Epilogue【V ⇔ N】
ー/ー ヴァイオレットの私室。
ネイトは「お嬢様」とともに、メイドにこの広い部屋に案内された。
いったん下がってお茶を運んで来た穏和な雰囲気の彼女が深々と一礼して去った後。無言で大きなソファに中央を開けて腰掛けたまま、二人ともがカップを空にした。
話したいことが、──言いたかったことがいくらでもある筈なのに何も出て来ない。
「ネ、いえ、ナサニエル──」
「二人の時は『ネイト』でいい。いや、普通の呼び名だから人前でも構わないだろう。……ああ、でもそうだな。『先生』と切り離せないなら『ナサニエル』でも」
ようやく隣の〝レティ〟が口を開いたのに、結果的に口を塞いだ形になってしまった。
「……ネイト」
それでも彼女は、黙り込みはしなかった。
「そう。これからはそう呼んでくれ。俺は『ヴァイオレット』としか呼べないけど」
この『ヴァイオレット』を〝レティ〟と呼んではならない。屋敷の使用人の前であろうと、決して許されない。これはネイトが肝に銘じるべきことなのだ。
ラボからは出られたとしても、「完全に自由になれるわけではない」とマックスにも聞かされていたように、この屋敷に一生幽閉される覚悟もできていた。己は「そういう」立場の人間だとよくわかっている。
「今のわたしは『ヴァイオレット カーライル』ですから、『ヴァイオレット』と呼ばれるのは当然です」
ネイトが知っている、……知っていたあの〝レティ〟とはまるで別人のような、淑やかで気品のある「お嬢様」然とした清楚な声。
しかし彼女は、そこで不意に口調を変えた。
「──だけど、『レティ』だったわたしも消えてなんかいないのよ。秘密だから誰にも言ったことはないし、これからもあなた以外には絶対に。ねえ『先生』」
それまでとは違って、昔のように親し気に。
ヴァイオレットとナサニエルになった二人の心の奥底には、この先も「ネイト先生と〝レティ〟」の時間が眠っている。
ずっと、永遠に。
『Nathaniel』
昔の書物には「神の賜物」を意味すると記されているらしい。
この奇跡のような再会が「神からの贈り物」ならば、己はこの名に感謝すべきなのかもしれない。
人生において、ネイトは初めて心からそう感じた。
──そう。ここからまた、始めよう。〝レティ〟、いや『ヴァイオレット』。
俺たちの、新たな人生を。
~END~
ネイトは「お嬢様」とともに、メイドにこの広い部屋に案内された。
いったん下がってお茶を運んで来た穏和な雰囲気の彼女が深々と一礼して去った後。無言で大きなソファに中央を開けて腰掛けたまま、二人ともがカップを空にした。
話したいことが、──言いたかったことがいくらでもある筈なのに何も出て来ない。
「ネ、いえ、ナサニエル──」
「二人の時は『ネイト』でいい。いや、普通の呼び名だから人前でも構わないだろう。……ああ、でもそうだな。『先生』と切り離せないなら『ナサニエル』でも」
ようやく隣の〝レティ〟が口を開いたのに、結果的に口を塞いだ形になってしまった。
「……ネイト」
それでも彼女は、黙り込みはしなかった。
「そう。これからはそう呼んでくれ。俺は『ヴァイオレット』としか呼べないけど」
この『ヴァイオレット』を〝レティ〟と呼んではならない。屋敷の使用人の前であろうと、決して許されない。これはネイトが肝に銘じるべきことなのだ。
ラボからは出られたとしても、「完全に自由になれるわけではない」とマックスにも聞かされていたように、この屋敷に一生幽閉される覚悟もできていた。己は「そういう」立場の人間だとよくわかっている。
「今のわたしは『ヴァイオレット カーライル』ですから、『ヴァイオレット』と呼ばれるのは当然です」
ネイトが知っている、……知っていたあの〝レティ〟とはまるで別人のような、淑やかで気品のある「お嬢様」然とした清楚な声。
しかし彼女は、そこで不意に口調を変えた。
「──だけど、『レティ』だったわたしも消えてなんかいないのよ。秘密だから誰にも言ったことはないし、これからもあなた以外には絶対に。ねえ『先生』」
それまでとは違って、昔のように親し気に。
ヴァイオレットとナサニエルになった二人の心の奥底には、この先も「ネイト先生と〝レティ〟」の時間が眠っている。
ずっと、永遠に。
『Nathaniel』
昔の書物には「神の賜物」を意味すると記されているらしい。
この奇跡のような再会が「神からの贈り物」ならば、己はこの名に感謝すべきなのかもしれない。
人生において、ネイトは初めて心からそう感じた。
──そう。ここからまた、始めよう。〝レティ〟、いや『ヴァイオレット』。
俺たちの、新たな人生を。
~END~
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ヴァイオレットの私室。
ネイトは「お嬢様」とともに、メイドにこの広い部屋に案内された。
いったん下がってお茶を運んで来た穏和な雰囲気の彼女が深々と一礼して去った後。無言で大きなソファに中央を開けて腰掛けたまま、二人ともがカップを空にした。
話したいことが、──言いたかったことがいくらでもある筈なのに何も出て来ない。
「ネ、いえ、ナサニエル──」
「二人の時は『ネイト』でいい。いや、普通の呼び名だから人前でも構わないだろう。……ああ、でもそうだな。『先生』と切り離せないなら『ナサニエル』でも」
ようやく隣の〝レティ〟が口を開いたのに、結果的に口を塞いだ形になってしまった。
「……ネイト」
それでも彼女は、黙り込みはしなかった。
「そう。これからはそう呼んでくれ。俺は『ヴァイオレット』としか呼べないけど」
この『ヴァイオレット』を〝レティ〟と呼んではならない。屋敷の使用人の前であろうと、決して許されない。これはネイトが肝に銘じるべきことなのだ。
ラボからは出られたとしても、「完全に自由になれるわけではない」とマックスにも聞かされていたように、この屋敷に一生幽閉される覚悟もできていた。己は「そういう」立場の人間だとよくわかっている。
「今のわたしは『ヴァイオレット カーライル』ですから、『ヴァイオレット』と呼ばれるのは当然です」
ネイトが知っている、……知っていたあの〝レティ〟とはまるで別人のような、淑やかで気品のある「お嬢様」然とした清楚な声。
しかし彼女は、そこで不意に口調を変えた。
「──だけど、『レティ』だったわたしも消えてなんかいないのよ。秘密だから誰にも言ったことはないし、これからもあなた以外には絶対に。ねえ『先生』」
それまでとは違って、昔のように親し気に。
ヴァイオレットとナサニエルになった二人の心の奥底には、この先も「ネイト先生と〝レティ〟」の時間が眠っている。
ずっと、永遠に。
ネイトは「お嬢様」とともに、メイドにこの広い部屋に案内された。
いったん下がってお茶を運んで来た穏和な雰囲気の彼女が深々と一礼して去った後。無言で大きなソファに中央を開けて腰掛けたまま、二人ともがカップを空にした。
話したいことが、──言いたかったことがいくらでもある筈なのに何も出て来ない。
「ネ、いえ、ナサニエル──」
「二人の時は『ネイト』でいい。いや、普通の呼び名だから人前でも構わないだろう。……ああ、でもそうだな。『先生』と切り離せないなら『ナサニエル』でも」
ようやく隣の〝レティ〟が口を開いたのに、結果的に口を塞いだ形になってしまった。
「……ネイト」
それでも彼女は、黙り込みはしなかった。
「そう。これからはそう呼んでくれ。俺は『ヴァイオレット』としか呼べないけど」
この『ヴァイオレット』を〝レティ〟と呼んではならない。屋敷の使用人の前であろうと、決して許されない。これはネイトが肝に銘じるべきことなのだ。
ラボからは出られたとしても、「完全に自由になれるわけではない」とマックスにも聞かされていたように、この屋敷に一生幽閉される覚悟もできていた。己は「そういう」立場の人間だとよくわかっている。
「今のわたしは『ヴァイオレット カーライル』ですから、『ヴァイオレット』と呼ばれるのは当然です」
ネイトが知っている、……知っていたあの〝レティ〟とはまるで別人のような、淑やかで気品のある「お嬢様」然とした清楚な声。
しかし彼女は、そこで不意に口調を変えた。
「──だけど、『レティ』だったわたしも消えてなんかいないのよ。秘密だから誰にも言ったことはないし、これからもあなた以外には絶対に。ねえ『先生』」
それまでとは違って、昔のように親し気に。
ヴァイオレットとナサニエルになった二人の心の奥底には、この先も「ネイト先生と〝レティ〟」の時間が眠っている。
ずっと、永遠に。
『|Nathaniel《ナサニエル》』
昔の書物には「神の|賜物《与える物》」を意味すると記されているらしい。
この奇跡のような再会が「神からの贈り物」ならば、己はこの名に感謝すべきなのかもしれない。
人生において、ネイトは初めて心からそう感じた。
この奇跡のような再会が「神からの贈り物」ならば、己はこの名に感謝すべきなのかもしれない。
人生において、ネイトは初めて心からそう感じた。
──そう。ここからまた、始めよう。〝レティ〟、いや『ヴァイオレット』。
俺たちの、新たな人生を。
~END~