に進む。
 併願の私立大学は受かってるし、あとは本命の国立の二次試験の結果待ち。
 看護師、も目標の一つではあるけど、本当は養護教諭──保健室の先生になりたいの。
 教育学部の養護教諭課程か、看護学科で養護教諭免許が取れるところか。進路は本当に迷った。
 結局は、養護教諭の採用試験は相当厳しい、って先生方のアドバイスも聞いた上で看護にしたんだけど。看護師と両方の資格取得を並行するから、こちらも凄く大変なのは承知の上でね。
 正直言って、わたしの気弱さ、逃げの姿勢が出てしまったかな、って後ろめたい思いもあるの。純粋に「看護師や保健師、助産師になりたい!」って看護学科を目指してるクラスメイトに申し訳ないような気にもなったわ。
 だけど、「養護教諭が無理なら看護師や保健師『で』いいか」なんて思ってない。それだけは誓って。そんな甘い気持ちで勤まる仕事じゃないくらい、社会を知らない高校生にだって想像つくもの。
 具体的な職業なんてわからない小さい頃から、将来なりたいものに「看護師さん」を挙げてたのも事実だから。
 どちらにしても夢は叶う。そう前向きに考えて、春からの新生活へ切り替えて行かないとね。
 康之先生と別れて、校門へ向かいながらわたしは通信アプリのメッセージを書いた。
 歩きながらなんてお行儀悪いわよね。普段ならしないわ。でも今だけは。
『怜那ちゃん。わたし、告白したよ。』
 そして涙のスタンプ。これ以上言葉はなくてもきっと通じる。《《親友》》だもの。
 さようなら、わたしの恋心。
 実らなかった哀しい片想い。だけど、|先生《あなた》を好きになってよかった。
 大好きなあの人を想って過ごした時間は、わたしの人生で決して無駄なんかじゃない筈だから。
 負け惜しみに聞こえたって、そんなの全然構わない。
 だって卒業したら、高校生活の三年間が無意味になるわけじゃないでしょ? だから『卒業』しても、──させられても、この恋はわたしにとっては大切な経験だったのよ。
『いつものカフェの新作ドリンク飲みたいな。また、話聞いて。』
 三つ目の送信ボタンを押して、わたしはスマートフォンをバッグにしまった。
  ~END~