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(六)

ー/ー





「……なら、サガミってわけか」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。アリアは俯いたまま目を見開いて固まる。そんなアリアの様子を気に留める様子は誰もなく、ただのほほんと
「だよね、ワカサ、分かってる♪」
「ですねぇ」
 そんなことを三人で言うものだから、驚いて顔を上げた。
「え? えっ、それだけなの?! 他に、何言ってんだとか!こう――」
 アリアが言い募ろうとすると、ワカサが瞳を細めてはっと息を吐く。
「別に、人の行動でとやかく言うつもりはねぇよ。なによりあんた、すげぇ思いつめた顔してるしな、それなりの覚悟があって出てきたんだろ?」
 そんな風に言われるとは思ってもみなかった。

 きっと馬鹿にされる、そう思っていたから。

『夢見たことを言ってないで現実を見ろ』
『お前の行動でどれだけの人に迷惑がかかる』
『いつまでも、子供のような考えでは困りますよ』
『すべてはお家のため、一族のため』

 そんな言葉しか、言われたことがなかったから。
 それでも、それでもアリアは――

「諦めたくなかったんだよね、アリアは。あんなに必死に逃げてきてたんだ、その覚悟を笑うことも馬鹿にすることも、誰もできないよ」
 サガミがそっとアリアの顔を覗き込むように優しく言うものだから、思わず目がぼやけてくるのにぐっと、拳で拭う。
 こんなあって間もないのに、どうして、どうしてそんな言葉をかけてくれるのだろう。
 分からなかった、分からないけれど。
 それが嘘か本当かは分からなくとも、今は、嬉しい。
 アリアはぐすりと、鼻をすする。
「あーあ、サガミさんが泣かしちゃった」
「べ、べつに、泣いてない! これは、ちょっと目にゴミがっ」
「いや、無理あるだろ、それ」
「え、ご、ゴミ? 泣かしちゃったかと思ったから、大丈夫? 痛いかな」
 サガミだけが真に受けて、心配そうになおも顔を覗き込んでアリアの頬に手を添えてくるものだから、意地っ張りな虚勢がすぐに崩れ、顔が真っ赤になるアリアである。
 あわあわと慌て言葉も出なくなったアリアに、イチがなにやらにやにやし、ワカサはどこか目を皿にして明後日の方へ視線を向けた。一応、気を使っているようだ。
(あぁ、もう、変な気を使われてる! うっ、なにこれ、凄い恥ずかしい!)
 なんだろう、先ほどまでの重い気持ちは吹き飛んだが居た堪れない。
 サガミだけが、ただ心配そうにアリアを見ているが、どうかやめてほしいと願うアリアである。 
 なんとか平常心を取り戻し、アリアはサガミの手から慌てて離れ、やっとの思いで声を出す。
「だい、だいじょうぶ! もう、ゴミなくなったし! そ、それより、私あの」

 ついてってもよいの?

 そう、言いたかったのが視線で分かったのだろう。サガミがにこりとほほ笑んだ。

「もちろん」

 ダメと言われても、ついていきたいと思っていた。
 だって認めてくれたから。
 気にかけてくれたから。
 連れてきてくれたから。
 だから、絶対に――

 あぁ、やっと、やっと一歩踏み出せる。それも一人じゃない。
 アリアは目が涙でぼやけそうになるのをぐっと抑え、小さい声で「ありがと」と呟いた。

 


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「……なら、サガミってわけか」
 一瞬、何を言われたか分からなかった。アリアは俯いたまま目を見開いて固まる。そんなアリアの様子を気に留める様子は誰もなく、ただのほほんと
「だよね、ワカサ、分かってる♪」
「ですねぇ」
 そんなことを三人で言うものだから、驚いて顔を上げた。
「え? えっ、それだけなの?! 他に、何言ってんだとか!こう――」
 アリアが言い募ろうとすると、ワカサが瞳を細めてはっと息を吐く。
「別に、人の行動でとやかく言うつもりはねぇよ。なによりあんた、すげぇ思いつめた顔してるしな、それなりの覚悟があって出てきたんだろ?」
 そんな風に言われるとは思ってもみなかった。
 きっと馬鹿にされる、そう思っていたから。
『夢見たことを言ってないで現実を見ろ』
『お前の行動でどれだけの人に迷惑がかかる』
『いつまでも、子供のような考えでは困りますよ』
『すべてはお家のため、一族のため』
 そんな言葉しか、言われたことがなかったから。
 それでも、それでもアリアは――
「諦めたくなかったんだよね、アリアは。あんなに必死に逃げてきてたんだ、その覚悟を笑うことも馬鹿にすることも、誰もできないよ」
 サガミがそっとアリアの顔を覗き込むように優しく言うものだから、思わず目がぼやけてくるのにぐっと、拳で拭う。
 こんなあって間もないのに、どうして、どうしてそんな言葉をかけてくれるのだろう。
 分からなかった、分からないけれど。
 それが嘘か本当かは分からなくとも、今は、嬉しい。
 アリアはぐすりと、鼻をすする。
「あーあ、サガミさんが泣かしちゃった」
「べ、べつに、泣いてない! これは、ちょっと目にゴミがっ」
「いや、無理あるだろ、それ」
「え、ご、ゴミ? 泣かしちゃったかと思ったから、大丈夫? 痛いかな」
 サガミだけが真に受けて、心配そうになおも顔を覗き込んでアリアの頬に手を添えてくるものだから、意地っ張りな虚勢がすぐに崩れ、顔が真っ赤になるアリアである。
 あわあわと慌て言葉も出なくなったアリアに、イチがなにやらにやにやし、ワカサはどこか目を皿にして明後日の方へ視線を向けた。一応、気を使っているようだ。
(あぁ、もう、変な気を使われてる! うっ、なにこれ、凄い恥ずかしい!)
 なんだろう、先ほどまでの重い気持ちは吹き飛んだが居た堪れない。
 サガミだけが、ただ心配そうにアリアを見ているが、どうかやめてほしいと願うアリアである。 
 なんとか平常心を取り戻し、アリアはサガミの手から慌てて離れ、やっとの思いで声を出す。
「だい、だいじょうぶ! もう、ゴミなくなったし! そ、それより、私あの」
 ついてってもよいの?
 そう、言いたかったのが視線で分かったのだろう。サガミがにこりとほほ笑んだ。
「もちろん」
 ダメと言われても、ついていきたいと思っていた。
 だって認めてくれたから。
 気にかけてくれたから。
 連れてきてくれたから。
 だから、絶対に――
 あぁ、やっと、やっと一歩踏み出せる。それも一人じゃない。
 アリアは目が涙でぼやけそうになるのをぐっと抑え、小さい声で「ありがと」と呟いた。