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商談73 回想―防人(さきもり)―

ー/ー



『ヤアァァァッッッ!!!』
 俺達は試合開始とともに掛け声を上げる。上辺では猛々しく思えるかもしれないが、俺は内心驚愕している。
 何故って? 対馬の構えは中段でもなければ上段でもなく、まさかの三所隠し。正確には構えですらないのだが、対馬はそれをさも己の構えのように佇んでいるんだ。
『赤、武洲館大学・入間冬樹選手。鹿児島県立西郷高校出身』
 試合開始ととも会場アナウンスで俺の紹介が流れる。本来なら士気が高まるところだが、対馬の構えに会場は静まり返っている。まぁ、観衆の反応は至って自然だ。
 剣道を知らない読者の為に解説するが、本来の見所隠しは防御姿勢である。俺も説明するのは難しいが、まず両拳を額上へ突き上げる。左拳の手の甲を額に合わせつつ、右手首を捻って竹刀を相手に向ける。
 こうすることで面・小手・右胴の三か所を同時に防御することが出来る。突き技を禁止されている中学生までの選手にとって、この姿勢はほぼ鉄壁と化す。
『白、長崎大学・対馬衛選手。長崎県立長崎高校出身』
 長崎高校、九州では指折りの進学校だな。頭のいいヤツの考えること、俺には分からない。頭の良し悪しはさておき、これでは俺もむやみに手出し出来ない。
 上段の構えにおいて一番の武器は遠間から面だが、そこを既に守られてしまっているのだから仕様がない。小手も同様に守られてしまっているし、狙いどころは左胴。少々リスキーだが、突きも想定しなければならないか。
「......」
 対馬は特に攻撃を仕掛けるわけでもなく、静かに俺を見つめているだけ。間合いもつかず離れずを保たれてしまっているため、俺が左胴を狙うことなど百も承知しているだろう。この勝負、実に難儀と言える。
「メェェン!!」
 だからといって、俺も指を咥えて待つわけにもいかない。ここはジャブ程度に面をお見舞いしよう。
「ヤァァアサッ!」
 間髪入れずに鍔迫り合い。これもリスキーだが、鍔迫り合いは俺達が対等に戦える貴重な場面だ。
「ヤァセイッ!」
 対馬はこれも承知の上か、必要以上に小刻みな足運びで俺を揺さぶってくる。自身の特性が潰されてしまうから、当然といえば当然か。
 対上段戦の選手は、その特性から足運びで翻弄しつつ戦うのがセオリーとなる。それは俺も百も承知なのだが、対馬は中段選手のそれを優に超えている。何と言うか、ツバメを思わせるすばしっこさだ。
 だが、そんなものに動じる俺ではない。俺の本懐は鍔迫り合いの切れる間際、いわゆる中間(ちゅうま)を狙うことにある。


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『ヤアァァァッッッ!!!』
 俺達は試合開始とともに掛け声を上げる。上辺では猛々しく思えるかもしれないが、俺は内心驚愕している。
 何故って? 対馬の構えは中段でもなければ上段でもなく、まさかの三所隠し。正確には構えですらないのだが、対馬はそれをさも己の構えのように佇んでいるんだ。
『赤、武洲館大学・入間冬樹選手。鹿児島県立西郷高校出身』
 試合開始ととも会場アナウンスで俺の紹介が流れる。本来なら士気が高まるところだが、対馬の構えに会場は静まり返っている。まぁ、観衆の反応は至って自然だ。
 剣道を知らない読者の為に解説するが、本来の見所隠しは防御姿勢である。俺も説明するのは難しいが、まず両拳を額上へ突き上げる。左拳の手の甲を額に合わせつつ、右手首を捻って竹刀を相手に向ける。
 こうすることで面・小手・右胴の三か所を同時に防御することが出来る。突き技を禁止されている中学生までの選手にとって、この姿勢はほぼ鉄壁と化す。
『白、長崎大学・対馬衛選手。長崎県立長崎高校出身』
 長崎高校、九州では指折りの進学校だな。頭のいいヤツの考えること、俺には分からない。頭の良し悪しはさておき、これでは俺もむやみに手出し出来ない。
 上段の構えにおいて一番の武器は遠間から面だが、そこを既に守られてしまっているのだから仕様がない。小手も同様に守られてしまっているし、狙いどころは左胴。少々リスキーだが、突きも想定しなければならないか。
「......」
 対馬は特に攻撃を仕掛けるわけでもなく、静かに俺を見つめているだけ。間合いもつかず離れずを保たれてしまっているため、俺が左胴を狙うことなど百も承知しているだろう。この勝負、実に難儀と言える。
「メェェン!!」
 だからといって、俺も指を咥えて待つわけにもいかない。ここはジャブ程度に面をお見舞いしよう。
「ヤァァアサッ!」
 間髪入れずに鍔迫り合い。これもリスキーだが、鍔迫り合いは俺達が対等に戦える貴重な場面だ。
「ヤァセイッ!」
 対馬はこれも承知の上か、必要以上に小刻みな足運びで俺を揺さぶってくる。自身の特性が潰されてしまうから、当然といえば当然か。
 対上段戦の選手は、その特性から足運びで翻弄しつつ戦うのがセオリーとなる。それは俺も百も承知なのだが、対馬は中段選手のそれを優に超えている。何と言うか、ツバメを思わせるすばしっこさだ。
 だが、そんなものに動じる俺ではない。俺の本懐は鍔迫り合いの切れる間際、いわゆる|中間《ちゅうま》を狙うことにある。