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11話 土地神様と出処調査 その六

ー/ー




 連絡を受けた次の日の昼休憩。
 僕はイザと二人で中庭のベンチで昼食を取りつつ、話を聞いていた。

「はい、これがあの本。で、こっちがその子の絵」

 イザは持っているスマホの画面をこちらに向けると、先日撮っていたキリさんの本の写真とイザの言っていた作者の可能性のある人物の描いたイラストの画像を交互に表示して見せてきた。
 
「……たしかに似てる」
「でしょ?」

 片や女性向け漫画のようなタッチの絵。もう一方はアクション漫画のような豪快な構図の絵。まったく方向性の違うイラストではあるものの、両方の男性キャラクターを見比べてみるとたしかに絵のタッチや描かれ方が素人目からしてもかなり似ているように感じる。
 これなら本人の可能性も高いだろう。

 それにしても……

「まさか校内とはね……」
「アタシも驚いたわよ。しかも同じ部活だし……どおりで見覚えがあってもPexevとかSNSでも出てこないわけだわ」

 そう、イザ曰くこのイラストの制作者はなんと彼女の所属している美術部の一人なのだという。
 世間って狭いなぁ。

「ただ、こういう方向性のモノを描くような子じゃないのよね。そこだけが引っ掛かってて……」
「一年生なんだっけ? どんな子?」
「……あー、見れば分かる。ちょっと覗きに行ってみる?」

 というわけで手早く昼食を済ませ、僕らは一年生のクラスが集まっている校舎の二階へと移動することとなった。


         〇〇〇


 それから一年二組の教室の前まで辿り着いた僕らは、開きっぱなしの扉から二人でこっそりと中を覗き込んで見回した。

「どの子?」
「窓際の前から二番目。あそこの座ってる子」

 イザに言われて教室の奥へ目を滑らせる。
 するとそこには――


 右目には眼帯。
 右腕には制服の上から巻いた黒い布。
 右手には黒い手袋。


 ――そんな奇抜なファッションをした、ウルフカットの銀髪を携えた女子生徒が腕と脚を組んで座っていた。


 彼女は今、他の女子生徒と話しているようで、その内容がこちらにも聞こえてきた。

「あの~、鈴菊(リンギク)さん」
「なんだい?」
「この前はありがと~。言われた通りにしたらバグパイプが鳴るようになったよ〜」
「ハッハーァ! 礼を言われる程ではないさ! ボクは深海に抱かれし書(アカシックレコード)から書を探し出し、キミに伝えたまでのことさ! また困ったら言いたまえ!」
「うん、本当にありがと~。相変わらず何言ってんのか分からないけど頼りになるね~」

 なるほど。彼女はリンギクさんという名前なのか。
 なるほど、なるほど……。


「またキャラが濃いのが来たなオイ」


 衣服、喋り方、この二つの要素が既に濃い。濃ゆい。
 そんな彼女の姿を見て、紅白二人を筆頭にフキやアザミさんといった面々が脳裏に浮かび、思わず天を仰いで呟いた。
 最近僕の周りって癖が強い奴らが多い気がする。気のせいだろうか。

 それにしても……たしかにイザの言っていた通りだ。
 彼女がの本を作るとは到底思えない。

「本当にあの子で合ってる?」
「合ってるわよ。あんな奇抜な子がああいう本を書きそうでもなければ仮に作者だとしてもあんなクソダサいタイトル付けそうにない、って疑う気持ちは分かるけどね」
「そこまで言ってないです井櫻さん」

 僕もあの本のタイトルはちょっとどうかと思っていないわけではないけども。
 だがそうなると絵柄が似ているだけの他人の可能性が高い……いや、諦めるのは尚早だ。きちんと確かめてからでないと。

「しかしどうやって確かめる?」
「は? 普通に訊けば……ってああ。そういう心配ね」

 そう、問題は例の本の内容である。
 個人的な趣味嗜好……ぶっちゃけて言えば性癖とかそういう部分について訊ねることになるからな。

「リンギクさんがフキみたいに性癖開示をしてくれるタイプだと楽なんだけど」
「楽かもしれないけどアタシが嫌だわ」
「僕も嫌だね」

 特殊事例はともかく、『あなたはボーイズラブ作品を執筆したことがありますか?』などと突然訊ねるのは難しいのである。
 こうなればそっちの話に抵抗が無いのを祈るばかり……と考えていると、イザは「あ、そうだ」と言ってスマホを取り出して指を動かし始めた。

「これをこうして……よし、良い感じ」
「何してんの?」
「画像加工。こうすれば一枚絵にしか見えないし、仮に知らなくても誤魔化せるでしょ」
「おお、天才」

 画面を見せてもらうと、たしかに顔の辺りを拡大するようにトリミングされたことで漫画の中表紙というよりも一枚のイラストに見えた。
 これなら特に問題なさそうだ。

「つってもまあ、うちの部ってこういうのに寛容だし普通に訊いてもいけそうだけどね」
「え、そうなの? でもお前昨日……」
「いやアレはアンタの性癖と思ってショック受けただけだし。まあ苦手なのは確かだけど」

 なるほど?
 たしかに友人のそういった対象が自分の忌避するものな上、突然目の前に広げられたとすれば硬直してもおかしくはない……のかもしれない。

「……? おお! イザクラ先輩ではないかッ! 誰かに御用事か?」

 そうして二人で話していると、件の後輩……リンギクさんに気付かれたらしい。彼女は席を立つと笑顔でこちらに駆け寄ってきた。

「こんにちは。ちょっとアンタに用があってね」
「ボクに? いいぞ!」
「……まだ何も言ってないんだけど」
「ふっ、他でもない敬愛するイザクラ先輩の頼み事だ。何なりと言うがいいさ!」

 どうやらイザは随分と彼女に懐かれているらしい。内容を言っていないにも関わらず二つ返事で元気のいい了承である。
 ……何故か口を開くたびに頭部付近に手を添えてポーズを決めているのが気になるけど、そこは追及しないでおこう。

「仲が良いんだね」
「ああ! ボクと先輩はとても仲良しで先輩誰だこの方は!?」

 僕が口を挟むと、返事の中でシームレスに嬉しそうな顔から驚愕の表情へと変貌した。
 反応からして気が付いていなかったのだろうか? すぐ隣にいたのに。ちょっとショックなんだけど……。

「友達。用事ってのはコイツが絡んでてね」
「そうか……大変失礼をした! 初めまして、鈴菊(リンギク)だ!」
「相引(ソウビキ)です。よろしく」

 はきはきとした元気な挨拶を受け、互いに握手を交わす。
 うん。悪い子ではなさそうだ。

「ソウビキ……? ソウビキ……」 
「……リンギクさん?」
「いや、なんでもない。よろしく、ソウビキ先輩!」

 僕の名前を聞いた途端、なにやら考え込むような仕草を一瞬見せたものの、無事握手は完了。
 どうしたんだろう。珍しい苗字だし漢字が気になったとかかな。

「して、用とは何のことだろうか?」
「この絵なんだけどアンタなんか知らない?」
「ほう。どれどれ……」

 スマホに画像を表示した状態でリンギクさんに手渡した。
 すると――



「………………」



 ――彼女はイザのスマホを片手に、無言で目を見開いて固まってしまっていた。


「……リンギクさん?」
「――っ!」

 僕が声を掛けると、彼女ははっとした顔をしてから、すぐさま笑顔を浮かべて答えた。

「す、すまない! あまりにもボクの作品(イデア)と似ていたもので驚いてしまった」
「まあそりゃそうよね。それでどう?」
「いや……申し訳ないが、な」
「うーん、そっかぁ」
「……ん?」

 今、何か―――。

「ところで先輩。恐縮なのだが……」
「何よ?」
「これならば画像を送って頂くだけで事足りたのではないか? わざわざ出向いてもらう必要は……はっ!! もしや放課後を待てず直接ボクに会いたかったという先輩の愛の表れ……ッ!?」

 リンギクさんは悩ましげな顔をしたかと思えば、衝撃の走ったような顔つきになり、イザを包み込まんとするように突然両腕を広げた。

「いや違うから。事情があってこの画像拡散させたくないだけよ」
「む、それは残念。ただ、ボクの力が必要となればいつでも言ってくれ! ボクは頼りになるらしいからな!」
「ん、ありがとね」

 自信満々に胸元をポンと叩くリンギクさんと適当にあしらうイザ。おざなりな対応にも関わらずリンギクさんの方は特に気にした様子もなく、嬉しそうに笑顔を浮かべている。
 そんなやり取りを見るに、どうやらイザは本当に慕われているらしい。まあなんだかんだでコイツは面倒見がいいしな。


 ――キーンコーンカーン……。


 ふざけ混じりのやり取りもありながら、リンギクさんがイザにスマホを返却したところで予鈴が鳴った。
 周りが少しだけ慌ただしくなる中、僕も「協力ありがとう」と言い残してイザと一緒に教室の前から立ち去ることにした。



「うーん……ハズレだったか」

 自分達の教室へと戻る道中、隣でイザが呟いた。
 望み薄ではあったものの、当てが外れたということで少しだけ不満そうな顔をしている。

 リンギクさんの態度からして、イザがそう言うのも仕方ないと思う。
 ただ――


「――あながち、ハズレでもないかもしれないけどね」


 僕が否定するようにそう溢すと、イザは「え?」とこちらに顔を向けてきた。
 そう、彼女は――リンギクさんはあの本について、何か知っている可能性がある。

「いやいや、さっきあの子知らないって」
、とは言ってなかったよ」

 リンギクさんは『知らない』のではなく『力になれそうにない』と言っていた。
 それに……

「お前が画面を見せて訊いた時、なんて言ったっけ?」
「そりゃ、このについてなんか知らない? って感じで――……あっ」


「―――そうだ。なのにあの子はその写真を見て、『このに関して力になれない』と言った」


 イザは写真については『絵』としか言っておらず、『本』とは一言も発していない。
 それに見せた画像は一枚絵として見られるようにトリミング加工している。一目見ただけでは本とは分からないようになっていた。

「言われてみれば、確かに……」
「勿論、単純に言い間違えただけっていう線もあるけどね」

 イザは無事納得してくれたようだが、保険をかけるように一言付け加えた。
 ここまで言っておいてなんだけど、これでただの勘違いだったら恥ずかしいからね。小心者故に言い切りはしないのさ。

「たしかにその可能性がないわけではない、けど――」
「けど?」
「――アンタの考えに乗る方が面白そうね」

 楽しそうに笑みを浮かべるイザ。彼女につられるように僕も口元が少し緩んだ。
 ……ホント、笑ってれば可愛いんだけどな。

 ともかく、話のキリもいいところでそろそろ時間が限界であろうことに気が付いた僕らは移動の足を速めたのだった。



「ところでイザ。さっきリンギクさんが言ってた『イデア』って何なの? プラトン?」
「ああ、あの子時々ああいう事言うけどスルーしていいから」

 あ、そうなの。





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 連絡を受けた次の日の昼休憩。
 僕はイザと二人で中庭のベンチで昼食を取りつつ、話を聞いていた。
「はい、これがあの本。で、こっちがその子の絵」
 イザは持っているスマホの画面をこちらに向けると、先日撮っていたキリさんの本の写真とイザの言っていた作者の可能性のある人物の描いたイラストの画像を交互に表示して見せてきた。
「……たしかに似てる」
「でしょ?」
 片や女性向け漫画のようなタッチの絵。もう一方はアクション漫画のような豪快な構図の絵。まったく方向性の違うイラストではあるものの、両方の男性キャラクターを見比べてみるとたしかに絵のタッチや描かれ方が素人目からしてもかなり似ているように感じる。
 これなら本人の可能性も高いだろう。
 それにしても……
「まさか校内とはね……」
「アタシも驚いたわよ。しかも同じ部活だし……どおりで見覚えがあってもPexevとかSNSでも出てこないわけだわ」
 そう、イザ曰くこのイラストの制作者はなんと彼女の所属している美術部の一人なのだという。
 世間って狭いなぁ。
「ただ、こういう方向性のモノを描くような子じゃないのよね。そこだけが引っ掛かってて……」
「一年生なんだっけ? どんな子?」
「……あー、見れば分かる。ちょっと覗きに行ってみる?」
 というわけで手早く昼食を済ませ、僕らは一年生のクラスが集まっている校舎の二階へと移動することとなった。
         〇〇〇
 それから一年二組の教室の前まで辿り着いた僕らは、開きっぱなしの扉から二人でこっそりと中を覗き込んで見回した。
「どの子?」
「窓際の前から二番目。あそこの座ってる子」
 イザに言われて教室の奥へ目を滑らせる。
 するとそこには――
 右目には眼帯。
 右腕には制服の上から巻いた黒い布。
 右手には黒い手袋。
 ――そんな奇抜なファッションをした、ウルフカットの銀髪を携えた女子生徒が腕と脚を組んで座っていた。
 彼女は今、他の女子生徒と話しているようで、その内容がこちらにも聞こえてきた。
「あの~、鈴菊《リンギク》さん」
「なんだい?」
「この前はありがと~。言われた通りにしたらバグパイプが鳴るようになったよ〜」
「ハッハーァ! 礼を言われる程ではないさ! ボクは|深海に抱かれし書《アカシックレコード》から書を探し出し、キミに伝えたまでのことさ! また困ったら言いたまえ!」
「うん、本当にありがと~。相変わらず何言ってんのか分からないけど頼りになるね~」
 なるほど。彼女はリンギクさんという名前なのか。
 なるほど、なるほど……。
「またキャラが濃いのが来たなオイ」
 衣服、喋り方、この二つの要素が既に濃い。濃ゆい。
 そんな彼女の姿を見て、紅白二人を筆頭にフキやアザミさんといった面々が脳裏に浮かび、思わず天を仰いで呟いた。
 最近僕の周りって癖が強い奴らが多い気がする。気のせいだろうか。
 それにしても……たしかにイザの言っていた通りだ。
 彼女が《《ああいった内容》》の本を作るとは到底思えない。
「本当にあの子で合ってる?」
「合ってるわよ。あんな奇抜な子がああいう本を書きそうでもなければ仮に作者だとしてもあんなクソダサいタイトル付けそうにない、って疑う気持ちは分かるけどね」
「そこまで言ってないです井櫻さん」
 僕もあの本のタイトルはちょっとどうかと思っていないわけではないけども。
 だがそうなると絵柄が似ているだけの他人の可能性が高い……いや、諦めるのは尚早だ。きちんと確かめてからでないと。
「しかしどうやって確かめる?」
「は? 普通に訊けば……ってああ。そういう心配ね」
 そう、問題は例の本の内容である。
 個人的な趣味嗜好……ぶっちゃけて言えば性癖とかそういう部分について訊ねることになるからな。
「リンギクさんがフキみたいに性癖開示をしてくれるタイプだと楽なんだけど」
「楽かもしれないけどアタシが嫌だわ」
「僕も嫌だね」
 特殊事例はともかく、『あなたはボーイズラブ作品を執筆したことがありますか?』などと突然訊ねるのは難しいのである。
 こうなればそっちの話に抵抗が無いのを祈るばかり……と考えていると、イザは「あ、そうだ」と言ってスマホを取り出して指を動かし始めた。
「これをこうして……よし、良い感じ」
「何してんの?」
「画像加工。こうすれば一枚絵にしか見えないし、仮に知らなくても誤魔化せるでしょ」
「おお、天才」
 画面を見せてもらうと、たしかに顔の辺りを拡大するようにトリミングされたことで漫画の中表紙というよりも一枚のイラストに見えた。
 これなら特に問題なさそうだ。
「つってもまあ、うちの部ってこういうのに寛容だし普通に訊いてもいけそうだけどね」
「え、そうなの? でもお前昨日……」
「いやアレはアンタの性癖と思ってショック受けただけだし。まあ苦手なのは確かだけど」
 なるほど?
 たしかに友人のそういった対象が自分の忌避するものな上、突然目の前に広げられたとすれば硬直してもおかしくはない……のかもしれない。
「……? おお! イザクラ先輩ではないかッ! 誰かに御用事か?」
 そうして二人で話していると、件の後輩……リンギクさんに気付かれたらしい。彼女は席を立つと笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「こんにちは。ちょっとアンタに用があってね」
「ボクに? いいぞ!」
「……まだ何も言ってないんだけど」
「ふっ、他でもない敬愛するイザクラ先輩の頼み事だ。何なりと言うがいいさ!」
 どうやらイザは随分と彼女に懐かれているらしい。内容を言っていないにも関わらず二つ返事で元気のいい了承である。
 ……何故か口を開くたびに頭部付近に手を添えてポーズを決めているのが気になるけど、そこは追及しないでおこう。
「仲が良いんだね」
「ああ! ボクと先輩はとても仲良しで先輩誰だこの方は!?」
 僕が口を挟むと、返事の中でシームレスに嬉しそうな顔から驚愕の表情へと変貌した。
 反応からして気が付いていなかったのだろうか? すぐ隣にいたのに。ちょっとショックなんだけど……。
「友達。用事ってのはコイツが絡んでてね」
「そうか……大変失礼をした! 初めまして、鈴菊《リンギク》だ!」
「相引《ソウビキ》です。よろしく」
 はきはきとした元気な挨拶を受け、互いに握手を交わす。
 うん。悪い子ではなさそうだ。
「ソウビキ……? ソウビキ……」 
「……リンギクさん?」
「いや、なんでもない。よろしく、ソウビキ先輩!」
 僕の名前を聞いた途端、なにやら考え込むような仕草を一瞬見せたものの、無事握手は完了。
 どうしたんだろう。珍しい苗字だし漢字が気になったとかかな。
「して、用とは何のことだろうか?」
「この絵なんだけどアンタなんか知らない?」
「ほう。どれどれ……」
 スマホに画像を表示した状態でリンギクさんに手渡した。
 すると――
「………………」
 ――彼女はイザのスマホを片手に、無言で目を見開いて固まってしまっていた。
「……リンギクさん?」
「――っ!」
 僕が声を掛けると、彼女ははっとした顔をしてから、すぐさま笑顔を浮かべて答えた。
「す、すまない! あまりにもボクの作品《イデア》と似ていたもので驚いてしまった」
「まあそりゃそうよね。それでどう?」
「いや……申し訳ないが、《《この本に関してボクは力になれそうもない》》な」
「うーん、そっかぁ」
「……ん?」
 今、何か―――。
「ところで先輩。恐縮なのだが……」
「何よ?」
「これならば画像を送って頂くだけで事足りたのではないか? わざわざ出向いてもらう必要は……はっ!! もしや放課後を待てず直接ボクに会いたかったという先輩の愛の表れ……ッ!?」
 リンギクさんは悩ましげな顔をしたかと思えば、衝撃の走ったような顔つきになり、イザを包み込まんとするように突然両腕を広げた。
「いや違うから。事情があってこの画像拡散させたくないだけよ」
「む、それは残念。ただ、ボクの力が必要となればいつでも言ってくれ! ボクは頼りになるらしいからな!」
「ん、ありがとね」
 自信満々に胸元をポンと叩くリンギクさんと適当にあしらうイザ。おざなりな対応にも関わらずリンギクさんの方は特に気にした様子もなく、嬉しそうに笑顔を浮かべている。
 そんなやり取りを見るに、どうやらイザは本当に慕われているらしい。まあなんだかんだでコイツは面倒見がいいしな。
 ――キーンコーンカーン……。
 ふざけ混じりのやり取りもありながら、リンギクさんがイザにスマホを返却したところで予鈴が鳴った。
 周りが少しだけ慌ただしくなる中、僕も「協力ありがとう」と言い残してイザと一緒に教室の前から立ち去ることにした。
「うーん……ハズレだったか」
 自分達の教室へと戻る道中、隣でイザが呟いた。
 望み薄ではあったものの、当てが外れたということで少しだけ不満そうな顔をしている。
 リンギクさんの態度からして、イザがそう言うのも仕方ないと思う。
 ただ――
「――あながち、ハズレでもないかもしれないけどね」
 僕が否定するようにそう溢すと、イザは「え?」とこちらに顔を向けてきた。
 そう、彼女は――リンギクさんはあの本について、何か知っている可能性がある。
「いやいや、さっきあの子知らないって」
「《《知らない》》、とは言ってなかったよ」
 リンギクさんは『知らない』のではなく『力になれそうにない』と言っていた。
 それに……
「お前が画面を見せて訊いた時、なんて言ったっけ?」
「そりゃ、この《《絵》》についてなんか知らない? って感じで――……あっ」
「―――そうだ。なのにあの子はその写真を見て、『この《《本》》に関して力になれない』と言った」
 イザは写真については『絵』としか言っておらず、『本』とは一言も発していない。
 それに見せた画像は一枚絵として見られるようにトリミング加工している。一目見ただけでは本とは分からないようになっていた。
「言われてみれば、確かに……」
「勿論、単純に言い間違えただけっていう線もあるけどね」
 イザは無事納得してくれたようだが、保険をかけるように一言付け加えた。
 ここまで言っておいてなんだけど、これでただの勘違いだったら恥ずかしいからね。小心者故に言い切りはしないのさ。
「たしかにその可能性がないわけではない、けど――」
「けど?」
「――アンタの考えに乗る方が面白そうね」
 楽しそうに笑みを浮かべるイザ。彼女につられるように僕も口元が少し緩んだ。
 ……ホント、笑ってれば可愛いんだけどな。
 ともかく、話のキリもいいところでそろそろ時間が限界であろうことに気が付いた僕らは移動の足を速めたのだった。
「ところでイザ。さっきリンギクさんが言ってた『イデア』って何なの? プラトン?」
「ああ、あの子時々ああいう事言うけどスルーしていいから」
 あ、そうなの。