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商談70 須賀高原

ー/ー



 須賀高原には今も俺の苦い過去が眠っている。いや、正確には封印された(・・・・・)と言い換えた方がいいかもしれない。本来ならば思い出したくもないが、いい加減にけじめをつけなければいけないのだろう。
 先程とはうってかわって静まり返る車内。雪道を力強く踏ん張るエンジン音が、その静けさをより強調させている。加えて、車窓からは仄暗い鉛色の空と重々しい積雪が見えるだけ。
そういう雰囲気もあって、俺の負の感情は増幅していくばかり。苦しみに耐える時間というのは、通常のそれよりも長く感じられる。こんな重苦しい時間は早く過ぎ去って欲しいと願うばかりだ。
 俺が物思いに耽る間、果たしていくつのバス停を通り過ぎただろうか。普段ならば地元住民の足となっているであろう循環バスも、今は俺を導く方舟のようだ。
『終点、須賀高原へ到着です。ご乗車、ありがとうございました』
 車掌が終点のアナウンスを流し、俺の物思いも終焉を迎えることとなった。導師よ、導きに感謝する。俺は運賃を精算してバスを後にした。
 須賀高原の周辺は数々の山が連なり山脈を形成している。雲原の観光的な雰囲気と違って、山の気高さが人々の進入を拒んでいるようにも思えてくる。
「うう......やっぱり冷えるなぁ」
 須賀高原は高地ということもあり気温が低い。加えて今日は冷たい風も吹きすさんでいて、俺の体温を奪おうとする。さて、気持ちが保てるうちに目的地へ向かおうか。俺は寒さに震えながら歩みを進めた。
 人がまともに足を踏み入れていないのか、足元の雪は綿のように柔らかい。おそらく、あの日の衛も同じようにこの雪を踏みしめていたことだろう。どことなく故人の胸中が偲ばれる。
「......ここだ。衛の眠る場所」
 それはバス停から程なくの場所にあった。何かというと、それは慰霊碑。須賀高原ではかつて甚大な雪崩事故が発生し、登山活動に訪れていた多くの若者達が犠牲となった。衛も犠牲者の一人であり、慰霊碑にその名が刻まれている。
「......」
 俺は黙して衛の名に手を当てる。俺は長年、この場へ訪れることを拒んできた。それは衛の死を認めたくなかったことと、俺の無念を押し殺したかったことに起因している。だが、言うなればそれは逃げ口上。本来の武士道精神には反するものだ。
 今こそ己の過去に向き合わなければいけない。だが、その前に俺の思い出したくない過去を話さなくては。


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 須賀高原には今も俺の苦い過去が眠っている。いや、正確には|封印された《・・・・・》と言い換えた方がいいかもしれない。本来ならば思い出したくもないが、いい加減にけじめをつけなければいけないのだろう。
 先程とはうってかわって静まり返る車内。雪道を力強く踏ん張るエンジン音が、その静けさをより強調させている。加えて、車窓からは仄暗い鉛色の空と重々しい積雪が見えるだけ。
そういう雰囲気もあって、俺の負の感情は増幅していくばかり。苦しみに耐える時間というのは、通常のそれよりも長く感じられる。こんな重苦しい時間は早く過ぎ去って欲しいと願うばかりだ。
 俺が物思いに耽る間、果たしていくつのバス停を通り過ぎただろうか。普段ならば地元住民の足となっているであろう循環バスも、今は俺を導く方舟のようだ。
『終点、須賀高原へ到着です。ご乗車、ありがとうございました』
 車掌が終点のアナウンスを流し、俺の物思いも終焉を迎えることとなった。導師よ、導きに感謝する。俺は運賃を精算してバスを後にした。
 須賀高原の周辺は数々の山が連なり山脈を形成している。雲原の観光的な雰囲気と違って、山の気高さが人々の進入を拒んでいるようにも思えてくる。
「うう......やっぱり冷えるなぁ」
 須賀高原は高地ということもあり気温が低い。加えて今日は冷たい風も吹きすさんでいて、俺の体温を奪おうとする。さて、気持ちが保てるうちに目的地へ向かおうか。俺は寒さに震えながら歩みを進めた。
 人がまともに足を踏み入れていないのか、足元の雪は綿のように柔らかい。おそらく、あの日の衛も同じようにこの雪を踏みしめていたことだろう。どことなく故人の胸中が偲ばれる。
「......ここだ。衛の眠る場所」
 それはバス停から程なくの場所にあった。何かというと、それは慰霊碑。須賀高原ではかつて甚大な雪崩事故が発生し、登山活動に訪れていた多くの若者達が犠牲となった。衛も犠牲者の一人であり、慰霊碑にその名が刻まれている。
「......」
 俺は黙して衛の名に手を当てる。俺は長年、この場へ訪れることを拒んできた。それは衛の死を認めたくなかったことと、俺の無念を押し殺したかったことに起因している。だが、言うなればそれは逃げ口上。本来の武士道精神には反するものだ。
 今こそ己の過去に向き合わなければいけない。だが、その前に俺の思い出したくない過去を話さなくては。