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商談77 回想―怒号―

ー/ー



「ツキィィィッッッ!!!」
 その瞬間、俺の喉元に強い衝撃が走る。衝撃で竹刀が刹那、飴細工のようにぐにゃりとしなる。これこそ、竹刀がしない(・・・)と称する所以だ。
「ぐほっ......!!」
 俺は、不覚にもその衝撃で一瞬のけ反る。これは痛恨の極み......!
「突き有りっ!」
 三本の白旗が挙がり、対馬の突きは有効打突として認められた。悔しいが、あの一撃は自他ともに一本だと認めざるを得ない。さて、ここからどう挽回するか。俺は動揺を抑えつつ、開始線へ戻る最中に思考を巡らせる。
「二本目っ!」
 主審の号令で勝負が再開される。思考を巡らせるものの、右足の痛みがそれを阻む。制限時間も残り半分ほど、果たして俺に策はあるのだろうか......?
「ヤァサササッ!!」
 一本を取り、対馬は精神的優位を得ている。にも拘らず、対馬はこれまで以上に素早く動き回り翻弄してくる。俺はどうにかその動きに喰らい付こうつするものの、対馬は一向に間合いへ踏み入らせようとしない。俺には分かる......こいつ、勝ち逃げするつもりか!!
「逃げるな、卑怯者!」
 対馬の逃げ回る姿勢に観衆は怒号を上げる。礼節を重んじる剣道において観戦は拍手のみが大前提であり、声援等は禁止事項。もちろん野次なんてもっての外だ。
「恥を知れ!!」
 だが、そんな礼節などもはや有耶無耶。武士道精神に反する対馬の振る舞いに、観衆は憤りを隠せない。勝ち逃げという戦法は、武士道において禁忌に等しいものだ。その禁忌を、対馬はためらいもなく実践しているのだ。観衆が憤るのは当然といえよう。
「鹿児島の火竜も堕ちたもんだなぁ」
 どさくさに紛れて俺に対する野次も飛んでくる。いや待て、俺は無関係だ!! 内心は憤るものの、こんな時に俺の右足は言うことを聞かない。あぁ、なんて歯痒いんだ!
「審判、ボサっとしてんじゃねぇ!」
 審判達も傍観に等しい状態。当時の試合規則では、このように逃げ回る勝負に審判も手出し出来なかったのである。対馬の戦法は、まさに試合規則の抜け穴を突いたものであった。不測の事態があったとはいえ、これには俺もしてやられた。
 試合はこうして膠着(こうちゃく)状態、時間は(いたずら)に過ぎていくばかりだった。飛燕は火竜が力尽きる時を待ち侘びている。飛燕が求めるのは、勝利が確定するその瞬間だ。だが俺とて鹿児島の火竜、こんな所で終わるわけにはいかないんだ!!
「ヤァァァッッッ!!!」
 闘志の(たぎ)る俺は、竹刀を下段へ振り下ろして対馬へ突進した。


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「ツキィィィッッッ!!!」
 その瞬間、俺の喉元に強い衝撃が走る。衝撃で竹刀が刹那、飴細工のようにぐにゃりとしなる。これこそ、竹刀が|しない《・・・》と称する所以だ。
「ぐほっ......!!」
 俺は、不覚にもその衝撃で一瞬のけ反る。これは痛恨の極み......!
「突き有りっ!」
 三本の白旗が挙がり、対馬の突きは有効打突として認められた。悔しいが、あの一撃は自他ともに一本だと認めざるを得ない。さて、ここからどう挽回するか。俺は動揺を抑えつつ、開始線へ戻る最中に思考を巡らせる。
「二本目っ!」
 主審の号令で勝負が再開される。思考を巡らせるものの、右足の痛みがそれを阻む。制限時間も残り半分ほど、果たして俺に策はあるのだろうか......?
「ヤァサササッ!!」
 一本を取り、対馬は精神的優位を得ている。にも拘らず、対馬はこれまで以上に素早く動き回り翻弄してくる。俺はどうにかその動きに喰らい付こうつするものの、対馬は一向に間合いへ踏み入らせようとしない。俺には分かる......こいつ、勝ち逃げするつもりか!!
「逃げるな、卑怯者!」
 対馬の逃げ回る姿勢に観衆は怒号を上げる。礼節を重んじる剣道において観戦は拍手のみが大前提であり、声援等は禁止事項。もちろん野次なんてもっての外だ。
「恥を知れ!!」
 だが、そんな礼節などもはや有耶無耶。武士道精神に反する対馬の振る舞いに、観衆は憤りを隠せない。勝ち逃げという戦法は、武士道において禁忌に等しいものだ。その禁忌を、対馬はためらいもなく実践しているのだ。観衆が憤るのは当然といえよう。
「鹿児島の火竜も堕ちたもんだなぁ」
 どさくさに紛れて俺に対する野次も飛んでくる。いや待て、俺は無関係だ!! 内心は憤るものの、こんな時に俺の右足は言うことを聞かない。あぁ、なんて歯痒いんだ!
「審判、ボサっとしてんじゃねぇ!」
 審判達も傍観に等しい状態。当時の試合規則では、このように逃げ回る勝負に審判も手出し出来なかったのである。対馬の戦法は、まさに試合規則の抜け穴を突いたものであった。不測の事態があったとはいえ、これには俺もしてやられた。
 試合はこうして|膠着《こうちゃく》状態、時間は|徒《いたずら》に過ぎていくばかりだった。飛燕は火竜が力尽きる時を待ち侘びている。飛燕が求めるのは、勝利が確定するその瞬間だ。だが俺とて鹿児島の火竜、こんな所で終わるわけにはいかないんだ!!
「ヤァァァッッッ!!!」
 闘志の|滾《たぎ》る俺は、竹刀を下段へ振り下ろして対馬へ突進した。