〈鵺の呪いとは〉
九百年あまり前、宮中に帝を悩ませる怪物が現れた。その退治を仰せつかった武将・|英《はなぶさ》|治親《はるちか》は、郎党の|雷郷《らいごう》、同じく郎党のリンを連れて参内した。黒雲の中に怪物がいるとみた英治親はそこをめがけて矢を放つ。矢は見事に命中し、怪物は地面に落ちた。そこをすかさず雷郷が飛びかかって止めを刺した。息絶えた怪物の姿を確認すると、頭は猿、胴体は猪、手足は虎、尾は蛇という凶々しい姿だった。その鳴き声が鵺という鳥に似ていたことから、この怪物は鵺と呼ばれるようになった。
鵺が出現した目的は帝を呪うことだったが、道半ばで殺されてしまったため、その殺意は自らを討った英治親に向けられた。その部下であり、直接手を下した雷郷と、その場に居合わせたリンも治親諸共鵺に呪われることになる。
鵺射殺事件からおよそ一年後、鵺の呪いにより英治親、雷郷、リンはその生涯を閉じた。だが、呪いは終わらない。鵺は彼らを何度も人間に転生させ殺し続ける。その回数は三十三回。そして三十四回目の転生者である|周防《すおう》|永《はるか》、|唯《ただ》|蕾生《らいお》、|御堂《みどう》|鈴心《すずね》は今度こそ鵺の呪いに打ち勝とうと足掻き始める。
〈登場人物〉
|唯《ただ》 |蕾生《らいお》
15歳。高校一年生
生まれつき人よりも力が強く、何かと不自由で理不尽な目に会ってきた
幼少の頃出会った永に心を救われる。それ以降は永を頼りきって生きている
力が強くて箸などを折ってしまうため、おにぎり、ハンバーガーといった手掴みの食べ物を好む
英治親の郎党・|雷郷《らいごう》が転生した姿
|周防《すおう》 |永《はるか》
15歳。高校一年生
頭脳明晰で口から先に生まれてきたような男。蕾生の幼馴染
都市伝説やUMAなどのオカルトと呼ばれるものが大好きで、ネット界隈では多数のハンドルネームを使いこなす
剣道と弓道を嗜み、特技はレース編み
九百年ほど前の武将、|英《はなぶさ》|治親《はるちか》が転生した姿
|御堂《みどう》 |鈴心《すずね》
13歳。高校一年生(飛び級)
高明な陰陽師一族・銀騎家の分家に生を受けたが、現在は当主の銀騎詮充郎に養育されている
一緒に住んでいる銀騎星弥を姉妹のように慕っている。言葉遣いは丁寧だが、性格は冷静できつい
長らく銀騎研究所内を出たことがなかったため、現在の常識にやや疎い
英治親の郎党・リンが転生した姿
|銀騎《しらき》 |星弥《せいや》
16歳。高校一年生
蕾生と永の隣のクラスで学級委員をしている。不思議と周りから好感度を集める乙女ゲームの主人公(永談)のような少女
高明な陰陽師一族・銀騎家に生まれるが、本人に陰陽師の力はないらしい
祖父の詮充郎とは距離をおいて暮らしている分、兄の皓矢を特に慕っている
鈴心のことを猫っ可愛がり、目の中に入れても痛くないし、なんなら食べちゃいたいと思っている
|銀騎《しらき》 |詮充郎《せんじゅうろう》
74歳。銀騎研究所所長、銀騎家現当主
高明な陰陽師一族の当主ではあるが、本人に陰陽師の力はない
およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した
鵺の呪いに異常な興味を抱き、何度も永達に接触し、彼らの呪いの解除究明を邪魔してきた
|銀騎《しらき》 |皓矢《こうや》
28歳。銀騎研究所副所長、銀騎家次期当主
強力な陰陽師の力を有し将来を嘱望される青年。同時に詮充郎の教えを受け、一流の生物学研究者でもある
祖父の詮充郎を第一に考え、常に手足となって動く。星弥と鈴心を常に気遣う家族思いな面もある
専用の式神・|瑠璃鴉《るりがらす》(愛称ルリカ)を常に側に置いている
|銀騎《しらき》 |紘太郎《ひろたろう》
享年28歳。銀騎詮充郎の一人息子
銀騎家開祖以来の天才とうたわれた陰陽師かつ科学者
前回の三十三回目の転生時において命を落とした
|佐藤《さとう》 |斗羽理《とばり》
見た目は二十代後半なのに、詮充郎の助手を二十年以上勤めている不思議な女性
助手に徹していた頃は無表情で感情の読めない、まるで機械のような性格だったが、蕾生の鵺化により豹変
詮充郎に瀕死の重傷を負わせ、銀騎の家宝・|幽爪珠《ゆうそうじゅ》を奪って行方をくらませた
|雨都《うと》 |梢賢《しょうけん》
蕾生達の前に現れたパリピ風の青年。怪しげな関西弁を話す
昔から永達を支援してくれていた僧侶の家系の子孫だと言う
|雨都《うと》 |楓《かえで》
三十二回目の転生時にハル達を支援した女子高生
〈語句説明〉
|萱獅子刀《かんじしとう》
英治親が鵺を討伐した時に帝から賜った宝刀。現在までに何度も紛失と発見を繰り返す
銀騎の元にあると思われていたが、三十三回目の転生時に紛失していたことが判明
なお、その切先片のみ詮充郎が保管していた鵺の遺骸から出てきた
|慧心弓《けいしんきゅう》
英治親愛用の弓。鵺を射った武器。現在までに何度も紛失と発見を繰り返す
永によれば、三十二回目の転生時に消失している
|翠破《すいは》
英治親が使った一対の矢のうちのひとつ
三十二回目の転生時に、雨都楓が鵺を射った時に刺さったまま身体に取り込まれた
詮充郎が保管していた鵺の遺骸からその鏃のみが出てきた
|紅破《こうは》
英治親が使った一対の矢のうちのひとつ
永によればかなり前の転生時に鵺の身体に取り込まれたらしい
鵺化した蕾生がその鏃のみを吐き出した
|幽爪珠《ゆうそうじゅ》
代々当主に受け継がれている銀騎家の家宝
元々は銀騎家開祖の|銀騎《しらき》|朝詮《ちょうぜん》が鵺の爪から作ったもの
現在は詮充郎の手によりその姿がかわっている。蕾生の鵺化後、佐藤斗羽理に奪取された
〈二部予告〉
雨都梢賢の招きによって彼の故郷を訪ねた永、蕾生、鈴心。
雨都家が隠れ住んでいるというその里には、別の理由で同じように隠れ住んでいる一族がいた。
里の長・|藤生《ふじき》家、その分家の|眞瀬木《ませき》家、そして藤生家の厚意で里に暮らす雨都家は奇妙なバランスを保ちながら暮らしている。
しかし雨都梢賢が三人に助けを求めた理由はその里に関することではなかった。梢賢は三人にある母子家庭を紹介する。
昔、雨都家から離反した分家の|雨辺《うべ》家、その子孫だった。彼らは鵺をうつろ神と呼んで盲目なまでに信仰していた――