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「奪還」その3

ー/ー




 ーー外は惨劇と形容するに相応しい状況だった。
 『ブーゲンビリア』は歓楽街の中でも比較的大きな商業施設で、その幅広い需要を満たすテナント達を目当てにカップルや子供連れも多く訪れる場所だった。
 
 そこは今は、施設内の床や壁は所々崩れ黒焦げになり、店内は殆どが原型のわからないくらいに荒れ、3階建ての広いフロア達を繋げるリニアエレベーターも火花を撒き散らしながら破損し、全階層を吹き抜けにして貫く天井のガラスは粉々に砕け散っていた。

 その砕け散った吹き抜けの1Fの中央広場に、ドルア・オルランドはいた。周囲に散らばった民間人や軍警察関係者の肉片と共に……。

「来たか……腐れ『執行機』共」

 そう呟いたドルアは、その2メートル以上はあろうかという巨躯を、自身の顎全体を覆う髭面を、そして異形とも言える程に自身の身体より遥かに大きく機構化した右腕を、血で真っ赤に染め上げていた。

「ドルア・オルランドか?」

 その惨状に1414も1618も全く動じていなかった。セフティーを解除しながら、1414はドルアに声をかけ始めた。
 1618は同じくセフティーを解除しながら、その経緯を観察した。

「あぁ、そうだ。……? なんだ、らしくねぇな『執行機』。とっとと来いよ。俺とお前らで、奪い合おうぜ!!」

 ドルアは、その真っ赤になった右腕で、手元にあった死体を掴むと、思いっきり後方に投げた。すると遥か後方の壁に、死体がベチャッと打ち付けられた。

 1414は、「まぁ、そういうなよ。君は……」と言葉を告げようとした次の瞬間、1618が弾かれる様にドルアに向かって跳躍した。

「執行開始ーー」

 1618が告げると、突如1618の背中、ちょうど肩甲骨の両側から、4本の腕の様なものが伸びた。4本の腕は徐々に大きく鋼鉄を帯びて硬化し、そのロボットアームの様になった腕がドルアに掴みかかる。

「ハッハーァァァッ!! そうこなくっちゃなあ!」

 自身を覆う様に掴みかかって来たアームに、ドルアは機構化プログラムのリミッターを全開にし、肥大した右腕を更に肥大させ灼熱を帯びさせた。
 燃える巨人の腕が、1618のアームを振り払い、目の前に飛ばされ体制を崩した1618を逆に押し潰そうと手を伸ばす。

「機構化プログラムーー『アラクネー』起動」

 1618の声と共に、4本のアームの手のひらの様になった部分から銃口を覗かせ、そこから驟雨の如く銃弾をばら撒いた。

「ーーっ! ウォォオ!!」

 しかし放たれた銃弾をもろともせず、ドルアはそのまま、右腕を後方に振りかぶり、1618を殴りつけるために拳を放った。

 しかし、それに応戦して1618も4本のアーム、そして元からある2本の腕でドルアの赤熱した手を受け止めた。

 ーー轟音。二人のぶつかり合う音と共に衝撃が波紋の様に周囲に広がり、半壊したショッピングモール内に地響きが起こった。

「ふむ……」

 1414は1618の救援に行こうと、未だぶつかり合う二人の元に駆け出そうとした。
 すると、1414の周辺探知ソナーに何かの熱源が映った。

「ーー!」

 1414が咄嗟に後ろに飛び退くと、2Fの瓦礫が積み上がった陰から大型の四足歩行の砲台を備えた戦車が降って来た。
 ソレは、着地の際に縮め込んだ自身の機体を立ち上がらせ、ギィィという駆動音と共に、1618達と1414の間に立ち塞がる。

「これは……軍の市中作戦兵器?」

 兵器は1414の元に急速に突進し、1414と共に壁を突き破りながらその場を離れていった……。

 
 吹き抜けのある中央広場で、1618とドルアは、己の全身を使い殴り合っていた。
 ドルアはその巨躯と巨椀からは想像できない程に俊敏に動き回り、殴打を繰り出し続ける。
 1618は、その風を荒々しくきる破壊の権化を合計6本の腕でいなし、時に受け止めながら合間合間にドルアにカウンターの痛打をくらわせる。

「グッ……オラァ!」

ドルアが度重なる痛打を堪えながら、右腕を握り締め、真上から1618に向かって振り下ろす。

(対応可能……受け止める)

と判断した1618は、思考した通りドルアの振り下ろされた腕を、アームと手で下から支える形で受け止めた。次の瞬間ーー。

「バカが」とドルアが嗤い、爆炎がドルアの腕から迸った。

 ドルアの使う機構化プログラム『ムスペル』は、稼働状況が長くなればなるほど、つまり自身の温度が上がれば上がるほど出力をあげる代物だった。
 1618もそれは事前に情報を得ていた為了承済みであり、そしてデーターベースの計算によればまだこれほどの出力は出せない筈だった。だからこれは1618の誤算だった。

 受け止める1618の身体を業炎が包む。ドルアは、更に追撃の為その態勢のまま蹴りを繰り出した。

 しかしその繰り出した足は、業炎の陰に隠れる何かに阻まれた。炎の隙間から、1618の元からある腕、一本の細い女の様な腕がドルアの足を掴んでいた。

「補足ーー投擲」

 1618はそのままつかんだ足を腕で絡め取りながら、ドルアの身体を持ち上げ振り回し、思いっきりぶん投げた。

 周囲の壁を吹き飛ばしながら叩きつけられたドルア。しかし彼は、その自身が激突した為に崩れ去った瓦礫の隙間から尚も炎を噴き上げながら立ち上がった。

「クソが……どいつもこいつも、なんだって俺から奪いやがる?」

 瓦礫を踏み締め、ドルアが歩み出ると、1618がアームの銃口を向けながら歩み寄って来ていた。

 ーーこの男、何かがおかしい。何故データーベースにない動きを繰り出せる? 

 警戒しながら近づく1618を見て、ドルアは嘲笑しながら語りかけた。

「お前にはわからねぇよな? 『執行機』。感情を押し殺し、ただ命令の為に殺すお前らには。
 俺は……俺は決めたんだ。もう二度と何も奪われねぇって……その為には! 俺自身が! 奪う側に回ればいい!」

 ドルアの感情と共に、右腕の炎も燃え上がる。それは鮮血より赤い。

「だから、その為には手段も選ばねぇ……例え殺人だろうが、胡散臭ぇ計画だろうが、知った事か! 奪われねぇ程強くなれるんならなんだっていいんだ!!」

 昂る火山の様に膨れ上がる業炎の腕。
 相対する1618は、更に自身を最適化する為、氷の様に神経を張り詰める。

 そこに……二つの大きな影が降って来た……。


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 ーー外は惨劇と形容するに相応しい状況だった。
 『ブーゲンビリア』は歓楽街の中でも比較的大きな商業施設で、その幅広い需要を満たすテナント達を目当てにカップルや子供連れも多く訪れる場所だった。
 そこは今は、施設内の床や壁は所々崩れ黒焦げになり、店内は殆どが原型のわからないくらいに荒れ、3階建ての広いフロア達を繋げるリニアエレベーターも火花を撒き散らしながら破損し、全階層を吹き抜けにして貫く天井のガラスは粉々に砕け散っていた。
 その砕け散った吹き抜けの1Fの中央広場に、ドルア・オルランドはいた。周囲に散らばった民間人や軍警察関係者の肉片と共に……。
「来たか……腐れ『執行機』共」
 そう呟いたドルアは、その2メートル以上はあろうかという巨躯を、自身の顎全体を覆う髭面を、そして異形とも言える程に自身の身体より遥かに大きく機構化した右腕を、血で真っ赤に染め上げていた。
「ドルア・オルランドか?」
 その惨状に1414も1618も全く動じていなかった。セフティーを解除しながら、1414はドルアに声をかけ始めた。
 1618は同じくセフティーを解除しながら、その経緯を観察した。
「あぁ、そうだ。……? なんだ、らしくねぇな『執行機』。とっとと来いよ。俺とお前らで、奪い合おうぜ!!」
 ドルアは、その真っ赤になった右腕で、手元にあった死体を掴むと、思いっきり後方に投げた。すると遥か後方の壁に、死体がベチャッと打ち付けられた。
 1414は、「まぁ、そういうなよ。君は……」と言葉を告げようとした次の瞬間、1618が弾かれる様にドルアに向かって跳躍した。
「執行開始ーー」
 1618が告げると、突如1618の背中、ちょうど肩甲骨の両側から、4本の腕の様なものが伸びた。4本の腕は徐々に大きく鋼鉄を帯びて硬化し、そのロボットアームの様になった腕がドルアに掴みかかる。
「ハッハーァァァッ!! そうこなくっちゃなあ!」
 自身を覆う様に掴みかかって来たアームに、ドルアは機構化プログラムのリミッターを全開にし、肥大した右腕を更に肥大させ灼熱を帯びさせた。
 燃える巨人の腕が、1618のアームを振り払い、目の前に飛ばされ体制を崩した1618を逆に押し潰そうと手を伸ばす。
「機構化プログラムーー『アラクネー』起動」
 1618の声と共に、4本のアームの手のひらの様になった部分から銃口を覗かせ、そこから驟雨の如く銃弾をばら撒いた。
「ーーっ! ウォォオ!!」
 しかし放たれた銃弾をもろともせず、ドルアはそのまま、右腕を後方に振りかぶり、1618を殴りつけるために拳を放った。
 しかし、それに応戦して1618も4本のアーム、そして元からある2本の腕でドルアの赤熱した手を受け止めた。
 ーー轟音。二人のぶつかり合う音と共に衝撃が波紋の様に周囲に広がり、半壊したショッピングモール内に地響きが起こった。
「ふむ……」
 1414は1618の救援に行こうと、未だぶつかり合う二人の元に駆け出そうとした。
 すると、1414の周辺探知ソナーに何かの熱源が映った。
「ーー!」
 1414が咄嗟に後ろに飛び退くと、2Fの瓦礫が積み上がった陰から大型の四足歩行の砲台を備えた戦車が降って来た。
 ソレは、着地の際に縮め込んだ自身の機体を立ち上がらせ、ギィィという駆動音と共に、1618達と1414の間に立ち塞がる。
「これは……軍の市中作戦兵器?」
 兵器は1414の元に急速に突進し、1414と共に壁を突き破りながらその場を離れていった……。
 吹き抜けのある中央広場で、1618とドルアは、己の全身を使い殴り合っていた。
 ドルアはその巨躯と巨椀からは想像できない程に俊敏に動き回り、殴打を繰り出し続ける。
 1618は、その風を荒々しくきる破壊の権化を合計6本の腕でいなし、時に受け止めながら合間合間にドルアにカウンターの痛打をくらわせる。
「グッ……オラァ!」
ドルアが度重なる痛打を堪えながら、右腕を握り締め、真上から1618に向かって振り下ろす。
(対応可能……受け止める)
と判断した1618は、思考した通りドルアの振り下ろされた腕を、アームと手で下から支える形で受け止めた。次の瞬間ーー。
「バカが」とドルアが嗤い、爆炎がドルアの腕から迸った。
 ドルアの使う機構化プログラム『ムスペル』は、稼働状況が長くなればなるほど、つまり自身の温度が上がれば上がるほど出力をあげる代物だった。
 1618もそれは事前に情報を得ていた為了承済みであり、そしてデーターベースの計算によればまだこれほどの出力は出せない筈だった。だからこれは1618の誤算だった。
 受け止める1618の身体を業炎が包む。ドルアは、更に追撃の為その態勢のまま蹴りを繰り出した。
 しかしその繰り出した足は、業炎の陰に隠れる何かに阻まれた。炎の隙間から、1618の元からある腕、一本の細い女の様な腕がドルアの足を掴んでいた。
「補足ーー投擲」
 1618はそのままつかんだ足を腕で絡め取りながら、ドルアの身体を持ち上げ振り回し、思いっきりぶん投げた。
 周囲の壁を吹き飛ばしながら叩きつけられたドルア。しかし彼は、その自身が激突した為に崩れ去った瓦礫の隙間から尚も炎を噴き上げながら立ち上がった。
「クソが……どいつもこいつも、なんだって俺から奪いやがる?」
 瓦礫を踏み締め、ドルアが歩み出ると、1618がアームの銃口を向けながら歩み寄って来ていた。
 ーーこの男、何かがおかしい。何故データーベースにない動きを繰り出せる? 
 警戒しながら近づく1618を見て、ドルアは嘲笑しながら語りかけた。
「お前にはわからねぇよな? 『執行機』。感情を押し殺し、ただ命令の為に殺すお前らには。
 俺は……俺は決めたんだ。もう二度と何も奪われねぇって……その為には! 俺自身が! 奪う側に回ればいい!」
 ドルアの感情と共に、右腕の炎も燃え上がる。それは鮮血より赤い。
「だから、その為には手段も選ばねぇ……例え殺人だろうが、胡散臭ぇ計画だろうが、知った事か! 奪われねぇ程強くなれるんならなんだっていいんだ!!」
 昂る火山の様に膨れ上がる業炎の腕。
 相対する1618は、更に自身を最適化する為、氷の様に神経を張り詰める。
 そこに……二つの大きな影が降って来た……。