◇ ◇ ◇
「おかえり、パパ!」
出迎えた真理愛の笑顔に、自然と口元が緩む。
ここしばらくはさすがに緊張が隠せなかった彼女の、久しぶりの満面の笑み。
「ああ、ただいま。やったな、真理愛。おめでとう!」
「うん。『合格確実だし大丈夫』って言われてても、やっぱり受験に絶対はないからさ。中学受験よりずっと不安だった」
弾んだ声で告げる真理愛の上気した頬に愛しさが募る。
「圭亮、今日は真理愛ちゃんのお祝いでお肉なのよ~」
キッチンで食事の支度をしている母も、全身から喜びが溢れているようだ。
「肉? 父さんも母さんも、もう肉はあんまりって言ってなかった?」
「祝いは牛肉に決まってるだろ! 箸で切れるような上等なのを買ったから大丈夫だ」
七十を過ぎた両親を気遣ったつもりの問い掛けは、父に遠慮なく退けられた。
「あたしも『お刺身にしようよ』って言ったんだけど。おじいちゃんが『絶対肉なんだ!』って聞かないんだもん」
「おじいちゃんはまだまだ自分の歯だって残ってるんだからな。ばあさんも、なあ?」
「そうよ。こんな時でもないとお肉なんてわざわざ食べないもの」
真理愛が笑いながら話すのに、両親が口々に答えている。
もう幼くはない、けれど今までと同様に大切な可愛い娘。
小柄で痩せた身体の、泣きも笑いもしなかった四歳の少女は、いつの間にか十八歳になっていた。
初めて顔を合わせたときは二十九歳だった圭亮が、もう四十二なのだからそれも当然だ。
娘がこの家に、──圭亮の目の届く範囲にいてくれるのはいつまでだろう。
四月には大学に入学し、数年後には社会人になる。圭亮より、……家族より心を傾ける存在ができるかもしれない。
いや、それが自然だ。
結果として独身を貫いた圭亮に、「ずっとパパといてあげるよ」と口にした真理愛。即座に「要らない!」と返してしまった。
あのときの娘の呆れた顔。
言葉のチョイスが悪かったのは認めよう。それでも決して嘘偽りではなかった。
ずっとこの掌にいて欲しいと願う自分もどこかにいる。いつまでも、子どものままで。
しかしそれを望んではいけないのもまた、理解していた。
「ねえパパ。いろいろとありがとう」
まるで父の心を読んだかのような、改まった娘の台詞。
咄嗟に否定しようとした圭亮を制するように、真理愛がさらに言葉を被せる。
「でも、これからもまだまだ世話になるから! だってあたし、パパの子だもん。覚悟しててよ、パパ」
「ああ、任しとけ!」
声が震えそうになるのを、圭亮はどうにか堪えて平静な振りをした。
近い将来、この娘が巣立つ日が来ても。
血の繋がりだけではない、二人が重ねて紡いできた日々は決して消え失せることはないのだ。
互いに「育て合って」
培った父と娘としての関係は、永遠に変わることはない。
──「こっちこそ『ありがとう』だよ」と心の中だけで呟く。言葉にしたら涙を堪えきれないだろうから。
~END~