「あ、あの、……いいんですか?」
「いいよ。ただ、いい年して携帯に写真入れてるなんて恥ずかしいから黙っててくれよな」
先生がこちらに向けたスマートフォンのディスプレイには、ツーショット写真が表示されてる。
学校では常にスーツを着てるから見慣れない、カジュアルな格好の康之先生の笑顔。
わたしよりほんのちょっと目線が上だから百七十以上は確実にある先生よりも、少し背の高い女性が隣に居た。
お化粧も薄目でショートボブの、「厳しくも優しい先生」って雰囲気の人。
「見ての通り、俺の方が小さいんだ」
突然の康之先生の声には、卑屈な響きなんて全然含まれてなかった。
「普通は男が大きくて当然だし、そういう意味では釣り合わないけど。お互いにそういうの気にしないから、俺たちは釣り合ってるんだよ」
自分で言うことじゃないけど、なんて先生はちょっと照れくさそうにしてる。
こんな表情、初めてだわ。この三年、ずっと、ずっとこの人を見つめてたわたしには見せてくれなかった、顔。
……先生、その方と居て幸せなんですね。
「彼女、屋敷より高いよな」
微笑んで静かに声を掛けてくれる康之先生は、きっとわかってるんだ。わたしがこの目立つ長身を気にしてること。
いくら卒業したからって、生徒に個人的なことを知らせるような人じゃないわ。いい気分で調子に乗った、わけじゃない筈よ。
これはきっと、わたしのため。
固定観念に囚われない相手に出逢えるように、って意味……? 考え過ぎかもしれない、けど。
せめてそう思ってていいですか? 先生。
以前、わたしは怜那ちゃんにつまらないこと言って怒らせた、──ううん、傷つけた、のかもしれない。
『わたしは怜那ちゃんみたいに小さくも可愛くもないし、髪もこんな色で……』
本心だった。それは確かよ。本当に、心の底から羨ましかったの。
平均あるかないかの身長に、
お人形みたいな綺麗で可愛い顔、さらさら艶やかな長い黒髪。
怜那ちゃんは、わたしが欲しくて堪らなかったものを何もかも全部持ってるみたいな存在だった。
だけど彼女にしてみたら、それこそわたしにとっての長身や黒くない髪と同じで、忌々しいものだった、のかな。
普段はあんまり感情出さないし、後ろ向きなところなんて見当たらない怜那ちゃんが、あのときは本気で怒ってた。
わたしのせいで。
そのあとで知ったのよ。
彼女が「可愛いから」なんて理不尽な理由で妬まれて、陰口叩かれたりしてたこと。陰だけじゃなかった、とも聞いたわ。
小学校の頃から、「もう慣れたよ」なんて笑えるようになるくらいずっと。
大切な友達に向かって、取り返しのつかないことを口にしてしまったんだ、わたしは。
染めてると疑われ、──どんなに違うって説明しても決めつけて責められて辛い思いをしたこの茶色い髪を、どうしても長く伸ばせなかった。
この身長にショートカットで、「ボーイッシュでカッコイ―!」とかよく言われたけど、嬉しいと感じたことなんかない。大抵の場合、その裏に滲んでるものがわかってしまうから。
……そういえば倉掛さんは、「どうしてあゆ美先輩が『男っぽい』なんて言われるのか全然わかりません」って不思議そうにしてたっけ。
でも、怜那ちゃんに「すごいキレイ! お洒落でバッチリ決まってる」って褒められて、この髪も自分も前ほど嫌いじゃないわたしが確かにいるのよ。
そう、救われたの。彼女は口先だけのお世辞なんて絶対言わないってもう知ってるから。