『残念ながら、雪崩に巻き込まれた学生ら8人全員の死亡が確認されました――』
ニュース番組が被災者の訃報を告げる。その中には、俺とかつて剣を交えた男の名前も列挙されている。ただ一度だけ剣を交え、俺に敗北を与えた人物はこの世から旅立った。
後日談だが、対馬は選手権大会後に剣道部を退部。その後の彼は剣道界から逃避すべく、そこから最も遠い世界を探し求めた。そんな折、学部のゼミ仲間に誘われて入部したのが山岳部だったそうだ。
自然を愛していた彼にとって、山岳部は心の拠り所となっていたらしい。社会の喧騒から逃避するとき、人は登山を志すのかもしれない。
『警察は大学関係者の過失も視野に入れ、捜査を進める方針です』
ニュースが告げるように、後に大学側の過失が明らかとなる。雪崩は予見でき、事故は回避可能だったという見解が地方裁の判決により示された。大学側は最終的に上告を試みたものの、最高裁はこれを棄却。山岳部長らに禁固刑の実刑が確定した。
だが、俺は雪崩事故の責任追及などどうでもよかった。対馬との再戦を果たすこともなく、俺の燃え滾った心をどうしたらいい? これじゃあ本当の意味で勝ち逃げじゃないか!!
俺の闘志は憤りへ変化するが、その拳はぶつける場所がなかった。俺は振り上げた拳を力なく下ろし、失意のままにしゃがみこんだ。
「対馬ぁぁぁっ! 戻って来いっ!!!」
対馬の死を受け入れられず、俺は感情のままに慟哭した。万が一にも、この嘆きが天に届かぬだろうか。この時ばかりは俺も神を信じたかった。
――それからの俺はすっかり戦意を喪失し、剣道に身が入らなくなった。やがて大将の座から陥落し、部活も休みがちになった。最終的には幽霊部員となり、人知れず退部した。
鹿児島の火竜と呼ばれた俺は、文字通り燃え尽きた。唯一の取柄だった剣道を失った俺は学業も芳しくなく、就職活動も苦戦を強いられる。その後は先述の通りだ。
――以上が、俺と対馬を巡る過去の話だ。遺族らは雪崩事故を風化させまいと募金活動を実施し、慰霊碑を建立した。この教訓、次代へ継承されなければなるまい。
俺は長らくこの場へ赴くことを拒んできたが、ようやく心の整理がついた。待たせたな、対馬。
雪崩事故は25年前の出来事、対馬の弔い上げも数年に迫っていた。秋子の話だと、御霊は弔い上げを終えると昇華されてしまうそうだ。要するに、その存在が消滅するということだ。
俺は黙して慰霊碑へ合掌。対馬の冥福を祈った。