8-10
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『クレイモア』――スコットランドが起源の大剣こそ、但馬の生まれ変わりである純君の武器です。
両手剣で全長が約120~140センチ、重量は約2~2.5キロと大きく、幅広の刃と直線的なクロスガードが特徴的。その幅広い攻撃範囲と破壊力から、戦場では歩兵や守りを突破するために使われていたと聞きます。
……が、あの純君が剣を持つと人が変わるタイプだったとは思いませんでした。彼が戦うのを躊躇していたのは、そのためだったのでしょうか?
「ホラ、副長! なに突っ立てるんダ? サッサと片付けようゼ!」
先ほどまで泣き喚いていたことなどすっかり忘れて、僕に指示を出してくる純君。悪気がないのは分かっていますが、何か腑に落ちませんねぇ。
ですが彼の変貌ぶりに動揺したのは僕だけでなく、相手にも同じ衝撃を与えたようで。
「ク……、クク。コヤツ、面白い奴よの。良かろう、こりゃ少しは楽しめそうか。そろそろ本気を出していくかの……ッ!」
コキコキと首と手首の関節を回し、商は準備体操でもするかのような動きを見せた。僕と純君の表情も、奴の言葉に一転して引き締まる。
太陽は今にも地平線に飲まれようとしているところまで沈み、ホテルの街頭が優しく灯る。そして、それが開戦の合図となった。
商は先ほどよりも更に素早さを上げ、蛇が忍び寄るように僕と純君との距離を詰める。間合いの外側から大鎌のリーチの長さを生かし、蛇拳特有の突きを取り入れて威嚇を計った。その1つひとつの動きに全神経を張り巡らせて注視し、避けながら隙を伺い斧の柄を強く握る。
「ヌンッ、ハァッ……!」
「ッ……! おぉおおおお!!」
奴が一旦体を引いたところを逃さず、一気に間合いを詰めて奴の脇腹へ一撃。だが商は背骨が消えたかと思うほどの柔軟さで、腰を捻りながら左後方へ流れるように上体を倒し、斬撃をかわした。
怯むことなくそのまま再度腕を引き戻し、両刃斧の利点である反対の刃で連撃。振り下ろすたびに、空気が唸り声を上げる。しかしまたしても、奴のしなやか且つ残像で惑わす動きに回避されてしまった。蛇拳と酔拳の特性を上手く取り入れている。
「どぅりゃぁあああアッ!!」
すると商の背後から、唸り声を上げた純君がクレイモアを掲げて飛び込んだ。彼の気配を察知した商は振り返り、大鎌の柄で重い刀身を受け止める。奥歯を噛みしめてジリジリと迫り、刀身が商の額をかすめるほど近づく。純君のパワーが奴を圧倒しているのは明らかだ。
これを好機と捉えて僕は商の右側へ飛び出し、斧を大きく振りかぶった。〝貰った!〟と確信したが、商は口端を一瞬吊り上げ、酔っ払いが崩れ落ちるように重心を後退させた。更にその体勢から純君の胸部へ鋭い蹴りの一撃を生み、鈍い声を上げた彼を一瞬で吹き飛ばしてしまったのだ。
「クク、私はそんなに甘くないですぞ」
商はそのまま地を強く蹴り、上空へ退避して僕の攻撃を避け、回転しながら僕の背後へと降り立った。
思わず息を呑んだ。振り返りざまに刃が視界に滑り込み、反射的に斧を掲げた。だが奴は大鎌での斬撃ではなく、ギリギリのところで柄を軸に回転させ己の手刀へ切り替えたではないか。蛇が獲物を狙うようなそれは、僕の目元を突くフリをして視界を撹乱させ、最後に脇腹へ回し蹴りを食らわされた。
一直線に吹き飛んだ僕の体は、ホテルのロータリーにある壁へ激突した。
悶絶するような痛みが背中を走る。体が吹っ飛ぶ経験をしたのは初めてです。
「っく……。さすがは五音衆も三人目となれば、それなりの猛者ですねぇ」
「戯けモノ。筋肉馬鹿の羽や、虫オタクの角と一緒にするでない。それに私は、残りの二人に比べたらまだまだよの」
大鎌をゆっくりと振り回しながら楽しそうに笑う商は、あれだけ暴れたにも関わらず息すら上がっていなかった。それだけでも相当の手練れということは伝わる。
対してこちらは二人いるにも関わらず、奴に押されているどころか、一撃も入れられていない。
……これは、久しぶりにゾクゾクしてきました。
「イッタタタタタ……。あのジジィ~、クネクネと気持ち悪いナァ、モ~ッ……」
僕の前に、綺麗な弧を描いて地面に叩きつけられた純君が、文句を言いながら上体を起こした。まだ腹部が痛むのか摩っているが、大したダメージには及んでいなかったようだ。
「純君! 無事でしたか」
「あれくらいでヤられやしないヨ、副長。でもどースル? このままじゃ手も足も出ないヨ」
吹き飛ばされた時は戦闘不能の4文字が頭を過ぎったが、どうやら打たれ強さはあるらしい。そうでなくとも、あのクレイモアを振り回すには相当の筋力がいるはず。
とりあえず、戦力としては問題ないと見て良いだろう。人格が変わった時は、正直終わったと思ったもので。
「……えぇ。勿論、このまま押されているつもりは、ありませんよ」
彼の問いに適度に答えながら、斧を引き寄せて杖代わりにし、僕はその場に立ち上がった。その様子を見て商は「そう来なくちゃの」とばかりにほくそ笑む。
僕とて、ただやられているわけではない。いくら蛇酔拳が不規則な動きとて、多少のパターンがあるはずだ。奴が攻撃を繰り出す直前の微細な動きなど、常に頭で分析していた。
しかし。悔しいかな今のところ、突破口は見えていない。
分かっているのは、商は大鎌での遠距離攻撃と蛇酔拳のしなやかさを上手く使っているのに対し、こちらは両者とも破壊を得意とするパワー系であること。こうなったら力業で押さえ込むしかない。
和泉ちゃんが不在で封印が使えない今、奴を戦闘不能までに追い込み、情報を引き出すのが我々の役目だ。
「純君、僕が商の動きをどうにかして食い止めます。君はそこを討ってください」
「エェ~? 副長、意外と大雑把だナァ。こう、もっとサァ……って、オイ!」
不服を申し立てる純君の声に耳を傾けることなく、僕は商に再度突進した。何の策もなく突っ込んでくる姿を見て、奴は落胆したような表情を浮かべ、溜め息を吐く。
「なぁんだ、学習せんのぉ。もう私には、お主らの行動パターンなど――」
「おぉおおおおッッッ!!」
奴の数歩前で高く跳躍した僕は、全体重を斧に乗せて飛びかかった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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両手剣で全長が約120~140センチ、重量は約2~2.5キロと大きく、幅広の刃と直線的なクロスガードが特徴的。その幅広い攻撃範囲と破壊力から、戦場では歩兵や守りを突破するために使われていたと聞きます。
……が、あの純君が剣を持つと人が変わるタイプだったとは思いませんでした。彼が戦うのを躊躇していたのは、そのためだったのでしょうか?
「ホラ、副長! なに突っ立てるんダ? サッサと片付けようゼ!」
先ほどまで泣き喚いていたことなどすっかり忘れて、僕に指示を出してくる純君。悪気がないのは分かっていますが、何か腑に落ちませんねぇ。
ですが彼の変貌ぶりに動揺したのは僕だけでなく、相手にも同じ衝撃を与えたようで。
「ク……、クク。コヤツ、面白い奴よの。良かろう、こりゃ少しは楽しめそうか。そろそろ本気を出していくかの……ッ!」
コキコキと首と手首の関節を回し、商は準備体操でもするかのような動きを見せた。僕と純君の表情も、奴の言葉に一転して引き締まる。
太陽は今にも地平線に飲まれようとしているところまで沈み、ホテルの街頭が優しく灯る。そして、それが開戦の合図となった。
商は先ほどよりも更に素早さを上げ、蛇が忍び寄るように僕と純君との距離を詰める。間合いの外側から大鎌のリーチの長さを生かし、蛇拳特有の突きを取り入れて威嚇を計った。その1つひとつの動きに全神経を張り巡らせて注視し、避けながら隙を伺い斧の柄を強く握る。
「ヌンッ、ハァッ……!」
「ッ……! おぉおおおお!!」
奴が一旦体を引いたところを逃さず、一気に間合いを詰めて奴の脇腹へ一撃。だが商は背骨が消えたかと思うほどの柔軟さで、腰を捻りながら左後方へ流れるように上体を倒し、斬撃をかわした。
怯むことなくそのまま再度腕を引き戻し、両刃斧の利点である反対の刃で連撃。振り下ろすたびに、空気が唸り声を上げる。しかしまたしても、奴のしなやか且つ残像で惑わす動きに回避されてしまった。蛇拳と酔拳の特性を上手く取り入れている。
「どぅりゃぁあああアッ!!」
すると商の背後から、唸り声を上げた純君がクレイモアを掲げて飛び込んだ。彼の気配を察知した商は振り返り、大鎌の柄で重い刀身を受け止める。奥歯を噛みしめてジリジリと迫り、刀身が商の額をかすめるほど近づく。純君のパワーが奴を圧倒しているのは明らかだ。
これを好機と捉えて僕は商の右側へ飛び出し、斧を大きく振りかぶった。〝貰った!〟と確信したが、商は口端を一瞬吊り上げ、酔っ払いが崩れ落ちるように重心を後退させた。更にその体勢から純君の胸部へ鋭い蹴りの一撃を生み、鈍い声を上げた彼を一瞬で吹き飛ばしてしまったのだ。
「クク、私はそんなに甘くないですぞ」
商はそのまま地を強く蹴り、上空へ退避して僕の攻撃を避け、回転しながら僕の背後へと降り立った。
思わず息を呑んだ。振り返りざまに刃が視界に滑り込み、反射的に斧を掲げた。だが奴は大鎌での斬撃ではなく、ギリギリのところで柄を軸に回転させ己の手刀へ切り替えたではないか。蛇が獲物を狙うようなそれは、僕の目元を突くフリをして視界を撹乱させ、最後に脇腹へ回し蹴りを食らわされた。
一直線に吹き飛んだ僕の体は、ホテルのロータリーにある壁へ激突した。
悶絶するような痛みが背中を走る。体が吹っ飛ぶ経験をしたのは初めてです。
「っく……。さすがは五音衆も三人目となれば、それなりの猛者ですねぇ」
「戯けモノ。筋肉馬鹿の羽や、虫オタクの|角《嬢ちゃん》と一緒にするでない。それに私は、残りの二人に比べたらまだまだよの」
大鎌をゆっくりと振り回しながら楽しそうに笑う商は、あれだけ暴れたにも関わらず息すら上がっていなかった。それだけでも相当の手練れということは伝わる。
対してこちらは二人いるにも関わらず、奴に押されているどころか、一撃も入れられていない。
……これは、久しぶりにゾクゾクしてきました。
「イッタタタタタ……。あのジジィ~、クネクネと気持ち悪いナァ、モ~ッ……」
僕の前に、綺麗な弧を描いて地面に叩きつけられた純君が、文句を言いながら上体を起こした。まだ腹部が痛むのか摩っているが、大したダメージには及んでいなかったようだ。
「純君! 無事でしたか」
「あれくらいでヤられやしないヨ、副長。でもどースル? このままじゃ手も足も出ないヨ」
吹き飛ばされた時は戦闘不能の4文字が頭を過ぎったが、どうやら打たれ強さはあるらしい。そうでなくとも、あのクレイモアを振り回すには相当の筋力がいるはず。
とりあえず、戦力としては問題ないと見て良いだろう。人格が変わった時は、正直終わったと思ったもので。
「……えぇ。勿論、このまま押されているつもりは、ありませんよ」
彼の問いに適度に答えながら、斧を引き寄せて杖代わりにし、僕はその場に立ち上がった。その様子を見て商は「そう来なくちゃの」とばかりにほくそ笑む。
僕とて、ただやられているわけではない。いくら蛇酔拳が不規則な動きとて、多少のパターンがあるはずだ。奴が攻撃を繰り出す直前の微細な動きなど、常に頭で分析していた。
しかし。悔しいかな今のところ、突破口は見えていない。
分かっているのは、商は大鎌での遠距離攻撃と蛇酔拳のしなやかさを上手く使っているのに対し、こちらは両者とも破壊を得意とするパワー系であること。こうなったら力業で押さえ込むしかない。
和泉ちゃんが不在で封印が使えない今、奴を戦闘不能までに追い込み、情報を引き出すのが我々の役目だ。
「純君、僕が商の動きをどうにかして食い止めます。君はそこを討ってください」
「エェ~? 副長、意外と大雑把だナァ。こう、もっとサァ……って、オイ!」
不服を申し立てる純君の声に耳を傾けることなく、僕は商に再度突進した。何の策もなく突っ込んでくる姿を見て、奴は落胆したような表情を浮かべ、溜め息を吐く。
「なぁんだ、学習せんのぉ。もう私には、お主らの行動パターンなど――」
「おぉおおおおッッッ!!」
奴の数歩前で高く跳躍した僕は、全体重を斧に乗せて飛びかかった。