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商談72 回想―竜殺し、散る―

ー/ー



「面有り、勝負あり!」
 島津の勝利を確信していた俺に動揺が走る。島津の旗は白、しかし審判は悉く赤旗を挙げている。何かの間違いだと信じたいが、真実は島津の敗北を示している。島津、一体どうしたって言うんだ!?
「らしくないじゃないか、お前が二本負けだなんて」
 どうにも気がかりだった俺は、島津へ声を掛けずにはいられなかった。島津に笑みがないのは容易に想像していたが、それは単に敗北したからというわけではないように見受けられる。
「入間、気を付けろ。アイツはまともじゃねぇ......」
 島津は開口一番、こう呟いた。その顔も、普段の島津からは想像も出来ないくらいに苦々しい。もう少し詳しく話したかったが、島津の足取りの重さを考えればこれ以上の問答は望ましくないかも知れない。俺は後ろ髪を引かれる思いで島津を見送った。
 決勝戦を前に、俺は数分程度の小休止を取る。公式戦で島津と剣を交える夢は潰えたが、かといって悔やんでもいられない。剣士の戦いは待ったなしだ。それにしても、島津を打ち倒した相手はどこのどいつだろうか? ここまでくるとそれが気になってくる。
「入間先輩、いよいよ決勝戦ですね!」
 そんなことを考えていると、主務の本間がやってきた。せっかくだから、彼に相手の情報を聞いておこうか。
「決勝戦の相手は長崎大学・対馬衛(つしままもる)ですね。過去に特段の実績もなく、高校時代は長崎県大会ベスト16止まりのようです」
 相手は無名選手、いうなればダークホースか。出身も県立高校らしく、進学校ということ以外は特筆するものもなさそうだ。
「ただ、僕の見た限り対馬の構えは何だか変わっていましたね。正直、構えと言って良いのかも怪しかったです」
 構えが変わっている? 剣道の構えはルール上規定されていないが、中段の構えを取る選手が圧倒的多数だ。次いで上段の構え、ごくまれに二刀を駆使する選手もいる。中段の構えは攻防一致の構えとも言われ、戦況に応じて柔軟に対応できることが特徴だ。それ故、指導者も中段の構えを前提に指導することが定石となっている。
「とにかく、用心して掛かった方がいいかもしれませんね」
 用心、上段の構えにそれは無粋というものだ。上段は火の構え、烈火の如く相手に攻め入るのが専売特許。俺は無心になって決勝戦へ赴くことにした。
 正面・相互の礼を終えた俺達は試合場の開始線まで前進する。対馬、お前は一体何者なんだ......?
「始めっ!」
 主審が試合開始を宣言すると同時に、俺達は各々の構えを取りながら立ち上がる。対馬を眼前にした俺は唖然とした。
 ......いや待てっ! 三所(みどころ)隠しなんて聞いてないぞ!!?


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「面有り、勝負あり!」
 島津の勝利を確信していた俺に動揺が走る。島津の旗は白、しかし審判は悉く赤旗を挙げている。何かの間違いだと信じたいが、真実は島津の敗北を示している。島津、一体どうしたって言うんだ!?
「らしくないじゃないか、お前が二本負けだなんて」
 どうにも気がかりだった俺は、島津へ声を掛けずにはいられなかった。島津に笑みがないのは容易に想像していたが、それは単に敗北したからというわけではないように見受けられる。
「入間、気を付けろ。アイツはまともじゃねぇ......」
 島津は開口一番、こう呟いた。その顔も、普段の島津からは想像も出来ないくらいに苦々しい。もう少し詳しく話したかったが、島津の足取りの重さを考えればこれ以上の問答は望ましくないかも知れない。俺は後ろ髪を引かれる思いで島津を見送った。
 決勝戦を前に、俺は数分程度の小休止を取る。公式戦で島津と剣を交える夢は潰えたが、かといって悔やんでもいられない。剣士の戦いは待ったなしだ。それにしても、島津を打ち倒した相手はどこのどいつだろうか? ここまでくるとそれが気になってくる。
「入間先輩、いよいよ決勝戦ですね!」
 そんなことを考えていると、主務の本間がやってきた。せっかくだから、彼に相手の情報を聞いておこうか。
「決勝戦の相手は長崎大学・|対馬衛《つしままもる》ですね。過去に特段の実績もなく、高校時代は長崎県大会ベスト16止まりのようです」
 相手は無名選手、いうなればダークホースか。出身も県立高校らしく、進学校ということ以外は特筆するものもなさそうだ。
「ただ、僕の見た限り対馬の構えは何だか変わっていましたね。正直、構えと言って良いのかも怪しかったです」
 構えが変わっている? 剣道の構えはルール上規定されていないが、中段の構えを取る選手が圧倒的多数だ。次いで上段の構え、ごくまれに二刀を駆使する選手もいる。中段の構えは攻防一致の構えとも言われ、戦況に応じて柔軟に対応できることが特徴だ。それ故、指導者も中段の構えを前提に指導することが定石となっている。
「とにかく、用心して掛かった方がいいかもしれませんね」
 用心、上段の構えにそれは無粋というものだ。上段は火の構え、烈火の如く相手に攻め入るのが専売特許。俺は無心になって決勝戦へ赴くことにした。
 正面・相互の礼を終えた俺達は試合場の開始線まで前進する。対馬、お前は一体何者なんだ......?
「始めっ!」
 主審が試合開始を宣言すると同時に、俺達は各々の構えを取りながら立ち上がる。対馬を眼前にした俺は唖然とした。
 ......いや待てっ! |三所《みどころ》隠しなんて聞いてないぞ!!?