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商談71 回想―火竜と竜殺しの約束―

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 時は四半世紀ほど昔に遡る。当時の俺は武洲館大学3年生、剣道部では大将の座に君臨する不動のエースだった。全国大会では島津率いる国立体育大学と毎年のように接戦となり、優勝旗が両大学間で行き来するような状況だった。しかしながら、島津は先鋒の座に就いていたため俺と公式戦で竹刀を交えることはない。
 けれど、そんな俺達が公式戦で竹刀を交える千載一遇のチャンスが巡って来た。それは全日本学生剣道選手権大会、つまり個人戦だ。互いに全国で指折りの実力を備えていたものの、実際に上位まで勝ち残るのは至難の業だった。
 そんな中で俺達は準決勝まで進出し、いつになく高揚していた。この時を一日千秋の思いで待ち侘びていたんだ。
「入間、お前もベスト4までやってきたか。奇遇だなぁ!」
 試合の合間、島津が声を掛けてきた。本来なら試合に気持ちを集中させているはずの彼が、こんな風に声を掛けてくることは珍しい。
「島津、俺に軽口を叩いていられるのも今のうちだぞ?」
 俺はドスを利かしつつも、内心では楽しみで仕方ない。それはきっと島津とて同じはずだ。
「お前こそ、訳の分からない雑魚に負けて来るんじゃねえぞ?」
 島津、お前はそうやって気を緩めているから肝心なところで負けるんだ。お前こそ、どこぞの馬の骨とも知れぬ輩に負けてもらっちゃ困る。
「島津先輩、試合始まりますよ!」
 俺達が軽口を叩き合っているうち、主務の女子学生がやって来た。主務とは、簡単に言うとマネージャーみたいなものだ。
「金久保、ちょうど準備していたところだ。無問題!」
 島津はそう言うが、俺の見る限りではそんな様子はなかった。おそらく、奔放な島津に彼女も手を焼いていることだろう。
「じゃ、決勝で会おうな火竜(サラマンダー)!」
 島津は俺の二つ名を口にするとその場を後にした。俺も対戦を楽しみしているぞ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)
「メェェェーーーンッッッ!!!」
 ――俺は難なく準決勝を突破、決勝戦へ駒を進めて島津の到来を待ち侘びる。さて、アイツもそろそろ頃合いだろうか。
「ツキィィィッッッ!!!」
 おっ、島津が勝ったか。会場に響き渡る掛け声を聞いて確信した。しかしながら、時間いっぱいまで勝負を持ち越すとは島津らしくないな。
「面有り、勝負あり!」
 竜殺しの十八番は言うまでもなく突き、あの一撃を放つ頃には勝負が決したも同然だ......待てよ? 面有りってどういうことだ??
 耳を疑った俺は島津の試合場へ振り返る。嘘だろ......島津が負けた!!?


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 時は四半世紀ほど昔に遡る。当時の俺は武洲館大学3年生、剣道部では大将の座に君臨する不動のエースだった。全国大会では島津率いる国立体育大学と毎年のように接戦となり、優勝旗が両大学間で行き来するような状況だった。しかしながら、島津は先鋒の座に就いていたため俺と公式戦で竹刀を交えることはない。
 けれど、そんな俺達が公式戦で竹刀を交える千載一遇のチャンスが巡って来た。それは全日本学生剣道選手権大会、つまり個人戦だ。互いに全国で指折りの実力を備えていたものの、実際に上位まで勝ち残るのは至難の業だった。
 そんな中で俺達は準決勝まで進出し、いつになく高揚していた。この時を一日千秋の思いで待ち侘びていたんだ。
「入間、お前もベスト4までやってきたか。奇遇だなぁ!」
 試合の合間、島津が声を掛けてきた。本来なら試合に気持ちを集中させているはずの彼が、こんな風に声を掛けてくることは珍しい。
「島津、俺に軽口を叩いていられるのも今のうちだぞ?」
 俺はドスを利かしつつも、内心では楽しみで仕方ない。それはきっと島津とて同じはずだ。
「お前こそ、訳の分からない雑魚に負けて来るんじゃねえぞ?」
 島津、お前はそうやって気を緩めているから肝心なところで負けるんだ。お前こそ、どこぞの馬の骨とも知れぬ輩に負けてもらっちゃ困る。
「島津先輩、試合始まりますよ!」
 俺達が軽口を叩き合っているうち、主務の女子学生がやって来た。主務とは、簡単に言うとマネージャーみたいなものだ。
「金久保、ちょうど準備していたところだ。無問題!」
 島津はそう言うが、俺の見る限りではそんな様子はなかった。おそらく、奔放な島津に彼女も手を焼いていることだろう。
「じゃ、決勝で会おうな|火竜《サラマンダー》!」
 島津は俺の二つ名を口にするとその場を後にした。俺も対戦を楽しみしているぞ、|竜殺し《ドラゴンスレイヤー》!
「メェェェーーーンッッッ!!!」
 ――俺は難なく準決勝を突破、決勝戦へ駒を進めて島津の到来を待ち侘びる。さて、アイツもそろそろ頃合いだろうか。
「ツキィィィッッッ!!!」
 おっ、島津が勝ったか。会場に響き渡る掛け声を聞いて確信した。しかしながら、時間いっぱいまで勝負を持ち越すとは島津らしくないな。
「面有り、勝負あり!」
 竜殺しの十八番は言うまでもなく突き、あの一撃を放つ頃には勝負が決したも同然だ......待てよ? 面有りってどういうことだ??
 耳を疑った俺は島津の試合場へ振り返る。嘘だろ......島津が負けた!!?