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商談81 回想―失意の対馬―

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 一方、その後の対馬を見る剣道家達の目はあまりにも厳しいものだった。彼としては試合規則の穴を突いた知的な戦法だったのだろうが、武士道精神を重んじる剣道家達にとっては嫌悪すべき悪の所業として映ったに違いない。
 本来ならば賞賛すべき学生剣道選手の頂点という成績、だが今の彼を称賛する者はいない。これは何という不遇だろうか。
 咎人(とがにん)として祭り上げられた対馬は、人知れず剣道界から姿を消すことになる。今思えば、部内でもバツが悪かったのではないかと思う。
 そんなことなどつゆ知らず、俺は対馬との再燃に燃えていた。形はどうであれ、鹿児島の火竜が燕に屈したのだ。その事実を俺はどうにも受け入れることが出来なかった。
 ヤツと再戦した暁には、火竜として威風堂々の勝鬨(かちどき)を挙げねばなるまい。武士道精神に反し、当時の俺は対馬以上に勝利へ固執してしまっていたのだ。
 ――選手権大会から半年くらい経った頃だろうか。その知らせは突然やって来た。
「先輩、この記事を見て下さい!!」
 稽古前の更衣室に本間が駆け込んできた。どうやら新聞を片手に握りしめているようだが、一体何があったのだろうか?
「この名前、先輩を倒した相手ですよね!?」
 記事の1面を飾っているのは、昨晩に須賀高原で起きた雪崩事故。確か、大学の山岳部員とその顧問が意識不明の重体になっていると聞いた。
「ここに書かれている対馬って、きっとあの対馬ですよ!!」
 本間は被災者リストに記載されている氏名を指差した。そこに書かれていたのは『対馬衛』という名前。俺は一瞬目を疑った。剣道部員だったはずの対馬が、どうして山岳部の事故に巻き込まれているんだ!?
 同姓同名の別人だと疑ったが、大学も学年も対馬本人と合致している。悪い夢だと思い自身の頬を(つね)るが、どうにも夢ではないようだ。
 対馬が雪崩事故に巻き込まれたこと、それは俺にとって青天の霹靂(へきれき)だった。形はどうであれ、仮にも剣を交えた相手だ。平静を保てるはずもない。
「すまない本間、今日の稽古は休ませてもらう」
 俺は竹馬の友ならぬ交剣の友の身を案じた。このような心持ちでは到底稽古に打ち込めない。俺は足早に剣道場を切り上げて帰宅した。
 当時SNSが存在していたならば、今すぐにでも対馬を訪ねて安否を知りたかった。だが当時の俺は無力、テレビの画面越しに雪崩事故の報道をただ見守るしかなかった。


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 一方、その後の対馬を見る剣道家達の目はあまりにも厳しいものだった。彼としては試合規則の穴を突いた知的な戦法だったのだろうが、武士道精神を重んじる剣道家達にとっては嫌悪すべき悪の所業として映ったに違いない。
 本来ならば賞賛すべき学生剣道選手の頂点という成績、だが今の彼を称賛する者はいない。これは何という不遇だろうか。
 |咎人《とがにん》として祭り上げられた対馬は、人知れず剣道界から姿を消すことになる。今思えば、部内でもバツが悪かったのではないかと思う。
 そんなことなどつゆ知らず、俺は対馬との再燃に燃えていた。形はどうであれ、鹿児島の火竜が燕に屈したのだ。その事実を俺はどうにも受け入れることが出来なかった。
 ヤツと再戦した暁には、火竜として威風堂々の|勝鬨《かちどき》を挙げねばなるまい。武士道精神に反し、当時の俺は対馬以上に勝利へ固執してしまっていたのだ。
 ――選手権大会から半年くらい経った頃だろうか。その知らせは突然やって来た。
「先輩、この記事を見て下さい!!」
 稽古前の更衣室に本間が駆け込んできた。どうやら新聞を片手に握りしめているようだが、一体何があったのだろうか?
「この名前、先輩を倒した相手ですよね!?」
 記事の1面を飾っているのは、昨晩に須賀高原で起きた雪崩事故。確か、大学の山岳部員とその顧問が意識不明の重体になっていると聞いた。
「ここに書かれている対馬って、きっとあの対馬ですよ!!」
 本間は被災者リストに記載されている氏名を指差した。そこに書かれていたのは『対馬衛』という名前。俺は一瞬目を疑った。剣道部員だったはずの対馬が、どうして山岳部の事故に巻き込まれているんだ!?
 同姓同名の別人だと疑ったが、大学も学年も対馬本人と合致している。悪い夢だと思い自身の頬を|抓《つね》るが、どうにも夢ではないようだ。
 対馬が雪崩事故に巻き込まれたこと、それは俺にとって青天の|霹靂《へきれき》だった。形はどうであれ、仮にも剣を交えた相手だ。平静を保てるはずもない。
「すまない本間、今日の稽古は休ませてもらう」
 俺は竹馬の友ならぬ交剣の友の身を案じた。このような心持ちでは到底稽古に打ち込めない。俺は足早に剣道場を切り上げて帰宅した。
 当時SNSが存在していたならば、今すぐにでも対馬を訪ねて安否を知りたかった。だが当時の俺は無力、テレビの画面越しに雪崩事故の報道をただ見守るしかなかった。