表示設定
表示設定
目次 目次




エピローグ

ー/ー



「不思議なことも起こるものだねえ」祖母が淡々と呟き、漬物を箸で取る。
「そうだな」祖父が関心がなさそうに味噌汁を啜る。
「ほ、本当だね。怪奇現象なんじゃない?」夏生が話を合わせた。
 秋菜を救出してからの翌朝。夏生は祖父母と朝食をとっていた。ニュースでは昨日の一件を「廃倉庫で水道メーターが異常な値を示していた」と報道されていた。爆発音や不審人物などが目撃された情報などはなく、夏生は胸を撫で下ろす。そして事態究明のために動く警察や役所の方々ごめんなさい、と内心で謝った。
 インターフォンの音が響く。「夏生、おはよー」秋菜の声が聞こえてくる。
「あら、秋ちゃんが来たようだよ」祖母が嬉しそうに答える。「今日は早いわねぇ」
 夏生は慌てて朝食をかき込み、「ご馳走様」と手を合わせる。急いで洗面台へと向かった。
 
「もう、昨日は大変だったんだからね」秋菜が頬を膨らませている。バス停までの道を歩いていた。
「うん、そうだよね。私も助けに行くのが遅れてごめんね」
「それはいいの」秋菜は首を振る。「そうじゃなくて夏生、お母さんになんて伝えてたの?」
「あ」夏生は思い出す。先輩と付き合っている、という話を陽子にしたのだった。
 秋菜はため息をついた。「ダメ男に捕まっていることになってて話合わせるの大変だったんだから」
  
 山岸が逃亡した後、夏生は天羽の勧誘を保留した。「考えさせてください」と。天羽は不愉快そうな表情を見せることもなく、「わかった」と頷いた。
「あの、超能力ってなんなんですか」夏生は天羽に問う。
「少なくとも、感情がトリガーになっていることは分かっている。それ以上を知りたければ組織においで。それについても研究はしているんだ」
「そう、ですか」この力に振り回されてきたからこそ、知りたかった。
「あの」西田が教師に質問するかのように手を挙げた。「俺たちのことを見ていたのなら、どうして助けてくれなかったんですか?」
 夏生もそれについては気になっていた。秋菜が隣でこくこく、と頷いている。
「こう言っても信じてもらえないかもしれないが、何かあったら助けるつもりだったよ。ただ、君たちがどう行動するのか、立ち向かうのか見たかったんだ」
「夏生が、組織の人間に相応しいかどうかを見極めるために?」秋菜が質問する。
 天羽が秋菜に申し訳なさそうに目を向けた。「うん。そうだね。そのために君たちを利用したのは申し訳なかった」天羽は頭を下げた。
「いえ、助けるつもりがあって、理由があったのなら、いいです」
 天羽は驚き、目を見開いた。「君は、肝が据わっているな」
「伊達に夏生の超能力を見守ってきたわけじゃないんで」秋菜がおどけて見せた。
「もう一ついいですか?」西田が再び手を挙げる。その声は震えていた。「夏生はともかくとして、俺や松原は消されたりしませんか?」
 天羽は意表を突かれた表情を見せ、笑った。「それも含めて、君たちを見守っていた。あの勇姿を見たら、消せないよ」
「もし、逃げていたりしたら?」
「その時は記憶を消していたかもしれないね」天羽は平然と答えた。
「怖っ」西田が身を震わせる。
「君たちは本当によく頑張った。さあ、帰ろうか」
 夏生達は天羽の能力の説明を受けた。それぞれが半信半疑で顔を見合わせ、天羽の肩に手を置いた。「じゃあ、行くよ」天羽が呟くと、西田が乗り捨てたオートバイの場所へ移動していた。三人とも目を丸くし、辺りを見渡すことしかできなかった。次の瞬間には町の公園に場所が移動していた。
「夏生さん、加入するかどうかはゆっくり考えてください」天羽はそう言うと、あっという間に姿を消した。
 西田は天羽がいた場所を歩き回り、「超能力ってなんでもありなんだな」と目を丸くした。
 西田はオートバイで帰り、夏生は遠回りをして秋菜に付き添った。
「助けに来てくれてありがとね」帰り道、秋菜が頭を下げた。
「頭を上げてよ。何言ってんの。当然、助けに行くに決まってるでしょ」
「ごめんね。私、夏生の言葉を信じてなかったの。他に超能力者なんているわけないと思ってた。だから夏生に友達を作ることを気軽に強要してしまったの。夏生の気持ちも考えずに酷い言葉を言ってしまったと思う」秋菜は謝った。「山岸に囚われている時、ずっと夏生に謝りたかったの。これからは、夏生が生きたいように、してください」
「分かった。じゃあこれからも秋菜と一緒にいるし、友達も作るね」
「え?」秋菜は顔を上げた。
「謝るのは私の方だよ。秋菜が色々と動いてくれてるのに私は、頑(かたく)なに意地を張ることしかできなかった。秋菜がいなかったあの日、分かったんだ。どれだけ助けれられて、支えてもらっていたのか」
「夏生」
「一人で甘い卵焼きを食べるの大変だったんだから」夏生は笑う。そして表情を引き締めた。「ねえ、秋菜、保留にしたばかりだけど、天羽が言っていた組織に入ろうと思う」
「どうして?」
「今回ので分かった。私一人ではみんなを守りきれないことに。組織に入れば、多くの人を守れるでしょ。それに、もっと強くなれる」夏生は山岸の戦いで痛感した。まだまだ超能力を使いこなせていないということに。超能力者同士で修行ができれば、もっと強くなれるだろう。
「正直、心配だよ。傷だらけになる夏生を見ていられなかったもん」秋菜は切実な表情だった。夏生は胸が痛んだ。
「でも、それが、夏生が超能力に目覚めた理由、目的なのかもしれないね。応援、するよ」秋菜は語気を強め、指を向けた。「ただ、無理をして抱え込まないこと。分かった?」
「出た、秋菜の強引なところ」夏生は笑った。「うん、約束する」
「ほんと、私がいないとダメなんだから」秋菜が呟き、足早に先を歩いて行った。
 
 その後、秋菜の家に到着し、陽子に頭を下げて帰宅をした。時間が遅く、疲れていたのもあったため陽子とは改めて話をせずに別れた。そして今日に至るわけだ。
「そんなことになってたとは」夏生は頭を掻く。バスを降り、校門へと歩いていた。
「ダメ男について淡々と聞かされたんだから。前のお父さんのことについてぐちぐちと」ため息のつく秋菜の表情は以前より晴れやかだった。前は父親について話す時は暗い表情をしていたが、何かあったのだろうか。
「それにしても、超能力を使って戦う女子高生か」秋菜が閃いたように指を立てた。「『PKJK』だね」
「何、それ」夏生は呆れた表情を秋菜に向ける。
「サイコキネシスと女子高生を合わせた造語だよ」あっけらかんと秋菜は答える。「かっこよくない?」
「あのさあ」夏生はため息を吐きそうになる。「前から言おうと思ってたけど、秋菜ってさ、その、センス、ないよね」
「うわっ、酷いなあ」秋菜が不満げな表情を見せたと思ったら、「あっ春奈達だ」と嬉しそうに駆け出していく。(せわ)しない人だ、と夏生は笑う。
 見ると、坂の上に春奈と真冬が歩いていた。秋菜が話しかけ、一言二言話すと笑い合っている。
「夏生、おはよ」春奈が振り返り、手を振った。
「夏生ちゃん、おはよう」真冬も振り返り、微笑んでいる。
 春奈と真冬が、名前を呼んでくれた。それだけで胸の奥がこそばゆい気持ちになる。「なか…」と言いかけ、夏生はぎゅっと鞄の持ち手を掴んだ。「春奈、真冬、おはよう」と返事する。
 二人は顔を見合わせ、嬉しそうに表情を綻ばせた。夏生はその笑顔を見て、この日常を守るために組織に入ろう、と改めて決意した。一人ではどうしようもことでも、信じてくれる仲間がいれば、どんなことでも乗り越えられる。そこに超能力の有無は関係ない。夏生はそう信じていた。
「おーい、何やってるの?」秋菜が呼びかけてくる。
「うん、今行く!」と夏生は返事をし、坂を駆け上がった。


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「不思議なことも起こるものだねえ」祖母が淡々と呟き、漬物を箸で取る。
「そうだな」祖父が関心がなさそうに味噌汁を啜る。
「ほ、本当だね。怪奇現象なんじゃない?」夏生が話を合わせた。
 秋菜を救出してからの翌朝。夏生は祖父母と朝食をとっていた。ニュースでは昨日の一件を「廃倉庫で水道メーターが異常な値を示していた」と報道されていた。爆発音や不審人物などが目撃された情報などはなく、夏生は胸を撫で下ろす。そして事態究明のために動く警察や役所の方々ごめんなさい、と内心で謝った。
 インターフォンの音が響く。「夏生、おはよー」秋菜の声が聞こえてくる。
「あら、秋ちゃんが来たようだよ」祖母が嬉しそうに答える。「今日は早いわねぇ」
 夏生は慌てて朝食をかき込み、「ご馳走様」と手を合わせる。急いで洗面台へと向かった。
「もう、昨日は大変だったんだからね」秋菜が頬を膨らませている。バス停までの道を歩いていた。
「うん、そうだよね。私も助けに行くのが遅れてごめんね」
「それはいいの」秋菜は首を振る。「そうじゃなくて夏生、お母さんになんて伝えてたの?」
「あ」夏生は思い出す。先輩と付き合っている、という話を陽子にしたのだった。
 秋菜はため息をついた。「ダメ男に捕まっていることになってて話合わせるの大変だったんだから」
 山岸が逃亡した後、夏生は天羽の勧誘を保留した。「考えさせてください」と。天羽は不愉快そうな表情を見せることもなく、「わかった」と頷いた。
「あの、超能力ってなんなんですか」夏生は天羽に問う。
「少なくとも、感情がトリガーになっていることは分かっている。それ以上を知りたければ組織においで。それについても研究はしているんだ」
「そう、ですか」この力に振り回されてきたからこそ、知りたかった。
「あの」西田が教師に質問するかのように手を挙げた。「俺たちのことを見ていたのなら、どうして助けてくれなかったんですか?」
 夏生もそれについては気になっていた。秋菜が隣でこくこく、と頷いている。
「こう言っても信じてもらえないかもしれないが、何かあったら助けるつもりだったよ。ただ、君たちがどう行動するのか、立ち向かうのか見たかったんだ」
「夏生が、組織の人間に相応しいかどうかを見極めるために?」秋菜が質問する。
 天羽が秋菜に申し訳なさそうに目を向けた。「うん。そうだね。そのために君たちを利用したのは申し訳なかった」天羽は頭を下げた。
「いえ、助けるつもりがあって、理由があったのなら、いいです」
 天羽は驚き、目を見開いた。「君は、肝が据わっているな」
「伊達に夏生の超能力を見守ってきたわけじゃないんで」秋菜がおどけて見せた。
「もう一ついいですか?」西田が再び手を挙げる。その声は震えていた。「夏生はともかくとして、俺や松原は消されたりしませんか?」
 天羽は意表を突かれた表情を見せ、笑った。「それも含めて、君たちを見守っていた。あの勇姿を見たら、消せないよ」
「もし、逃げていたりしたら?」
「その時は記憶を消していたかもしれないね」天羽は平然と答えた。
「怖っ」西田が身を震わせる。
「君たちは本当によく頑張った。さあ、帰ろうか」
 夏生達は天羽の能力の説明を受けた。それぞれが半信半疑で顔を見合わせ、天羽の肩に手を置いた。「じゃあ、行くよ」天羽が呟くと、西田が乗り捨てたオートバイの場所へ移動していた。三人とも目を丸くし、辺りを見渡すことしかできなかった。次の瞬間には町の公園に場所が移動していた。
「夏生さん、加入するかどうかはゆっくり考えてください」天羽はそう言うと、あっという間に姿を消した。
 西田は天羽がいた場所を歩き回り、「超能力ってなんでもありなんだな」と目を丸くした。
 西田はオートバイで帰り、夏生は遠回りをして秋菜に付き添った。
「助けに来てくれてありがとね」帰り道、秋菜が頭を下げた。
「頭を上げてよ。何言ってんの。当然、助けに行くに決まってるでしょ」
「ごめんね。私、夏生の言葉を信じてなかったの。他に超能力者なんているわけないと思ってた。だから夏生に友達を作ることを気軽に強要してしまったの。夏生の気持ちも考えずに酷い言葉を言ってしまったと思う」秋菜は謝った。「山岸に囚われている時、ずっと夏生に謝りたかったの。これからは、夏生が生きたいように、してください」
「分かった。じゃあこれからも秋菜と一緒にいるし、友達も作るね」
「え?」秋菜は顔を上げた。
「謝るのは私の方だよ。秋菜が色々と動いてくれてるのに私は、頑《かたく》なに意地を張ることしかできなかった。秋菜がいなかったあの日、分かったんだ。どれだけ助けれられて、支えてもらっていたのか」
「夏生」
「一人で甘い卵焼きを食べるの大変だったんだから」夏生は笑う。そして表情を引き締めた。「ねえ、秋菜、保留にしたばかりだけど、天羽が言っていた組織に入ろうと思う」
「どうして?」
「今回ので分かった。私一人ではみんなを守りきれないことに。組織に入れば、多くの人を守れるでしょ。それに、もっと強くなれる」夏生は山岸の戦いで痛感した。まだまだ超能力を使いこなせていないということに。超能力者同士で修行ができれば、もっと強くなれるだろう。
「正直、心配だよ。傷だらけになる夏生を見ていられなかったもん」秋菜は切実な表情だった。夏生は胸が痛んだ。
「でも、それが、夏生が超能力に目覚めた理由、目的なのかもしれないね。応援、するよ」秋菜は語気を強め、指を向けた。「ただ、無理をして抱え込まないこと。分かった?」
「出た、秋菜の強引なところ」夏生は笑った。「うん、約束する」
「ほんと、私がいないとダメなんだから」秋菜が呟き、足早に先を歩いて行った。
 その後、秋菜の家に到着し、陽子に頭を下げて帰宅をした。時間が遅く、疲れていたのもあったため陽子とは改めて話をせずに別れた。そして今日に至るわけだ。
「そんなことになってたとは」夏生は頭を掻く。バスを降り、校門へと歩いていた。
「ダメ男について淡々と聞かされたんだから。前のお父さんのことについてぐちぐちと」ため息のつく秋菜の表情は以前より晴れやかだった。前は父親について話す時は暗い表情をしていたが、何かあったのだろうか。
「それにしても、超能力を使って戦う女子高生か」秋菜が閃いたように指を立てた。「『PKJK』だね」
「何、それ」夏生は呆れた表情を秋菜に向ける。
「サイコキネシスと女子高生を合わせた造語だよ」あっけらかんと秋菜は答える。「かっこよくない?」
「あのさあ」夏生はため息を吐きそうになる。「前から言おうと思ってたけど、秋菜ってさ、その、センス、ないよね」
「うわっ、酷いなあ」秋菜が不満げな表情を見せたと思ったら、「あっ春奈達だ」と嬉しそうに駆け出していく。|忙《せわ》しない人だ、と夏生は笑う。
 見ると、坂の上に春奈と真冬が歩いていた。秋菜が話しかけ、一言二言話すと笑い合っている。
「夏生、おはよ」春奈が振り返り、手を振った。
「夏生ちゃん、おはよう」真冬も振り返り、微笑んでいる。
 春奈と真冬が、名前を呼んでくれた。それだけで胸の奥がこそばゆい気持ちになる。「なか…」と言いかけ、夏生はぎゅっと鞄の持ち手を掴んだ。「春奈、真冬、おはよう」と返事する。
 二人は顔を見合わせ、嬉しそうに表情を綻ばせた。夏生はその笑顔を見て、この日常を守るために組織に入ろう、と改めて決意した。一人ではどうしようもことでも、信じてくれる仲間がいれば、どんなことでも乗り越えられる。そこに超能力の有無は関係ない。夏生はそう信じていた。
「おーい、何やってるの?」秋菜が呼びかけてくる。
「うん、今行く!」と夏生は返事をし、坂を駆け上がった。