「
圭亮、悪いけど牛乳買って来てもらえない? 朝の分がもうないのよ。まだあると思ってうっかりしてたわ……」
「あたし行ってくるよ。牛乳だけ? コンビニでいいの?」
祖母が父に買い物を頼んでいるのに、真理愛は傍から割り込んだ。ついでになにか買って来よう、と考えながら。
「もう遅いし危ないわ」
「こんな時間に真理愛ちゃん一人は絶対駄目だ!」
「何言ってんだ。パパが行くから」
しかし、三人に口々に止められてしまう。まだ二十時にもなっていないというのに。
「遅くないでしょ。それくらいあたしが──」
「じゃあ一緒に行くか? ついでにお菓子でも買ってやるよ」
父にとってはまだまだ真理愛は「子ども」なのだろう。いや、娘なのだからいくつになっても「子ども」であることに変わりはないのだが。
「……そうだね。アイス欲しいな」
父と二人での外出の機会は元々あまりない。真理愛が中学生になった今は尚更だ。
せっかくだから、と承諾した真理愛に父は笑って、祖母から財布を受け取り共に玄関に向かった。
「えーと、牛乳……。真理愛、これでいいんだよな!?」
自宅から徒歩数分のコンビニエンスストアで、父が自信なさ気に確認して来る。
「あ、そうだよ。ちょっと濃いやつね」
「よし、これ一本、と。……じゃあ真理愛、アイス見ようか。この奥だったか?」
牛乳をカゴに入れた父に訊かれ、慌てて手を振った。
「いや、いいよ。あんなの冗談だって」
「何を遠慮してんだ。パパもアイス欲しくなったから。一人じゃ食べにくいだろ」
真理愛に気を遣っているようでいて、この父はどこまで本気かわからないところがある。
「えー、パパしょーがないなあ」
苦笑しながら冷凍ケースに向かって歩を進める途中、何気なく眺めていた棚の商品に目が止まった。
「ねえパパ。あたし、これ欲しい」
「え? どれ──」
真理愛が指したのは、プラスティックの細長い容器に入った、昔ながらのラムネだ。白い小さな、粒状の菓子。
「……真理愛」
「パパ。あたしもう平気なんだ。だからこれ買って」
静かに返した真理愛に、父は一瞬息を呑んだ。
そしてふっと口元を緩めたかと思うと、右手を棚に伸ばしてその菓子を一つ取りカゴに入れる。
「アイスも買うだろ? いや、真理愛がいらなくてもパパは買う! なんかもうアイスの口になって来た!」
これは本心からの言葉か、それとも深刻さを払うための機転か。
いや、どちらでも構わない。父の言葉に自然と笑いが漏れて、心が軽くなったことだけが事実だから。
「欲しい! 四つ買おうよ。おじいちゃんとおばあちゃんにも。もしいらないって言われたら、またあたしとパパで食べればいいし」
「そうだな。うお、すごい種類あるなあ。どれにする?」
話しながら辿り着いた冷菓が並ぶケースを上から見て、迷った末に違うものを四個選び出した。
「じゃあさっさと帰るか! 溶けないうちに」
レジで精算を済ませた父が言うのに黙って頷き、自動ドアを通り抜ける。
「ねえ、パパ。ラムネちょうだい」
家に向かって歩き出してすぐに頼んだ真理愛に、父は黙ってエコバッグからラムネ菓子を取り出して渡してくれた。
「ありがと!」
容器を軽く振ってみた真理愛に、隣の父が口を開く。
「……今はまだおじいちゃんたちには見せるなよ。パパが先に話すから」
「ん。わかった」
素直に頷き、菓子をポケットに仕舞った。
祖父母をいたずらに驚かせたくない。それは真理愛も同じ気持ちだ。
──錠剤が、……「薬」が悪いんじゃない。なんでも使用法なんだ。あたしはもうそれくらいちゃんと理解してるのよ、パパ。
そして父にも伝わっているからこそ、何を問い質されることもなかったのもまたわかっている。
「次の『薬』は普通のでいいよ。今までずっとごめんね」
「わかった。でも謝ることじゃないだろ」
思い切って切り出した真理愛に、父は軽く窘めるように口にして娘の肩を抱き寄せた。
~END~