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本編

ー/ー



「お。帰るのか、大悟」

 デスクから立ち上がってカバンを肩に担ぎ、部署を出ようとしたすれ違い様に先輩にそう声をかけられた。自分もさることながら相手もお疲れ気味の表情を滲ませており、足取りはまるで酔っ払いのように覚束ないでいる。
 それもそうだ。俺も先輩も、三日三晩家にも帰れず今回の仕事に取り組んでいたのだ。言っておくがブラック企業などではない。今しがた俺は〝仕事〟と言ったが、普段は〝事件(ヤマ)〟と呼んでいる。

 そう。何を隠そう俺の職業は刑事(デカ)である。
 某所県警・刑事部捜査第一課、第三強行犯捜査・殺人犯捜査第二係、巡査部長。このクソ長い言葉が俺、新堂大悟(しんどうだいご)の肩書きなのだ。

「先輩、お疲れです。先輩はまだ帰らないんですか?」

「俺はこの書類まとめたら帰るさ。まぁ世間もゴールデンウィークだし、ゆっくり休めよ」

 俺の肩を軽く叩いた先輩はそう言うと、手をヒラヒラと振りながらデスクに戻っていった。ひと回り上の先輩を差し置いて先に帰るのも忍びないが……ここは齢二十八の若造である俺を思う優しさと受け取り、遠慮なくお先に失礼することにした。
 世間では警察官は縦社会なんて声もあるが、現場は案外穏やかなものだったりする。

 勿論、仕事内容まで穏やかとはいかない。現にこの三日は殺人事件の犯人を追い込むために、張り込みやら取り調べやらで帰宅の隙がなかったのだ。
 こういった激務は常ではないものの、事件解決のためならば時に自分の身を削って任務にあたることは、決して異例なことではない。それでもやりがいのある仕事に俺は満足しているし、誇りにも思っているから苦だと思ったことはない。

 だが先輩の言うとおり世間ではGWが始まったというのに、俺は休みは愚か食事もほとんどカップラーメンしか口にしていない。
 町中が連休ムードの中で働くことほど空しい話はないが、世の中はそういった休日も労働してくれる人たちによって成り立っているのだ。勿論それは俺たち警察に限ったことではない。

 今も働いている誰かに感謝を抱きつつも、ようやく自分もGWモードに入れることに内心は躍っている。といっても非番は明日だけで、明後日には普通に出勤である。
 何はともあれ三日ぶりの帰宅、短い休みを謳歌しようじゃないか。

 さて、ではまずは仕事明けに景気づけのを調達しに行かなければ。

「よし、スーパーに寄って帰るか」

 職場から自宅は比較的近く、体力作りの意味でも通勤は自転車を使っていた。そこそこ有名なメーカーのクロスバイクだ。
 頑張れば手に届く価格にもかかわらず、ブラック基調のデザインもカッコイイし、軽やかな踏みだしや電動アシストなど性能も申し分なし。かなり気に入っている俺の良き相棒である。

 時刻は十八時三十分。鼻歌を歌いながら揚々とペタルにまたがり、薄明るい初夏の夕日に向かって走り始めた。

 するとその時、通りすがりに困っている老婦人の姿を見つけた。完全にオフモードだが、こうゆうのを見逃せないのは職業柄か。勤務外だから警官だと名乗るつもりはないが、声をかけずにはいられなかった。

「どうかなさいましたか?」

 そう優しく問うと「孫の家から帰るのだけれど、駅までの道が分からなくなってしまってねぇ」と婦人は答えた。息子夫婦には〝近いからお見送りはいい〟と遠慮したそうだが、道を一本間違えたのか見覚えのない場所に出てしまったようだ。
 どの駅かを訪ねれば、なるほど道を一本挟んだ反対側にある地下鉄の駅だった。これ以上迷わないためにも俺は自転車から降りて歩いて婦人を駅まで案内した。

「どうもありがとう、親切なお兄さん。これ、ほんの気持ちですけれど」

 婦人は手にしていた小さな巾着からアラレの小袋を取り出して俺に渡すと、丁寧にお辞儀をして帰っていった。本当はこうゆうの受け取ってはいけないのだが……ま、勤務外だし現金でもないし、こっそりポケットに忍ばせておくことにした。

 改めて自転車を漕ぎだしスーパーへ向かうのだが、走っている途中で今度はどこからか『みゃぁ~』という鳴き声が聞こえて思わず自転車を止めた。
 何故ならその声は足元からではなく頭上から降ってきたものだから、単純に驚いたのだ。

 辺りを見渡すと小さな白い子猫が、街路樹に登ったものの下りられなくなったのか、幹に必死にしがみついて助けを求めていたのだ。
 〝助けを求めていた〟というのは俺の目にそう映っただけで、猫は何とも思ってないかもしれないが。
 幸い子猫は俺の背で届く高さに留まっており、そっと掴んで木から容易に下ろすことができた。掌に収まる小さな命は未だに『みゃあ、みゃあ』と鳴き続けている。

 さぁ困った。親猫らしき姿は見当らないし、首輪もついていないから野良猫なのだろうけど、こんなところに捨て置くわけにもいかない。

 確か猫を拾った場合、警察か保健所に連絡をしなければならないが、言わずもがな俺は警察官である。すぐに同僚に電話をして問い合わせてみたところ、今のところ迷子の問い合わせのようなものは出ていないようだ。
 とりあえず代わりに届け出の対応だけしてもらって、今日は俺の家で保護することになったが、猫を連れてスーパーには行けない。それにこの子だって腹が減っているだろう。

「仕方ない、コンビニ行ってお前のメシも買うか」

「みゃあ」

 俺の言うことが分かるのか、子猫は嬉しそうにそう答えた。片手にタオルに包んだ猫を抱え、もう片手で自転車を引きながら俺は近くにあるコンビニへ向かった。
 腕時計に目をやると十八時五十五分だった。早く至福の一杯を楽しみたいのに、なかなかご褒美にありつかせてくれないなぁと苦笑していると、向かった先のコンビニで今度は若い男二人組が揉め合っていた。

 ……マジかよ、勘弁してくれよ。

 しかし目にしてしまったものは見過ごせない。俺は小さく溜め息をつきながら自転車を止め、右ストレートをお見舞いしようとする片方の少年の腕を掴んだ。

「はいはい、ストップ。どうした君たち」

 動きを封じられた運動部系の少年にギロリと睨まれたが何てことはない。相当イラついているのか俺に向かって更に左パンチを仕掛けてきたが、サッと避けると掴んでいた右手を捻って少年の背に回し、動きを封じてやった。

「イテテ……! テメェに関係ねぇだろっ、離せよオッサン!」

「オッサンねぇ、俺まだ二十八なんだけどなぁ。お店に迷惑だろ、とりあえず落ち着け」

 ヒゲも生やしていないし髪もスッキリとした短髪で真っ黒なのに、オッサンとは心外である。見たところ高校生ぐらいの彼らからしたらオッサンかもしれないが。
 力では敵わないと悟ったのか、とりあえず暴れるのを止めた少年は、もう一人の同い年くらいのギターを背負ったバンド少年を指さして憤慨した。

「コイツがジャンケンに勝ったら奢ってやるって言うから勝負して勝ったのに、一緒にレジに並んだら会計前に逃げやがって結局俺が払う羽目になったんだ! その上コイツ、コンビニから出た途端に『俺のぶん早く渡せ』とか言いやがって……最初から払う気なかったんだろうが」

「だから財布忘れたっていってるだろ、頭の固いヤツだな。たかが五百円ぐらいの金額で」

 大方そんなことだろうとは思ったが、聞いてみるとやはり年頃の少年相応の小競り合いである。つい数時間前まで殺人事件で張り詰めた空気の中にいただけに、なんと可愛らしい揉め事だろうか。
 しかしこういったことから妬み嫉みに変わっていくのだから、断じて馬鹿にはできない。

「待て待て、ちゃんと話を聞けよ。そっちの君、財布は本当に忘れたんだな?」

「そう言ってるだろ。今朝カバンに入れたはずなのに、家の机にそのまま置いてきたみたいなんだ」

 バンド少年は面白くなさそうに仏頂面で答えるが、どうやら嘘は吐いていなさそうだ。そうなら警察官になってからの勘ってヤツで分かる。

「なるほど、じゃあ奢る気はあったわけだ。とはいえ逃げて払ってもらった挙げ句『早く渡せ』はないんじゃないか? 五百円だろうと彼のお金だろう、少額だからって甘えてると大人になって痛い目みるぞ」

「あぁ……まぁ……」

「それに君も、腹が立ったのは分かるが手を出したらダメだな。話し合いができないほど、もう子供じゃないだろ?」

 運動部系少年にそう諭すと、罰が悪そうに黙り込んだ。カッとなって暴れたものの、話せばちゃんと分かる子たちと俺は感じた。

 そこで彼らにその場で少し待つように言うと、ついでに子猫を預かるように頼みコンビニの中へ入っていった。
 そして子猫のエサと、パキッと二つに分かれるチューブタイプのアイス、忘れちゃいけないお楽しみのアレを手にしてスマホで決済し、彼らの元に戻った。

 するとそこでは『みゃあ』と未だに鳴いている猫に惹かれたのか、優しい顔をして撫でている少年たちが待っていた。やはり二人とも根はイイヤツのようだ。俺の目に狂いはなかった。

「ありがとう、助かったよ。ほら、これやるから二人で仲直りして一緒に食べてくれ」

 そう言うと二人は申し訳なさそうに礼を延べ、お互い言いづらそうに謝りながらも、俺があげたアイスを開けて仲良く分け合いながら帰っていった。

 県警に配属されてから重たい事件ばかり目にしているけれど、大小関係なく世の中は事件に溢れていると改めて感じる。まだ町の交番で勤務していた頃は、俺もこうして小さなお困り事に日々奮闘していたっけ。
 何だかあの頃の町の安全を守ると誓った気持ちを思い出し、かなり遠回りしたけれど初々しい気持ちで俺はやっと家に帰ることができた。

 十九時十五分。待ちに待ったご褒美タイムの始まりである。

「どうだ、美味いか? 俺も今日はお預けにお預け食らったから、最高に美味いぞ」

 ミルクにガッついている子猫に話しかけながら、テレビで野球の中継を流しつつ、俺は今しばしの休息に足を伸ばしている。机の上にはあのご婦人にいただいたアラレをツマミに、キラキラに輝く黄金の飲み物――ビールをジョッキに注いで嗜んでいる。

 ……世間はゴールデンウィーク。略せば〝GW〟。
 でも俺にとってのGWは。

 Golden Water。
 なーんてね。


 今日も働く全ての皆に、感謝の敬意を込めて。


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「お。帰るのか、大悟」
 デスクから立ち上がってカバンを肩に担ぎ、部署を出ようとしたすれ違い様に先輩にそう声をかけられた。自分もさることながら相手もお疲れ気味の表情を滲ませており、足取りはまるで酔っ払いのように覚束ないでいる。
 それもそうだ。俺も先輩も、三日三晩家にも帰れず今回の仕事に取り組んでいたのだ。言っておくがブラック企業などではない。今しがた俺は〝仕事〟と言ったが、普段は〝|事件《ヤマ》〟と呼んでいる。
 そう。何を隠そう俺の職業は|刑事《デカ》である。
 某所県警・刑事部捜査第一課、第三強行犯捜査・殺人犯捜査第二係、巡査部長。このクソ長い言葉が俺、|新堂大悟《しんどうだいご》の肩書きなのだ。
「先輩、お疲れです。先輩はまだ帰らないんですか?」
「俺はこの書類まとめたら帰るさ。まぁ世間もゴールデンウィークだし、ゆっくり休めよ」
 俺の肩を軽く叩いた先輩はそう言うと、手をヒラヒラと振りながらデスクに戻っていった。ひと回り上の先輩を差し置いて先に帰るのも忍びないが……ここは齢二十八の若造である俺を思う優しさと受け取り、遠慮なくお先に失礼することにした。
 世間では警察官は縦社会なんて声もあるが、現場は案外穏やかなものだったりする。
 勿論、仕事内容まで穏やかとはいかない。現にこの三日は殺人事件の犯人を追い込むために、張り込みやら取り調べやらで帰宅の隙がなかったのだ。
 こういった激務は常ではないものの、事件解決のためならば時に自分の身を削って任務にあたることは、決して異例なことではない。それでもやりがいのある仕事に俺は満足しているし、誇りにも思っているから苦だと思ったことはない。
 だが先輩の言うとおり世間ではGWが始まったというのに、俺は休みは愚か食事もほとんどカップラーメンしか口にしていない。
 町中が連休ムードの中で働くことほど空しい話はないが、世の中はそういった休日も労働してくれる人たちによって成り立っているのだ。勿論それは俺たち警察に限ったことではない。
 今も働いている誰かに感謝を抱きつつも、ようやく自分もGWモードに入れることに内心は躍っている。といっても非番は明日だけで、明後日には普通に出勤である。
 何はともあれ三日ぶりの帰宅、短い休みを謳歌しようじゃないか。
 さて、ではまずは仕事明けに景気づけの《《一杯》》を調達しに行かなければ。
「よし、スーパーに寄って帰るか」
 職場から自宅は比較的近く、体力作りの意味でも通勤は自転車を使っていた。そこそこ有名なメーカーのクロスバイクだ。
 頑張れば手に届く価格にもかかわらず、ブラック基調のデザインもカッコイイし、軽やかな踏みだしや電動アシストなど性能も申し分なし。かなり気に入っている俺の良き相棒である。
 時刻は十八時三十分。鼻歌を歌いながら揚々とペタルにまたがり、薄明るい初夏の夕日に向かって走り始めた。
 するとその時、通りすがりに困っている老婦人の姿を見つけた。完全にオフモードだが、こうゆうのを見逃せないのは職業柄か。勤務外だから警官だと名乗るつもりはないが、声をかけずにはいられなかった。
「どうかなさいましたか?」
 そう優しく問うと「孫の家から帰るのだけれど、駅までの道が分からなくなってしまってねぇ」と婦人は答えた。息子夫婦には〝近いからお見送りはいい〟と遠慮したそうだが、道を一本間違えたのか見覚えのない場所に出てしまったようだ。
 どの駅かを訪ねれば、なるほど道を一本挟んだ反対側にある地下鉄の駅だった。これ以上迷わないためにも俺は自転車から降りて歩いて婦人を駅まで案内した。
「どうもありがとう、親切なお兄さん。これ、ほんの気持ちですけれど」
 婦人は手にしていた小さな巾着からアラレの小袋を取り出して俺に渡すと、丁寧にお辞儀をして帰っていった。本当はこうゆうの受け取ってはいけないのだが……ま、勤務外だし現金でもないし、こっそりポケットに忍ばせておくことにした。
 改めて自転車を漕ぎだしスーパーへ向かうのだが、走っている途中で今度はどこからか『みゃぁ~』という鳴き声が聞こえて思わず自転車を止めた。
 何故ならその声は足元からではなく頭上から降ってきたものだから、単純に驚いたのだ。
 辺りを見渡すと小さな白い子猫が、街路樹に登ったものの下りられなくなったのか、幹に必死にしがみついて助けを求めていたのだ。
 〝助けを求めていた〟というのは俺の目にそう映っただけで、猫は何とも思ってないかもしれないが。
 幸い子猫は俺の背で届く高さに留まっており、そっと掴んで木から容易に下ろすことができた。掌に収まる小さな命は未だに『みゃあ、みゃあ』と鳴き続けている。
 さぁ困った。親猫らしき姿は見当らないし、首輪もついていないから野良猫なのだろうけど、こんなところに捨て置くわけにもいかない。
 確か猫を拾った場合、警察か保健所に連絡をしなければならないが、言わずもがな俺は警察官である。すぐに同僚に電話をして問い合わせてみたところ、今のところ迷子の問い合わせのようなものは出ていないようだ。
 とりあえず代わりに届け出の対応だけしてもらって、今日は俺の家で保護することになったが、猫を連れてスーパーには行けない。それにこの子だって腹が減っているだろう。
「仕方ない、コンビニ行ってお前のメシも買うか」
「みゃあ」
 俺の言うことが分かるのか、子猫は嬉しそうにそう答えた。片手にタオルに包んだ猫を抱え、もう片手で自転車を引きながら俺は近くにあるコンビニへ向かった。
 腕時計に目をやると十八時五十五分だった。早く至福の一杯を楽しみたいのに、なかなかご褒美にありつかせてくれないなぁと苦笑していると、向かった先のコンビニで今度は若い男二人組が揉め合っていた。
 ……マジかよ、勘弁してくれよ。
 しかし目にしてしまったものは見過ごせない。俺は小さく溜め息をつきながら自転車を止め、右ストレートをお見舞いしようとする片方の少年の腕を掴んだ。
「はいはい、ストップ。どうした君たち」
 動きを封じられた運動部系の少年にギロリと睨まれたが何てことはない。相当イラついているのか俺に向かって更に左パンチを仕掛けてきたが、サッと避けると掴んでいた右手を捻って少年の背に回し、動きを封じてやった。
「イテテ……! テメェに関係ねぇだろっ、離せよオッサン!」
「オッサンねぇ、俺まだ二十八なんだけどなぁ。お店に迷惑だろ、とりあえず落ち着け」
 ヒゲも生やしていないし髪もスッキリとした短髪で真っ黒なのに、オッサンとは心外である。見たところ高校生ぐらいの彼らからしたらオッサンかもしれないが。
 力では敵わないと悟ったのか、とりあえず暴れるのを止めた少年は、もう一人の同い年くらいのギターを背負ったバンド少年を指さして憤慨した。
「コイツがジャンケンに勝ったら奢ってやるって言うから勝負して勝ったのに、一緒にレジに並んだら会計前に逃げやがって結局俺が払う羽目になったんだ! その上コイツ、コンビニから出た途端に『俺のぶん早く渡せ』とか言いやがって……最初から払う気なかったんだろうが」
「だから財布忘れたっていってるだろ、頭の固いヤツだな。たかが五百円ぐらいの金額で」
 大方そんなことだろうとは思ったが、聞いてみるとやはり年頃の少年相応の小競り合いである。つい数時間前まで殺人事件で張り詰めた空気の中にいただけに、なんと可愛らしい揉め事だろうか。
 しかしこういったことから妬み嫉みに変わっていくのだから、断じて馬鹿にはできない。
「待て待て、ちゃんと話を聞けよ。そっちの君、財布は本当に忘れたんだな?」
「そう言ってるだろ。今朝カバンに入れたはずなのに、家の机にそのまま置いてきたみたいなんだ」
 バンド少年は面白くなさそうに仏頂面で答えるが、どうやら嘘は吐いていなさそうだ。そうなら警察官になってからの勘ってヤツで分かる。
「なるほど、じゃあ奢る気はあったわけだ。とはいえ逃げて払ってもらった挙げ句『早く渡せ』はないんじゃないか? 五百円だろうと彼のお金だろう、少額だからって甘えてると大人になって痛い目みるぞ」
「あぁ……まぁ……」
「それに君も、腹が立ったのは分かるが手を出したらダメだな。話し合いができないほど、もう子供じゃないだろ?」
 運動部系少年にそう諭すと、罰が悪そうに黙り込んだ。カッとなって暴れたものの、話せばちゃんと分かる子たちと俺は感じた。
 そこで彼らにその場で少し待つように言うと、ついでに子猫を預かるように頼みコンビニの中へ入っていった。
 そして子猫のエサと、パキッと二つに分かれるチューブタイプのアイス、忘れちゃいけないお楽しみのアレを手にしてスマホで決済し、彼らの元に戻った。
 するとそこでは『みゃあ』と未だに鳴いている猫に惹かれたのか、優しい顔をして撫でている少年たちが待っていた。やはり二人とも根はイイヤツのようだ。俺の目に狂いはなかった。
「ありがとう、助かったよ。ほら、これやるから二人で仲直りして一緒に食べてくれ」
 そう言うと二人は申し訳なさそうに礼を延べ、お互い言いづらそうに謝りながらも、俺があげたアイスを開けて仲良く分け合いながら帰っていった。
 県警に配属されてから重たい事件ばかり目にしているけれど、大小関係なく世の中は事件に溢れていると改めて感じる。まだ町の交番で勤務していた頃は、俺もこうして小さなお困り事に日々奮闘していたっけ。
 何だかあの頃の町の安全を守ると誓った気持ちを思い出し、かなり遠回りしたけれど初々しい気持ちで俺はやっと家に帰ることができた。
 十九時十五分。待ちに待ったご褒美タイムの始まりである。
「どうだ、美味いか? 俺も今日はお預けにお預け食らったから、最高に美味いぞ」
 ミルクにガッついている子猫に話しかけながら、テレビで野球の中継を流しつつ、俺は今しばしの休息に足を伸ばしている。机の上にはあのご婦人にいただいたアラレをツマミに、キラキラに輝く黄金の飲み物――ビールをジョッキに注いで嗜んでいる。
 ……世間はゴールデンウィーク。略せば〝GW〟。
 でも俺にとってのGWは。
 《《G》》olden 《《W》》ater。
 なーんてね。
 今日も働く全ての皆に、感謝の敬意を込めて。